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エスメラルダ  作者: 古都里
第三章 王と王妃は模索する
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13 建前のロンド

 何とかハルシャの惚気が一区切りつき、フランヴェルジュとハルシャは午餐を共にするために食堂に向かう。


 午餐が三十分遅れて給仕や料理人達のハルシャへの目線が少し厳しいのだが、ハルシャは鋼の心臓の持ち主であるし、彼の正直な心でプライベートを駄々洩れにさせる事は滅多にないので気にせずに行こうとフランヴェルジュは思う。


 やたら意味なく広い食堂でもエスメラルダと共に食べる午餐はなかなか悪くはない。席が不満と言え不満で抱き寄せたくなったらそれを実行できる席ならいう事なしと思いながらエスメラルダに自分の仕事に触れさせつつ午餐を共にしていた。幸せな時間を過ごしてきた弊害か、一人での午餐は嫌だと思ってしまう。だから、エスメラルダが不在の今日はハルシャに午餐を共にと命令したのである。

 心の中はお願いします、なのだが、その言葉はなかなか口に出来る言葉ではないのだ。謝る事は覚えたし、『時と場合によっては謝罪も必要、完全に禁ずるものではない』という育てられ方もしていた。だが、『願い事をしていいのは未成人の間は両親、成人してからは娶った妻にのみ』という大昔の帝王教育あれこれの本に記載されている通りに育てられる王族は、やはり歪な成長の仕方をしてしまうのだろう。誰が書いたのか著者名すら残っていないそれが当たり前の王族の育て方だというのに疑問を持つことはあっても、完全否定できないのは物心つく前からそうあるよう育てられた結果だ。


 お願いは難しい上に、本当に甘えられる相手以外には中々出来ない。婚姻の許しを民衆に求めるべく頭を垂れ、こいねがったのは、躾やら訓育やらがどうでもいいから将来この女を娶る事だけは許してほしいと、本当に必死だったから出来た事だと思う。ブランシールには甘え倒したが、それでも冗談ではなく頼むとはなかなか言えなかった。もしかすれば、レーシアーナの方がブランシールより頼むと言いやすかったかもしれない。エスメラルダには素直に言える時もあるが格好つけたいとか思ってしまう事もままある。体裁だの見栄だの、他の相手になら馬鹿らしい感情だで切り捨てられそうなのに恋をすると馬鹿らしいことを全力でしたくなるのかもしれない。


 なんだかんだで、一人は寂しいから一緒に食事を摂って欲しいと素直な言葉を紡げなかったフランヴェルジュだが、特に気分を害した様子もなくハルシャは引き受けて、料理人と給仕の冷たい目線に気付かず普通に王との午餐を楽しんでいる。惚気はひたすら聞かされたがハルシャが満足したのか、そこはフランヴェルジュにも解り辛い。よくよく聞けば至極当然当たり前の事ばかり口にする男は、スゥ大陸では麒麟や鳳凰よりレアな存在なので、解りやすすぎるのに、却って解り辛く感じる。ハルシャはそういう男だった。

 だから、事実よりリアリティのある恋愛小説を書きなぐる妻を持つという話も、段々真実そうなのだなと納得してしまった。どうも、彼らはとても似た者夫婦で、似合いの二人に思える。今ではフランヴェルジュには他の組み合わせを想像するのはもう無理だ。


 レーシアーナが妻の小説を集めて読みふけっていた事をハルシャは知らないが、ハルシャの心の崇拝者がレーシアーナだと知っていたらフランヴェルジュが普通に教えてやれた情報ではある。だが知らない方が幸せかもしれない。偶像が誰より身近の妻のファンだと知って喜ぶタイプの人間もいるだろうが、そうではないタイプの人間もいる。そして、レーシアーナが御不浄に行く人間であったとまだ思えないハルシャには毒でしかない。


 ハルシャは色々と愛する者への理解が足りない。そして愛が絡んだ時の自分自身の理解は鑿を半分に切った程しか存在しない男だ。


 妻に対して時間を忘れて惚気る事は出来ても、レーシアーナへの清らかな崇拝と敬愛を語れるほどには心臓の丈夫さが足りないというか、秘める存在なのだろう。そしてやがて完全に思い出になる相手、なのだろう。


 ただハルシャがそう言ったものに理解が出来てなさすぎるのは、ハルシャが己の持てる理解力をその方面には殆ど割かず、国やら国を支えるものに向かい、そして欲は『無駄を排除』『より効率的に』と、その方面に向かっているからかもしれない。


 アシュレから愚痴という名の知識を詰め込まれなければもしかすればただそれなりに優秀なだけの人間だったかもしれないが、現実、そして今を見る上で歴史に『もしも』を持ち出すのはとても馬鹿げているし、愚かだとまでは言わないが、人の力でどうにか出来ないのにそれに固執すると大切なものを見失う。


 兎に角ごく普通に午餐を味わい、普通にやらなければならない事を話し合っていたのだが、フランヴェルジュは無意識にエスメラルダの話題を出す事を避けていた。


 午餐に三十分も遅れる程の惚気を聞かされたのだから惚気を返しても許されるだろうが、自分より年上の子供がいる相手に惚気で勝つのは至難の業……積み上げた時間だけは勝てない……とかそういう綺麗な気持ちで避けていたのでは、ない。


 エスメラルダの能力は高いとフランヴェルジュは思っていたのだが、隣で作業をさせると自分が欲しい成果をそのまま、もしくはそれ以上をこなしてしまうのには驚いた。それも、我を失う程必死な姿とは程遠い、自分のペースでやっている人間にしか見えない姿でこなすエスメラルダを、本当はフランヴェルジュが誰よりも傍に置きたい。


 文官達は大型犬にしか見えないまま今に至るが、大型犬達も下手をすればフランヴェルジュが精一杯褒めるよりエスメラルダの笑みの方が効果的なのではと思う時もある。


 気付いたら、「経験さえあれば自分と同じことをやりこなすのでは、いや、自分以上にやりこなすのでは」そう思ってしまうから、この国の歯車としては手放さず傍で頑張って国を動かしてほしいと思ってしまう。足りないのは経験だけだが、経験もゼロではない。おまけに、今彼女はどんどんと経験を積み続けている。


 それでも、フランヴェルジュは決断が出来ないでいる。だから、ハルシャがその話題を持ち出す余地の無いよう、気が付けば王として宰相に現在エリファスをどう扱っているかという話を始めていた。


 エリファスをどう扱うかと、即位してからフランヴェルジュも悩んではいたのだ。父王は叔父から最低限のアドバイスを貰っていたようだが、父はそれをフランヴェルジュに教える前に黄泉路を辿った。


 突破口は愚痴だった。どう手を付ければ良いのかと、ブランシールやレーシアーナと共に朝食を取りつつ意見を交わしていた時、本当に愚痴が転がり落ちてしまったのだ。


 ところが、エスメラルダはフランヴェルジュが口にした途端、とても簡単な話だと淀みなく答えて驚かせてくれた。まさか、メルローア人の中でも一、二を争うプライドの高い人間が集まっている土地だから治めづらいだけ、という単純な答えと、与えるべき餌は秘密裏の軍事力だと言われた時にはエスメラルダに恋心を抱いていても信じ切って大丈夫なのかと一瞬疑ってしまった。その事はフランヴェルジュが墓場にまで持っていく秘密だ。

 ただ、国境線を守護する為にプライドを糧に自分達の力の限界を無視して守ってきたのがエリファスの民だ。そんな彼らに「お前達だけは特別だ」と、王の権利で動かせる軍事力を与える、それだけで彼等がころりと忠実な存在になったのには……エスメラルダの言葉通りに動いたら言葉通りの反応が返ってきたのには、心底驚いた。

 エリファスの民は文官の比ではない程の承認欲求を抱いている。だから彼らにはよく頑張ってくれたという言葉だけでも、兵や武器だけの提供だけでも、駄目なのだ。褒めた上で態度で示す。押し付けるのではなく提案という形で軍事力を与え信頼を示す、ただそれだけで彼らはとても扱いやすい存在となった。今までの王の苦労は何だったんだろうとも思うが、エリファスの民の思考はとてもメルローア人らしいとしか言えない。

 ちなみに軍事力と言っても駐屯所の兵の増員ではなく、彼らに直接与える事が大事なのだが、決して与え過ぎてはいけない。それが、反乱防止ではなく彼らのプライドの為だと言われた時にはやはり頭が良くても女の限界かと思ったが、実際エリファスの民は過剰な軍事力を提供しようとすると馬鹿にしているのか、それほど我らが弱く思えるのか、と不満を表すのだ。与える物のバランスはとても難しいが、目線を下げてエリファスの民の代表と一日じっくり話し合った結果、何とか彼らが求める物をきっちりと提供出来たのではないかと思う。今の彼らはフランヴェルジュを支持してくれているから恐らく。


 一つ不満があるなら「ランカスター様の花嫁を口説き落とされたことはある」とエリファスの人間に向き合うと必ず何度も何度も言われる事なのだが、叔父の花嫁ではなくこの自分の唯一無二だという台詞は全く通じないことか。


 扱い方を知れば本当に簡単な土地なんだがなぁ、とフランヴェルジュはゆっくりと食事を摂りつつハルシャに言って聞かせる。


 色々と途轍もなく簡単な答えにたどり着けなかった人間の数を想い、複雑な気持ちを隠さないハルシャにフランヴェルジュは忘れていたとごく簡単に付け加えた。そういえば、と。


 飢饉のときにただ食料を渡すと切れて手に負えなくなるのがエリファスの民なので、間違えても無償での食料配布はやってはいけないとエスメラルダは言ったのだ。


 笑いながら教えてくれていたエスメラルダが、急に真面目な顔になって紡いだ言葉は一言一句覚えている。


「恵まれる事になんて絶対耐えられないからこそ、彼らは食料の備蓄と現金貯金を決して怠りませんわ。でも為政者としては彼らの貯えでは足りないかもと怖くなりますわよね。誰一人飢えさせたくないと思うのが当たり前。とはいえ、一軒一軒彼らの蔵を暴いて回るわけにいかない、と言いますか、彼らのプライドの高さで蔵を解放するのは宝の披露だけですわ。治めるのに必要な情報だから備蓄食料の量を示せなんて言ったら、暗闇を歩けなくなりますわよ。確実に刺されます。ただ、ある意味美味しくて堪らないのが飢饉ですわね。この国が飢饉が起きても輸入で十分に賄えるからの余裕でしょうけど……実は食糧危機は公共事業を発展させる大チャンスなんです。働いて成果を求めるという点も、彼らはとてもメルローア人らしく当たり前の事ですから。しっかり働いてもらって、賃金なり食料なりを当然の報酬と渡すのです。農業以外しないと言い張っていた者も、『どうか力を貸してほしい』と精一杯お願いすれば折れてくれます。そこまで困っているのなら働いてやるのが人の道だと。そして、仕方なく手伝ってやったら報酬を受け取れと言われた、だがこれを受け取らないのは失礼だな、と、そう考えるのがエリファスの民ですわ。飢えるなら準備不足の己が悪いと言い切ってしまう彼らに平身低頭手伝ってくれ、とお願いし、報酬を受け取ってくれと更にお願いするようにした結果が、あの土地で飢饉が起きても餓死者が出なくなった仕組みなのです。まぁそれでも賄い切れなければ、最終手段としては炊き出しを井戸端会議にしか見えないようにしつつ、ですわね。お喋りしつつお茶を頂くのは恥ではないと考えてくれているのか、仕方なく合わせてくれているだけかは解らないのですけれど。困ったら兎に角代表者と目線を合わせること、でしょうか。あの土地について知り尽くしているのは領主でも王でもないと、彼らは解っていますから。一つ有難い事に、彼らは守るべき絶対のルールとして話し合いに応じたら、そこで決めた結果を守り抜く事を当たり前の前提として話し合いに臨んでくれる事ですわね。後で私は違う意見だったのにと文句を言うのはエリファスでは恥でしかない愚挙、……村八分になってしまう行為ですわ。代表をエリファスの意思と考えその意を汲めさえすれば、つまり難しく考えるのを止めさえすれば、本当に容易く治められましてよ」


 エリファスの簡単過ぎる治め方を惜しげもなく教えてくれたあの時はまだ、エスメラルダの方にフランヴェルジュへの気持ちがないだけではなく、そう言わなければならない機会には躊躇う事無く彼女は自らを叔父の妻だと言い切る状態だった。多分エリファスを治める以上に、簡単に自然にエスメラルダはアシュレ・ルーン・ランカスターという存在と結ばれるべきだったと思っていたのだろう。


 何をしようとしても反発しか返してこないエリファスの民の攻略情報を有難く思う反面、当時十六の娘が何人もの王、王から下げ渡された貴族達が挫折した土地を簡単と言い切って笑うそれがつまりエスメラルダと叔父の関係の深さ、そこにある愛情だと感じてフランヴェルジュはあれからずっとエリファスという地名を出来るだけ口にしないようにしていたのだが。


 だが、エリファスはフランヴェルジュには特別な土地だ。


「解ってみれば恐ろしく簡単だろう? どうせお前はエスメラルダから聞き出すきっかけも思いつかず機会も作れず、それでいて知識欲で辛いのを我慢していたんじゃないのか?」


 さも、教えてやっているというように語るフランヴェルジュだが、戴冠式後のエスメラルダの取り扱いから逃げるべく、しかし全く違う分野の話もわざとらし過ぎるかと餌をくれてやったのだ。

 美味しい餌の筈だ。だからフランヴェルジュの中で考えが纏まるまでこの餌に夢中になって欲しい、そう思ってしまう。


 国を動かす歯車として、フランヴェルジュはエスメラルダが引き続き、このまま、そしてずっと自分の仕事に携わってくれたらと思う。エリファスの仕組みについて語った時も驚いたが叔父の功績あってのものだと思っていた。なのに今、ごく当たり前のように欲しい時に欲しい成果を出してくれる。彼女が王の執務室で惜しげもなくさらすのはエスメラルダ自身の能力だ。そして、今エスメラルダが積んでいる経験を与えたのは叔父ではなく自分だ。


 ただ国王として考える。王ならば、政務は自分で背負うものだ。ハルシャが仕組みを変えてくれたから一人で背負う物ではなくなったが、王には王の、王妃には王妃の、それぞれの役割というのがある。それに忠実でなければならないのではなかろうか。

 戴冠式が終わるまではたいした仕事はさせられぬと誰も彼もが言っていたが戴冠式が終われば、彼女には王妃として期待されている事があるのではないか?


 そして初めての恋に翻弄されている男として思う事がある。

 何もかもどうでも良い、仕事だろうが何だろうが、手の届く範囲で全てから守り、ひたすらに愛を注ぎたい。彼女が自分に属する女であり自分が彼女に属する男である以上、与えられるものは全て与え、叶えられるものは一つ足りとて見落とさず叶え、総てを差し出せたなら。


「あー、つまり我々がエリファスという土地をやたら難しく考え、おまけに平民と目線を合わせて話し合うには邪魔なプライドを手放せなくて、数多の王と領主が敗北したというやつですか」


 とんでもない大きさのエビと格闘しつつ、ハルシャは苦笑する。


「パフォーマンスではなく、本気で目を合わせるのは難しい事でしょうけどね、仕組みがそうすべきと示されても、王族やら貴族やらには困難だ」


「案外いけるもんだ。頭を下げてお願いしてへりくだる必要は飢饉まで無いだろうし、その飢饉が起きたとしても、エスメラルダに言わせると『彼らも経験を積んで学習しておりますし、もう恐らく協力を求む、という触れだけでいけるでしょうね』だと。無言でやっても絶対無視されるから対話が大事で、その時の目線が対等ならば、ちゃんと従うと断言された。彼等との対話は、本当は俺がエリファスに赴き向こうで話し合えたら良かったが、時間がなかったから出向いてもらってのそれになったが……威厳を取り繕うことなく会話を成立というのは意外に簡単だったし、向こうが俺を人間として見てくれているのが嬉しかった。話し合いが互いに納得いくものとして纏まると礼を取って敬意を表す代表に、さっきまで同じ土俵で意見を交わしていたのにと一瞬だけ寂しかったが、目と目が合ったらまたにやりと笑い返されて、人間扱いの心地よさに驚いた。ルジュアインになるかもしれんし俺が子供に恵まれる事もあるかもしれんが、譲位できるように育てきれたら、晩年はあの土地で人間らしく生きたい」


 にやりと笑った代表も、彼を代表として王との対話を確実に行う為に送り出す前にひたすらに討論をしたその他の民も、エリファスの人間は話し合いに決着がついたらそれを遵守し、フランヴェルジュを立ててくれるが、彼らが自分を立ててくれ政策に従ってくれるのは王だからというのではない様に感じた。多分、彼らは話し合った事実を尊重しつつ、好き勝手をするだけでは混乱しか生まない事を知っている。


 代々の支配者が扱い辛さに逃げたその土地だが、支配者に反発しようと、彼ら住人の意思は限りなく一つに近いから、瓦解しなかったのだとフランヴェルジュは思う。

 

 そのとても変わり者でありながらとてもメルローア人らしい彼らは、選べなければ生まれる順番も選べなかったが為に王ではあるけれど、その前に一人の人間としてフランヴェルジュを見てくれる不可思議な民だ。


 年老い玉座を譲ることが出来る日が来たら、エスメラルダと共に本気であの土地に暮らしたい。今すぐにエリファスに行けたとして、今はあの土地はエスメラルダにとってアシュレという存在が刻み付けられているだろうが、この先何十年と愛し合えば、多分笑って済ませられる過去の一つになる。


 しかし、思ったよりもハルシャの食いつきが悪い。かなり上質な餌を差し出した心算なのだが。


「もっと、質問攻めにされるかと思っていたが、お前は案外エリファスには興味は無いのか?」


「緊急案件を抱えておりますので、後回しにしていたかもしれませんね」


 餌の効果が全くない。 


 王が食事をプライベートに取る場合、コース料理の様に次から次へと皿が運ばれてくることはない。一気にテーブルに全て並べ終えてしまう。多忙な王が家族団欒のひと時として、給仕に邪魔される事なく会話と食事を楽しむ為だ。時に友人との食事を楽しんだりする事もあるのが、王にとっての食事の時間。


 此処に招く相手に対して、この場所にいるその時間だけはフランヴェルジュは王としてではなくフランヴェルジュとして接する。ハルシャは誘われた一度目でそれを飲み込んだ。

 そして今回三度目だったりするのだが。


「……緊急案件ってなんだ?」


 嫌な予感しかしないが、聞かずに済ませるのも違う。無視したいのは本音だ。

 何を言うか大体想像はつくから、嫌になる。


「お茶会は取り合えず陛下が王太后様から情報を得て下さるという事で、それからしか貴方の性格上、動けないのは解っている心算ですが」


 やはりその話に拘るのか。葛藤が収まるまで待ってくれと言いたいのだが。

 確かに今日を逃せば、話を詰める事も出来ないというのは解ってはいる、いるのだが。


 ハルシャは淡々と口にする。


「慈善事業って王妃様でなければ出来ませんか?」


 王妃の主な仕事はお茶会の開催に慈善事業。メルローアでは定番である。


「先々王リドアネ王の御世では、ルーニャ様が一人一人に対して跪いて老若男女の心に寄り添おうとなさったんですよね。王家の求心力の向上に大きな鍵となられた。先王レンドル王の御世ではアユリカナ様は膝をつくのではなく先頭で動かれた。孤児院では子供達と遊び、施療院ではシーツの洗濯までなさった。では、貴方の御世でエスメラルダ様はどう動かれるでしょうか?」


 ハルシャは紅茶を飲みながら溜息を吐いた。


「あの方は効率と結果を求められるのではないかと私は思うのですが」


 フランヴェルジュはハルシャの言葉に目を見開いた。

 フランヴェルジュは真摯に与えられた仕事に向かう姿こそ想像していたが、その詳細を想像してはいなかった。


 いや、想像したくなかったのかもしれない。


「慈悲深い王妃として愛される行動ではなく、慈善事業という言葉で一括りにされる福祉の分野での確実な成果と最適解を探されるのではないかと思うのですよ」


 つまり、エスメラルダは慈善事業に対して法の整備やらを求めて来るのではという事だろうか? それとも?


「思っている事をもう少し話してくれ」


 フランヴェルジュはそう言うしかない。


「ルーニャ様のやり方もアユリカナ様のやり方も素晴らしいと思います。王妃として評価が高いのは人々の支持もあっての事でしょう。でも、実際問題、慈善事業で保護される人間全てに跪くことは出来ない、全ての施設の全てのシーツを洗濯する事も出来ない。それを多分エスメラルダ様は理解なさっていると思います。今までのメルローアの王妃様方の行動は間違ってはいないし民としてはとても嬉しい事だったと思います。王家への強い支持に繋がる事ではありました。ですが、ほんの一週間ほどしか知り得ぬ方の行動なので読み違いをしている可能性も高いですが、私が見るあの方は御自分への評価より、実利を重んじる可能性が高い。しかし、慣例のままに許される権力で、純粋に実利を追うのは難しいですよね。そういう物を最初から、王妃に期待していない現状では。ですから、エスメラルダ様の王妃としてのご公務は、今まで通りの慣例に従わず、陛下と共に未来を見据えて頂いた方が良いと思ってしまうのです。今の、陛下の仕事に触れ携わっているこの状態を当たり前にすれば……お二人は様々な改革を実現できるのではないかと愚考します」


「女を連れ込むとか正気か? といった顔をつい一週間ほど前にお前はしていたと思うのだが、随分とエスメラルダを買っているのだな」


 エスメラルダが示す能力を想うと意外ではないのだが、それでもやはり、スゥ大陸の男がそこまで女の能力を認めるのは少し驚きでもある。


「あの方を排除しようとまぁ確かに考えてはおりましたが、今となっては馬鹿な事を考えたものだと思っております。ただ、エスメラルダという名の王妃は、多分今までのメルローアの王妃の中でも異質な存在だと思いますよ。あの方は王を支えるというより、王と共に戦う王妃であるように思えます。でも、王の執務室にあの方の存在がある事を当たり前としたい本当の理由は……」


「なんだ?」


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