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悠遠物語  作者: オワタ
第一話 港町ポルトフィーナ
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第一話 4ページ目


 ピアとマリネはポルトフィーナ唯一の酒場にやってきた。


「ここが酒場だね」

「港街の酒場だし、ここなら人もいっぱい集まってるはず……」


 しかし肝心の酒場からは二人以外の声が聞こえない。


「って、誰もいないじゃん!」


 マリネがツッコんでるうちにピアはマスターの前の席に座った。

 マリネもピアの後ろについて行った。


「いらっしゃい、よく来たね。ゆっくりしていってくれ」

「ちょっと待ちなさいよ!? なんで私たち以外のお客さんが誰もいないわけ!? 確かに今は真っ昼間だけど一人くらいいてもいいんじゃないの!?」


 マスターはやれやれといった様子で語る。


「状況が状況だからねえ。みなと病のせいで商売あがったりだよ」

「なるほど、みなと病のせいで客に逃げられちゃったってわけね」

「ところでお嬢さんたち、初めて見る顔だけど冒険者かい?」

「私、つい先日この街に越してきました、ピアって言います!」

「ははぁ、こんな時に越してくるとは物好きだねえ」

「私、みなと病の治療法を探しに来たんです」

「ということは、大きい方のお嬢さんは医者か何かかい?」

「薬屋さん、丘の上でお店を開くことにしたの」

「へぇ、それはいいことを聞いた。今度見に行かせてもらうよ」


 マスターは次にマリネに向かう。


「そっちの小さい方のお嬢さんは」

「小さっ……!?」

「失礼、そちらのかわいいお嬢さんはお人形のようだね」

「私もよくわからないけど、そうらしいわ」

「何かわけありのようだね。深くは聞かないでおくよ」

「マスターさん、人形が動いてるのにあんまり驚いてないね」

「最近、広場の大道芸で似たようなものを見たからね」

「言っとくけど私は大道芸の人形とは違うわよ。ちゃんと自分の意志で動いてるんだから」

「私の目から見ればどちらも同じようなものに見えるけどねぇ」

「違うったら違うんだからぁ!」


 じたばたと手足を動かして否定するも、その様はむしろ大道芸っぽさを増していた。


「ところでマスターさん、私達アイテムの採集場所を探しているんです。どこか良い場所をご存じないですか?」

「そうだね、この辺りならベルク平原がオススメだよ」


 マスターは棚から紙を取り出して簡単な地図をさらさらと書き始める。


「メモリル街道の東の方にある平原だよ。それほど強いモンスターもいないから安心して採取できるよ」

「ええっ!? モンスターが出るの?」

「う~ん、私あんまり戦いは得意じゃないんだけどなあ」

「マリネちゃんは危ないから家で待ってた方がいいかもね」

「う~…… ま、そうだよね。私がいても足手まといになるだけだものね」

「えっと、そうじゃなくて、私全然戦えないの。だからいざとなっても守ってあげられないから」


 ピアは何てことないように言ったが、マリネとマスターは目を丸くして固まった。


「ピアも…… 戦え……ないの?」

「うん」

「ええ~っ!?」

「驚いた、採取場所を聞くぐらいだからてっきり戦えるものとばかり思っていたよ」

「無理だよぉ、スタイムなんて叩いたりしたらこっちが吹き飛ばされちゃうもん。ぼよ~んって」


 身振りも交えていかに大変だったかを表現する。


「さっきも街道で遭って大変だったんだから!」

「じゃあ今までどうやって材料集めてたの!?」


 信じられないといった表情でマリネが聞く。


「普段は腕の立つ村人さんに手伝ってもらってたの。一人の時は必死に逃げ回りながら集めたり、白花のポプリを使って、モンスターを寄せ付けないようにしてたから……」

「ほぉ…… たくましいね、お嬢ちゃん」

「そこ感心するところじゃないから!」


 マリネはぴょんぴょん飛び跳ねて抗議する。


「どうするのよ! このままじゃ材料の採取どころじゃないわよ!?」

「大丈夫! 今回も今までと同じ方法で頑張ってみるから!」

「なんか不安になってきたわ…… やっぱり、私もついて行く!」

「う~ん…… わかった。でも、危なくなったらちゃんと逃げてね!」

「うん! 逃げるときは一緒だよ!」


 友情を深め合う二人を慈愛の笑みで見守りながら、マスターは棚の奥から一枚の紙を引っ張り出した。


「そんな君たちにこれを上げよう」


 それにはマスターが書いていた地図より詳細な地図とペンで印がつけられている。


「君たちと同じような冒険者が残していった地図だよ。平原の中でも特にモンスターが少ない場所が記されている。不安ならこれを頼りに歩いてみるといいよ」

「うん、ありがとう!」


 ピアは地図を受け取ると、カバンにしまった。


「よーし、それじゃあベルク平原に行ってみよっか、街の外へ出よう!」

「ま、待って、せめて準備してから行きましょう。どんなに戦えなくても切れ味の良い剣の一本でもあればマシになるでしょ」

「それもそうだね。じゃあ今日は準備で冒険は明日にしよう!」


 ピアはマリネと別れると散策を始めた。

 朝来た時の市場をもう一度覗いてみたが、どうやら朝市限定だったらしく、撤収する人がちらほらといるだけだった。

 仕方ないので雑貨屋に足を運ぶ。


「あ…… 偶然だね」


 雑貨屋の前でちょうどマリネに出会う。

 せっかくなので一緒に入ることにした。

 マリネはどうやって入ろうか考えていたとはおくびにも出さない。


「わあっ! ピア、見てみてっ! いろんなもの売ってる!」


 商品棚の前でマリネが飛び跳ねる。


「うん、港街って品揃えいいよね」

「わぁ、クッキーだ! これ大好きなんだよね~」


 目を輝かせて走り回る。


「ショートケーキまである! これも甘くて美味しいんだよね~」

「甘いもの好きなんだ?」

「大好き!」


 店員さんもほほえましそうに声をかける。


「お気に召しましたか~? ねえねえ、せっかくだから何か買って行ってよ」

「じゃあクッキーとショートケーキ50個ずつ下さい!」

「50個!?」

「50個……」


「ま、まいどありがとうございます」

「お店のお菓子全部なくなっちゃった……」

「ふふふ、クッキーにショートケーキいっぱい♪」

「……あんなに食べられるのかな」

「ピアっ、ピア!」


 マリネはクッキーを一つ差し出した。


「ピアにも一つあげるね!」

「あ、ありがとう」


 大量のお菓子を両手に帰るマリネを見送り、ピアは歩く。

 街の中央広場を歩いていると住人の話し声が聞こえてきた。


「今日は悠遠大陸が澄んで見えるねえ」

「ええ、そうですなぁ。これは明日も晴れですな」


(ここの住人にとって悠遠大陸は、天気の判断基準にしかなってないのかなぁ)


 この人たちにも聞いてみることにする。


「あの~」

「おや、どうしたんだい?」

「あの大陸って何なのかな? ただ浮いてるだけじゃないよね」

「なーに言ってんだい! あんなものただ浮いてるだけだよ!」

「そ、そうなの?」


 おばさんの勢いにたじろぐ。

 さらにもう一人のおばさんも賛同する。


「そりゃそうさ、あんなもん浮いてても何の役にも立たないからねえ」

「わしゃ、子供のころからあの大陸が浮いてるのを見てきているが、なーんにもしてくれねぇしなあ」

「せいぜい空の澄み具合が分かるぐらいだよ、アッハッハッハ!」

「……」


 おばさんたちの勢いに圧されて縮こまる。

 対照的におばさんたちは滝のごとく言葉が飛び出す。


「あんなもん珍しがるのは冒険者ぐらいだね。嬢ちゃんはほかの町から来たのかい?」

「あ、うん、メモリルから」

「ほーあんな田舎のほうから来たのかい」

「あそこまで行くと悠遠大陸も見えねぇのかあ」

「昔はあの大陸の言い伝えだとかが多かったんだがなあ…… 今ではすっかり聞かなくなっちまったよ」

「そうそう、あったねえ! そんもの」

「言い伝え?」


 初めて聞く話にピアは首をかしげる。


「ああ、なんでもあの大陸には何百年も生きてる怖~い魔術師が住んでるとかねえ」

「こ、怖い魔術師……」

「あたしゃ、化けもんが住んでるって聞いたよ! メダマが一つで口が裂けてるとか!」

「め、メダマが一つで口が裂けてる!?」

「魔王が住んでるなんて話もあったよ! あの大陸が城で世界征服を狙ってるとか!」

「ま、ままままま魔王!?」


 ピアの頭に一つ目の魔王が人を食べようとしている図が浮かぶ。


「ひ、ひえええっ!」

「そんなに怖がらなくてもいいだろう、いい噂もあったしなあ」

「そうそう、あそこが楽園で天使が住んでるとかよお」

「て、天使……」

「一生遊んで暮らせる財宝が眠ってるとかいう話も聞いたね!」

「うーん、さっきから聞いてると噂の統一性がないね……」

「そりゃそうさ、何しろあそこに行った人なんでいないんだからねえ!」

「「アッハッハッハ!」」


 悠遠大陸に対する謎は深まるばかりだった。

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