第一話 3ページ目
「さてと、まずは生活するためにもお店を開かないとね」
心強い仲間を得たピア。
しかしそれはそれとして、生きていくためにはお金が必要である。
「う~ん、でも何からやったらいいんだろう……」
「そうねぇ……」
てとてととマリネもピアを追って階段を下りる。
「まずは売り物を並べなきゃいけないんじゃないかしら」
「あ、そっか。まずは売れそうなものを探してこないとね」
「そこ忘れてどうすんのよ」
あまりにもそもそもな話である。
「でも私、引っ越してきたばっかりでこのあたりのこと全然知らないの。適当に歩いてたら見つかるかなぁ?」
「それは難しいと思うわ…… 安いアイテムならいくらでも落ちてるだろうけど」
「うぅ…… そんな簡単にいいアイテムが見つかるわけないよね……」
勝手分からぬ土地に途方に暮れててしまう。
「そうだ、まずはこの街の酒場に行ってみようよ」
「酒場!? まだヤケ飲みには早すぎるよぉ」
「ちっがーう! 酒場で情報収集するの! 酒場には冒険者たちが集まるから、情報収集にはうってつけの場所なのよ!」
「あ、なるほど。そういうことだったんだね」
「本当なら日が暮れてから行くのがベストなんだけど…… まずはそこでいい採集場所を聞いてみましょ」
「うん!」
ピアは善は急げと、さっそく駆け出していった。
その後ろ姿が危なっかしく、慌ててピアを追う。
しかし慣れない人形の身体では歩くのにも一苦労だ。
そのうえ燃料としているマナも心もとない。
そんなこんなでもたもたしているうちにピアは見えなくなってしまった。
「うーん……」
意気込んで飛び出してきたはいいものの酒場がどこにあるのか知らない。ピアは酒場を探してふらふらしていた。
その横からこちらも注意が散漫になっている女性が。
「きゃっ!?」
ピアとその女性がぶつかる。
その衝撃で女性の持っていた薬ビンが滑って割れた。
中身の液体が飛び散り、二人にかかる。
「あーっ! ご、ごめんなさい!」
「ううん、こちらこそごめんなさい」
「でも、お薬割れちゃいましたよね…… ごめんなさい! 弁償します!」
「いいのよ。私がぼーっとしてたのが悪いんだから」
「ううん、私、こう見えても薬屋なの。だから、せめてものお詫びに同じものを作らせてください」
「心配しないで。ほんとに大したことないものだから」
ピアの謝罪に対して女性は遠慮する。
「そうだ、お詫びってことなら私の芸を一つ見てくれないかしら」
「芸?」
「私はファニィ。売れない旅芸人をやってるの」
そういうとファニィはニコッと営業スマイルを浮かべた。
「まだまだ芸は練習中。この街にも先日来たばっかりだから、まずはあなたに私の芸を見てほしいの」
「へぇ、面白そう!」
「いろんなことできるわよ。ナイフ投げに、ダンス、羽化に、紙芝居、占いとか」
「わ、じゃあどれでもいいから見せてもらっていいですか!?」
「ふふ、任せなさい!」
ファニィの目が怪しく輝く。
「私は、時として吟遊詩人、時として踊り子、そして……
今の私はナイフ投げの達人!」
ファニィはピアにつかつかと歩み寄るとピアの頭にリンゴを乗せた。
そしてナイフを懐から取り出すとビシッとピアに向けてポーズを決める。
「見てて、リンゴだけにうまく当てるから!」
「え?」
「ええぇぇぇええ!?」
ピアの悲鳴が閑静なポルトフィーナの中央広場にこだました。
「あ、あの~……」
「なぁに? 動かないでね!」
「ほ、本当に当てられるのこれ~!?」
「売れない旅芸人だからなかなか成功しないのよねこれ」
「…………」
ピアが凍る。
「……ひ、人に当てたことはどれくらいありますか?」
「失礼ね、いくら私でもそんなこと一度もないわよ」
その言葉にほっとしたのもつかの間、
「いつも的で練習してるもん」
「えぇぇぇえ!?」
ファニィは爆弾発言をかました。
「大丈夫! 真ん中にはなかなか当てられないけど、的にはちゃんと当たるから!」
「それって私にあたる可能性が高いってことだよね? ねえ!?」
「ふっふっふ、いくわよ~」
「うわぁぁぁん! おかあさぁぁぁぁん!」
ファニィが振りかぶったのを見てピアはぎゅっと目を瞑る。
何も見えないピアの背後からナイフが何かに突き刺さった音が聞こえた。
それもそのはずファニィが投げたナイフは大きく上にそれて、どこかへ飛んで行ってしまっていた。
「あら、大きく外れちゃった」
「今変な音したよ!」
「やっちゃったわ…… 向こうのサボテンに直撃しちゃったみたい」
「サボテンにあたった音じゃなかったよね!?」
「はあ…… また失敗しちゃったわ……」
ピアとしてはナイフの行方が気になって仕方なかったが、頭にリンゴが乗っていて動けない。
「仕方ないわ、もうナイフがなくなっちゃったし今日はお開きね。
芸を見てくれてありがとう、失敗しちゃったけど」
「ど、どういたしまして……」
「そうだ、名前を聞いてもいいかしら、薬屋のお嬢ちゃん?」
「あ、私はピアっていうの。街の丘の上でお店を開く予定なの!」
「へえ、それじゃあ今度よらせてもらうわね」
「う、うん……」
「またね、ピアちゃん」
そういうとファニィはどこかへ歩いて行ってしまった。
「……このリンゴどうしよう」
そのままピアはマリネが追いつくまで立ち尽くしていた。