プロローグ
これはフリーゲーム『悠遠物語』をプレイする環境を持たない人に知ってもらうことを目的とした、非公式のノベライズ作品です。
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――ここに助けを求められる人はいない
この場所にはただ一人、あの人を除いてだれもいないから――
必死に足を動かす。
どんどん消耗していくマナとは反比例するように焦りだけが募っていた。
――早く、この場所から離れないと……
このままじゃ大変なことが起きちゃう
あまりにも頼りない人形の腕。
その中にある本をもう一度確認する。
――この本があれば……
きっと街を救えるはず……!
そして私は歩き出す。
助けてくれる人を探して。
――――――――
風が強い。
あまりにも軽い私の体は、今にも浮いてしまいそうだ。
深呼吸して心の準備をする。
「おい、そこのお前」
「!」
不意を突かれて少し驚いてしまったが、知らない声ではなかった。
「お前は誰だ。ここには俺以外の人間はいないはずだぞ」
「”人間”……ね。確かに、今この場所にあなた以外の人間はいないわ」
「ん? どういう意味だ?」
数歩距離が近づく。
「ふん、なるほどな。よく見たらお前、ただの人形じゃないか。
術者はどこだ。誰がお前を操っている?」
「術者なんていない。私は私」
「はあ?何をわけのわからないことを」
「あなたは…… 私を助けてくれる気はないんだよね……」
期待はしていないけど、聞いてみた。
「当たり前だ。お前みたいな怪しい奴を助ける気なんて、これっぽっちもないな」
彼はさらに詰めてくる。
「俺の質問に答えろ。
お前は何者だ。喋らないなら捕まえて縛り上げるぞ」
「……なら、いいの」
喋っているうちに心の準備もできた。
「これから始まる物語はあなたが”主人公”だった。だけど、もうあなたには頼らない。私はあなたの代わりに他の誰かを探す!」
叫ぶと同時に地面をける。
ゆっくりと落ち始める私の目に彼の驚いた顔が焼き付く。
「死ぬ気かアイツ!? ここは空の上だぞ!?」
――死なないよ。
だって私はただの人形だもん。
風にあおられて落ちてゆく。
――そう、私はただの人形。
一人の力じゃ何もできない。
だからお願い、この声が届いた誰か。
私を助けて
どうか街を救って――――