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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編 筋肉僧侶のざまぁ

 宿屋の一室に、5人の男女が集まっていた。Bランクの冒険者パーティー、剣士、盗賊、僧侶、魔術師、弓士。最初の3人が男で、後の2人が女だ。

 彼らは4人で僧侶を囲むように立っていた。代表して、パーティーのリーダーである剣士が口を開く。


「お前、今日限りでクビな。

 だって、何もしないで後ろからついてくるだけじゃん。」


 そう言われて、僧侶はパーティーを追放された。

 反論は聞き入れられないどころか、そもそも発言を許されなかった。


「いや――」

「いやじゃねえんだよ。」

「ちょっと――」

「ちょっとじゃねえんだよ。」

「待ってくれ――」

「うるせえよ。」


 こんな調子なので、とうとう反論する気力を失って、もうどうにでもなれと追放を受け入れた。

 だが落ち込む暇はない。冒険者はその日暮らし。稼がないと生活できない。

 ソロになった僧侶は、棍棒片手にダンジョンへ挑む。僧侶は、筋肉には自信があった。どうせ何もしないのだから、せめて全員の荷物を持てと言われて、5人分の物資を1人で運んでいたから、かなり鍛えられている。攻撃には参加しなかったが、流れ弾や範囲攻撃などは飛んでくる。そんな中、1人だけ重りをつけて冒険していたようなものだから、それは筋肉もつくというものだ。


「うなれ棍棒! 今、必殺のォ! 僧侶ホームランッ!」


 パコーン! といい音を立てて、殴られた魔物が飛んでいく。

 荷物持ちで鍛えた体幹の強さは、体をひねって棍棒をフルスイングする事に適していた。


「うっし! 絶好調!」


 飛んでいった魔物を、額に手を当てながら満足げに眺めた僧侶は、残りの魔物に向かって再び棍棒を構える。


「いくぞ! 地獄の千本ノックだ!」


 僧侶は快調にダンジョンを進む。それはまさに快進撃だった。






 一方、その頃ダンジョンの奥地では、Aランク冒険者のパーティーがフロアボスを相手に苦戦していた。


「くっ……! このままでは……!」


 前衛の重装戦士が焦りの声を漏らす。

 その気持ちは、後衛の忍者や大魔導師、狙撃手らも同じだった。

 一応は攻撃が通用するが、フロアボスの防御力は非常に高くてダメージがあまり通らない。しかも、そのタフさに物を言わせて、ダメージ覚悟で攻撃してくる。そのためAランク冒険者の面々も無傷では済まない。


「くっそぉ……! 今まで回復職を仲間にできなかったのが悔やまれるぜ!」

「忍者、今そんなこと言っても無駄。」

「そんなこと言ったってよ……回復さえあれば、この削り合いにも勝てるだろ?」

「無い物ねだりだよ。大魔術師の言う通り、そんなこと今言っても無駄だし。

 それより敵に集中しなよ。攻撃を食らったら、どんどん分が悪くなるんだからね。」

「ちっ、分かってるよ、狙撃手。

 でも実際、どうなんだ、重装戦士? ほとんどお前が攻撃を引き受けてるだろ。()()のか?」


 それは彼らの不安の核心だった。

 重装戦士が倒れたら、パーティーは戦線を維持できない。

 視線は敵に向けたまま、全員の意識が重装戦士に集まった。


「……正直、厳しいな。

 タイミングを見て撤退したほうがいい。」


 そこから彼らは、撤退のタイミングを見計らうための戦いにシフトした。ダメージを与えることを狙わず、ひたすら生き延びることに重点を置く。

 しばらくして、そのチャンスは訪れた。


「今だ!」


 大魔術師が放った爆炎魔法がフロアボスの視界をふさぐ。その炎は数秒で消える。

 その間に、彼らは一斉に背を向けて逃げ出し、フロアボスの部屋から出て身を隠した。

 爆炎が晴れたとき、フロアボスは侵入者がいなくなっている事に気づいて、戦闘を中断し、座って回復し始めた。


「おや? 入らないんですか?」


 と、そこへやってきた僧侶。

 血まみれの棍棒に、全身返り血で真っ赤っか。その姿はとても僧侶には見えなかった。


「え? あ、いや……俺たちは出てきたところなんだ。」

「おやおや……そうでしたか。

 では、僕が入っても?」

「ああ。構わない。」

「では失礼して。」


 僧侶はボス部屋に入っていった。


「あれ?」


 と、その後ろ姿を見送りながら、重装戦士が気づく。


「……ダメージが回復している……?」

「え?」

「まさか、あの人……!」

「回復職なの!?」


 そして僧侶とフロアボスとの殴り合いが始まる。

 攻撃スキルを持たない僧侶は、筋肉に物を言わせて棍棒でひたすら殴る。フロアボスも黙って殴られるばかりではない。苛烈な反撃を加えるが――


「ふははは! その程度の攻撃など、蚊が刺したほどにも感じぬわ!」


 言ってみたいセリフランキングを順調に消化している僧侶だった。

 そして実際、その言葉の通り、僧侶はダメージを受けていなかった。パッシブスキルで防御力が強化され、ほとんどダメージを受けない。わずかに受けたダメージも、パッシブスキルで回復する。魔法防御力も、状態異常抵抗力も、パッシブスキルで軒並み強化されている。

 僧侶はパッシブスキルしか覚えていなかった。だから後ろからついてくるだけでも、かつての仲間たちは大いに恩恵を受けていたのだ。だが人は慣れるもの。過酷な状況にも、夢のような幸福にも、それが続けばいつか慣れてしまう。そして、それが当たり前のものだと思うようになり、ありがたみを忘れる。

 だが僧侶だけは、自分の力を理解していた。防御も回復もパッシブスキルが自動でやってくれる。自分はその間、ひたすら攻撃に専念すればいい。

 僧侶が正面から堂々と殴り合ってじわじわと押していくその姿は、まるで鬼神のようだった。


「し、信じられねぇ……。」

「Aランクの俺たちが4人がかりでも勝てない相手に……。」

「なんでソロで殴り合えるのよ……。」

「化け物……。」


 とうとうフロアボスはそのまま倒された。


「よっしゃあ、絶好調!

 あ。お先に失礼します。」


 高らかに棍棒を掲げて勝利を宣言した僧侶は、直後にAランク冒険者たちを振り返ってぺこりと頭を下げた。

 礼儀は忘れないが、せっかくソロになったのだからイキってみたい僧侶であった。独りカラオケみたいなものである。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

「頼む! 俺たちのパーティーに入ってくれ!」

「いえ、私たちをあなたのパーティーに入れてちょうだい!」

「私たちには、あなたが必要なの!」


 だが長らく支えてきたパーティーに裏切られたばかりの僧侶は、そう簡単に人を信じられない。


「えー……まあ、とりあえずお試しでよければ、行けるところまで?」

「それでいい!」

「決まりだな!」

「行きましょう!」

「よろしく!」


 彼らはそのままダンジョンを最下層まで攻略してしまった。

 攻略に要した時間は1ヶ月。その間、疲れも眠気も空腹も感じないで、延々と戦い続ける事ができた。それらはすべて僧侶のパッシブスキルの効果だ。


「最下層まで行ったぁ!?」

「おいおい完全制覇かよ!?」


 史上初のダンジョン制覇(クリア)。僧侶たちの帰還は、冒険者ギルドをあげての大騒ぎになった。

 その冒険者ギルドの片隅に、魂が抜けたように白くなっている4人組がいた。


「嘘だろ……。」

「あいつがダンジョンを制覇……?」

「私たち、こんなに落ちぶれてるのに……?」

「あは……あははは……!」


 僧侶のパッシブスキルを失った元メンバーたちは、今までのような活躍ができず、ベテランと称されるBランクからたちまち転がり落ちて、今やDランク。半人前と称される位置にいた。


「俺たちの新しいリーダーに乾杯!」

「「乾杯!」」


 Aランク冒険者たちが酒盛りを始める。

 その杯が僧侶に捧げられているのを見て、元メンバーたちはますます白くなっていた。

ハイファンタジーの日間ランキング上位に、ざまぁ系が多いようなので書いてみました。

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