初めての生徒会室
扉には”生徒会”と頼りない文字で書かれたボードがぶら下がっている。本当にここか?と僕は首を傾げた。職員室と同じ本館の一階の一番奥、廊下の突き当たりにあるその部屋は誰にも見つからないようにひっそりとそこにあった。電気はついているからきっと中に人は居るのだろうと思い、意を決して扉をノックした。ノックした瞬間ガタガタっと何かが崩れるような音がしたあと「はぁーい」と中から声がした。その声とともにガラガラと扉が開く。
「ごめんねぇ、入会希望の新入生かな?どうぞ入って」
顔を出した男子生徒はきちんとネクタイを締めた黒髪の真面目で優しそうな人だった。ノートパソコンの前の椅子に座りなおすとこっちに来てというように僕に手招きをした。
「失礼します」
入った部屋はひどいものだった。たくさんの資料が散らばっていてお世辞にもきれいとはいえない机の上を覆っている。壁にかかった大きなホワイトボードには消えなくなってしまったのだろう黒い跡がところどころ残り、最近使われた形跡はない。
「汚いよねぇ、本当は片付けたいんだけど片付けたところで結局誰かが汚しちゃうんだ。ところで名前聞いてもいいかな」
「あ、えっと、中学一年の増長ユウヤです」
「おっけー、増長くんね。俺は高校二年生で書記の渡ミナト。えっとーそこにいるのが中学二年生で広報を担当してる富田コウセイ。彼が起きてたらたまに片付けてくれることもあるんだけどね」
指差す方向を見てみると机の上の書類に突っ伏して寝ている人がいた。名前に反応してか、体がぴくっと揺れたが結局起きなかった。
「コウセイは寝るのが好きなんだよ。あとは、もう少しで会長が来るはずなんだけどなぁ……」
渡先輩がそういったところでガラガラと扉が開かれた。その音の勢いの良さに富田先輩は目を覚まして大きな伸びをした。
「おっ、ミナトとコウセイ!やっと顧問に資料が通ったよ。あいつまじで仕事できないよな」
「お疲れ様、それには同意だけどそんなことより生徒会に入会希望生が来たぞ」
「よかったな。でもこの部屋見られて引かれてない?自分が掃除しないのが悪いのはわかってるけどいい加減汚すぎるよな」
「うーん、とりあえずお前の自己紹介してくれよ」
「わかった。どうも、俺は高校二年の大杉タイチ。名ばかりの生徒会長やってるよ」
「名ばかりってタイチ、お前なぁ……まぁ否定はできないけれども」
「ははっ、そうだろ」
「あの、僕は中学一年生の増長ユウヤです。よろしくおねがいします」
「うん、よろしくね。とりあえず、新入の子には会長の俺から生徒会の構造について説明しなきゃいけない決まりになってるんだ。入会するかはとりあえずそれを聞いてから決めてくれていいよ」
「はい。わかりました」
「まず断っておくと、ここ道の先学園の生徒会はきっと君が期待しているほど力がない。もちろん表向きは生徒主体の行事運営みたいなことを掲げているわけだけど、それは生徒会というよりそれぞれの実行委員会が担当してる。まぁそれを前提にして聞いてほしいんだけど、生徒会は四つの局があって成り立ってる。」
大杉先輩は淡々と話しているが僕にはショックな事が多かった。理想の生徒会とはかけ離れている。でもなぜか、この生徒会に興味が湧いていた。新入生歓迎会で在校生代表の大杉先輩の堂々としたスピーチを聞いたときから、生徒会に入らないなんて選択肢はなかった。
「その四つは書記局、広報局、会計局、部活動管理局。俺は会長だからどこにも所属してないけどね。中一から高一までは絶対どっかに所属してもらって仕事してもらう。俺は前まで会計局だった。ちなみにいまんとこ十一人生徒会役員が居るよ」
「今いる先輩以外にも八人いるんですか」
「そういうことになるね、学年はバラバラだけど中学一年以外は全学年に役員が一人づつは居るはずだよ。今年はあんまり勧誘に力を入れられなかったから中学一年は入ってくれないかと思ってた」
「確かに、先生に聞くまで会室の場所もわかりませんでした。今日は他の先輩方はいらっしゃってないんですね」
「今日は正式な活動日じゃないからね。仕事ある人だけかな」
「富田先輩は……」
「あぁ、あいつは俺が呼び出したの。今日広報が担当してるSNS関係の書類がやっと通ったんだよ」
「大変なんですね。顧問の先生は、えーと……田中先生でしたっけ」
「そうそう、本当にあの人生徒会を後回しするんだよ。顧問のくせにな。とりあえず、正式な活動日は火曜日と金曜日だから本当に入会する気があるなら明日の放課後、ここにもう一回来てみてね」
「わかりました」
「おい、ミナト。この資料不備ないか確認しておいてくれないか」
「うん、わかった。コウセイは、資料の訂正なかったら帰っても大丈夫だよ」
「うっす」
「じゃあ、ユウヤ。今日はもう大丈夫だぞ。君が生徒会に入ってくれること期待しているよ。」
こんなオンボロの会室でも十一人の先輩が生徒会としての仕事をしているのかと思うと、理想とのギャップはあってもそれはそれでなんだか面白そうだなと思った。綺羅びやかではないこの学校の生徒会で僕は生徒会長を目指してみようと思う。