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★★★★★  作者: リングプル
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悲しみの雨


3人は変貌しきった櫛灘院長の姿をみて、言葉も出なかった。

今はただ、まるで常識外れの神掛かったこの光景をみていることしかできなかったのだ。


櫛灘院長の右腕に集まりし雷はやがて1本の矢となった。


そしてその矢を弓に添え、いっぱいいっぱいに引く



「おぉーっとぉー。こりゃあやべぇな?可愛い顔してあんたバケモノかよ。モーションの長ぇ見掛け倒しの技かと思ったら。鳥肌が止まらねぇぜ……」黒



大波黒は悟った。


櫛灘が一撃で仕留めに来ることを。



雷鳴弓らいめいきゅう建御雷神たけみかづちのかみっ!!!!!」



矢を放った。


矢は地面を抉りながら一直線に大波黒に向かう。



「くぅっ!なんてデタラメな技だっ!」黒



刹那。




ズゴォォォォォオオオオオオオンンンッ!!!!!




凄まじい爆発音が町の方まで轟く。

瓦礫が宙を浮き矢の方につられるように飛んでいき、砂埃が辺り一帯を包み込んだ。


櫛灘院長はその場に後方へと倒れた。


その瞬間が3人にはとてつもなくスローモーションに見えた。


櫛灘院長が倒れる直前に今まで動かなかった体が何故か動いたのだ。


斗志也は何度も妻づきそうになりながら全力で櫛灘院長の元へ駆け寄る。



「院長!!院長!!院長ぉぉお!!!!」斗志也



櫛灘院長の両腕は真っ黒に焦げ上がり痙攣し、先の一撃の凄まじさを物語っていた。


目の前までたどり着いた斗志也は膝まづき、焼け焦げてザラザラになった院長の手を握る。


後ろから走ってくる後の2人も櫛灘院長を囲むように膝から崩れ落ちる。



「院長!!大丈夫だよね……?死なないよね……?絶対死んじゃだめだよ?ねぇ?院長!!」悠那



「逃げなさいって言ったのに………」唯



もう言葉を喋るのも苦しそうな声でゆっくりと口を開く。



「私はもう駄目。今からでも可能性はあるわ。逃げなさい」唯



「んなことできるわけねぇだろぉっ!!!」



そう。おそらく、体が動いていたとしても自分らを死守しようとする院長を置いて逃げるなどという選択肢は斗志也らに最初からなかった。



「なんでこんなことにっ………」斗志也



グゥっと下唇を噛みしめた。

だが体の痛みなどもう感じないレベルだ。


そのかわり、心が細い糸で締め付けられ真っ二つに千切れてしまいそうなほど、心が痛い。



「斗志也、悠那、琉結。よく聞きなさい」唯



「貴方達は孤児院の中でも人一倍、いや、二倍、天力をモノにしようと努力してたわよね…」



「毎日毎日。暑い日も雨の日も雪の日も…ずっと。ずぅーっと」



「いざなんかあった時は俺が守ってやるからな!って。言ってくれたの覚えてる?斗志也…」



「うぅっ……ごめんよ院長……俺……」斗志也



「それでいいの…。守れるか守れないかじゃないの。““守ろうとしてくれるかしてくれないか””なのよ…。だからね?斗志也。先生嬉しい……」



櫛灘院長の片目から一筋の涙が流れる。


降り注ぐ雨にも負けない、綺麗な涙が。



「悠那……。あなたは───げほっ…げほっ……」



「院長っ!だめ!喋らなくていいからっ……ねっ?」悠那



「言わせて……。お願い……。」



「たまに、口が悪くて…笑っちゃうけど。あなたはお兄ちゃん思いで支えようとして、妹を引っ張ろうって影で頑張ってたもんね……?」



「綺麗に咲く花よりも、花を咲かせる土になれってねっ…。悠那はしっかり土みたいに2人を支えてたの知ってるよ?」



悠那はこの言葉を聞いた途端涙腺のストッパーが壊れたように泣きじゃくる。



「悠那、あなたは先生と同じ雷の性質もってるんだから…強くなるにきまってる。おまけに美人な所も似てるしね…」



「うんっっ…。本当に院長にあこがれてたっ…。うちの夢ね?院長と一緒に孤児院のために働くことだったんだよ?一緒に頑張ってみんなのこと幸せにしよ?だから院長死なないでっ…!!」



この言葉を聞いた櫛灘は悠那と同じく、堪えてた涙が止まらなくなった。



「そっかぁ……。悠那。そんなこと思ってくれてたんだね…。それだけでも今日まで頑張って来た甲斐があったってものよ…。先生幸せっ。本当に幸せ」



嗚咽が止まらず吐血しだした自分の命はそう長くはないと悟った。



「琉結。あなたが孤児院にきたのは0歳の頃。本当に私がママみたいに勝手に育てて来ちゃったけど…。血は繋がってなくても可愛いくて可愛いくて。抱き潰したくなるほど可愛いくて…。」



「今じゃもう9歳だもんね…。あのね?毎年忘れてるだろうけど、今日は皆の誕生日なんだよ?斗志也はきづいてたらしいけど…。サプライズして2人の喜ぶ顔みたかったなぁ…」



当時年齢はわかっていたものの、幼い3人には自分の誕生日がいつだったか分からなかったことから、孤児院に来た日を毎年誕生日として祝ってたのだ。


そして散歩に行く時、櫛灘院長が“流石お兄ちゃん!察しが良いね!斗志也君!”と言ってたのは

3人が外に行ってる間に誕生日パーティーの準備をしようとしていたからだ。



「いいのっ!院長が生きててくれればいいのっっ!!そばに居て……お願い……」琉結



「お姉ちゃんと私に似て、あなたもきっと美人になるわ。だからしっかりお兄ちゃんとお姉ちゃんについていきなさいっ────げほっ!!」



大量の血を吐き、だんだん顔色が悪くなってきた櫛灘に、追い討ちをかける者がいた。


瓦礫の下から刀を杖代わりにし、立ち上がった男。


大波黒。


羽織っていたローブはボロボロになり筋骨隆々な黒の上半身が姿を現す。



「ふぅーーっ。あぶなかったぜ」黒



「てめぇ………まだ生きてやがったのかクズ野郎が……」斗志也



「あぁ?生意気なクソガキが。その頭吹っ飛ばすぞこらぁ…………と言いたいところなんだが。他の奴らの気配がこっちに向かって来てやがる。悪ぃがその女、消させてもらう」黒



そう言った大波黒は刀を1文字に振るい、衝撃波を放った。


4人とも散り散りに吹き飛ばされ、大波黒が右手の平を櫛灘に翳した。



亜空切あくうせつだん!!」



直径3メートルほどの渦巻く球体が櫛灘に向かって放たれた。


球体の周りは景色が歪んでいるかの如く酷く捻れて、それ

と接触したらヤバいと3人は櫛灘の方へと走り出す。



「くるなぁっっっ!!!」唯



3人はピタッと止まった。


うごけ!!うごけ!!たすけるんだ!!

と、心の中で奮い立たせるがあの未知の波動弾に対し本能が体を止める。

見るだけでも分かる。濃密な天力。周りの瓦礫や、降り注ぐ雨を吸い込みながら、直進してくるソレ。


うつ伏せに横たわった櫛灘は残りの力を振り絞って言った。



「最後になるけど」



「なにもかも失われた時にも、未来だけはのこってる。」



「何時の日も、あなた達はあなた達であれば良いのよ」



「産まれてきてありがとう。出会ってくれてありがとう。」



「本当に本当に。愛してる───」



その波動弾は対象物に触れた瞬間にその全てを呑み込んだ。




───その後───




大波黒は失踪し、間もなく翼士団の団員達が到着。

団員たちは大量の屍をみて言葉を失ったのであった。


雨が降り死体の血と混ざり正に。血の海と化した孤児院は見るも無惨な形で崩れ去った。


生き残った3人は空っぽになったように、翼士団に保護されたのであった。


そしてこのような惨殺事件が和国内の各地で起きていた。


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