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★★★★★  作者: リングプル
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悲しみの雨


孤児院の方角で灰色の煙が上がってるのが見えた。



「───なっ!!」斗志也



「お兄ちゃん!!あれ家のほうだよ!!さっきは無かったのに!!」悠那



「急ぐぞっ!!」斗志也



斗志也は胸を締め付けるような嫌な予感と焦りで思考が停止し、本能のままに走る事しかできなかった。


追うように悠那と琉結もついてくるが、斗志也の体力についていけず、ペースが落ちる。


しかし2人も何かただならぬ予感がして気が気じゃなかった。

走る1歩1歩の足の負荷が直接心臓に伝わってくるような感覚。

いつもなら息が続かずギブアップしているところだ。

斗志也の脚には負けるが、この緊張感と不安とで自然と疲れを感じないほどだった。


とりあえず孤児院にいって一刻も早く、あの煙が何なのかを確認したいという思いで胸がいっぱいだった。


そして、3人が孤児院の100メートル手前くらいまでにたどり着いた。



「なんなんだよ……これ……」斗志也



「院長ぉお!!みんなっ!!」悠那



琉結はペタンと尻もちをつき肩を震わせ目を見開く。

斗志也は唖然とし。悠那は発狂寸前の怒号で目の前の惨劇に声を掛ける。



「あんたたちっ!今すぐここから逃げなさいっ!」唯



今まで1度も見せたことが無いくらい櫛灘院長の目つきは鋭く、鬼のような形相だった。


そして3人が感じていた不安と緊張感の理由がわかった。



「まーだガキが残っていやがったのか!良かったなぁ?櫛灘唯さんよぉ!」黒



この男と櫛灘院長のぶつかり合う殺気だ。



「大波黒……。貴方って人は。クズがぁ!!この子達に手を出したら命に変えてもあんたを殺すっ!!」唯



大波黒。確かに櫛灘院長はそう言った。

そして大波黒という男の後ろには、切断され首が吹っ飛んだ体や、胴体と下半身が真っ二つにきりさかれて体内の臓器がそこらへんに散乱している、もう誰が誰のモノなのかわからないほどの約30人弱の孤児院達の屍だった。


孤児院は半壊し砂埃が舞う。

それが煙のように天に昇り狼煙をあげたのだ。


それをやったのは間違いなくこの男だと言うことは、赤黒い血に染まった刀を見れば一目瞭然。



「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあー!!!!!!」琉結



甲高い声が近くの2人の耳を劈く。


琉結の脳は、視界に映る出来事の情報を処理しきれず、心が崩壊し体の神経の伝達回路さえも犯し、失禁、発狂していた。



「はやくっ!行きなさい!1秒でも早く!……早くっっっ!!!!」唯



3人は逃げなきゃ絶対殺されるという思考伝達しかなかった。それ以外はもう脳が処理しきれない。



「てめぇが来ねぇって言うなら、この3人も死ぬと思えよ?アバズレがっ」黒



大波黒の目的は櫛灘唯を国家和兵へ連れていくこと。

これから始まろうとする戦に備え、大きな戦力を蓄えなくてはいけない。


だが櫛灘唯は孤児院の院長であり、彼らの“母親”である。

今、ここを離れることは皆を孤児に戻すのと同義。

それだけは絶対に選びたくない選択肢だった。

普通の会話の流れで断ったのだ。


断った。たったそれだけだったのに。


いきなりスイッチが入ったようにデタラメな殺気を放ち、言うことを聞かなかったらどうなるのか、という見せ占めのためだけに子供達を惨殺したのだ。



「………………」唯



3人のゲシュタルトはこの地獄絵図の前に崩壊し、足はおろか、体全身が痙攣し1歩も前に進めない。



「………………す」唯



「あぁ?聞こえねぇなぁ?ついてくる気になったかよぉー?」黒



「…………っ!!殺すっっっっ!!!!!」唯



ゴロゴロゴロゴロゴロォォォオオオ!!!!!



快晴だった空が急に唸り出した。

潔白の雲はみるみるうちに黒ずみ雨を呼ぶ。


そして櫛灘唯のからだの周りには青白いいかづちが戯れ出す。



バチンっ!!ヂヂヂヂヂヂバチンっ!!



時々、想いを綴った手紙を孤児院まで訪ね櫛灘院長に渡してくる男性がいるほど芸術的な美貌。


容姿端麗で女神のような笑顔で笑う櫛灘院長の面影はなく正に今は雷を纏った“戦士”だった。


天力の扱いを3人は教えて貰ってないわけじゃなかった。

櫛灘院長の天力は電気に適性していて、手のひらのうえで天力から雷力に変える様子をなんどか見せてくれた。


先生こんなことくらいしかできないんだっ!


てへっと笑い、こんな事を言ってたが。


天候を変えるほど凄まじい天力を持ち合わせているとは孤児院の子達は誰一人としていなかったのだ。



「はぁぁぁああっ!!」唯



櫛灘院長が低く唸る。

手のひらの上に高密度の雷を集め出し、それが徐々に弓の形へと変わっていく。

物質を具現化し武器にしたのだ。


これは国家和兵でも習得してる者は居ない。その性質を熟練した者にしか出来ない代物である。


本来、体や武器に付加したり、放出する事が天力の使い道だというのに、それを具現化しその場にとどめ、性質そのものを武器にする櫛灘唯はただ者ではないことを知った。


雷は降り注ぐ雨を伝い、更に広範囲に帯電する。


櫛灘院長が左腕を真っ直ぐに大波黒へと向けた。

雷の弓は左手にくっ付いているかのように自ずと大波黒へと照準を合わせた。


今度は右腕を雨の降る天に向かって差し伸べた。



「こいっ!!建御雷神たけみかづちのかみっ!!」



すると天より一閃の雷が轟音を轟かせ、櫛灘院長の右腕に避雷針の如く




ズゴォォォォォオオオオオオオンンンッ!!!!!




落ちた。



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