鬼島
ここは和国の中の小さな町、爺洞。
町の中心部には大きな大きな湖があり、中心部には浮島が存在している。
そこには鬼の神様が棲まうと言う伝説が古来より伝わっていた事から鬼島と呼ばれていた。
昼間は必ず山頂に霧がかかり、夜には月夜に照らされ妖しく光り輝き、謎の多い鬼島には誰一人として近づこうとはしなかったのである。
そんな爺洞の町に暮らす3人の兄妹。
柳川斗志也並びに悠那、琉結
孤児である3人には親は居らず、町の繁華街から少し離れた場所にある孤児院に身を措いていたのであった。
「今日は天気も良いんだし!3人で少し散歩でも行っておいで!」
孤児院の院長を務める櫛灘唯は、昼食を食べ終わった3人のお尻をポン・ポン・ポンと、叩く。
「えー…食べたばっかりなのに、歩いたらまたお腹空いちゃうよぉー…」
と、末っ子の琉結が言う。
琉結はまだ9歳。
そして悠那は11歳で斗志也は13歳、まだまだ食べ盛りなのである。
しかし和国全土は不況が続き、更に孤児院自体が貧しい生活を強いられてるため満足に食を済ませることができていない。
それはこの3人を含む他の孤児達だけではない。
「はいはい。分かったよ院長。3人で仲良く並んで散歩してくればいいんでしょ?」斗志也
「そうそう!流石お兄ちゃん!察しが良いね!斗志也君!それとも今日1日びっちり勉強したい?」唯
そう言った院長のいつもの容姿端麗な顔は悪戯に片側の口角が上がっていたため
勉強に滅法弱い悠那はさっさと玄関に向かい、2人も後を追ったのであった。
3人が並列に並んで湖畔ぶちを歩く。
心地よい日の日差しと波の音が兄妹の散歩を景気づける。
孤児院から出て10分くらいしたところで、町中あたりを通り過ぎようとしたとき。
ドゴォォォォオオオーーーーンっ
と地響きと共に轟音が鳴り響く。
そう。そこは国家和兵の敷地内で訓練場の近くだった。
背の高い木柵が構えられ歩行者への被害は無いが、地響きとその轟音は3人の胸を打つのであった。
「ビックリしたーーっ!」
と耳を塞ぎながら悠那
「天力…」斗志也
木柵で訓練場の中は見えないがこの轟音の正体は‘‘天力’’が衝突し爆発を起こした音だと確信した。
天力とは人に宿るエネルギーを個々の適性した物質に変え、それを放出または対象物に付加させることができる力である。
また、それは人の体内で生成され、細胞内に宿る。
人はこれを遠い昔から行使し建築・商売・移動手段・はたまた戦争での殺戮に役立ててきた。
国家和兵は武器の扱いや体術、そして天力に磨きをかけた戦のプロ集団であり、戦争とあらば必ず出陣する義務を担っている。
そのかわり国家和兵の家族は平民に比べれば、そこそこ裕福な暮らしをしているのもまた事実。
なぜなら全ての国を総合しても和国の勝戦率は限りなく100パーセントに近い。
そのデタラメな戦歴は世界最強の国家和兵と常軌を逸した戦闘力で他の国を侵略している、現・和国王である榊栄之助の参謀である最強の“七衆”である。
彼等がいるかぎり、他国からの侵略などはまず考えられない。
だがしかしこれは一見、和国にとって優勢なように見えるが、先の戦争でも多くの兵を失ったばかり。
どんな算段で戦をしようと兵の死という大きな代償を払わなければならない事は不可避。
そのため人員不足と防具や武器不足というのもあり、それを和国民から税として納められた金で賄っていることから、この不況に繋がったのだ。
和国民が多くの犠牲を払い、勝ち取った領地にそれまでの価値が有るか否か。
和国民達は榊栄之助の独裁的な暴政に疑いを持たずにはいられなく、士気は右肩下がり。
息切れしたところで、無理やり戦場へと送られている状態なのだ。
「戦争なんて………」斗志也
そんな力があるなら皆が幸せになれるような使い方をすれば良いのではないかと
9年前に勃発した戦争で失ったもの。
当時斗志也は4歳、琉結が産まれてまもない頃。
最強の七人衆も存在せず、他国からの侵略を受けた戦争だった。
記憶が薄れ、両親の顔も思い出せない。
物心がついていないと言っても、3人にとって大切な存在を奪い、そして今も尚、緒を引く不況の現実。
自分はともかく悠那と琉結には満足に空腹を満たし、毎月、30人弱の孤児院の子供達の生活費の支払いに困る櫛灘院長の顔はみせたくないと
何か自分に出来ることはないのかと
斗志也の優しさはいつも力無き己自身の首を締めるのであった。
「お兄ちゃん……?」琉結
「っ!………行こっか!」斗志也
ハッと思考の海から引きずり出された斗志也は2人の前を歩き、殊更、目的地もない散歩を再びするのであった。