始まり。 1話
出会いは突然に…。
誰しもこの言葉を耳にしたことがあるだろう。だが現実のところ出会いなど運良く舞い込んでくるわけない。俺、田口純平もそう思っていた、あの日までは。
「じゅん、起きなさ~い。」
母親の声が耳に届く。今日は高校の入学式。新しい学校で、新しい友達との高校生活に気持ちが高ぶっている。そんな人が大多数だろうが俺は違う。なんの取り柄もなく小中学生を静かに過ごしてきた俺にとって、高校ライフというものに魅力を感じない。ただ、目立たないように平穏に過ごしていく。これが俺の望みだった。
朝食を済ませ顔を洗い、埃一つない制服に身を包む。俺の制服姿を見て興奮する母を他所目に俺は家を出た。
俺の家から学校まではバスと電車を経由する。小中学時代は家から徒歩で通っていたからなんか新鮮だ。バス停で5分ほど待ちバスに乗り込む。
通勤時間のバスの乗車率は異常だ。スーツ姿の会社員たちでバスは埋め尽くされている。毎日こんな通学に耐えないといけないと思うと気が重い。
その後電車も乗り継ぎ、高校の最寄り駅に到着した。どこを見ても夢や希望を抱いて高校に入学する新入生たちばかりだ。きっと、漫画やドラマである純粋無垢な恋愛などにも期待を寄せているのだろう。
「えっと、、、、一年三組か。」
手元の受験番号と照らし合せる。どうやら俺は三組に配属されたらしい。階段を上り、教室に向かう。
幸運なことに俺の席は一番後ろだ。荷物を整理し、本を読む。
初めての顔合わせのはずなのに、あちらこちらで会話がうまれている。
「おはようございます。この後、入学式がありますので体育館に移動してください。」
話す相手のいない俺はもちろん一人で向かう。なんだか少し緊張してきた。
「新入生の皆さん、この度はご入学おめでとうございます。本校ではまず第一に・・・・・・。」
入学式が始まった。この時、俺は異変に気づいた。腹が痛い。緊張から来るものなのだろうか。校長先生の話は何も耳に入らない。
「落ち着け俺。なんとか入学式だけでも間に合ってくれ。」
校長先生の話が終わり、上級生からの歓迎の言葉に移ろうとしていた時、腹に稲妻が走った。我慢の限界に達した俺は、入学式を後にしてトイレに向かう。
「ドンっ!」
何かにぶつかった。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
彼女はそう言って体育館に向かっていった。黒髪ロングで小柄な彼女に一瞬目を奪われた。遅刻でもしたのだろうか。
「ギュルルルル…」
俺のお腹が悲鳴をあげている。なんとかトイレに間に合い事なきを得た。
クラスに戻り、一人ひとり軽く自己紹介をしてその日は終わった。