新しい街へ。
翌朝、鳥の声と共に空間テントから出て、上空へと飛び眼下に広がる大地を眺める。
背の高い草が生える草原、その先には地平線まで続く大きな森が広がっている。後方には、うっすらと海が見えた。
「タケル、ここって違う大陸かな?雰囲気が違うぞ」
『違う大陸だね。僕とは似てるけど、違う力を感じる』
「じゃあこの大陸の何処かに悪神の力があるんだな…でもどうやって探す?」
『ダンジョンで、力を引き寄せるアイテムを取るのが早いかな。泰人が持っていた絶望の宝珠みたいな』
タケルと出会ったダンジョンでは、絶望の宝珠がタケルを引き寄せた事により最下層で闘う事になった。ならばそれに近い事をすれば早い。
「ならダンジョン探すかぁ…そういえば…」
トトが収納から転移石を取り出す。
浮遊城と海底神殿というダンジョンに行ける物。
『これは行っても無駄かな。浮遊城は空だし、海底神殿は海…どちらも大陸の中には無い。暇潰しに行くなら良いけどね』
「そっかぁ…じゃあこの大陸で未到達ダンジョンを探せば良いか…となると街に行って情報を集めるか」
街が何処にあるか解らないが、森を抜ければありそうだ。早速SGドラゴンに乗り込み、森へと向かう。
「空飛ぶ乗り物は便利だなぁ…作って良かった」
『RPGなら後半の乗り物だねー。
この乗り物見て思ったんだけど…マジカルキュートウィッチ・Gリターンズのアニメで主人公が乗っていたドラゴンに似てるね』
「うおっ!良く解ったな…あんなマニアックなアニメ…というかタケルって何年生まれ?」
雑談しながら森を進む。かなり広い森…というかジャングルに見える。川の支流が幅広く枝分かれし、様々な魔物が居るのが解る。
『この森…クラス5がうようよ居るね…こんな場所中々無いよ』
「確かになぁー。人は絶対住めないな。魔の森とか言われてそう…あっ、でかいワニ…クラス6かな」
ダンジョンなら存在するが、広大にジャングルに低クラスが居らず、クラス5や6が多数居るのは珍しい。余程魔力が濃いか、手付かずの自然だからか、この大陸では普通なのかは解らない。
SGドラゴンには隠蔽機能があるので助かっているが、無かったら魔物が次々と襲って来そうだ。
同じ景色を数時間。やっと森の切れ目を発見。
「あれは…デカイ川?だな」
森の終わりには、幅が何キロもある川。川を隔てて草原や山が見える。
『あの川があるから、森の魔物が来ないのかな?結構澄んだ川だから、魔物が寄り付かないのかも。何らかの加護かな』
「ふーん。上手くやってるなー」
魔物との境界を作る。女神だとしたら上手くやっているなと思いながら、川の上を渡っていく。
川を抜けた先、砦の様な物が見える。
恐らく森を監視する物だと思うので、スルーしてそのまま進む。
「大きい街の方が良いかな?」
『そうだね。半端な街だと審査が厳しいから…一応冒険者や商業カードは出さない方が良いよ。犯罪者になっていそうだから』
「あっ、なるほど…追われるのは嫌だな」
もし、神敵として、トトが犯罪者登録されていたらたまった物では無い。
白いカードは一応身分証にはなるので、それを使って行こうと決めた。
しばらく飛び進めると、町や村がポツポツ現れ、街道を辿りながら進んで行くと、大きな街と城が見えた。
「おっ!あれは何処かの王都だな!あそこに行こう!」
『気をつけてね。逃げるのは簡単だけど、また女神が来ると大変だから』
「解ってるよ。一応鑑定結果はレベルがあるからな」
トト、タケル、呪怨砲の努力の末、バグを起こしていた偽装効果のある耳飾りは直った。
≪トハシ、武器師レベル072、強さ444≫
これなら問題無い。
近くに降り立ち、歩いて街を目指す。街を目指す馬車や、歩いている人は前と大差無い。
「大陸は違うけど、服装とかはそんなに変わらないんだなー」
『人が多い国なだけかもよ?獣人の国とかある筈だし…』
「とりあえず情報収集か…」
門に到着。やはりというか長い列。とりあえず一番前まで行き、何処に並ぶか調べてから一番後ろに並んだ。
(早く終わらないかなぁ)
時刻は昼。一時間ほど待ち、一般と書かれた門の前まで来た。
「身分証を。無ければ金貨一枚だ」
「はーい」
身分証を提示。その後に鑑定された。
「通って良いぞ」
「…どうも」
身分証は問題無かった様子。金貨は世界共通なのか知らないので、出さなかった。
門を抜け、街並みを眺める。建物の作りは全然違う。青白いレンガで積み上げられた建物が並ぶ。
(主流の建材なのかな?)
≪青レンガ、ランクC≫
(そのままか…とりあえず宿でも取るか)
少し歩き、宿屋と書かれた建物に到着。中に入って二泊分取り、お金を出す。幸いお金は世界共通だった様だ。
宿から出て、どうするか考える。情報を得るには冒険者ギルドか…と考えていると、目の前に少年が現れた。赤毛の12歳くらい、人懐っこい表情。
「兄ちゃん観光客か?銀貨二枚で案内するぜ!」
銀貨二枚なら持ち逃げされても問題無い。これ幸いと少年に案内を頼む事にした。
「じゃあ頼むよ。俺はトハシ」
「まいど!俺はノーレンだ!」
ノーレンと共に街を歩く。大通りを歩きながら、この街は王都ギアメルン。ギアメルン王国の首都と教えてくれる。
「ノーレン、大陸地図か周辺の地図が売ってる場所ある?」
「商業ギルドで買えるけど、大陸地図は高価だぞ」
「そうなのか。ありがとう」
一応ノーレンは普通に案内してくれる。
人気の無い路地裏に入っても、質問をちゃんと返してくれる。
ごろつきが居そうな道に入っても詳しい情報をくれる。
「おう、ノーレン。お疲れ様」
「待ってたぜぇ!」
目の前に居るごろつきの仲間であろうと、気まずい笑顔で接してくれた。
「悪いな、兄ちゃん…生きてたらまた会おう!」
「おー、またなー」
トトを置き去りにして全力ダッシュ。子供はたくましい。
ノーレンが逃げて行き、トトは袋小路で置き去りにされた。目の前にはごろつき二人、三人と増えていく。
「さぁ、命が惜しかったら有り金全部置いて行きな!」
「その強さじゃ逃げられねえぞ!」
「なぁ、ここって何大陸?」
「何言ってんだ?アヴァロ大陸に決まってんだろ?恐怖でいっちまったか?ガハハハ!」
「ありがとう_ヘッドショット」
ダダダダダ!_
衝撃を与える赤い弾丸をごろつき達の頭部に叩き込んだ。
次々と吹っ飛ぶごろつき達。
手加減しているので、頭が飛ぶ事は無いが気を失っている様子。
「うん、上出来」
『うわ…可哀想…』
「これは、優しい方だろ」
ごろつき達のおでこには、赤いウンコのマークが刻まれた。
そのまま、袋小路を出て路地裏を歩いているとノーレンを発見。首根っこを捕まえる。
「_っ!うわっ!えっ!?兄ちゃん!?」
「またなって言っただろ?さぁ、悪い子にはお仕置きだなー」
「えっ?それは勘弁して!ごめん!あいつらに脅されてたんだ!」
「そうは言っても有罪だねぇ」
「_ひぃっ!」
捕まるのは嫌だと懇願しているが、トト以外の者が引っ掛かったら危険だった事は確か。初犯なのか、常習犯なのか解らないが。
「心を入れ替えるから!もう悪い事しないから!」
「別に衛兵に突き出そうって訳じゃねえよ…とりあえず来い」
「…わかった」
しょんぼりする少年を連れて、宿屋に到着。部屋に入り、ノーレンを座らせた。
「まぁ、生きる為にやった事だけど、良い事では無いな」
「うん…解ってる。ごめんなさい」
トリスもトトが助けなかったら、こういう事をしていたのではないかと思う。少し重ねる物はあったが、同情する気は無い。
「まぁ良いさ。俺が欲しいのは情報だ。質問に答えてくれれば帰すよ」
「…本当?」
「ああ」
トトが手を貸せばこの少年は犯罪に手を染めず、全うに生きられるだろう。だが、お節介で更正させる気は無い。
ノーレンに聞きたい事を聞き終わり、宿の前で帰そうとするが、ノーレンは動かない。
「どうした?帰って良いんだぞー」
「……」
「何か言いたい事があるのか?」
「…俺、金がいるんだ。それで、早く稼げる方法って聞いて…兄ちゃんを罠に嵌めた…ごめん」
「まっ、あれじゃあ出会う大人を間違えたな。全うに頑張れ」
「…姉ちゃんが病気なんだ。だから見逃してくれてありがとう。地道に頑張る」
家族が病気だからと言って犯罪に手を染めてはいけないと思うのは、日本で育てば思う事。だが、この世界では弱肉強食。
(俺も、この世界で育ったら同じ事をするのかな…)
「何の病気なんだ?」
「…石化病…身体が動かなくなって死ぬ病気…薬は白金貨5枚だから…」
「他の家族は?」
「…俺と姉ちゃんだけ」
(独りは、辛いよな…)
「そうか、じゃあ行くか」
「えっ?行くって」
「ノーレンの家だよ。治せる病気なら治してやる。何かの縁だ」
剣から優しいねーと聞こえるが無視。困惑するノーレンを連れて、家まで向かう。