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流れの武器屋  作者: はぎま
魔物の大移動
98/163

気持ちを新たに。

 ______


 ____


 __



 真っ暗な場所。


 ガサガサと草が揺れ、虫の声が聞こえる。


 _ドンッ!


「_うがっ!…いってぇ」


 尻を打ち、呻く男…トトが辺りを見渡す。

 背の高い草が生い茂り、何処に居るか解らない。時刻は夜の様なので、闘っていた場所からかなり離れている事は解った。


「…上手くいったかな」


≪転移石、ランクA≫


 紫色の石を眺める。

 これは、以前ダンジョンでホークアイとミランダと共に開けた宝箱に入っていた物。

 何処に行くか解らなかったので、思考を読まれても大丈夫と判断した。

 ルナライトが追ってきている気配は無く、一か八かだったが成功した様だ。



「…にしても、負けちまったなぁ。強かったなぁ…ルナライトちゃん。

 目の前でルナライトちゃん人形をペロペロしてやりゃ良かったかな…いや、それをしたら瞬殺されてたな…」


 ドサッと仰向けに倒れ、空に浮かぶ二つの月を眺める。

 女神ルナライトと闘って、生きているだけでも凄い事なのだが、負けたくない闘いで負けたのは悔しかった。


『…泰人、僕の為に…ありがとう』


「…良いんだよ。一緒に日本に帰ろうぜ。……ん?どうした呪怨砲…強くなりたい?どうしたんだよ」


『呪怨砲は、悪神の混沌の力が欲しいんだってさ。泰人が泣くのは見たくないらしいよ?あっ、言っちゃ駄目だった?』


「…そもそも、呪怨砲が何者なのか知りたいけど……まぁ、そう言うなら取りに行くか。混沌の力…って何処にあるの?」



 女神大戦の物語の記憶を呼び起こす。

 アヴァロという大陸に、混沌の力が封印されていると書いてあった。

 トトが持っている古代武装…アヴァロンとアヴァロスに関係ありそうな名前だが、情報が何も無いので解らない。


「まぁ、地道に探すか…何処に居ようが、この世界で心配する人も居ないしなー」


『その事なんだけどさ…もしかしたら、トリスちゃんは記憶を消されていないかも…』


「え?ルナライトちゃんは全員消したみたいに言ってたけど…」


『トリスちゃんが着けていたイヤリングの効果が、合成属性無効だったし…それにあのウサウサの杖…僕と呪怨砲の力が入ってるから…魔法を弾いたかも…』


 以前トリスにあげた可愛いイヤリング…鑑定がよく解らなかった。それよりもウサギの杖の件は初耳だった。



「まじか……いや、あの杖…破壊と混沌が入ってるの?」


『いやぁ…トリスちゃん可愛いからつい…裏魔法さえ使わなければ普通の杖だから大丈夫だと思うよ』


「裏魔法?何それ?」


『破壊や混沌とか、基本属性以外の属性を持つ魔法だよ。

 破壊と混沌だったら…訳の解らない攻撃で、相手が砕け散るっていう……いや、ごめん…まじごめん』


 剣から謝罪の声が聞こえる。裏魔法を使わなければと言うが、トリス専用装備なので、トリスは裏魔法の使い方が解ってしまう。

 もう手遅れな気がした。



「じゃあ…トリスに会って確かめなきゃな…ところで…タケルって普通に喋ってるけど、大丈夫なの?」


『僕が剣に馴染んできたからね。封印も上手く使えるから、もう剣を抜いても狂気は出ないよ。でも力を解放すると女神に居場所がバレるかも』


「おー。そうかそうか。まぁしばらくは話し相手になっててくれれば良いよ」


『もう少し馴染んだら、死ぬ前の力くらい使えると思うよ』


「おっ!あれ強かったもんなー」


 虫の声が響き、夜の風が気持ちいい。

 だがこのまま寝ると、魔物に襲われそうなので結界石を設置し、空間テントを出してベッドに横になる。


『…泰人、呪怨砲が…女はこの世界に沢山居るから新しい女探せだって。引きずるなってさ』


「んな事言うなよ。未練がましい奴みたいじゃねえか」


『…実際は?』


「…まぁ、引きずりまくってるな」


 引きずらない訳が無い。

 あの敵意のこもった目…思い出すだけで辛い。

 忘れるとは違う、記憶の削除。もう戻らない気がしてならない。

 振り出しに戻っただけ…そう言い聞かせる。



「気持ちは切り替えないとなぁ……とりあえず、ルナライトちゃんへの嫌がらせは発動している筈だ」


『あー、あれね。今頃、怒ってるかな?』


「まぁ、あれは俺にしか治せないからな。勝ち逃げなんてさせねえよ」


『…また闘うんだね。泰人は、女神が憎い?』


「いや、解り合えないだけだ。どっちも意地があるからな。…まぁ…嫌いじゃない」




 こうして、ノール王国を襲った魔物の大移動が終わりを迎える。


 そして、女神が顕現し神敵を討ち滅ぼした事は、ミリアン大陸に大きく響いた。


 破壊の力を持った新たな魔王。その出現を未然に防いだルナライトには一層の信仰が集まる。






 ______






 天上と呼ばれる場所がある。


 悪神の本体が封印されたと言われる場所で、善神の女神が居る場所としても有名な場所。


 この世界の各所に存在する、遥か上空にある次元の裂け目から入れると言われているが、本当に入れたという記録は無い。


「優しい…か。む?…ヴェーチェ、来ていたのか」


「あらルナ、お帰りなさい。フラマから聞いたけど、慌てて下界に行ったんだって?どうだった?」



 天上には火、水、風、土、光闇の各属性を司る女神が居る。


 火のフラマフラム。

 水のアクアマリン。

 風のヴェーチェルネード。

 土のテラティエラ。

 光闇のルナライト。


 彼女達は普段別々の場所に居るのだが、一ヶ所だけ皆が集合出来る次元の裂け目がある。

 会話をする時は、その裂け目で集まる事にしていた。



「情けない話だが、逃がしてしまったよ」


「珍しいわね。ルナが失敗するなんて。どんな奴だったの?」


「不思議な奴だったよ。掴みどころが無くてな…つい、熱くなってしまった」


「ふーん…珍しいの。浮かない顔してるけど、なんかやらかしちゃった?」


「人の子らから…そいつの記憶を消した」


 話を聞いていた風の女神ヴェーチェルネードが、呆れた表情でルナライトを見る。

 対処として、間違ってはいないが、熱くなってやる様な事では無い。

 何かルナライトが熱くなる、原因があったのかもしれない。

 聞いても答えてくれなさそうだが。



「普通なら神託を入れて、時間をかけて行くのに…いきなり押し掛けたんでしょ?記憶まで消して…何してるのよもう…」


「すまぬ…」


 シュンとしているルナライト。ヴェーチェルネードは、これからどうするのか話したいが、とても気になっている事があった。


「ところでルナ…髪の間からチラチラ見えるんだけど…おデコに何て書いてあるの?」


「…デコがどうしたのだ?」


「いや、なんか文字?みたいの書いてあるけど」


 首を傾げたルナライトが、ハッとしながら鏡を取り出し自分のおデコを見る。

 赤い文字…日本語で『るならいと』と書かれていた。

 頭を五回撃たれた事を思い出し、ルナライトがプルプルと震えている。

 もし、人間達が見ていたとすると…教会にある自分の女神像のおデコには『るならいと』と書かれてしまう。

 それは凄く恥ずかしい…


「ふ、ふふ…必ず私が殲滅してやる…」



「あっ、怒った。ルナを怒らせる事が出来るなんて、凄い逸材ね…もしかして人形持ちだった?」


「…さぁな。…神敵になる奴が持っている訳があるまい」


「まぁ、そうね。あの子も厄介な呪い人形を作ったものねぇ…私達の手が届かないダンジョンに隠すし」


「…あぁ、この前、パジャマバージョンを回収して厳重に封印したのに…いつの間にか消えていた…」


「私も…下着バージョンが消えていたわ…しかもTバックよ…」


 女神達には悩みがあった。

 過去…女神大戦が起きる前に、悪神と呼ばれる者が心を込めて作った女神人形シリーズ。

 恥ずかしい格好とポーズ…そして、女神大戦中に女神達は悪神に、ある呪いを掛けられていた。


 女神達は自分の女神人形を探している。

 それにより、教会に人形を持ってきた人間には感謝し、加護を与える事にしていた。教会に持ってくるか、人形にいたずらしない限り人形がある場所も解らない高度な隠蔽仕様。



「フラマは以前…フラマ人形を四つ所持していた男に猛烈アタックしていたぞ…」


「…あれね。確か…別の女と結婚するからって言われて振られたんでしょ?

 振られたからって殺すなんて…まぁ、私も似た様な事をした事あるんだけどね……ねぇ、私達ってなんでこんなに嫉妬深いのかしら?」


 女神人形を持てば持つ程、その持ち主への愛が深まる呪い。

 愛し方は様々だが、共通しているのは、他の女の存在が許せない事。


 本来、女神達は恋愛をする事は無い。する必要が無いというべきか。

 恋愛という感情を悪神に植え付けられ、迷惑していた。



「それも呪いなのだろう。難儀な物だ…」


「でもルナは良いわよねぇ…人形が出る確率が一番低いから、複数所持なんて人間には無理だもの」


「まぁ、それは助かっている。私は一度も無いからな」




連投はこれで終わりです。

次回は新しい大陸での話になりますかね。

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