表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流れの武器屋  作者: はぎま
魔物の大移動
96/163

善なる神3

「……」


 記憶を消したというのは、本当の事だろう。魔法の欠片には、普通の人間には防げない力があった。


『…憎いか?もう、貴様を知る者は居ない』


「……」


 急に訪れた孤独。

 積み上げて来た物が崩れた様な、心にポッカリと穴が開いた様な、哀しい感情。


『…信じられぬなら…確認してきても良いぞ?』


「しねえよ。この魔法の効果は解ってる…威力もな。それに、確認したら泣いちまう」


 記憶から消えているのなら、トトに敵意を向ける事は解っている。未練を無くす…確かに誰も覚えていないなら、もう未練は無いと言いたいが…割り切れる物では無い。



『どの道…死ぬのだ。今の内に聞いてやるぞ。私に対する怒りや呪詛を…』


「……優しいんだな」


『……何を言っている』


「流石は善神と言われるだけある…記憶を消せば、俺が居なくなっても、俺が死んでも、誰も悲しまない。誰も辛くない…

 …一つ…聞いて良いか?」


『……ああ』


「…五百年くらい前、この大陸で似たような魔法は使ったか?記憶を操作する様な…」


『…私は使っていない』


 私は…という事はルナライトでは無い誰かが記憶の魔法を使った。それなら、五百年前に不壊の勇者が裏切られ処刑された原因は、その誰かという事。

 それだけ聞ければ充分だった。



「タケル、良かったな。みんなに裏切られた訳じゃねえってさ」

『……そっか……なんか複雑だけど…ありがとう』


「…さて、ルナライト。八つ当たりさせてくれ…封印解除・参式」


『私も…少し本気を出そう』


 トトの破壊神剣から、狂気が溢れ出す。

 ルナライトからは、光と闇の波動が溢れ、増大していく。


 ゴゴゴゴ_ゴゴゴゴ_


 明らかに、ルナライトの力が強い。次第にトトの顔が引きつって来た。


「…前言撤回。やっぱりルナライトの方が強いわ」

『激しく…同意だね』


『転移で逃げても無駄だぞ。瞬時に思考を読み取り、場所を特定する』



「それ、戦闘中も出来るのか?」


 ルナライトがニヤリと笑い、フッと消える。

 後ろに現れ、トトが後ろに剣を振るが空を斬り、


 ザシュッ_

 頭上からの攻撃。

 寸前で躱すがおでこを掠り、血が吹き出す。


「_くそっ、破壊衝撃」

 _ドンッ!

 周囲に衝撃を放つが、ルナライトは既に離れてこちらに手を向けていた。


『その身に刻め…禁術…』


 __周囲の音が消える。


 天空から現れた光の魔方陣。

 直径50メートルはありそうな魔方陣が、光を溜めながらトトの真上で待機している。

「…まじか」

 左手だけでは壊しきれない大きさ。浄化兵器を向けられたらこんな感覚なんだろうな…と無駄な思考が過る。

 直撃したら超高熱の光を浴びて命はまず無い。


『…ギガ・ホーリーレイ』


 __キュィィィイイ!


 巨大な光が降り注ぐ。

「あーくそ!武装!アヴァロン!破壊大砲撃!」

 白い光の鎧に武装しながら、破壊の斬撃を真上に飛ばす。


 斬撃を飛ばしたトトの背後…ルナライトがトトの背中に手を当てていた。


『レベルダウン』


 ガクン_

「…は?」

 武装アヴァロンの機能が低下、鎧が重くなりトトが膝を付く。


 ルナライトは素早く退避。

 腕を組み、トトを見据えていた。


 _ゴオォォォ!

 トトを中心にして、巨大な光のレーザーが大地を貫く。天災の光。


 熔けていく地面。

 下へ下へと光が進む。



 やがて光が晴れ、後に残るのは大きな穴。そこから出る大量の煙。


 まだ魔法の余波で土が熔け、ブクブクと沸騰する音が聞こえる。




『……力を込めすぎたか。それに…』


「はぁ…はぁ…はぁ…」


『逃げられてしまっては、ただの自然破壊か…』


 武装が解け、ボロボロの状態で座り込むトト。ディスクが持っていた円盤を手に持ち、ルナライトを睨み付けている。


≪旅する円盤、ランクS、攻撃1000、空間転移≫



「…流石は女神様…星を壊さない様に闘うんだな…なぁ、女神達の中で…ルナライトが一番強いのか?」


『ああ…そうだな』


「そうか…封印禁術・千手の鎖」


 ジャラジャラ!_

 ゆっくりと立ち上がったトトが封印禁術を発動。

 ルナライトの足に白黒の斑模様の鎖が絡み付く。

 同時にトトの足にも鎖が巻き付き、動きが制限された。



『…拘束した所で、貴様の攻撃は効かぬぞ』


「そうだな。でも、女神様は回復を待っちゃくれねえからな…」


 拘束をしたは良いが、策は無い。トトの攻撃は破壊の攻撃以外は余り効果が無いのは実証済み。

 とりあえず回復を施しているが、これからどうしたら良いか解らない状況。


 ルナライトは腕を組み、トトを見据えている。


「…回復は終わったけど…どうするかなぁ…ん?どうした呪怨砲…自分を使えって?

 _っ!破られる!」


 バキンッ!バキンッ!_

『難儀な物だな…』

 ルナライトの力が上昇…どんどん鎖が千切れていく。


「あぁくそ!仕方ねえ!呪怨砲!頑張れ!」


 呪怨砲を取り出し、ルナライト目掛けて引き金を引く。


 ドオオォォ!_オオォォォ!_イヤァァァ!_タスケテェェェ!_ハァハァオジョウチャンアイタカッタヨ!_ヨオォォォ!_イタイヨォォ!_ダメェェェェ!_オジサントイッショニイコ…テンゴク…イコ_ゴオォォォ!_ニクイニクイニクイ!_イヤァァァ!


『_なんだと!これは!ぐあぁぁぁぁ!』


「おー?効いてる?」


 どす黒い砲撃を受け、ルナライトが苦しんでいる。

 バキンッ!_

 最後の鎖を千切り、息切れしながら膝を付いて、胸を抑えていた。


『あぐ!うあ…混沌の…力だと…』


「え?呪怨砲、お前混沌の力持ってるの?死属性だったよな?何?我輩の真の力を解放する時が来た様だ?そのキャラ恥ずかしいからやめて」


『はぁ、はぁ、だが…何故、奴の気を感じない…』


「これは俺が作ったからな。なんだよ、今までずっと監視してた訳じゃねえのか?」


『_っ!作っただと!……貴様の能力か』


 破壊の力を感じ、顕現したルナライトは、今までのトトを見てこなかったのだろう。

 驚きに銀色の瞳が開かれ、キッとトトを睨む。



「秘密…って言っても駄目か。素材さえあれば、どんな武器でも作れる能力だよ」


『それは…人が持って良い力では無い…』


「そんな事言われても持ってんだから良いだろ。っともう1発行くかー…と言いたい所だけど…」



 _ガガガガ!


 トト目掛けて氷の塊が飛んできた。難なく躱し、飛んできた方向を見る。

 想像通りの人物に、胸が締め付けられた。


「ルナライト様、余計な手出しをお許し下さい。無礼を承知で…私にも、神敵を倒す手伝いをさせて下さい」


「…アイリスさん…みんな…」


 アイリスが白い杖をトトに向けている。その目は冷えきった氷の眼差し。

 見たくなかった光景だった。

 アイリスの後ろには、ニグレット、ミランダ、リンダ、ホークアイの姿。


「神敵を我らが滅します」

「神敵…斬る」

「女神様!こいつは私が…」

「私が勇者として、神敵を討伐してみせます」


 視界に、涙があふれてくるのが解る。トリスは居なかった事だけが、救いだった。



『いや、助けはいらない。私が仕留める。下がってくれ』


「…承知致しました」


『…すまぬな』


 まだ満足に回復していないルナライトだが、アイリス達を下がらせ槍をトトに向ける。



『…終わらそう』


「…みんな、敵か…タケル、お前の気持ちがよく解るよ」


 この世界は、俺達に厳しいな…空を見上げるトトの目から涙がこぼれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ