善なる神1
なんとか書けました…
女神ルナライト…光と闇の属性を司る善神と呼ばれる女神。
他の火、風、水、土の属性などの女神の中で、最高位の力を持ち、信仰数が一番多い女神でもある。
光と闇は白と黒。審判の神、婚姻の神、祝福の神など様々な場面で祈りを捧げられ、多方面で活躍する女神。
女神は信仰のある教会において、顕現する事はある。
だが実体を持たず、姿を見せるか声を届けるのみ。
その女神がトトの前で武器を構えている。
過去にそんな記録は無い。
女神が直接手を下す…神罰。
雷が墜ちたり、津波にさらわれたりと、人に対して起きた神罰や天罰と呼んでいる物はある…これは人間が勝手に呼んだ物だが…
それでも、女神が一人の人間に武器を向けるなんて事は無かった。人知れず、魔物に武器を向ける事はあったが…
銀色の髪から覗く銀色の双眼。黒い刺繍の入った白いドレス。少し身体が浮き、全体が淡く発光している。
一目で女神と解る神々しいオーラ。
真っ白い槍を持つ凛々しい姿は、全ての人を魅了する。教会にある女神像など比べ物にならない美しさ。
「……」
『異物よ、私が来る理由は解るな?』
「…ああ、痛いほどに解るよ」
『ならば、破壊の力を捨てよ。そして全ての力を私に捧げよ。さすれば命は助けてやろうぞ?』
破壊の力を捨てれば、闘わずに済む。
そう思うほどに、分が悪い闘い。
破壊の力と聞き、周りからは動揺する声が聞こえる。禁忌の力を手にしたのなら、神罰を受ける罪。手離さなければ、確実に女神が手を下すから。
「……」
『…聞けぬのか?…では……人の子らよ、面を上げよ。楽にしていいぞ』
頭を下げ、跪いていた者達が顔を上げていく。
その表情は困惑と、トトに向ける敵意の視線が混ざる。
女神が刃を向ける、禁忌の力を持つ者…それは、完全なる神敵。ならば自分達の敵であると思うのは当然の事だった。
「トト、その力を捨ててくれ…君には生きて貰いたい」
「トハシ…お願い!力を捨てても私が守るから!」
「……」
ホークアイとリンダが、トトに力を捨てろと説得する。トトは黙ったまま、二人を見てルナライトに視線を戻す。
「トトさん、力を捨てて下さい。また…冒険しましょうよ」
「トト、もう逃げられない。早く力を捨てるんだ」
「……」
ミランダとニグレットも説得する。トトは二人を見て少し目を閉じ、また視線をルナライトに戻す。
『…そこの娘は何か言わぬのか?』
トトの隣に居るアイリスに、ルナライトが問う。
「私は…トトの判断に任せます」
「…アイリスさん」
『ほう……異物よ。では…私が、祝福の加護をしてやる。幸せになりたいであろう?』
「……幸せにはなりたいさ」
勿論幸せにはなりたい。自分を好きだと言ってくれる人…みんなと楽しく過ごせるなら、どんなに幸せか。
女神が祝福してくれるなら、生涯幸せが約束されたもの…
「…ルナライト、この破壊の力をどうするつもりなんだ?」
『地下深くに封印する。もう二度と誰かの手に渡らぬ様にな』
「そうか…」
トトが破壊神剣を持ち、ルナライトに歩み寄る。
それを見たルナライトがフッと笑う。闘わずに済むのなら、それに越した事は無いのだから。
「………みんな、ごめんな。俺、ルナライトと闘う。アイリスさん…ごめん…」
「…トト」
「トト!なんでだ!闘っちゃいけない!」
「駄目!人は絶対に勝てないんだよ!」
『それが答えか。何故、己の未来を捨てる?』
幸せを捨ててまで、闘う理由などある訳が無い。
命をドブに捨てる様な物。
人は神には勝てない。
だからこそ、ルナライトにはトトが何故闘うか解らない。
「俺だって一人の人間だ…幸せにはなりたいさ。でも、俺はこの剣を…タケルを独りには出来ない」
『何を言っている?破壊の力を?』
「地下深く?ふざけんな…また独りになっちまうじゃねえか。そんな事は、俺がさせねえ」
『破壊の力を持て余しておいて良く言う…』
ルナライトの目が細められ、手に持つ十字槍が輝き出した。
「それでも…俺はタケルを故郷に帰してやりてえんだ…友達を見捨てて幸せになんかなりたくねえ!」
『残念だ…』
交渉決裂。
ルナライトが目を閉じ、力を解放していく。
ビリビリと、足が竦んでしまいそうな程に響いてくる力の波動。
破壊神剣を使わなければ、まともに闘えない。
「あー…やべぇな…タケル、起きてんだろ。一緒に闘うぞ」
『…泰人、君は本当にバカだね』
「はははっ、お前に言われたくねえよ」
『…だね。本気…出して良いよ。僕が破壊の狂気を抑えるから』
トトが破壊神剣を抜く。
狂気は発生せず、周りに影響は無かった。
「さぁ、やるかぁー相棒!地球人の意地を見せてやろうぜ!」