魔物の大移動。終局。
西の地点。
そこでは、白い光が溢れ周囲を照らしている。その中心には白いドレスを身に纏ったアイリスが、真っ白い杖を掲げている。
ゆっくりと、白い雪が降っていた。
「本当に…凄いな…この力…」
「……綺麗だなぁ」
(……おっと、アイリスさんに見惚れている場合じゃないな。他の兵士を助けないと)
トトは急いで兵士を集めて回復を施していく。その間、転移核獣・ディスクはアイリスの方向を見ていた。
そして、ゆっくりとアイリスに近付いて来る。
『ヨワイ、ヨワイ?』
「ああ…弱い。私は弱い存在だ。だが、大切な人の為なら強くなれる……凍れ」
ピキピキパキピキ_
ディスクが居た所が凍りつく。その前にディスクは転移し、視界から消え、
『ヨワイ』
後ろに現れたディスクがアイリスに円盤をぶつける。
ガキンッ!_
一瞬で発生した氷の壁に阻まれた。
「私にお前の攻撃は効かない。細雪」
アイリスが杖を振るう。細かい雪が一帯に降り注いだ。触れても冷たくは無く、暖かく包まれる様に溶けていく。
だがディスクに雪が触れると、
ジュッ_
身体を少し溶かす。敵のみに効果がある範囲攻撃。
転移を続けるが、どこに行っても雪があり、身体が溶けていく。
『イタイ、イタイ』
「もう、逃げられない。雪嵐」
ヒョォォォォ!_
吹雪が巻き起こり、ディスクを包み込む。徐々に溶けていく身体。
『ケシトベ…』
ディスクが魔力を溜めて行く。
「ん?あれは、やばい!」
不穏な魔力にトトがディスクに向かって駆ける。破壊神剣を取り出し、
『フル・テレポー…_「能力破壊!」
一瞬だけ神剣を抜き一突き。直ぐに神剣を収め、離脱。
「…トト…今、何か…」
「…アイリスさん、決めて良いぞー」
「…ありがとう。終雪」
吹雪が収縮。ディスクを包み込む雪の柱となる。
『アガ…ガガ…ツヨ…イ?』
雪の柱に埋まり、溶けていく身体。
雪に消えて行くディスクは、少し切なそうに映った。
「……」
雪が止み、後に残るのはディスクの残骸と核らしき物…紫色の玉と円盤が転がっていた。
「流石アイリスさん。簡単に武装を使いこなしちゃってまぁ…」
兵士の回復を終えたトトが武装を解き、アイリスに歩み寄る。
クラス8を簡単に葬り去る魔法の才能に、やっぱり天才は違うなぁ…と呟いた。
「トト、ありがとう。礼をしなければいけないな」
「礼なんていらないよ。もう貰ってるさ」
トトが以前アイリスから貰った氷の御守りを見せる。半分焦げて使い物にならない御守り。
「ダンジョンでこれに助けられたからさ。でも焦げちゃった…ごめん」
「トトが無事ならそれで良い。もう1つあるから、交換させて欲しい」
「いや、いいよ。……何?駄目?…解った。交換宜しく」
焦げた氷の御守りをアイリスに渡し、何か言いたげなアイリスと見詰め合う。
「これじゃあ、お礼は足りない」
「足りないって言われても…あっ、じゃああの魔物頂戴!転移の魔物欲しかったんだ!」
「…うん」
トトがディスクだった物の所へ行き、紫色の玉と円盤を回収。
これでお礼は終わりだなー…と遠くから走って来ている集団を眺めていると、武装を解除したアイリスがまだ何か言いたげだった。
「あれは、ニグさん達?終わったのか…アイリスさんどうしたの?」
「まだ、礼は足りないと思わないか?」
「いやいや、あの魔物を貰えただけで、貰いすぎだよ」
「私を貰って欲しい」
「…へ?」
何言ってるの?と言おうとしたが、アイリスの目は真剣だった。遠くから_「…トさーん!」_トリスの呼ぶ声が聞こえるが、構わずアイリスとトトは見詰め合う。
アイリスの髪が空の白く輝く光に照らされて、幻想的な美しさを醸し出している。
返事が欲しいとアイリスの瞳が揺れていた。
「俺は…」
「トトさん!逃げてぇぇぇぇぇ!」
「_えっ?」
アイリスへの返事を言う事無く、トトが声の主…トリスの方向を見ると、力が抜けて倒れているトリスの姿。
「_えっ?はっ?トリス!?_っ!」
倒れているトリスに向かおうした時、
キィィイイイイ!_
トトとトリス達の間に、光の柱が発生した。
天まで届く輝く光。
高密度のエネルギーがジリジリと肌を焼くほどに、圧倒的な力を感じた。
『…やっと来れたな…聖女のレベルを使わねば、まともに力を発揮出来ぬとは…制約とは難儀な物だ……ああ、解っている。時間は守るさ』
光の柱が晴れた先、キラキラと輝く輪郭を持った人影。
銀色の髪を靡かせ、鼻筋の通ったキリッとした目を持つ女性の姿。
同じ髪の色を持つアイリスと似た、美しい女性だった。
「…あれ、どこかで見た事が…あれ?なんでみんな跪いているの?」
トトが周りを見ると、ニグレット達は勿論、起き上がった兵士達も全員跪いて女性に頭を下げている。
『破壊の力…貴様か』
そして、その女性はトトを真っ直ぐ見据えていた。
もう嫌な予感しか無い。全員が跪く存在など、心当たりは一つしかなかった。
「…なんでしょうか…どちら様で?」
『無知なる異物よ…まぁいい。私は、善神と呼ばれている存在だ』
「……ああ…もしかして…ルナライトちゃん?」
善神と名乗った女性…ルナライトがフッと笑い、片手を天に掲げ真っ白い槍を出現させた。
そして、その手に取った真っ白い十字槍をトトに向ける。
『異物よ…貴様は、強くなりすぎた』