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流れの武器屋  作者: はぎま
ニーソの街
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おっさんの正体

「こちらです。オーク料理が名物なんですよ」


「へぇーそうなんですか。路地裏にはあまり行かないので、お店とか分からないんですよ」


 路地裏の奥まった場所にある食堂。趣きのある木造の家に見える。


「いらっしゃい。あっツールさん」

「奥の個室は空いてますか?」


「ええ、どうぞ」


(ツールって名前なのか。てっぺんハゲだから…トップ・ツール?ザビエル・ツール?)


 店員に案内され、奥の個室に二人で入る。そこまで広くは無く、4人が座れる椅子がありテーブルは大きめ。対面に座った。


「ご注文は?」

「じゃあオーク定食2つ」


「かしこまりました」


 店員が去り、扉が閉まる。トトとおっさんの二人きりになった。



「トトさん、お付き合い頂きありがとうございます。あっ申し遅れました。私、デコ・ツールと名乗っております」


「(デコだと!)どうもツールさん。名乗っているって事は本名では無いんですかね?」


「そうですねぇ。本名は少し有名でして…」


「へぇー。ってことは、高ランク冒険者とか内部調査員とかギルドマスターとか執行員とかですか?ってそんな事、聞いちゃ不味いですね」



 はははっ、と冗談混じりに雑談に華を咲かそうとするが、ツールは「…ふむ」少し真剣な表情でトトを見据える。


(あれ?当たったの?)


「ふふっ、当てられたのは初めてなので動揺してしまいました。トトさんこそ何者なんです?レベルが無いのにフォレストオークをソロで討伐出来るなんて聞いた事ありませんよ?」


「…俺は武器師って名前の通り、少し武器が扱える程度ですよ?ただの一般人です」


「ふふっ、そうですか。綺麗な斬り口でしたねぇ」

「はははっ」


「「……」」

(なんだこの圧迫面接)



 探る様に薄く笑うツールに寒気を感じながら、話を流して行く。


 コンコン。「お待たせしました。オーク定食です」


 その時、店員が料理を運んで来た。途端にツールの雰囲気が柔らかくなる。


 気まずい空気を壊してくれた店員さんに、感謝をしつつオーク定食を見ると、木のお皿に乗った大きなステーキ。サラダにパンが別添えで乗せられた香ばしい匂いの美味しそうな一品。



「さっ、食べましょうか」

「はい、…美味しいですね。シンプルながら臭みも無いし」


「でしょ?こちらのステーキソースを掛けると更に美味しいですよ?」



 ソースを掛けると、ご飯が欲しくなるこってりとした味わいに。オイスターソースの様な味わいにトトは満足した。夢中で食べ進め、ペロリと平らげる。



「いや、こんなに美味しいとは思いませんでした」

「ふふっ、それは良かったです。ところで、トトさんはずっとこの街にいらっしゃるのですか?」


「いえ、お金が少し貯まったら違う街に行ってみようかなと思います」



 色々な素材を得るなら、旅をした方が良いと判断している。幸い収納は沢山あるのでなんとかなると思っていた。



「そうですか…(面白そうな人材だから良いかな?)では、私と一緒に王都に行きませんか?もうこちらでの仕事が終わって、来週王都に戻るんですよ」


「え?そうなんですか?(内部調査かな?)…王都ですか」


「ええ、トトさんは冒険者には珍しく丁寧な仕事ですから、王都の方が稼げますよ。それにここはトトさんに取っては良い環境では無さそうですし」


「まぁ、薬草野郎とか言われてますからねぇ」


「そうですねぇ。それに、ここは初心者に対する受付でのピンはねが多いんですよ」


「ピンはねって事は、報酬が規定よりも少ないのは受付嬢が着服しているんですか?」



 日本なら横領で捕まる行為。トトは受付嬢の評価を数段階下げる。


「そうですねぇ。別に犯罪では無いんですよ。手数料やチップという形で手元に入れる事が出来ますから。それで彼女達は稼いでいますし。問題は比率ですね…ピンはねして良いのは、報酬の3割以内なんですよねぇ」


「という事は、この前の、薬草の報酬が規定の半分だったのは駄目って事ですね?」


「ええ、そうなります。もちろん質の悪い薬草の場合は半分以下の報酬になりますが、トトさんの薬草は規定以上の価値があります。それを半額というのはやり過ぎなんですよ」



 それならツールが居なくなると生活に困る。その判断をするのに時間は掛からなかった。



「それなら、王都に行った方が良いですかね。因みに受付嬢に罰則はあるんですか?」


「ええ、もちろん」



 にやりと笑うツールに、背筋がゾワッとする。敵に回すとヤバい。そう感じさせる雰囲気。



「そ、そうですか。王都はどれくらいの距離なんですか?」


「馬車で1週間ですよ。護衛という形で依頼しますので、明日受けておいて下さいね」


「はい、分かりました(悪い人では無さそうだけど…まぁ何かの縁だ)役に立たないかもしれませんが宜しくお願いします」


「大丈夫ですよ。大した魔物は出ませんし、食事などの旅費はこちらで負担しますから…それに、ああそうだ」



 ツールは耳に着けていたピアスを外す。「_えっ!?」すると顔が変わり、頭もフサフサになる。金髪で鼻筋のよく通った、トトと同じくらいの歳の美青年がそこに居た。


 ツールの雰囲気とは正反対の鷹の様な鋭さを持った目をトトに向けて、いたずらが成功した様にふふっと笑っていた。



「顔が…ツール…さん?」


「ええ、驚かれましたか?こちらの顔が本当の私ですよ。改めまして、ホークアイと申します」


「あっ、はい、どうも…(うわーイケメンだー!)でも良いんですか?よく知らない俺なんかに正体をバラして」


「良いんですよ。もうギルドの調査は終わりましたし、トトさんは面白そうなのでバラしても構わないかなと判断しました」


「あっなんかありがとうございます?(俺も正体を言えって事か?でもただの転移者だから正体もなにも無いか…)…えーっと…」


「ふふっ、良いんですよ。無理して言わなくても。まぁ言いたくなったら言って下さい」


「…はい」



 自分だけ言わないのも悪いなと思うが、そういう作戦なのかと少し疑ってみる。だが、爽やかに笑うイケメンが眩し過ぎて、自分の心が汚いだけなんじゃないかと自己嫌悪に陥っていく。


 ホークアイは再びピアスをして冴えないおっさんのツールに戻り、「それじゃあ出ましょうか。奢りますよ」銀貨二枚を店員に渡し、二人で店を出た。



「ツールさん。ごちそうさまでした」

「いえいえ、良いんですよ。王都にスカウトするのも私の仕事ですし」


「そうなんですか?でもランクはDになったら上げませんよ?」


「それは構いませんよ。では、仕事がありますので」


「はい、そういえば会計やら原価計算やら税金の書類が沢山ありましたね。頑張って下さい」


「…ふふっ、そんなの見て分かるのは高度な教育を受けていないと分かりませんよ?興味深い人ですねぇ(来週が楽しみだ)」


「あっ、気を付けます…(そうか、言動には気を付けないとボロが出る)」



 大通りで別れ、ツールはギルドへ、トトは見送った後に武器屋へ行きクズ武器を10本購入して宿屋へ戻った。



「なんかどっと疲れたな…ホークアイって有名なのか。誰かに聞いてみようかな、でも聞ける友達も居ないから本人に聞いてみよ。っと明日は…オーク狩りかな?」



 王都への期待を胸に、明日は朝から稼ぐぞと気合いを入れ、そのまま眠りに付いた。

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