魔物の大移動。第一波。
時は少し戻り、
魔物の大移動に備える王都ノール。
王都の北、北西、西、南西、南には王国軍、傭兵、冒険者が配備されていた。
北。冒険者ギルドマスターのゴドム・ハンサ率いる冒険者中心の軍。
北西。騎士団長ジーラス・ヒート率いる騎士団、魔法士団の軍。
西。王国軍、傭兵、冒険者の精鋭が集まる軍。
南西。魔法士団長アイリス・フォート率いる魔法士団、騎士団の軍。
南。中立管理官ニグレット率いる寄せ集めの集団。
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「来るか…予定よりも早いな」
「あれが本前兆ですか?」
「ああ、あの黒い渦から魔物がわらわら出てくるぞ」
遠方に見える黒い渦の様に見える魔力溜まり。
ここから魔物が発生する。原因は未だに解明されていない災害。黒い渦の中から出てくるので、その場で魔物が作られるのか、何処からか転移してくるのか。
過去に、あの中へ入った者も居た。そのまま吸い込まれ、強力な魔物が発生したという記録もある。原理も解らない。
この黒い渦を攻撃すると事態が悪化する。黒い渦の魔力が活性化し、魔物のクラスが跳ね上がる。これにより消えた街も少くない。
その為、攻撃も出来ず、魔物を倒していくしかない。
「なんか、移動してませんか?」
「ああ、大移動の厄介な所は魔力溜まりが移動する。魔物の大移動と呼ばれる由縁だ」
少しずつ移動する魔力溜まりの黒い渦。
しかも、この黒い渦は複数発生し、魔物を出したら渦同士が引き合う。
そして、それが合体していく。結果は黒い渦が大きくなるという、なんとも残念な事態に発展する。
だから、終わるまで黒い渦を追わなければいけない。
「最初の魔物は弱い。温存しながら行くぞ」
「はい!」
やがて、各箇所に黒い渦が発生。
魔物が溢れてきた。
第一波と呼ばれる最初の大移動。
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王都の北。
鉱山の街を背に、冒険者中心の軍は発生した魔物と戦っていた。
「お前らぁ!冒険者の意地見せてやるぞぉ!」
「「「おおぉぉぉ!」」」
魔物はクラス1のゴブリンやクラス2のオークが中心。強くてもクラス3。弱い魔物だが、数は千を超える。
千という数字は正直少ない方。
「俺が先陣を切るぜぇ!」
ギルドマスター、ゴドム・ハンサが一人で突っ込む。
太陽に照らされたスキンヘッドと、露出の多いシャツから見える見せつける様な筋肉。
お祭りを前にした子供の様な笑顔で腕をブンブン回す。
両手に嵌まった魔武器ギガース・グローブが輝いた。
「はっはっはー!行くぞぉ!巨人の鉄拳!」
ギガース・グローブが巨大化。10メートルを超える拳を魔物に叩き付ける。
ドゴォォン!_
宙を舞う魔物達。地面にクレーターが出来る衝撃を次々と繰り出していく。
ドゴォォン!_ドゴォォン!_
出遅れた冒険者達…
「もう…これ…ギルマスが全部やっちまうんじゃね?」
「ああ…もう半分くらい潰してる…」
王都冒険者ギルドマスター、ゴドム・ハンサ。元Sランク冒険者。異名は悪鬼、大鉄拳、粉砕のハゲ等数多く存在する…生ける伝説。
五十歳を過ぎても尚衰えない身のこなし、パワー。
冒険者達はほとんど何も出来ず、第一波の大移動が収まっていく。
「「「……」」」
「よーし!黒い渦は西の方に移動した!元気な奴は第二波に参加するぞ!付いてこぉい!」
北側の冒険者達は、守りの陣営を残し、西へ向かう。
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王都の南側、ニグレット率いる寄せ集めの集団。
そこでは、既に第一波は終わっていた。
「ねぇ、ニグお姉ちゃん」
「どうした?トリス」
「私達いらないよね」
「まぁ、西に向かったら出番あるんじゃないか?」
「次は私やりたい!」
待機していた陣営で、ニグレットとトリスは仲良く座って前方を眺めている。トリスは王都に居る方が危険なので、連れて来ていた。
寄せ集めの集団。100人も居ない。決して人選に手を抜いている訳では無い。
戦力が異常に強いからだ。
主なメンバーは、ニグレット、トリス、ミランダ。
「終わりましたよ。ニグレット隊長さん」
「お疲れ様。ミランダちゃん」
星剣・メティオールブレイドを持つミランダが振り返り、ニグレットの元へ行く。
ミランダの背後、魔物が発生していた場所。
大災害が起きたかの様に地形が変わり、大量のクレーターが存在していた。
「すごいなー、その剣の能力。隕石群出せるなんて」
「ですよねぇ…トトさん、なんて物をくれやがったんですよほんと…これじゃあ私、変な二つ名付きそうです…」
隕石を墜とす。単純だが強力な攻撃。
女子三人で引いたくじ引きで、当たりを引いたミランダが一人で第一波を収めていた。
ニグレットとミランダは、予行演習の際、力を示していた。反応は予想通りの反応だったが。
そして、今居る周囲の反応は当然、唖然としていた。気にする事なくニグレット、トリス、ミランダは黒い渦を追う為に西を目指す。
「はいはーい!次私やるー!」
「トリスちゃん、遊びに来たんじゃないんだよ」
「まぁ良いんじゃないか?そういや、トトは居ないのか?」
「なんか帝国に行ってクソイケメン殴って来るって言ってたよ?多分そろそろ来る予感だけど…」
各箇所で、第一波は収束を迎えていく。
次は、第二波の大移動。北西、西、南西の地点で起きようとしていた。