王都へ。
「うーん…」
「トハシ、どうしたの?」
「いや、一度ノール王国に行こうと思うんですけど…やり残した事は無いかなって」
「…行っちゃだめよ」
「ん?リンダさんも行くんですよ」
「…ん?」
リンダが首を傾げて見詰めてくる。
リンダは血が元で遅老の薬が出回っていた事実があるので、金儲けを企む者から狙われたり、損害を受けたラティール家からの逆恨みも可能性はゼロではない。
「ルーアさんはどうするんですか?」
「トハーシさんが養ってくれるなら行きますよ」
「行かないって事ですね」
「……はっ!」
リンダが気付いた。ニヤニヤを隠そうとして変顔になっている。
「お嬢様、ブス寄りのお嬢様になっていますよ」
「それは言わなくて良いわ。ルーア、今までありがとうね」
「ふふっ、こちらこそありがとうございました。でも、また一緒に暮らせますよ。ねぇトハーシさん?」
「はははっ、そうですね。頑張りますよ」
トトとルーアが笑い合い、リンダがなになに?と聞いて来るが、ルーアは秘密ですと言うだけ。
ルーアはこの家に残る。
危険があろうとも、この家を守りたいという意志がある。
それは尊重したい。でも、危険があるかもしれないのは確か。
「ルーアさん。これ、御守りです」
「ありがとうございます。…なんですかこれ?腕輪?」
≪召喚具ナイトオーガ、ランクS、ナイトオーガ召喚≫
オーガヘルム、オーガアーマー、オーガガントレット、オーガグリーブ、氷の巨人の魔石、魔銀結晶を合成した召喚武器。
「魔力を通しておけば、危険が迫った時に自動で、まぁまぁ強いナイトオーガが召喚されます。まぁ、気休めですがどうぞ」
「おー、ありがとうございます!少し不安だったんですよ!」
早速腕に嵌めて魔力を通す。まぁまぁ強いというか、クラス6の強さ15000を超えるナイトオーガなので、かなり強い。
喜んでいるルーアを見て、物欲しそうにリンダが見詰めてきた。
「…そういえば、リンダさんって魔武器持ちでしたよね。持っていきます?」
「…いらないわ。元々帝国の魔武器を借りてる様なものだから」
「ちょっと見せて貰って良いですか?」
≪紅の炎杖、ランクA+、魔力攻撃1950、魔力上昇・赤色属性強化・炎舞≫
性能は良い。同じ様な物は作れるが、材料が足りない。赤色属性の物は爆斧・煉獄竜に合成してしまっているから。
「うーん…リンダさんって他に何色の属性がありますか?」
「私は赤、青、緑、黄色よ」
「おー、天才ですねー」
「…もっと褒めて」
赤、青、緑、黄はかなり凄い。反対属性を二種類持っている時点で、努力では補えない才能がある。
とりあえず良い武器が出来るまで、細身の剣の雷光剣を渡しておく。
「とりあえず、何か良い物手に入るまで…これで我慢して下さいね」
≪雷光剣・プラズマライザー、ランクS+、雷迅レベル100、攻撃2600、魔力攻撃2600、雷魔法・雷技・雷化≫
「…魔武器よね?」
「ええ、魔武器ですね」
「…いくつ持ってるの?」
「10は超えていたと思います」
「…」
「お嬢様…玉の輿ですよ」
「ルーア、黙って」
ルーアとはここで別れる。
リンダとルーア別れを惜しむ様に抱き合い、ムンゾ家を出て帝都の外へ歩いて向かう。
「ちょっとホークに連絡しますね」
「良いわよ」
『トト?どうしたの?』
「これから王都に帰るわー」
『あっ、中立連合の手続き終わったから私も行くよ!今どこ?』
「あー、じゃあ南門出た所で待ち合わせなー」
ホークアイとの通信を終え、南門へ向かう。
「…あっ」
「どうしたの?」
「あーいや、王国に行く為の乗り物が、2人乗りなんですよ…アホークも乗るってなったらどうしようかなーって」
SGドラゴンは2人乗り。
(入れなかったらホークをドラゴンの手で掴めば良いか)
「ふーん、どんな乗り物?」
「この世界には無い乗り物ですよ。お楽しみに」
「楽しみね」
南門から出て、ホークアイを待つ。しばらく待っていると、ホークアイがやって来た。
「お待たせー」
「おう、待ったぞ。ちょっと移動するか」
人気の無い所まで三人で移動。辺りを見渡し、人が居ない事を確認。
収納からSGドラゴンを出した。
「_ひゃぁ!」
「う…わ…何これ…」
3対の翼を広げる10メートルの白銀ドラゴン。驚くのは仕方無いので、背中のハッチを開けて手招き。
フラフラとリンダとホークアイがやって来る。
「とまぁ…空を翔ぶ乗り物を作ったんだけどさ、2人乗りなんだよね」
「……作った?」
「そうそう。前の席は広いからなんとかなるか…ちょっと狭いけど」
「ちょっと頭が追い付かない…」
「私も…」
「はーい、じゃあ乗って乗って」
縦に並んだ席の後ろにホークアイを押し込み、前の席にトトとリンダが座る。
トトの前にリンダがすっぽり入っているので、後ろから抱き締めている様な形。
リンダはいつもの通りの反応なので、前方のモニターを映して飛び立たせる。
「トト…こんな物を作って、君は戦争でもするのかい?」
「んな訳ねえだろ。馬車の旅にトラウマがあるから作っただけだ」
三人は雑談しながら、呑気に目指す。
現在、魔物の大移動が発生している王都へ。