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流れの武器屋  作者: はぎま
ロドニア帝国
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帰る方法。

「はっはっはー!聖烈破斬!」

「やるな!夜叉断!」

 ギンッ!_

 光の剣技と青夜叉の剣技がぶつかり、朝焼けの帝都を照らしていく。


 白騎士と黒騎士は、それはもう楽しそうに闘っていた。



「…トハシ、何やってるのよ…」


 騒ぎを聞き付けたリンダも眺めている。リンダの場合、黒騎士がトトでは無いと直ぐに気付いたのだが、それを誰かに言う事も出来ずにとりあえず眺めているだけの状況。

 まぁ観戦する分には楽しいので、傍観者に徹していた。



 しばらく撃ち合っていた白騎士が、城のてっぺんに降り立ち黒騎士を見下ろす。

 これで終わりと言う様に、救世剣を空に向かって掲げた。


 黒騎士も力を溜める様に構えている。


 固唾を飲んで見詰める人々の中で、両者が動く。


「来い…黒騎士よ」

「…羅刹」


 黒騎士が飛び上がり、体当たりをする様に突進。


 ギンッ!_


 鍔迫り合いのまま、白騎士を押していく。

 城を越え、中央区を越え、やがて帝都を越えた。


 帝都の外で拳を合わせるトトとホークアイ。


 キイィィィン!


「ありがとなー、ホーク」

「どういたしまして。じゃあ私はこっそり帰るかな」


 キイィィィン!_

 誰も居ない帝都の外で、トトは浄化兵器を空に向けて構える。

 武装を解除したホークアイからアヴァロスを受けとった。


「あっ、聖竜剣もやるよ。今日の俺はご機嫌だからな」

「ほんと!?ありがとう!」


 ホークアイもご機嫌に帝都へとこそこそ戻って行く。

 それを見届けたトトはアヴァロンを解除。


「最後はド派手に打ち上げよう。ポチッとな」

 浄化兵器のボタンをポチッと押した。


 ドオォォォ!_


 天に伸びる光の柱。不壊の勇者と自称した者の最期の様に、真っ白い光を放つ。


 オオォォォ!_


 光が収まり、黒騎士のアヴァロスに武装したトトは、ゆっくり帝都へと歩き出す。



「まさか、帰る手段が手に入るなんてなぁ…」


 転移武装・テレポートリップ…これだけでは地球に帰れないが、鍵となる武器なのは間違い無かった。


「次元の羅針盤があるから座標は大丈夫、だと思う。足りない物は…力と、許可」


 朝日に照らされた帝都を眺めながら、故郷に想いを馳せる。


 出迎えた騎士達に挨拶を交わしながら、リンダが待つムンゾ家へと足を運んだ。




 ______




「で?何してたの?」


「ちょっと目的があったんで、城の地下に行ったら見付かってしまいまして…悪乗りした結果ですね」


「ふーん。無事だったから良いけど、気を付けなさいよ?目的って?」


「タケルが召喚された転移魔方陣を見たくて」


 ムンゾ家に行ったらリンダが出迎え、事情聴取が始まった。

 見る人が見たらバレるから気を付けなさいよ、と軽くお叱りを受けた。



「あっ、あのー、エクレールさんに会いたいんですけど…頼めば会えますかね?」


「…言えば会えると思うけど…なんで?」


「ちょっと地下から出る時に、打ちのめしちゃって…様子がみたいだけなんですが…」


 エクレールの顔面に肘鉄を入れてしまった事が、心に残って仕方がなかった。綺麗な女性だったので、尚更だった。



「別に自称不壊の勇者がやった事でしょ?打ちのめされたエクレールが悪いし、トハシが気にする事じゃ無いわ」


「…それでも、罪悪感は残ります。様子を見たいだけですから」


「…はぁ、分かったわ。ただし、私も一緒に行くから。これは絶対条件」


 睨んで来るが、結局は優しいリンダに甘え、リンダと共に皇城へ。

 黒騎士の格好で騎士団の事務所に到着。団長のエクレールの面会を求めた。


 面会はあっさりと出来、団長室へと入る。

 対面ソファーと執務机がある簡素な部屋。

 事務作業をしていたエクレールが、机から立ち上りトトとリンダを出迎えた。



「トハーシ殿、此度の活躍、本当に感謝する」


「……いえ、感謝される様な事はしていません…」


「謙遜は良くないぞ」


 対面ソファーに座る事を勧められるが、トトは立ったままエクレールを見詰めていた。目の前で首を傾げるエクレールの頬に、痣が残っていたから。


 トトは黒騎士アヴァロスの武装を解除。生トトの状態でエクレールと向かいあった。

 リンダの目が細められる。



「あ、鎧を取った姿を見るのは初めてだな…ほうほう」


 エクレールがトトの顔を覗き込む。サラサラとした長い金髪を揺らして微笑んでいるが、綺麗な顔の頬にある痣に目が行ってしまう。


「あの、その痣…治させて下さい」


「…ほう、回復まで出来るのか。…でも、これは治さなくて良い。

 あの、聞きたいのだが、あの人はもう討伐されたと聞いたが本当…か?」


 治さなくて良い。負けた自分の戒めなのかは解らない。それでも、トトは治したかった。主に罪悪感が凄いから。



「…生きていますよ」


「ほっ、本当か!どこに居るか解るか!?」


「…すみません。俺なんです。不壊の勇者を自称していたのは…調子乗っちゃって…つい…すみません。帝都を出ていきますから、その痣だけは治させて下さい。お願いします」


 頭を下げ、返答を待つ。


「顔を…上げてくれ…」


 頭を上げ、エクレールを見る。顔を下げて、挙動不審に視線をさ迷わせていた。


 そして、キッ!とトトを見据え


 殴られるだろうと覚悟していたトトに


 キスをした。



「_はぁぁぁ!?」

 リンダの叫びが木霊する。


 トトは訳も解らずフリーズ。

 リンダはそのまま石化。

 エクレールはまだトトにキスをしている。


「…」

「…」

「……_っ!ちょっと!何してんのよ!」


 石化から回復したリンダが二人を引き離す。フーフーッ!と威嚇する様に、真っ赤な顔のエクレールを睨み付けた。



「あの…なんで、です?」


「これは、あの、礼だ。女の騎士としてでは無く、一人の武人として闘ってくれたのは…トハーシ殿が初めてだったんだ…」


 エクレールにとって、容赦無く顔を攻撃する者と闘うのは初めてだった。中にはそういう者も居たのだが、その頃には剣聖として強くなっていたので攻撃を受ける事は無かった。

 エクレールの目はもう、恋する乙女の様に輝いてトトを見詰めている。トトはもう帰りたくなっていた。



「だっ、だからって!き、き、キスする事は無いでしょ!」


「悪い、リンダ。私はトハーシ殿に惚れてしまった。だからキスしたかった。我慢出来なかった。ぞっこんラブだ」


「きいぃぃ!淡々と言わないでよぉ!私だってまだなのにぃ!」


「え?ルーアさんが、俺が寝てる時に…」

「それ以上言わないでぇ!」


 リンダが暴走する前に、エクレールの頬に触れ、痣を治す。何やら唇を突き出しているが、スルーしておく。



「トハーシ殿…また、顔をぶん殴って欲しい…この事絶対言わないから…ね?」


「ね?じゃありません。それ…かなり難易度高い要求ですよ」


 綺麗な女性の顔を殴るなんて無理だ。そんな期待した目で見ないで欲しい。

 とりあえず、目的は果たしたのでエクレールに惜しまれながらも帰る事に。




 帰る道中、リンダは不機嫌。それはもうかなり不機嫌。すれ違う人を睨み付けるのは勿論、トトにもポカポカ叩いて八つ当たり。


 ムンゾ家に戻っても、うーうー唸っていた。


「リンダさん」

「……なによ」


「故郷に帰る手段が見付かりました」

「……だめ」


「いや、まだ手段ですから」

「それでも、だめよ。いつかは渡るんでしょ…違う次元に」


「……解ってました?」

「私を誰だと思っているの?」


 リンダが見くびらないでと言う様にトトを睨み付ける。

 リンダは解っていた。常識はずれの強さ、知識の偏り、纏う空気の質。過去の転移者の記述も読んでいるリンダにとっては、直ぐに行き着く答えだった。



「…帰れる方法があるって解ると…帰りたいんですよ」


「次元を渡った者は、再び戻って来る事はない…常識よ…」


「それは、方法が悪いだけです」


「…方法?」


 次元を渡って行った者は、二度と帰って来ない。無事に帰れたかも解らない。この世界の者にとって、次元を渡るという事は自殺するのと同じ。

 そんなの認められる物では無い。



「座標、次元を渡る船とそれを動かす力、許可…というか往復切符。これがあれば往き来出来る筈です。

 恐らく過去の転移者は、往復切符が手に入らなかったから戻って来れなかったんだと思いますよ。次元を渡ろうとしても、弾かれるんですから」


「…そう、だとしても…どうして、そんな事…解るの?」


「それは、俺がこの世界への片道切符を持っているから…その答えに行き着きました…それと…まぁ、とりあえずこれが片道切符です」


 リンダに白いカードを渡す。この世界、アスターへ来た時に持っていたカード。


「『ようこそアスターへ』…これが片道切符?」


「ええ。歓迎してくれてるんですよ。おかしいですよね。まるで会いに来いって言ってるみたいで…

 …このカードの力はもう失われてますが、これをくれた方に会いに行こうと思います…」


「それは…誰なの?」


 次元を渡らせる存在。思い当たる存在は限定される。トトはいつもの通りに微笑み。

 リンダは何か、とんでもない事を言いそうな、トトを見据えた。



「悪神です……アホな事言っているのは分かっていますが、会わなきゃいけないんですよ。

 俺の為でもあるし、悪神の為でもあります」











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