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流れの武器屋  作者: はぎま
ロドニア帝国
82/163

執事

「…美味しい」

「…へぇ」

「凄く香りが良いね。何の茶葉?」


「これはアールグレイです。私の故郷では定番の1つで、シンプルな紅茶に、香りが高いベルガモットオイルでフレーバーを付けています」


 紅茶の説明をして、綺麗な一礼を見せるトト。執事ごっこ中なので、微笑みは絶やさない。リンダは素直に感動しているが、ホークアイから見たら違和感しか無い。


 あの柄の悪いトトが迷い無く執事をしている。それだけで、珍しい魔物を見る様な目を向けてしまう。



「地味な召し使いだけど、腕は中々ね」

「…ありがとうございます。では、何かお茶請けがあるか見て参ります」

「ゾンビィさんお願いします」

「…お願いね」



 トトは隣の給仕室に入り、色々物色。砂糖菓子やマカロン風の物がある。美味しいけど何か違うと思ったので、自作の物にする。


(何にするかなぁー。トリス用の試作品で良いかな?)


 一応材料さえあれば料理は出来るし、デザートも作れる。しかし時間が無いので、試作品で良いやとベリー系のロールケーキを切り分けてお皿に乗せる。



 部屋に戻ると、ホークアイの話題を中心に盛り上がっている様子。女性が興味ある話を出来るのは流石だなと思いながら、ロールケーキとフォークをそれぞれの前に置く。


「ん?これは?」

「ロールケーキという物です。フォークで分けてお召し上がり下さい。お嬢様、こうやって小さくしたら…はい、食べてみて下さい」


「あ、ありがとう……あまーい!美味しいよトッ…ゾンビィ!」


「うわ…美味しいね。これゾンビィさんが作ったの?」


「ええ、試作ですが」


「…美味しい」



 気に入って貰えた様で、トトは微笑みながら一礼して端に立つ。いつまで執事を続けるんだという目をホークアイから受けるが、トトはどこ吹く風。


 ロールケーキを食べて硬直していた皇女が復活。トトを見ながら微笑んで来た。


「…あなた、私に仕える気はない?」


「だっ、駄目です!」

「リンダウェル。貴女に聞いて無いわ。どう?悪い様にはしないわよ?」


「申し訳ありませんが、お嬢様を放って置けませんので」


 皇女の目が細められ、冷えた視線を向ける。断ったら容赦しないという様に、真っ直ぐ見据えていた。



「本当に、良いのかしら?後悔する事になるわよ?」


「ええ、貴女はタイプじゃ無いので」


「タイ…」コンコン。「失礼する…これは殿下。転移魔導具をトハーシ殿に渡しにきたんですが……この状況は?…とりあえずトハーシ殿、これが転移魔導具だ」


 オーランド公爵が部屋に入って来て、「あぁ、ありがとうございます」トトに転移魔導具が入っている箱を渡した。



「えっ…トハーシ…様…」


「あぁ、どうも。目的は半分果たしたので、地味な男は去りますね。リンダさん、帰りましょう」


 箱を収納し、綺麗な一礼をして、トトは部屋を出ていく。リンダも一礼して部屋を出ていき、顔が引きつっている皇女、微妙な顔のオーランド公爵、遠い目のホークアイが残る。


「あの、殿下…どうされましたか?」

「…」

「…殿下、トハーシはああいう男ですよ。だから引き留めるのは難しいかと思います。では、私も失礼します」


 ホークアイも出ていき、皇女と公爵が残された。


「…殿下?」

「…ふふっ…面白い男ね」





 ______





 まだダンスパーティーが開催されている皇城を出て、トトとリンダはムンゾ家を目指す。


「良いの?皇女は唖然としてたわよ?」


「良いんですよ。執事ごっこも楽しかったですし」


 皆に給仕をする事で、リンダが責められる事も無い。皇女がトトに高圧的な態度を取っていた事の方が問題なので、皇女は何も言えない筈。



「それにしても、トハシって執事の経験あるの?紅茶もお菓子も凄かった!」


「いえ、執事は無いですが…姉に扱き使われていたので、自然と身に付きました。紅茶はズルしましたけど」


「へぇー。姉が居るのね。ねぇトハシ…また作ってね!」


「ええ、良いですよ」


「あと…なんでゾンビィなの?笑いを堪える拷問かと思ったわ」


「あぁ、すみません。この魔導具壊れてまして…後で直します」


 ムンゾ家に到着。ルーアが出迎え、トトとリンダは着替えてから書庫に集合した。



「…」

「…これが転移魔導具ね。手紙か何かは送れるらしいんだけど、使い方は解らないのよ」


 転移魔導具の箱を開けて、机の上に出してみた。リンダが言う様に使い方が解らないのは無理もない。


「…久しぶりに見たな」

「えっ?知ってるの?」

「ええ…」


 黒光りした外観。曲線を描く上部はコの字型。真ん中に回転ダイヤルが設置。下部に何かを入れる事が出来る穴が開いており、ここに手紙を入れれると推測。


≪回転ダイヤル式ブラックD、ランクA+≫



「黒電話ですね…渋い…」


「くろでんわ?」


「ええ、これは本来遠くの人と会話が出来る通信の魔導具です。恐らく作成者が手紙を入れる機能を着けたんでしょう…」


 実家の番号に電話したら、本当に繋がるんじゃないかという期待が増す。しかし、右手で触れた感覚では次元を越えるまで行かない気がした。



「…」

「…使わないの?」


「何かが、足りません。でもその何かがあれば、連絡は取れそうです」


「その何かを探さなきゃね!」


「はい、予想は付いてますので大丈夫ですよ」


 黒電話を仕舞い、リンダと共に書庫の本を読んでいく。


「あっ、これ見ます?かなり昔の地図なんですけど」


「うん、ありがとう。…うわ、凄い。ここまで精巧な地図無いわよ」


「喜んで貰えて良かったです」




 ______




 深夜。


「さて、行くか」


 トトは起き上がり、ムンゾ家を出る。


 目指すは皇城。





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