祝勝パーティー
皇城の2階に広がるパーティーホール。そこでは豪華絢爛な装飾や調度品が飾られ、豪華な料理が並ぶ。そして、それに負けない程の豪華なドレスやタキシードに身を包んだ貴族や有力者が見える。
世界有数の規模を誇る祝勝パーティーが開かれていた。
その中で人集りが出来ている。勇者の職業を持つ美しい青年を囲む集団。漆黒の鎧を身に纏った騎士を囲む集団。
トトは黒騎士で出席して良いという事なので、お言葉に甘えてアヴァロスの格好をしていた。
「ホークアイさまー!」「素敵ですー!」「是非お茶会にいらして下さい!」
「…」勇者の青年、ホークアイの周りを貴族の女性が取り囲み、身動きが出来ない状態。
「是非とも模擬戦をお願いしたい!」「息子の指南役に是非!」「この先は決まっておるのか?」
「…」黒騎士のトトはおっさんが群がり、身動きが取れない。
「トハシ大変そうだなぁ」トトを眺めるリンダは壁の花になっていた。
(次から次へと人が来る…酔いそう…)
慣れない人の流れにうんざりしていると、ラッパの音が鳴り響く。人々の会話が終わり、ホールの奥にある壇上に目をやる。
トトも助かったと思いながら壇上を眺めていると、盛大な音楽と共に30代後半と思われる男性が入り中央に立った。真っ赤なマントに綺羅びやかな軍服。宝石をあしらった剣を持ち、後ろには男性に似た少年達と少女達が控えた。
「オーランドさん、あの偉そうな人誰ですか?」
「…皇帝陛下だ。後ろは皇子達と皇女達だな」
「へぇー。みんな美男美女ですねぇー、勝ち組って奴ですか」
「この後は前に出るんだから、頼むから変な事言わないでくれよ…」
「変な事は言いませんよ。それよりも全身鎧ってよく大丈夫でしたね。顔解らないじゃないですか」
トトの傍らにはオーランド公爵が立っていたので、率直に聞いてみたら呆れた顔で見られる。
壇上に立っている男性が喋り始めた。挨拶から始まり、被害状況や魔物の詳細、今後の活動などを話していく。
「…この度、厄災の魔物討伐に多大なる貢献をした者に褒美を与えよう。トハーシ殿、ホークアイ殿は前へ」
名前を呼ばれたので壇上の近くまで行く。リンダは褒美を断っているので呼ばれない。ただ注目されたくないだけなのだが。
「ホーク、相変わらずモテモテだな」
「トトもおっさんにモテモテだな」
「…」「…今は争うのやめよう」
「…ちっ」
ホークアイと小声で話ながら壇上の前へ。多くの著名人に注目される中、全身鎧のトトは気の抜けた表情をしていた。
「望みの物を、ホークアイ殿から」
「私は、世界樹の雫石、エリクサー、妖精王の霊薬のいずれかを望みます。それ以外は望みません」
ざわっ!おとぎ話で語られる、いずれも実在するか不明の伝説の薬。
ホークアイは静かに目を閉じ返答を待つ。「…全力で調べよう」皇帝が嫌そうに答える。ホークアイは期待していなかったが、帝国には無いのが解っただけでもありがたかった。
(ホークの方が変な事言ってるじゃねえか…)
「では、トハーシ殿」
「えーっと…この城にある転移魔導具が欲しいです。あと…お墓参りがしたいんですけど…タケル・マツダのお墓ってありますか?」
トハーシが転移魔導具を欲している事は、貴族の間で情報が回っていたがお墓については首を傾げる者が多い。
「あぁ、やっぱり…」オーランドは頭を抱えていた。
「…転移魔導具は渡そう。だが、墓は無い」
「そうですか。無いんですね…」
「何故、その者の墓参りがしたいのだ?」
「…無いのならば…言う義理はありません」
ざわっ!今度は違う意味でざわめく。皇帝の質問を無下にした無礼者と怒っている者も居る。
だが、それ以上にトトは怒っていた。何故、裏切り者の大きな像があるのに、英雄の墓が無いのかと。
「…分かった。だが、転移魔導具だけでは示しがつかぬ。他に褒美を与えようと思うが、こちらで決めても良いか?」
「いえ、いりません。お金等は被害に遭われた方やその家族に与えて下さい。転移魔導具だけ貰えればそれで良いです」
「…娘をと思ったのだがな。気が変わったらいつでも言ってくれ。娘もトハーシ殿を気に入っている様だし」
もう戻って良いというので、壇上前から離れる。それから皇帝は他の活躍した者を呼び、言葉を掛けていった。
「トト、中々噛み付いてたね。ヒヤヒヤしたよ」
「だってタケルの墓が無いんだぞ。そりゃ失望するさ」
先程とは変わって話し掛けて来る者は少ない。無礼を働いた者と仲良くするのは躊躇われる。ホークアイもこれ幸いとトトの隣を歩いた。
ホールの端に居たリンダの元へ。赤いドレスがリンダの赤い髪と合わさって綺麗に映る。話し掛ける者が居ないので、一人ぼっちで寂しそうにしていたが、トトが来たので嬉しそうに駆け寄って来た。
「トハシ、中々やるね。皇帝困ってたよ」
「タケルの墓が無いって言うんですよ。事実を知ってるなら記念碑でも作れば良いのに」
「作れない事情もあるよ。もしかしたら本当はあるけど、公式の場で言えないのかも知れないしさ」
「まぁ、本当はオーランドさんに聞けば良かったんだけどね。つい皇帝に聞いたのが悪かったかな。もう用事は済んだし、控え室行こう。ホークはダンスパーティー頑張って」
この後はダンスパーティー。主役だが興味は無いので、ホークアイを生贄に逃げる様にホールを出る。トトとリンダはトトの控え室へ入り、トトはアヴァロスの武装を解除。
「ふぅ、今頃ホークは囲まれているんだろうな。ざまぁ」
「トハシは皇女と結婚出来るチャンスだったけど、断るの?」
「もちろん断りますよ」
「そう、なら良いの。ところで、なんで立ってるの?」
「なんかこの服着たら寛ぐのは駄目かなと思いまして」
トトは着る服は無かったので、リンダの家にあった執事服を着ている。意外と似合っているとトト自身喜んでいた。
「気に入ったならあげるわよ。その、似合っているし」
「ありがとうございます。気に入りました…お嬢様」
「…もう一回言って」
「お嬢様」
「…ふふ…大好きですお嬢様って言って」
「…大好きですお嬢様」
「…ふへへ」
執事ごっこで遊んでいると、_コンコン。「入りますわよ」誰かが入って来た。
ソファーに座っていたリンダは立ち上り、入って来た人物を出迎えた。トトは執事ごっこの最中なので一礼だけしておく。
「これは皇女殿下…」
「あら、あなたはムンゾ家の…まぁ良いわ。トハーシ様はどちら?」
金髪でロングヘアーの15歳程に見える少女。帝国の第二皇女サニエルム・ロドニア・オーウェン。桃色のドレスに豪華な装飾を纏い、ハッキリとした二重の目でリンダを睨む様に見てから、トトの所在を聞く。
正直この状況は良くない。侯爵家のリンダが帝国の英雄を召し使いの様に扱っている状況。
恐らく第二皇女が皇帝の言う気に入っている娘と推測。
「トハシは…」「トハーシ様は休憩をなさっております。しばらく来られないかと…(合成、合成、合成)」
鑑定をしたらトハーシとバレるので、偽装していますを頑張って合成してバグらせた。
≪ゾンビィ、マブギジレベル072、強さ444≫
(くっ、まじかよ…やべぇ…高校時代のあだ名だ…)
「ふんっ、召し使いごときに聞いていないわ。…じゃあ少し待たせて貰いますわね」
「…くっ…ゾふっ…どうぞ(何よゾンビィって!もっとまともな奴に変えなさいよ!)」
ふふっと笑いながら第二皇女はソファーに座る。続いてトトを睨むリンダもソファーに座る。
「お茶を淹れて来ます」執事ごっこ中のトトはお茶でも淹れるかと思い、隣にある茶器がある給仕室に行く。
(茶葉はある…このティーカップ可愛いな。でも、この世界の紅茶なんて淹れた事無いしなぁ…マジックポットでも使うか)
≪マジックポット、ランクA+≫
ダンジョンで見付けたマジックポット。
実はこれ、かなり凄い。思い描いた飲み物が出てくるという夢の様な魔導具。
(紅茶が良いかな?)
姉がご褒美に飲んでいた、英国王室御用達の紅茶を思い浮かべてティーカップに淹れる。
「お茶をどうぞ」
「…」
「ト…ゾン…くっ、ありがとう」
トトの言葉を無視する第二皇女と、ぷるぷるしているリンダの前に紅茶を置いたところで。
コンコン。「ふぅー、トトーなんとか逃げれた…よー…執事?」
ホークアイが入って来て、一瞬にして顔が引きつるのが解る。
「お邪魔しましたー」
状況を察したホークアイは逃げ出した。
「ホークアイ様」しかしトトに回り込まれる。
「な、なにかな?ちょっと用事が」
「ごゆっくりどうぞ」
「殿下、ホークアイ様のお話を聞きたいと思いませんか?」
「ええ!是非聞きたいわ!」
目を輝かせる第二皇女。
(道連れよ)
目が据わっているリンダ。
「紅茶にしますか?」
荒んだ目のトト。そこに
「ええ、お願いします。ゾン_ぐほっ!…ぶはっ!…ごほっ!ごほっ!」
涙目のホークアイが加わった。