収納素材を求めて
ギルドに到着。昼頃なので冒険者の姿はほとんど無く、受付嬢と目が合ったが、視線を外しスムーズにおっさんの受付へ行く。
「いらっしゃいませ。これはフォレストオークの肉ですね。金貨4枚になりますが宜しいですか?」
「あっはい。金貨1枚多いみたいですけど…」
「フォレストオークはオークよりも少し高いんですよ。血抜きもされているのでこちらの値段になります。申し訳ありませんがフォレストオークはDランク推奨の魔物、トトさんはFランクなので今回は討伐報酬はありません。またオークを討伐するならEランクに推薦しておきましょうか?」
「(確かDまでは指名依頼も無いし良いか)はい、お願いします。ランクが上がると何か良い事ありますかね?規約を見てると特に魅力を感じないんですが…」
討伐報酬は上と下、1つのランクまでしか得られない。ランクに見合った働きをしろという事だ。そしてランクCから指名依頼が始まり、ランクB以上になると貴族の指名依頼がある。貴族の依頼は後ろ楯が無ければ原則的に受けなければならない。
「まぁ信頼と実績。富と名声を得るチャンスが多い。色々なサービスが多いという点に置いてはランクが上の方が良いですね。一目置かれますし。特に興味が無い方も一定数居ますので、その方々はランクDで止まっていますよ?後は、店に入れない等不便が多いのでランクDには上がっても損はありませんね」
「へぇー。低ランクお断りの場所もあるんですか…分かりました。とりあえずランクDを目指します。ありがとうございます」
「いえいえ、丁寧な仕事に期待していますから」
冒険者として生きていく気はあまり無いので、とりあえずDランクを目指す事に。
「よしよし、今日は金貨8枚稼いだな。何があるか分からないから、少しずつ貯金しよう」
帰りに武器屋へ。先客は居らず、ゆっくり見る事にした。
「いらっしゃい。お前さんは…いつも悪い武器を買っていくけど、鍛治士か何かなのかい?」
「そうですね。冒険者をしながら勉強しているんですよ」
「へぇ、そうなのか。出来が良かったら買い取るよ?」
「あっ、その時はお願いします。今日もありますか?」
「おうあるぞ。ちょっと待ってな」
武器屋の店主が暇だったのか話し掛けて来た。さらっと雑談する。悪い武器しか買わない人は珍しく、興味があったそうだ。
カウンターの奥から樽2つ分。50本程の武器を出してきたので、ちょっと多いかな…と思いながらも結局買う事にした。
「台車って借りれます?直ぐそこの宿屋なんですけど」
「おう良いぞ!また宜しくな!」
台車を借りて武器を入れて宿屋へ運ぶ。これくらいなら指輪に入るのだが、収納系統は高価な物なのでごろつきに目を付けられない様に人目がある所では控えている。
せっせと部屋に運んで、武器屋に台車を返す。良い武器が出来たら宜しくと言われ、適当に返事をしてから部屋に戻った。
身体を洗い、着替えてから武器に向き合う。
「さて、どうしよう。剣が20本。斧、槍、杖が5本ずつ。ハンマーが3、弓が3、爪が付いた手甲、メイス、鞭、フレイル、包丁、ノコギリか…剣は鋼鉄の剣と合成で良いか。武器のレベルが上がりそうだし。あるよねレベル?」
鋼鉄の剣を取り出し、剣10本と「合成!」合わせる。見た目は変わらないが、手に持った感触が以前よりも良い。無事剣のレベルが上がった様だ。
「やっぱり武器にレベルが付いて、そのレベルを使いこなせるのが武器師って事で良いのかな?だから剣の強化は出来るだけしておいた方が良いと思う」
同じ系統の武器なら素材としてレベルを強化出来る事に気付いたトトは、続いて斧、槍、ハンマー、杖の強化をする。
「物理攻撃は、剣と斧の斬撃、槍の突き、ハンマーの壊攻撃があれば一先ず良いか。爪が付いた手甲はどうしよう…そのままの形で使っても格闘が強くなりそうだけど、それはまた今度にしよう」
悩んだあげく鉤爪、鉄の剣10本、鞭、弓を合成してフックショットを作る事にした。構造は分からないがイメージでなんとかしてみる。
「フックの付いた鎖を射出して、鎖を巻き取って移動する…ってどんな構造?一応出来るけど、出来るけど…まぁ良いか。作成!」
材料の武器が合わさり、手がスッポリ嵌まる50センチの筒の先端にフック状の鉤爪が付いている。手を入れてみると、指で方向等を操作出来る仕様。
「射程距離は5メートル…最初は短いか。でも凄い、凄いんだけど中身の構造が気になる。あっ、空間属性を付けて射出の威力を上げたら飛距離が伸びるっぽい…魔石と胃袋の粉末を足すか」
残りの弓とクロスボウを合成して武器作成を終える。武器の収納が一杯なので、空間の拡張をしたい所。
「大食い蛙の胃袋じゃ限界があるか。資料室で調べるかな」
オークを倒せるくらいなので、少し自信が付いたトトは直接素材を探した方が早いと判断。とりあえず、まだ夕方にはなっていないので薬屋に足を運んだ。
「いらっしゃい。また胃袋の粉末かい?」
「はい、また3包お願いします。後はポーションを2つ」
「若いのに大変だねぇ。ほれ」
店主に拒食症だと思われているのか、不憫そうな眼差しを受ける。まだ一度も飲んではいないのだが、話を合わせ宿に戻った。
「よし、魔石と胃袋の粉末を合わせて…合成。_よし!出来た出来た!」
フックショットに空間属性を付け、魔石で威力を上げる。手を入れて握ってみると射程距離が15メートルに伸びた感覚。
「明日試してみるか。素材用の指輪も2つ作ってっと…なんか手だけジャラジャラしてきた…いやメリケンサックだと思えば良いか…」
夕方になり、少し早いが寝る事にした。
翌朝、太陽が昇る前に起床。軽くストレッチをして銀貨を払い、宿を出る。
一時間程かけて薬草を摘み、ギルドに提出。金貨3枚を貰い、その足で資料室へ。
「大食い系統の魔物って言っても、大食いが付かない魔物も居るからなぁ…」
魔物の資料を読み込む。草原には居ない。森にはオーク系統、爬虫類系統、虫系統の魔物が多いがそれらしい記述は無い。
南に沼があり、そこに大食い蛙が居るので生の胃袋なら容量上がるかな?と期待してみる事にした。
「沼か…長靴いるよな。んー…作れるかな?安全靴なら蹴ったら痛いから武器としていけるか?」
なんかもう、応用すれば何でも作れる気がしてきたので深く考えずに行動を始める。
ギルドを出て、目指すは武器屋の隣にある防具屋。靴を買う為だ。
「いらっしゃいませぇ」
「どうも、靴はどこに?左、ありがとうございます」
サイズは調整出来るので、膝下まである安い皮のブーツを購入。銀貨3枚。入り口にお買い得コーナーを発見。ボロい盾や帽子等があるので見てみる。
(素材は木が多いか…森で木を切った方が早いかな。ん?これはボロボロのガントレット…武器になるか)
錆びの多いボロボロのガントレットと鉄屑を銀貨2枚で購入。防具屋を出る。人目が無い所で収納し、街を出て南に向かう。
「沼まで歩いて2時間。安全ブーツにポーションを合成したら疲れないブーツになる筈。人は居ないな_作成」
皮のブーツ、鉄屑、ポーションで安全ブーツを作成。履いてみると履き心地は良く、足も速く走れる。満足した出来に喜んだ。
「安全ブーツにもレベルが付いてるのかな?これも強化していこう」
ランニングをしながら沼を目指す。街道から逸れているので草原をザクザク走る。途中のゴブリンや角ウサギは魔法杖で仕留め、ゴブリンは魔石だけを回収。角ウサギは肉を収納していった。
一時間程で草原から湿地帯に変わっていき、やがて濁った水の沼が見えてきた。1つでは無く多数の沼が点在しており、大きい物で50メートル四方の沼がある。ちらほらと冒険者の姿が見える。
「蛙は素材だけど、沼だから人気無さそうだなー。おっあれが大食い蛙か」
「ゲコッゲコッ」「ゲコッゲコッ」
目の前にある沼には体長30センチの蛙が10匹以上見える。
鋼鉄の槍を取り出し_ザシュッ「ゲコッ!」_2匹纏めて突き刺す。他の蛙は逃げ出したのを眺めながら、仕留めた蛙を観察。
「想像よりも小さいかな。こいつの胃袋だけど……うん。少し拡張出来る。50センチ四方が増える感じか?合成」
胃袋を抜き取り素材用指輪に合成する。
「成功。少し増えたし、これだけ蛙が居たら収納武器を量産出来る」
ホクホク顔で槍を持ち、沼に隠れている蛙を仕留めていく。胃袋と鉄屑を合成して指輪を作り、それを繋げてチェーンの様にしていった。
2時間程で100個の指輪を作り、2メートルのチェーンが出来上がった。それを腰に巻く。
「暫くはこれで安心かな。多分これを売ればお金持ちだけど、足が付くと今後の生活が怖いからやめた方が良いか…」
権力者に見つかると、ろくな未来は待っていない。異世界初心者のトトでもわかる事だ。
大量の収納を手に入れたトトは街を目指す。
一時間程ランニングをして街に到着した。
「今は昼だから…森に行くには微妙な時間…「あれ?トトさん?」…へ?」
大通りで悩んでいると、声をかけられた。ギルドの受付、ハゲのおっさん。
「これからお昼ですか?」
「はぁ、そんな感じですが時間が余って悩んでいた所で」
「そうですか。良ければお昼ご一緒しませんか?安くて美味しい所があるんですよ」
「(そういえばご飯はいつも屋台ばかりだから、飲食店には入った事無いな)是非、お願いします」
ハゲのおっさんに連れられて、武器屋の近くにある路地裏へ。路地裏に行くのは初めてなので内心ビクビクしながらおっさんに付いていった。