停滞する軍
『…破壊…力…持つ…者』
「…喋れるのね。…厄介だなぁ」
殻兵獣は空中で翼を広げ、両手の平をトトに向ける。
ギュルギュル…殻兵獣の前に黒い光が集まって来た。
「避けたら駄目かな?」後方には帝国の軍。避けたら軍に当たる。
真っ直ぐとトトを見詰める1つの目。
その漆黒の目に浮かぶのは、高揚。
『エビル…エナジー』ギユュュ!
黒い光が迫る。
「これなら…破壊の一撃」ギャリギャリ!
光に合わせて破壊神剣を振り下ろす。
「破壊」バキン!黒い光が四散した。
黒いエネルギーが周囲に拡散。ビリビリと大地を刺激するが、トトは殻兵獣を見据え破壊神剣を向ける。
『その…力…何の為…使う』
「あ?んなもん決まってんだろ。空中機動」
アヴァロスの鎧に力を込める。そのまま空中を走り殻兵獣まで突き進む。
「自分の為だ。破壊の一撃」破壊神剣を下から突き上げ。
『エビルニーエナジー』ギャリギャリ!
黒い光が破壊神剣を上に逸らす。
身体が浮き上がり、至近距離で殻兵獣と目が合った。
『楽し…そうだな』「言葉を返すぜ」
殻兵獣の瞳が歪む。闘いを楽しむ様に。
少しの狂気を身に受けながら
「破壊墜撃」上からの振り下ろし。
『エナジーガード』黒い盾が出現。
ガシャン!ガラスが割れる音を響かせながら殻兵獣を押し込む。
ドオオン!地面に叩き付けた。
空中から降り立ったトトが、地面に大の字になってめり込む殻兵獣を眺める。殻兵獣は空を眺め、瞳を歪ませていた。
「はははっ、楽しそうなこって。そういや軍は…あれ?近付いて来ない?」
振り返ると軍は一定の距離から進んで来ない。距離は200メートル程。
「えー…なんで来ないのさー。…あっ、俺のせいか」
破壊の力を解放したから普通の人は近付けない。
「仕方ない、応援は諦めよう」
______
その頃。
帝国の軍は、トトと殻兵獣の闘いの余波で近付く事が出来ないでいた。
「ほっ、報告します!黒騎士が巨大な魔物を倒した後!中から強大な力を持つ魔物が出現しました!黒騎士と交戦中です!」
「…了解した。下がって良いぞ」
「はっ!」
トトの近くまで来ていた斥候の騎士が、トトの破壊の力に耐えきれず帝国軍まで撤退していた。
最前線で報告を受けたオーランドの顔が悔しそうに歪む。
「…なんとかして近付けないか?」
「…これ以上近付くと兵士が発狂します。魔武器持ちでも5分耐えれれば良い方かと…」
オーランドの隣で戦場に目を向ける剣聖エクレール。彼女もまた悔しそうに拳を握っていた。
「サアラ殿、あの魔物が厄災か?」
「恐らく。あの狂気を放つ魔物は厄災以外に無いと思います」
「そうか…初代も、こんな気持ちだったのかな…」
不懐の勇者と同じく、たった1人で厄災に立ち向かう姿。オーランドの心が締め付けられた。
「トハシ…」オーランドの近くでリンダも同じく唇を咬み、赤い杖を抱えている。
助けになりたい。でも行くと邪魔になる。その葛藤を見ていたエクレール。
「リンダ、彼は何者?あの狂気を発する魔物と闘えるなんて普通じゃない」
「彼は…」(何者だろう。気付いたら居なくなってしまいそうな…私の…)
「解らないよ」(私だけが解れば良い…多分彼は居なくなるから)
「…そうか」
そして、いつまでも前に進まない軍。後方で眺めていた男が痺れを切らし、最前線にやって来た。
「オーランド公爵、サアラさん。なんで進まないんです?あの黒い鎧の彼1人で闘わせるつもりですか?」
「これ以上進むと全員発狂する。それほどまでに強い力なんだ」
「あれは厄災です。しばらく様子を見るしか…」
「はぁ…解りました…私が行きます」
男はこの状況に嫌気がさしていた。この国の者では無い男に闘わせて自分達は見ているだけ。
「危険です。心が壊れてしまいます!」
「それでも、私には彼を1人になんて出来ません。ここで見ているだけだったら、私は友に殴られてしまいます」
この国の為では無い。たった1人で闘う黒い鎧の男に、友の姿が重なっていた。
「君だったら、同じ事をするんだろうな…武装・輝きの勇者」
光の鎧を纏った勇者が駆ける。