やっとこれの出番がきた。
帝都の北側。
平原が続く先に森がある。そしてその森を抜けた先に監視用の砦があり、その砦では標高の高い山脈地帯を監視している。
監視をしている理由は、山脈から下りてくる魔物の監視。
弱い魔物であれば討伐し、対応出来ない強い魔物であれば高価な通信の魔導具で帝都に報告。報告を受けた帝都から討伐隊が派遣される仕組みになっている。
「なぁ、厄災が来るって本当か?」
「らしいぞ、昼前に通信が来たって部隊長が言ってたし」
砦には高い監視塔があり、二人一組で望遠の魔導具を使いながら山脈の監視をする。
「でも帝都だろ?ここは割りと離れてるし」
「いやいや、ここから厄災が来るかも知れないじゃないか。一番ここが危ないだろ」
「そういやそうか。あーあ…早く帝都から交代の部隊来ないかなー」
監視の部隊は帝都から派遣され、月毎に交代していく。部隊は騎士団、魔法士団、冒険者から選出される。
「はははっ、違いない。…ん?あれ?」
「んー?どうした?魔物下りてきたか?」
「いや、あの黒い山が動いた様な気がしてな」
「あの山?どれ?左側の黒い山?」
山脈の中でも一際黒い山。標高は数百メートルと低めだが、木が生えていないハゲ山なので割と目立つ。地形図にも載っている山なので昔から存在している山。
「動いて無いけど?寝不足なんじゃないか?」
「そうか?…」_ゴゴゴゴ!
「_っ!なんだ!」_ゴゴゴゴ!
「地震か?でも揺れてない…見ろ!あの黒い山!」_ゴゴゴゴ!
黒い山が動き出す。バキン!バキン!山を割る様な音が響き、山が真っ二つに割れ、腕が飛び出てきた。
「…嘘…だろ」
「なんだ…あれ」
バキン!バキン!そして、割れた黒い山から頭、身体、そしてゆっくりと立ち上がる。
「ほっ、報告だ!」
「あっ、ああ!」
監視をしていた者が、カンカンカン!鐘を鳴らし、直ぐ様塔を降りて報告。
ズン!ズン!その時には既に黒い山が歩いていた。
異変に気付いた砦の者達は混乱を極める。
「帝都に報告!報告!巨大な魔物が出現した!」
『なんだと!大きさは!』
「山だ!山が動き出した!」
『山!?詳しい説明を!』
「大きすぎて解らな__ドオオオオ!」
数百年の歴史を誇る監視砦が消え去った瞬間だった。
______
アヴァロスに武装したトトは、リンダ、セオルムを連れて北側の門を目指す為に中央区を歩く。
「ね、ねぇ…こんなにゆっくり行って良いの?魔物が来てるんでしょ?」
「ええ。来てますけど、まだ遠いんですよ。帝都に来る時に見えたんですけど、あの小さく見えた山脈からだと思います」
「あの場所は昔から魔物が多い。監視砦があるくらいなんだが…まだ報告は…」
無い筈…セオルムがそう言いかけた時に、あわただしくした兵士が走って来た。
「はぁ、はぁ、オーランド公爵様!報告があります!」
「なんだ?」「北の監視砦が魔物の襲撃に遇いました!」
「…規模は?」「それが…巨大な魔物…山が動いたという報告の後、通信が途絶えました…」
「…はぁ…分かった。出来るだけ戦力を北側へ寄越してくれ。私は今から北門へ行く」
「はっ!」
歩みを止めないトトは、兵士の話を聞きながら心の中でため息を付く。
(まじかよ…山って…)
「トハシ…巨大な魔物って…大丈夫だよね?」
「んー…見てみないと何とも言えないですね」
「…私は各団長と共に指揮を取る。トハーシ殿はどう動くのだ?出来れば指揮下に入って貰いたいが…」
「…俺は1人で動きます。周りを巻き込む恐れがありますので」
「あの炎は熱くなかったよ?私も一緒に居たい…」
煉獄火炎の制御力を思い出して、リンダは自分もと願うがトトは断る。破壊の力を使う場合、リンダが危険だから。
「…リンダ、すまないが魔法士団の指揮下に入ってくれ」
「…はい」
北門に近付くにつれて、口数は減っていく。北区は職人街。金属を打つ音や、モクモクと煙が立つ建物があったり工業地帯の様な雰囲気。
北門に到着。
「これは、オーランド公爵様!どうぞ!」
「ああ、これから軍が通るからスムーズな対応を頼む」
「はっ!了解しました!」
北門から外に出る。遠くに山脈が見えるが、まだ魔物は目視出来ない。
(…来てる)
「もうすぐ軍が到着する筈だ。作戦を立てよう」
「いえ、間に合いません」
「トハシ?魔物はまだ見えないよ?」
「…先行します」「え?ちょっ…」
呼び止める声を無視してトトは全速力で走る。
ズン。
風を切り、音を置いていくスピードで帝都から数キロ地点の平原に到着。周りには街道が広がり何も無い平原。
そして、遠くに見える黒い点。
ズン。ズン。
少しずつ大きくなってきた。
「ふっふっふ…やっとこれが使えるなぁ」
収納から取り出した武器を担ぐ。
余った素材で強化改造した全長3メートル。太さ直径1メートルの筒状の兵器。
≪浄化兵器・シャイニング・ソーラーレイβ、ランクーー、浄化天使ーーー、攻撃ーーー、ーーー≫
ズン!ズン!
やがて魔物の姿が見えてきた。
「うわ…デカッキモッ」
緑と黄色の線が、身体全体を巡り血管の様に波打たせていた。
真っ黒い巨人の姿。
ズン!ズン!ズン!
巨人が走って来る姿がシュールに感じる程に違和感のある光景。
「よっしゃ、行くぜ!デカイ全身タイツ野郎!」
キイィィィィ!浄化兵器の力を溜める。
かん高い音が出る程の急激な魔力の吸い込み。
「鑑定はまだ出来ないか…あれ?まだ大きくなるの?」
キイィィィィ!
浄化兵器の力を感じ取ったのか、減速していく巨人。
『グブォォォ…』
うなり声を上げる巨体。
大きな1つ目でトトを見下ろす様はアニメやゲームのボスに出てきそうな理不尽さ。
トトは観光で行ったテレビ塔を思い出させる首の角度で見上げる。
「見え…た」キイィィィィ!
≪殻兵獣ギーガ・タイラント、クラスーー、強さーーー≫
「なんてもん呼んでんのさぁー!クソタケルー!_っ!来た来た!先手必勝!」
浄化兵器の力が溜まり。巨人に砲身を向けた。
「あれ?これどうやって撃つ?あっ、ボタンね。ポチッとな」
腰が引けながらも浄化兵器の大きな発射ボタンを押す。
カッ!視界が真っ白く染まり。
高エネルギーレーザーが発射され。
ゴオオオオ!遅れて轟音が鳴り響く。
「いぃやぁぁー!まぶしぃー!」
帝都を照らす巨大な光の柱が上がった。