ムンゾ邸へ
ムンゾ侯爵家に到着。流石貴族という様な立派な洋風の屋敷。そしてメイドが出迎え、トトは感動している。本物を見るのは初めてだから。
「お帰りなさいませ。お嬢様…この方は?」
「ええ、ただいま。この人はトハーシ。恩人だから失礼の無い様に」
「あっ、どうも…」「お、おお恩人!ついに…ついにお嬢様に良い殿方が現れたのですね!」
「ちょっ、ちょっとルーア、大げさよ。良い殿方だなんて…そんなんじゃ」
リンダは顔を真っ赤にして否定している。それを見たルーアと呼ばれたメイドの目が輝きだした。
「ああ!顔が真っ赤なお嬢様可愛いですねぇ!ルーアは!ルーアはこの日が来るのを待っていました!」
「あの、違いますよ…」「もももももう!そんなんじゃないわよ!恩人だからお礼したいの!」
「いや、ほんとに…」「ええ!ええ!解っていますよ!お礼ですね!ベッドメイクは万全です!さあ!さあ!」
プシューと湯気が出そうな程に、顔を真っ赤にして反論するリンダに興奮するルーア。トトは落ち着くまで待とうと諦めた。
客間に通される。リンダは魔法使いの格好だったので、着替える為に自室に戻っている。ルーアは側にいるので、トトは少しビクビクしていた。
「トハーシさん。…お嬢様は小さくて可愛いですよね」
「え?ええ、可愛いらしい方だとは思いますよ」
「…ふふっ、先程は興奮してしまってすみません。お嬢様が自ら男性を招くなんて嬉しくて…」
ルーアが言うには、以前は親が決めた婚約者も居た。だがリンダが自ら招く事は無く、頑なに嫌がった為、婚約の話も無くなった。それからは、周りの貴族から男嫌い、理想が高い、わがままなど陰で言われて来たという。
「お嬢様が小さくて可愛いのは、成長が止まってしまったんです」
「…病気ですか?(ちょっ、ルーアさん喋りすぎなんじゃ…)」
「婚約をしていた男はお嬢様に固執していました…婚約を断られ、手に入らないならと、お嬢様に毒を盛りました。命は助かりましたが、それ以来子供の様な姿なんです」
しかし証拠が無く、元婚約者は捕まってはいない。
生死の境をさ迷った影響か、魔力が爆発的に上がり魔法使いとして成功をおさめたのは何の因果か。
「あの、話し過ぎじゃないです?」
「そうですか?お嬢様が心を開く程の人だから良いと思いまして」
「……」
ルーアと話していると、リンダが緑色のワンピースに着替えて戻って来た。赤色の髪をポニーテールにしてジーッとルーアを見ている。
「お待たせ。書庫まで行きましょ。ルーア、私が案内するわ」
「はい、助かります」
(いや、ちょっと話が重い。ルーアさんのせいで気まずいぞ)
「お嬢様」「…何?」
「ご武運を」「もう黙って」
リンダに案内されて、書庫に入る。教室程の大きさ、本棚にある数多くの本。紙とインクの匂いが心地良い空間。
「ねえ、ルーアから私の事聞いた?」
「…はい、聞きました」
「…そう。別に昔の話だから気を使わなくて良いわよ。…あのお蔭で割と自由になれたし、強さも手に入れた」
「なら、帝都を出ようとは思わなかったんですか?」
「いくら強くても、世間知らずが外に出たら野垂れ死ぬ。それくらいは解ってるわ」
まして子供の様な姿。外に出たら危険しか無い。トトは自分と違う強さを持った女性に興味が沸いた。逃げない強さは自分には無い。
「尊敬しますよ。俺だったら、全てを破壊してしまいますね」
「ふふっ、惚れても良いのよ。…ねぇ、トハーシはどうやってその力を手にしたの?」
「……」「…聞かせて」
言うのは簡単だが、どう説明したら良いか解らない。破壊の力を手に入れたとは言えないが。
「…とあるクソイケメンのせいで、ダンジョン最深部で独りぼっちになって出れなくなりましてね。そこで…力を手にしました」
「クソイケメン…(ホークアイ?だから殴りたいのかな?)じゃあ…攻略者なの?」
「まぁ…そうなりますね」
ダンジョン攻略者。A級ダンジョン以上となると伝説級職業のパーティーでも難しい偉業。それを1人でなんて有り得ない。
「ダンジョンのランクは、いくつなの?」
「そういえば、いくつなんですかね?A級以上なのは確かですよ」
「…凄いね。…それじゃあトハーシは、ノール王国じゃ英雄的扱いなんだ」
「ん?非公表なんで俺の扱いなんて最低の評価ですよ」
話が噛み合わない。攻略者は富と名声を得られるから英雄的扱いを受けて当然だと思うリンダ。どうせ信じて貰えないから非公表のトト。
「ま、まぁ信じて貰えない事は有り得るけど…最低の評価?」
「はい。リンダさんには教えますけど…俺、レベル無いんですよ」
「…何を言って…」
偽装を解除。トト、武器師、強さ5の文字が見える。リンダはこちらの方が信じられない様子で沈黙した。
「…」「ははは…変ですよね…」
「…」「あのー…」
理解が追い付かない。あの巨大な炎を放つ人にレベルが無い。強さ5なんて子供以下。なのに攻略者。訳が解らなかった。
「名前…トト…」「一応トハーシも俺の名前なんで、好きに呼んで下さい。これ以上の偽装はもうしていないんで…」
「レベル…」「無いですね」
「強さ…」「これが謎なんですよね。どんなに強くなっても未だに5なんですよ」
「…なんでよ」「リンダさん?」
何故笑っていられるのか解らない。自分なら生きる気力を無くす。どれだけ強くなっても認められないなんて悲しい。
「どうして見せてくれたの?」
「…なんででしょうね。リンダさんの前で偽装し続けていると、俺の精神が保ちませんからね」
「ふん、なによそれ」
リンダから悪い雰囲気はみられない事に安心した。だが目が合わなくなったので、会話は減る。
(まぁ貴族はレベルが無い人と関わる事はほとんど無いから、どう接したら良いか解らないよなぁ…)
「…自由に読んでて良いわよ。ちょっと休んでくるわ」
「はい、ゆっくり休んで下さい」
戦闘した後なので、疲れているのだろう。おでこに手を当てて出ていった。
「さて、読むか。時間はあるし、5徹くらいしようかなー。流石に迷惑か…いや、頼んでみようかな」
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自室に戻ったリンダ。自室でフンフンと鼻歌を歌い、ベッドを直しているルーアが首を傾げた。
「あれ?お嬢様。お早いですね」
「ええ、昼前に魔物と闘ったから疲れたのよ。休むわ」
「添い寝しましょうか?」
「いらない」
「添い寝を頼んできましょうか?」
「恥ずかしいから駄目」
「じゃあ私が添い寝してきます」
「おい待てや」
「で?トハーシさんの顔をまともに見れなくなったから逃げて来たんですか?」
「…だって」
「だって?」
「…格好良いんだもん」
「もう、可愛いですね」