紅のリンダ
リンダに案内されて、中央区寄りの高級店へ。個室に案内された。
「ねぇ、トハーシは帝国の人?」
「違いますよ。今日帝都に着いたばかりですし、今迷子なんですよ」
「迷子?」「転移で故郷からノール王国に飛ばされちゃいましてね。実家の場所が解らないっていうなんとも情けない話で」
「へぇー、大変ね。トハーシならそこら辺何とかしちゃいそうだけど」
リンダウェル・ムンゾ19歳。ムンゾ侯爵家の帝国貴族。魔法士団には所属しておらず、有事の際は帝国の為に助力するらしい。本人曰く「集団行動は苦手なのよ」
ドーウェルは槍聖。帝国騎士団の副団長。今回は急に担がれて戦場に駆り出された。
「じゃあ普段は何をしてるんです?」
「基本はダンジョンで修行してるわ。近くにあるのよ」
帝都から1キロ地点に一般の人が入れない、特権階級用のダンジョンがあるという。
誘われたが、目的を達していないので保留にしておく。
「あの、帝国に転移魔導具があるって聞いたんですけど、俺でも使えますか?」
「あら、あんな骨董品に興味あるの?」
「実家に手紙とか送れたらと思いまして…多分家族は探してるかと」
うーんと考える様に唇に指を当て、聞いてみると一言。皇城の魔導具展示室にあるらしい。
「ありがとうございます。あと、中立連合のホークアイって帝都に居ますか?」
「ホークアイ?確か…城に居る筈だけど、知り合いか何か?」
「まぁ、ちょっと1発殴りたくて。あっ、ホークアイには言わないで下さいね」
「ふーん」リンダは女でも盗られたのかしらと思うが、今は自分を見て欲しい。
「他に聞きたい事ある?何でも聞いて?」
「じゃあ、オーランド公爵家って不壊の勇者の家系なんですよね?」
「ええ、帝国民なら知らない人はいないくらいよ。公爵はお父様とよく飲んでいるくらい仲良いし」
「へぇー、そうなんですか。じゃあターケルについて詳しく知っていますか?」
「ターケルって魔王を討伐した後に出た偽勇者。城の歴史書を読んだ事あるけど、急にターケルが出てきて自分が勇者だと人々を騙しているのよね」
リンダは違和感を感じている様だ。魔王を倒したという事は凱旋パレードが終わった後。それから急に出てきた人間が人々を騙すのは難しい筈。
「それについて、周りに聞きました?」
「ええ…なんでこのタイミングで出たのか聞いたけど、有名人の偽物が出るのは当たり前だろうって。それがどうしたの?」
「いえ、俺もリンダさんと同じで気になったんですよ。何故わざわざ魔王を倒した後に、偽勇者を物語に入れたのかってね」
リンダはその後も不壊の勇者について話をしてくれた。公爵から聞いたであろう、氷凍のカミルのクラスは7だったとか、勇者魔法の種類だとか。
色々詳しいのは、歴史書を読むのが趣味らしい。
「それでね。不壊の勇者が倒した厄災の魔王って、本当は破壊の魔王っていうらしいわよ」
「破壊の魔王?」「そう。太古の昔、女神大戦が起きた時に悪神の力を3つに分けてそれぞれの大陸に封印したの。伝説上、この大陸は悪神が持っていた破壊の力が封印されている」
「へ、へぇー…破壊の力…だから破壊の魔王が現れたんですね…」
「そうなの!魔王が持つ破壊の力でも壊れなかった勇者。それが不壊の勇者って言われる由縁なの!」
破壊の力。どこかで聞いた事がある。タケルが最期に手にした力。
(うわ…破壊神剣の原料にしちゃったけど…大丈夫かな…悪神って奴に怒られないかな?…でも悪神っていうくらいだから、本物の破壊の力はある筈。だよな?)
急に不安になってきた。リンダが言っていた女神大戦の事も調べなければいけない。
「ありがとうございます。勉強になりました」
「ふふっ、いつでも聞いてね。私の家に歴史書とか沢山あるから読みに来ない?城にある本の複写だから珍しい本もあるわよ?」
「うーん…」
魅力的な誘いなのでとても悩む。調べたい事が一気に解決しそうだ。だが「家族は今領地に居るから、私以外はメイドしかいないの。安心して!」それが一番安心出来ない。
(変に考え過ぎなのか?リンダさんは好意で勧めてくれるだけだし…上手く行けばオーランド公爵家に話が聞ける?)
「…じゃあ歴史書があるなら…お邪魔しますね」
「ほんと!やった!じゃあ行きましょ!」
店を出て、中央区の貴族街へ。
リンダは笑顔でトトの手を取り、子供の様に引っ張りながら歩いている。見た目は子供に近いので、微笑ましい光景に見えるが。
「リンダさん、ゆっくり行きましょうよ。なんか皆見てますし…」
「ふふっ、つい嬉しくて」
この二人を帝都民は驚きの表情で見る事になる。自分より強い男にしか興味は無いと言い切る、あのじゃじゃ馬…紅のリンダに彼氏が出来たと。




