帝国の魔武器持ち
「隊長!クラス6です!応援を!」
「くっ、救難信号を出せ!」
「はっ!」
兵士の数は300程。一人一体相手にすれば、二百体を超える魔物の相手は余裕で出来るが、実力が足りない者がほとんど。増援まで持ちこたえる事は至難と見えた。
「こりゃ手伝った方が…おっ、誰か来たな」
トトの索敵に反応。とても速いスピードで戦場に向かう者が居た。少し安心したので、トトは数百メートルの距離であぐらをかいて眺める。
「もっと早く走りなさいよ!」「無理言うなよぉ、重たい荷物担いでんだぜ?」「誰が重たいよ!燃やすわよ!」
長身の男が女の子を担いで走っている。その速さは自動車の様に速く、あっと言う間に兵士と魔物達の間に割って入った。
「紅のリンダ様!」「槍聖ドーウェル様!」「おお!魔武器持ちが二人も!」
(魔武器持ちかぁ…赤属性の杖と青属性の槍…遠くて鑑定は出来ないか)
「クラス6かぁ、何なのよいきなり」赤い杖を持つ紅のリンダと呼ばれた少女の様に見える、赤い髪に少しつり目の可愛らしい女性と。
「まぁ文句言うなよ。警戒指定のお蔭で報酬高いんだからさ」水色の槍を持つ、青い髪のスタイルの良い細目の男性。
「雑魚は任せて!炎よ、数多の輝きとなりて焼き尽くせ!ブレスク・フレイムバースト!」
ゴオオオ!赤い杖が輝き、無数の輝く炎が出現。
ゴゴゴゴ!魔物を焼き尽くしていく。
(すげー。まともな攻撃魔法見る事少ないから新鮮だなぁ)
「デカイの行くから宜しく!」
「りょーかい」
魔物は3割の数まで減り、槍を持った男が大きな魔物に向かって駆ける。
「貫け!ストリームレイター!」
ザシュッ!魔物の急所を上手く突く攻撃。
ザシュッ!ザシュッ!クラス5の魔物が一撃で倒されて行く光景は圧巻だ。
「燃えろ燃えろ!紅の炎!ドーウェル!退いて!」
「俺まで撃つなよー」
「分かってるわよ!バーニング・グレネード!」
ゴゴゴオオオ!残りの魔物を焼き尽くしていく火炎。
ボボボ!爆発しながら燃やしていく。
(こっちまで熱が来るなぁ。制御甘いんじゃない?)
残りの魔物は僅か。翼の無い竜、地竜と二足歩行の蜘蛛みたいな魔物。
「一応魔力を練るけど片付けて良いわよ。あの気持ち悪い奴は近付かせないで」
「はいはい。お言葉に甘えてやりますよ」
ドーウェルが余裕の表情で地竜の頭を貫いた。
その時、蜘蛛の様な魔物に変化が訪れる。
『グギャ…ギュゴュ!』
蜘蛛の様な魔物が、倒れた魔物から魔力を吸い込む。だんだんと大きくなっていった。
(おっ、デカイから鑑定出来るなぁ…レイバード・クロウ?クラス6、強さは…あれ?一万…一万千…一万二千…ドンドン上がってる)
「おいおい、他の奴らを吸収してるぞ…こいつは特殊な奴か?」
「喋る暇があるなら攻撃しなさいよ!もう少しなんだから!」
「ちっ…こいつはクラス5だった筈だぞ…。なのにクラス6…くそっ…今7になりやがった。エクストリーム・レイター!」
ザシュッ!ザシュッ!魔物を貫くが直ぐに傷が再生していく。
「リンダ!まだか!」
「あと少し!燃えたぎる炎よ!裁きを与えよ!バーニング・スコッピオ!」
ドーウェルが退避。その瞬間激しい炎が巻き起こる。
魔物は足を止め、その身に炎を受けるが。
(効いてないなぁ…仕方ない。助けるか)「よっしゃ、武装・アヴァロス」黒い武装を身に纏い、爆斧・煉獄竜を持ち上空に上がる。
「ぐっ…耐えるのよ…」
「リンダ!大丈夫か!」
「はぁ、はぁ…ちょっと強すぎかも…」
魔力を放出し続けバーニング・スコッピオを維持していくが、その内魔力が尽きる。
魔物はまるで、魔力が尽きるのを待っている様に炎の中で耐えている。魔物はドンドン大きくなっていった。
『ゴギュ…ビギュ!』急に魔物が暴れだす。ドーウェルもリンダのサポートをするが、焼け石に水。効果は無かった。
「一旦退くぞ!」
「もう…ダメ…かも_っ!何!」
「古代魔法・煉獄火炎」
ドオオオ!突如立ち昇る巨大な炎。リンダが放った炎が火遊びに見える程の業火が魔物を包む。30メートルを超えるまでになった魔物を包む程の炎だが、不思議と周囲は熱くない。
『グゴュュュ!ビギュュュ!』
魔物が煉獄火炎に焼かれ、のたうち回るが業火は逃がさない。十秒程で魔物を焼き付くし、やがて灰になった。
(おー!すげー!クラス7燃やした!流石は古代魔法!)
「「……」」
「おー!やったぞ!流石は紅のリンダ様!」「凄い炎だったな!」「ドーウェル様も流石だったな!」
「…違う…私じゃない」「何が…起きた…ん?上に誰か…」
茫然とするリンダとドーウェル。完全勝利を喜ぶ兵士達に取り囲まれていた。
満足したトトは爆斧を収納して地上に降りる。ドーウェルが此方を見ていたが、取り囲まれて身動きが取れない様子なのでアヴァロスのまま帝都に向かって歩いた。
「熱く無かったから魔法の制御も完璧。たまにオーバーキル決めると気持ち良いなぁ」
「待ってくれ!」「ん?あー、槍の人。お疲れさまー」
ドーウェルがリンダを担いでトトの元にやって来た。兵士は魔物の処理をしているので二人だけ。
「最後のあれ、貴方がやったの?アヴァロスさん?」
「赤い人もお疲れさまー。そうだけど、お節介だったかな?」
「いえ、感謝します。俺はドーウェル」「助かったわ。ありがとう。赤い人じゃなくてリンダよ」
武装中は名前が変わる。今の名前はアヴァロスになっていた。黒いフルプレートの者が巨大な魔法を使う違和感があるが、気にしているのはトトくらいだ。
ドーウェルはアヴァロスが何者か探ろうとしているが、リンダは自分より凄い炎を使う魔法使いだと、尊敬の眼差し。
「アヴァロスさん。良かったら、ご飯でもどうです?お礼に奢りますよ」
「うん、ドーウェル良い事言うじゃない。是非行きましょう?」
「うーん…それは少し困りましたねぇ」
話を聞きたいが、武装を解除しないとご飯が食べられない。別にトハーシでも良いのだが、名前が変わるとかかなり怪しい。だがホークアイの情報を得るチャンス。
「私、貴方の事もっと知りたいの。お願い」
「リンダ、キャラが全然違うぞ_っ!ちょっ、殺気を向けるな」
「はははっ、仲良いんですね。恋人ですか?」「そんな訳無いじゃない。同僚よ」「そうそう。俺はもう結婚してるし」
「へぇー、そうなんですか。じゃあ待ち合わせにして良いですか?この鎧脱ぐの大変なんですよ。あと、俺の名前はトハーシなんで宜しくです」
「あぁそうなの。わかったわ」「トハーシさんね」
結局、正体を隠す理由は無いので、待ち合わせをする事にした。一応アヴァロスという名前ではなく、トハーシだという事は伝えたが、二人は気にしていない様子。
一時間後に、不壊の勇者像の前で待ち合わせ。二人と分かれた後に、路地裏で武装を解除して宿に戻る。
「そういえば、イザベラさんに紙を渡されたな……住所?いつでもいらして下さいってイザベラさんの住所だな…肉食系女子って奴か」
ちょっと積極的過ぎて怖かったが、悪い人では無いので魔導具店にはまた行く予定だ。決してイチャイチャしたい訳では無い。
時間になったので、トハーシの状態で待ち合わせ場所へ。
「あっ、どうも。俺です、トハーシです」
「…もっとゴツいイメージだったけど、悪くないわね。…ふふっ…行くわよ」
「あれ?ドーウェルさんは?」「用事が出来たって」「そ、そうなんですか…(まじか…槍野郎を追い払ったな)」
嫌な予感。リンダはトトの右手を取り、手を繋ぐ。見た目は少女なので、トリスと同じくらいの高さ。上目遣いでトトを見上げていた。
「案内するわ。行くわよ…」
「…ご飯だけですよ」