やっと1日が終わりました
「ところで…暗殺者かな?」
「…」
「そりゃぁ、自分が暗殺者だなんて言わないよなぁ。別に放って置いても良いか。良いのか?一応人を殺そうとした訳だし…呪怨砲のオーラだけ嗅がせてやるか…」
「ぐおぉぉ!」「ひぃぃぃ!」「そこだけは!そこだけは!…だめー!」「ア"ーーー!」黒い人達は何も喋ろうとしないので、とりあえず呪怨砲のオーラを当てて拘束。孤立の魔法は解けたので、衛兵が来るまで待つ事にした。
「ドド様…ありがとうございました。このご恩は一生忘れません。あの…お昼はすみませんでした…」
「おー随分しおらしくなったなぁ。まぁ…ちゃんと謝れるなら良いさ、馴れてるし。世の中何が起こるか解らないから気を付けろよー。…で?1人で何してたの?」
「…探している人が居て、1人で出てきちゃいました。結局見つからなくて…帰り道に男達に囲まれて…なんとか逃げたんですけど…」
暗殺者に遭遇したのは初めてでは無いらしい。いつもは護衛が居るから被害は無いが、大丈夫だろうと思ったら駄目だった。
それに日々毒殺など暗殺の恐れがあるらしい。じゃあなんで1人で出たと思う。
「探している人ってどんな人?」
「魔法士の女性です…ドド様に危害を加えようとしていたので、止めようと思って…」
「あー…もしかしてマリアさん?」
「_っ!もう知り合っていたなんて!なんて手が早い!大丈夫ですか?変な事されてませんか?」
怪しい。普通なら使いに頼めば良いのに、クリスタは1人で探しに来た。心配する顔は本物なので、疑心暗鬼になりつつある。
マリアはアイリスの友情の腕輪を羨ましく思い、高価な物が欲しくてトトに近付いているらしい。
何故友達だと知っている等、突っ込み所は多い。だがしなければいけない話題では無いので、話題を変える。あまり思い出したくは無いから。
「なるほどね。大丈夫、不振に思っていたし思惑が解ればそれで良いよ」
「ほっ…良かったです」
「ところでなんで敬語なの?調子狂うんだけど…」
「あの…実は…ドド様に…心を鷲掴みにされてしまいました。もう…貴方の事しか考えられないくらいに…」
「…たぶんそれ、恐怖で心を鷲掴みにされただけだから、時間が経てば治るよ。軽い病気みたいなもんだから」
クリスタが言うのは、好きという感情では無く、恐怖という感情だと思う。もし好きという感情だとしたら、恐怖で快感を得るドMだ。
「治りませんよ。こんなにドキドキしているんですもの」
「それは肝試しでドキドキするのと一緒だね。めっちゃ足震えてるじゃん。恐怖で震えてるんだよ」
「はい、恐いです…恐いくらいにドキドキして…これが恋の病というものなのですね」
「俺は君が恐いよ」
本当にドMかもしれない。ハァハァと息が荒く顔が紅潮し、早く威圧を放ってくれと言わんばかりに目が輝いている。
トトが恐くて後退る所で「これは何事だ!」衛兵がやって来た。
「第二王女さん説明よろしくー」
「はい!喜んで!それと…クリスタって呼んで下さい」
「やだよ」
「じゃあ…クソ女でも…良いですよ」
「分かったクソ女」
「はぅっ…もっと罵って下さい」
「…衛兵さん待ってるよ」
ハァハァしていた顔から凛とした表情に切り替わり「私はクリスタロス・ノール・ニューロード」「こっ、これは王女殿下!」暗殺者に襲われている所で、トトに助けられたと説明。
所々美化して話しているのには目を瞑ろう。
衛兵1人では対応出来ないので、応援を呼びに来ると言って走って行った。
(衛兵さん!早く戻って来てくれ!)
「ドド様…おかわり下さい…」
「おかわり?何調子こいてんだよクソ女が」
「はぅあ!あっ、ありがとうございますぅ…」
「…あれ?なんか楽しいかも」
衛兵は直ぐにやって来たので、帰る事にした。夜なので、お城に招待されたら恐らく泊まりコース。嫌な未来しかない。
「じゃあ帰るわ」
「あの!行かないで下さい!もっと罵倒して…げふんげふん!お礼をさせて下さい!」
「偉い偉い、人目があるから自重出来たな。これやるから我慢しな」
≪安定の腕輪、ランクA、攻撃1、精神安定・毒無効・防御結界≫
「これは…次に会ったら無茶苦茶にしてやるって事ですね!分かりました!」
「何処を理解したらそうなるんだよ…それと、俺の名前はトトだからな」
「トト様…ありがとうございました…」
去り際、もう会わないと思うので、クリスタに軽く威圧を掛けておく。「きゃうん!」「殿下!」なんとなく思い出にと。
「はぁ…疲れた。秘境に行って寝るか…」
気持ちを切り替えて、人目の無い場所へ行きSGドラゴンに乗り込んで秘境に向かった。
「明日は暇なんだよなぁ…予定を早めて、魔導具店に行って、帝国に行こうかな」
10分程で到着。淡く光る砂を踏み締めてテントを出し、ベッドに横たわる。
______
王城にて。
西側の視察から帰ったアイリスは、書類整理の為に執務室に入る。「お邪魔してるよ」そこにはニグレットが待っていた。
「…待たせたみたいだな」
「何かあったのか?バタバタしてたけど」
「あぁ、第二王女殿下が城から居なくなってな。今見付かったみたいだ」
「無事で良かったな。四男の派閥が過激なんだろ?」
「…私の口からは何も言えない」
アイリスは国の役人なので、王族に対して何か言う事は無い。第四王子の派閥が王位継承の為に、他の王族の暗殺等を企てているという噂があるが。
「トトが帰ってきたぞ」
「……そうか。良かった」
「もっと嬉しそうにしたらどうだい?」
「嬉しいよ…とても」
下を向くだけで表情は変わらない。ニグレットはあの噂は本当だったのかと思った。
幼少期に感情を爆発させ、魔力暴走を引き起こし一緒に居た姉を死なせてしまった過去があるという。
それ以来「苦手なんだ」氷の様に冷たい表情になったと。
「ケガとか、していなかったか?」
「…さぁね。でも元気そうだったよ」
「そうか」
これで用件は終わりとニグレットは立ち上がる。アイリスが何か聞きたそうにしている「…なんだい?」
「…トトと結婚するのか?」
「くくっ、どうだろうね。多分しないんじゃないかな」
「プロポーズをしたのだろう?」
「あぁ、振られ続けているよ。トトはあんなんだが、故郷に帰りたがっているんじゃないかな?そのせいか解らないけど恋愛には後ろ向きだね」
「故郷は…どこにある?」
「トトは他大陸って言ってるけど…恐らく転移者だと思う」
「……」
トトは知らないが、この世界で転移者は短命として知られる。転移者が他の世界にある知識を披露すれば文明が進みすぎる。それにより、世界を管理している神に嫌われるからだと言われているが、本当の事は解らない。
「だからと言って諦める気は無いけどね。…アイリスはどうするんだい?」
「…どうとは?」
「惚けちゃって可愛いねぇ。トトの事、好きなんだろ?」
「…わからないんだ」
「ふーん。まぁ良いけど、もう時間は無いから気をつけな。じゃあトリスが待ってるから帰るよ」
時間。それは魔物の大移動までの時間か、何かの期限か。また良い所で去っていくニグレット。ソファーに座り、友情の腕輪を見詰めるアイリスは深いため息を付いた。
「私は…どうしたら良いのかな…お姉ちゃん」