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流れの武器屋  作者: はぎま
迷宮・古壁の回廊
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王城にて

 闘いにならない闘いを見届けたジーラスは会議に遅れて参加する。レベルに左右されない強さの者が居る。それを思うだけで心が高揚していた。


「遅れてすまない。アラン殿下と話していてな」


「いえ、まだこれからなので大丈夫です。あの騎士団長、少し問題が…」


「問題?何があった?」


「我が国の魔武器保有数が減りました。中立管理官ホークアイの五月雨が破損した事は以前お伝えしましたが、ドーグ・サラスが保有していたドラゴンキラーも破損しました。これで我が国の魔武器は5に…」


「なんだと!ドーグは無事か!」


「はい…ですが酷く落ち込んでいて、詳しい話はまだ本人には聞けていません…」


 ドラゴンキラーが折れた話は瞬く間に広まった。折れたドラゴンキラーを持って茫然としているドーグを、ミランダが家まで引き摺っていたのが原因なのだが。



「ドーグがやられるなんて…」


「早朝に誰かと王都を出たのは目撃されていますが…」


「くくっ…もしかして…あいつ返り討ちに…ぷぷっ…だせぇ…」


「…ニグレット、何か知っているのか?」


 会議に参加していたニグレットが状況を把握してしまい、笑いのツボに嵌まってしまう。シスコン野郎が返り討ちに…それだけで酒の肴になりそうな話題だった。



「くっ…いや…知らない…だせぇ…いや知らないぞ。ぷっ…私は何も知らない」

「…後で聞かせろ」「知らないよ」


「「……」」


 鋭く睨むジーラスと半笑いのニグレット。他の者も気になる、気になるが話が止まってしまったので、会議を進める事に。


 今回ニグレットは戦術指南として参加している。簡単に言うと会議に文句を言うだけなのだが、これが的確なので度々会議に呼ばれていた。


 現状の問題は魔物の大移動に対しての戦力不足。魔物が出る場所の予測は出来たが、広範囲に渡る。



「魔力溜まりが北西と南西に多く出現しているのは確認しています。現在魔法士団による確認作業をしている所です」


「アイリス・フォートも行っているのかい?」


「はい、魔法士団長は夕方頃に帰って来る予定です。何か伝言があればお伝えしますが…」


「いや、直接伝えるよ」


 トトが帰っている事をアイリスは知らない。ダンジョンがある西側の調査を自ら志願するくらいなので、早く伝えないとまた西側に行ってしまう。



「次に配置ですが、北、北西、西、南西、南に戦力を配置して魔物に対応する予定です」


「北と南には街があるけど、それはどうするんだい?」


「北に冒険者ギルドマスターを中心とした戦力、南にドーグを中心の戦力をと思ったんだが…俺が行くしか無いか…」


「ふーん。南は私が行こうか?」


「ニグレットが?」「不満かい?一応これでもランク6までなら対応出来るよ」


 この場の者達は、ニグレットがランク6まで対応出来るなんて聞いた事は無い。どよめきが起きた。



「本当か?」「信じないなら、この城で優雅にお茶でも飲んでいるさ」


「…分かった。暫定で南に配置しよう」


 ニグレットは引退前に、この国に恩を売ってむしり取ろうとしているだけなのだが、他の者はニグレットが戦場に出てくれると喜んだ。


 会議が終わり、ジーラスがニグレットを呼び止める。凄く嫌そうな顔をするニグレットと共に別室へ入った。



「さて、聞かせてくれ」「何を?」

「ドーグと闘ったヤツの事だ。知っているんだろ?」


「まぁ推測だけどほぼ確実だね。でも迷惑を掛けたくないから言わない」


「…ニグレットが人に気を使うなんて珍しいな。そんなに凄いヤツなのか?」


 ジーラスの頭にトトの顔が浮かんだが、まさかなと気持ちを切り換える。



「そうだね。ドーグは妹に近付く男を自分の基準で判断しているのは知っているだろ?」


「ああ、それが無ければ完璧な奴なんだが…」


「それで妹…ミランダちゃんを騙して利用していると思い込んで喧嘩売りに行ったんだよ。それで…くっ…やっぱりだせぇな」


「それで返り討ちにあってドラゴンキラーを折られた…か。でも不思議だな。そんなに強いならドーグだって慎重になる筈だが…」


「解らなかったんじゃないかい?強いってさ。じゃあ私は用事があるからさ」



 ヒラヒラと手を振って部屋を出るニグレット。ドーグは近くの椅子にドカッと座る。


「解らなかったのは…あー…レベルが無かったのか…はぁ…やっぱり彼か。じゃあドーグは彼を怒らせてしまったのか…バカ野郎」


 魔武器を折る程の事があったんだろう。そして、その後に続く王族との勝負。最後に見た、悲しそうな目は忘れられなかった。



「誰にも信用されず、罵倒され、理不尽な目に合っているのに…乱れぬ心。なんて心が強いんだ…」


 大きな力を持ち、自分が同じ目に合っていたら、誰かを殺していただろう。


「なんともまぁ…格好良い男だな」




 ______




 第二王女、クリスタの部屋。あの一件の後、部屋に戻ったクリスタはベッドにドサッと横になっていた。


「…はぁ」


「王女殿下、お着替えを」「いや、いいわ。一人にして」


「かしこまりました」


 侍女が退室し、疲弊した心を癒す様にゴロゴロとベッドを転がる。暫くすると聞き覚えのある声がした。


 コンコン。「殿下ー私ですー。マリアでーす。入って良いですかー?」「…どうぞ」



 扉を開けて入ってきた女性。第二王女派の魔法士団三番隊、マリア・ベレット。ベッドでゴロゴロしているクリスタに首を傾げた。


「お邪魔しまーす。…殿下どうしたんです?反抗期です?」


「違うわよ。ちょっと疲れただけ」


 起き上がり、少しボサボサになった緑の髪を直したクリスタがソファーに座る。侍女を呼び、紅茶を頼む。



「じゃあ生理ですか?あんまり紅茶は良くないんじゃないです?」


「…違うわ。たまたまよ」


「タマタマです?男を覚えましたね?」


「違うわよ!用件はなに!」


 キーキーしているクリスタに、マリアはそんなに怒らなくてもと文句を言いながら、マイペースに用件を告げる。



「アイリス団長の友達って人の目星が付いたんですよー」


「あら、本当?どんな人?」


「実際に見ていないんで、確実じゃないんですけどねー。団長ってよく北区にある丘に行くらしいんですけど、そこで男と話しているのを見たって人がいて…殿下、髪の毛が口に入ってますよ」


「ありがとう。気にしなくて良いから続きを」


「なんか変わった人らしいですよー。なんでも黒髪で、数無しで、聞いた事無い職業…」「ちょちょちょっと待って!」


 先程まで思い出していた人物の特徴を見事に捉えた発言にクリスタは慌てる。マリアは待ってと言われて首を傾げていた。



「そ、その人の職業は?」「んー?クソ男らしいですね。高度な隠蔽なのか解りませんけど、どの道レベルは誤魔化せないので数無しには変わりはありません。殿下?」


 いくら隠蔽や偽装で職業を誤魔化しても、レベルは変化が無いのが通説だ。


 アイリスに色々聞きたいが、今日の事を誰かに話したらトトは怒る。そうなったら何が起こるか解らない。



「…その情報は確か?」


「そうですねー。でも団長は魔力が高いですから、魔力が低い平民はあまり近付けないんですよ。そこは謎ですがねー」


「そういえば幼少期は魔力暴走の恐れがあるから、隔離されていたのよね?」


「らしいですねー。聞いても話してくれないんで詳しくは知りませんが。まぁでも、団長も罪な女ですよねー。数無しに貢がせるなんて」


 クリスタはあの強さを持つトトなら、友情の腕輪くらいの物は簡単に手に入れられるだろうと思うが、目の前にいるマリアに言っても信じないであろう。



「…それが解れば充分よ」「んー?ご期待通り落として来ますから安心して下さいねー」


「え?駄目よ!駄目駄目!」「なんでです?数無しなんて落とすの簡単じゃないですかー。大丈夫ですよ?自信あるんで」


「駄目よ。それに貴女、意中の人がいるんじゃなくて?ラライアが言っていた爆炎の戦士よね?」


「ふふふー、そうですね。あの綺麗な赤…必ずあの方を私が見付けてみせます。だから数無しなんて落として貢がせたらポイッですよー!ふふふー!ではまたー」


 マリアは以前ムーガスト家を護衛中に助けられていた。そして爆炎の戦士に一目惚れしてしまう。


 妄想に浸り始め、そのままクリスタの静止を無視して出て行くマリア。



「ちょっと!あー…もう…止めなきゃ。でもどうしたら…そうだ!私が行けば良いんだわ!偶然なら、会っても…良いよね?」

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