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流れの武器屋  作者: はぎま
迷宮・古壁の回廊
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ガッカリだねぇ

 特別訓練場へとやって来たトト、第一王子、第二王女、侍女達、騎士達。ここは主に王族や上級貴族が使う訓練場。豪華な体育館という様に、外からは見えない作りになっている。


 到着するとどうやら先客が居た様で、刃引きの剣で闘っていた。



 ギンッ!ギンッ!「はぁ、はぁ。参った」「ふむ…上手くなりましたね」


「はぁ、はぁ。でも、ジーラスに一太刀も入れられなかった」

「はっはっは!そりゃ、剣でご飯食べてますからねぇ。簡単に入れられると困りますよ」


 貴族風な男と大柄な騎士風な男が対峙し、ジーラスと呼ばれた大柄な騎士が勝利。勝負が終わるまで全員が黙っていたのはマナーなのか、技を集中して見たいが為かよく解らないが、トトには興味の無い物。



(さっきお腹一杯食べたから眠いなぁ…)


「流石は騎士団長だな。ジーラス」「これは殿下。本日の訓練は無い予定ですが?…ん?クリスタロス王女殿下もどうしたのです?」


「あぁ、ここを使わせて貰おうと思ってね。今からこの者と勝負をする事になったんだ」


「…レベルの無い者と勝負?何をお考えなのですか?勝負にならないでしょう…説明をお願いします」


(そういえばニグさんも城に居るんだっけ?)


 騎士団長のジーラス・ヒートは疑問しか無い。何故解りきった勝負をするのか。罪人という訳でも無い黒髪の男と何があったのか。一緒にいた貴族も同様だ。


 第一王子のアランと、第二王女のクリスタロスが説明していく。主にトハーシの作品を独り占めしているという様な内容だが、トトからすれば何言ってんの?という内容。


 だがトトは黙って聞いている。流石王族は話が上手いなぁと感心していた。



「そういう事ですか…ですが闘うというのは平等ではありません。ドド殿、考えを改める事は出来ないですか?今魔物の大移動が迫っているのです。力を貸して頂けないか?」


「…流石騎士団長さん、大人ですね。一応言っておきますが、俺は拒否権も無いまま急に連れて来られ、俺の財産を譲れと威圧され、自分達の有利な条件でトハーシの作品をむしり盗ろうとしています。これで、はい良いですよとなりますか?」


 不敬罪にもなりそうな発言。周りの騎士が抜剣しようとするが、ジーラスは止める。ピリピリとした空気。



「…それは本当か?」「ええ。ですがまぁ王族の発言が絶対なら、本当の事はねじ曲げられますからねぇ。俺みたいな数無しは、この後ここで消されます。事故として処理されるでしょうがね」


「デタラメを、数無し風情が」


「ほらね。真実を語れば敵が出来る…どの道俺は殺されます」


「……」


 話を聞いてくれるジーラスは多少なりとも信用出来る。だがそれ以外は敵と判断した。



「ジーラス、惑わされるな。こいつは詐欺師だ。良心につけ込んで利益を生む…トハーシの作品もこうやって手に入れたに違いない」


「そうよジーラス。騙されては駄目。闘わずして逃げる気よ」


「…殿下…ですが」

(まぁ騎士団のトップはまともなのが救いか…)



「よーし。そいじゃあ第一王子さん闘おっかぁー」



 アランとクリスタロスがジーラスを説得する流れをぶち壊すトト。


 闘わずして納得する結果を望んでいたジーラスは、呆気に取られた。



「えっ?あ、ああ。好きな武器を取れ」

「はいよー」


 壁に掛かった様々な武器。全て刃引きしてあるが、金属なので当たり所が悪ければ死んでしまう。


 その中で隅にあるナイフを取る。他の武器に比べて新品同様、ナイフは貴族に人気が無いのだろう。


(ふーん。魔鉄のナイフかぁ。訓練で魔鉄の武器とか流石王族貴族だなー)


「ナイフ、勝負を捨てたか?」「勝負は一瞬だな」「殿下…」



 対するアランは槍を手にして構えている。どんな相手にも全力を尽くす様な姿勢が見て取れた。


 審判として中心にジーラスが立つが不安な表情。その視線はトトに対する心配と、アランに対する暴走して殺さないかという心配。



「その背中にある剣を使っても良いんだぞ?超絶クズな剣…お前にお似合いの剣じゃないか」


「あー…これ抜くと騎士団長さん以外全員死ぬから使えないんだよ」


(なんだあの剣…寒気が止まらん…こんな事は初めてだ)


 所詮ハッタリかとジーラス以外は思う。破壊の力で本当に死ぬから言っているが、どうせ信じて貰えないので本当の事を伝えた。



「それでは…正々堂々とした闘いを。始め」


「刺突!」シャッ!


「む?外したか。運の良い奴め」「運には自信があるんだ(不運だけど)」


「……なんと」

 アランの突きをナイフの腹に当てて受け流す。速すぎてアランが刺突を外した様にしか見えなかった。



「連突!」シャッ!シャッ!シャッ!


「……」「何故当たらない?腕が鈍ったか?」


「…殿下(気付かないのか?)」「騎士団長さん。助言は正々堂々に反するんじゃないですかい?」


「…すまない(駄目だ、技量が違いすぎる)」


 アランの猛攻。しかしトトは立っているだけで動かず、当たらない。



 シャッ!シャッ!「何故だ何故だ!」

 周りの者はアランが遊んでいるものと思い、不思議に思わない。それだけレベルが無い者が勝つには難しい闘いだ。


 シャッ!シャッ!

「はぁ、はぁ。お前何をした!何か私に術を掛けているのだろう!当たらない筈は無い!」


「…(うーん、どうしよっかなー)」



 しかしアランの様子を見て次第にざわざわとしだす。もうとっくに勝負が決まってもおかしくない。なのにアランが疲れている。


「もしかしたらあの男…お兄様に何か卑怯な術を使っているんだわ!当たらないなんて絶対におかしい!許せない!」


「ドド殿、良いのか?」


「それもそうか。やるか…超手加減パーンチ!」


 ドゴッ!「ぐはぁ!」トトの超手加減パーンチで転がるアラン。


「「「…は?」」」


「ぐ…なん…だと…」「いやーなんか飽きたから終わらそう。っと超手加減…」「待て!終了だ!ドド殿の勝利だ!」


「ジーラス!私は…まだやれる!」


 負ける事は許さない。ガクガクと震える膝でなんとか立ち上がるが、立つのがやっと。トトは笑いを堪えていた。



「殿下、無駄ですよ。今まで攻撃を受け流されていた事にも気付かない様じゃ、何があってもドド殿に勝てません」


「そんな筈は無い!こいつは卑怯な術を使っているんだ!」


「はぁ…ガッカリだねぇ。そうは思いません?騎士団長さん?」


「…すまない」


「いや、騎士団長さんみたいな人が居るなら良いですよ。王族貴族なんて大体こんなもんじゃないです?」


 事態を受け入れられずに喚くアランとクリスタロス。それを見たジーラスはトトに謝る事しか出来ない。自分よりも強い者が評価されない悲しみが見えた。



「騎士団長さん…ちょっと悪いけど、我慢して貰って良いです?」


「何を?」


「悪者にされるなら貫こうと思ってね…タケル、頼む」



 ズンッ!一瞬にして訓練場の空気が変わる。温度は下がり、動けない程の重圧。


「ぐっ…ドド殿…これは…」「う…あ…ああ」「嫌嫌嫌…」「ひぃ…」



「ほんと、ガッカリだよ。俺を対等に見てくれるなら…無償で譲る事も考えていた」


 全員が膝を付き、トトの方を向いている。まるで、トトに跪いている様に。



「なぁ第一王子、言ったよな。望みを叶えてやるって」


「…ぐ…あ」「言ったよな」


 コクコクと首肯くアラン。命だけはと言っている様に必死、それほどまでに心を鷲掴みにされる恐怖に支配されていた。



「別に殺しゃしねぇよ。ここにいる全員に約束して欲しい。俺は静かに暮らしたいんだ…今日あった事、俺に関して誰にも言わない。国は俺に関わらないと約束してくれるか?」


 全員がコクコクと首肯く。


「それは国に誓って約束してくれるって事で良いか?」


 約束を守るとは確実に言えない。トトの冷たい視線にアランとクリスタロスはビクビクしていた。


「あ…ああ…この、国に…誓おう…だから」


「ふーん。信用出来ないな」


「お願い…しま…す」


 ジーラスは驚愕していた。これ程までに力の差があるのかと。



「まぁ良いや。もし約束を破ったら…そうだなー。…正面から遊びに来るわ」


 正面から城に乗り込む。それだけは勘弁して欲しいと願う一同。


 トトはアランとクリスタロスから視線を外し、ジーラスに向き合い頭を下げる。


「すみません騎士団長さん。俺はこんな方法でしか解決出来ません。後は頼んでも良いですか?」


「ああ…任せてくれ。本当にすまなかった」


「はははっ、謝らないで下さい。非があるのは王族ですからね」


 謝りもしない王族をチラリと見たトトと、乾いた笑いを浮かべるジーラスは笑い合い、トトは窓から飛び立つ。


 トトが去った後に威圧が解け、一同は茫然としていた。




「はぁ、はぁ。くそっ…」「殿下、もし深追いする様なら私は騎士団を辞めますよ」


「解ってる…皆の者!今日の出来事を口に出す事を禁ずる!良いか!」


「はい!」「了解しました!」「はい…」


「ジーラス、アイツはどれぐらい強いんだ?」


「私よりも」「_っ!そうか…惜しい事をしたな…いや今更か…」


「そうですね。それと殿下、もし偶然彼にあったら謝る事をお勧めしますよ」


 王族は軽々しく謝ってはいけない。それは知っているがトトには関係無い事。


「…考えておく」


「ふふっ、では会議に遅刻していますのでこれで…」


 ジーラスが去っていき、それでも恐怖に支配された心は晴れない。


「……」「クリスタ、大丈夫か?」


「ええ、大丈夫…です。あの…私のせいで…ごめんなさい…」


「ああ、今回は私に非があるから気にするな。もうアイツの事は忘れよう」


「あの方を忘れるなんて…出来ません」


「そうか、あれだけの力を見せられたらな…今はゆっくり休め」


「はい…」







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