仲良くなる必要なんて無いよな
門をくぐり、人気の無い王都の外。そこに向かい合う二人の男が居た。
大剣を背負い、ポキポキと手を鳴らす男。
「俺はドーグ・サラス。お前に聞きたい事があってな」
同じ様に黒い剣を背負い、遠くの空を眺める男。
「あっそ。俺はトト、ドド、どちらで呼んでも構わない。今日はしたい事があったのに、何処かのヤンキーに絡まれて散々だなぁ」
ドーグが威圧的に話し掛けて来るが、トトは興味無さそうに接している。それが火に油を注ぐ結果になるが、トトは気にしない。もう大分呆れているからだ。
「…ふざけた野郎だな。お前何者だ?その強さで俺の威圧を受けてんのに表情1つ変えねえ。何を隠している?」
クソ男、強さ1という有り得ない職業と数字。不審に思うのは当たり前だが、クソなピアスを取っても強さ5になるだけなので、トトはクソなピアスを外して証明する気は無い。
「男はただのクソ男。クソに生き、クソを愛し、クソに愛された男だ」
「…意味解らねえ奴だな。とりあえず妹に近付くな。ミニャちゃんから聞いたが、どうしようもない程にクソ野郎らしいな」
「ほぅ。内容を聞いても?場合によっては名誉毀損だからねぇ」
猫耳ピチピチお姉さんは、どうせ有る事無い事言い触らしてんだろう。強さに拘る獣人が聞いて呆れる。会ったらどんな仕返しをしようか考えを練りたいが、とりあえず目の前のヤンキーをどうするか悩む。
「俺の妹の弱味を握り、脅しているんだろ?弱い癖に威張り散らし、強い者の腰巾着。無能。数無しクソカス野郎。ミニャちゃんの事もいやらしい目で見てくる変態。社会のゴミ…」
「(おー、1つだけ合ってたな。ってかミランダさんの方が俺の秘密を握っているから逆だし…)ふーん。気持ち良いくらいの悪口だな。で?」
「お前を生かしてはおけない。妹が不幸になる」
「仲間さえ良ければそれで良い、なんとかヤンキーみたいだなー」
ドーグは大剣を抜く。
≪竜殺・ドラゴンキラー、ランクS、攻撃2200、竜特攻・竜剣・竜魔法≫
(へぇー、魔武器。本当に俺を殺す気なのか…)
分かり合えない思考の持ち主。人の評価だけで判断して先入観のみで接する。正直こんなのがSランク冒険者という落胆を感じた。
「はぁ、はぁ、兄さん!何をしてるの!」
(でも、自慢の兄を目の前でボコボコにするのは気が引けるなぁ)
「ミランダ、お前の為だ。兄ちゃんが苦しみから解放してやるからな」
「何言ってるの!駄目だよ!剣を納めて今すぐ謝って!(兄さんじゃ絶対トトさんに勝てない!)」
(早く帰りたいなぁ。ミランダさん凄い剣幕…)
「分かってるよ。脅されているんだろう?」
「あー!もう!バカ兄!ミニャの言う事を真に受けて!」
キーキー怒っているミランダを新鮮な気持ちで眺める。兄妹喧嘩を客観的に見ると面白いなと思っていた。原因はトトにあるのだが。
ドーグと話すのを諦めたミランダがトトにお願いする。「どうか殺さないであげて下さい…こんなんでも兄なので…」
「思う所はありますが、ミランダさんの身内なので殺しはしませんよ。ただ…」
ギンッ!「何!」不意討ちで振り下ろした魔剣がトトの左手人差し指で止められる。
「なっちゃいないねぇ…Sランク冒険者がDランク冒険者に不意討ち?」
「なん…だ。お前は!」「…」「あぁ…もう…バカ兄…」
もっと男らしい人物を想像していたトトは、もうドーグに興味は無い。実際はミランダが関わらなければ男気溢れる人気の冒険者なのだが、状況が悪かった。
剣を抜き、ドーグを止めようとするミランダを手で制す。
「ミランダさん。兄妹喧嘩で剣を抜いたら駄目ですよ」
「ミランダ、こいつを殺したい気持ちはよく分かる。だけどミランダの手を汚す訳にはいかない。兄ちゃんに任せてくれ」
「…はい…トトさん分かりました。…ほんと恥ずかしい…もういや」
(身内って恥ずかしいよなぁ…おっ、猫耳ピチピチお姉さんも来たのか。もう1人も元パーティーメンバーかな?)
ドーグの自信は何処から来るのだろうと思っていたら、どうやら元凶がやって来た様だ。50メートル先にミニャともう1人の姿が見えたが近付いて来ない。
「ん?ミニャちゃんとドニーちゃん来ないのか?もしかして、あの二人も脅しているのか…」
何やら少し身体を縮ませて震えている様に見える。ミニャの猫耳がペタンと閉じていた。
(破壊神剣が威圧を放ってるから…そりゃ来れないよなぁ)
カタカタと背中の剣が揺れる。自分を使えと言っている様に。
「…ミランダさん。よくあんな人達と付き合えますね。尊敬しますよ」
「…普段はあんな感じじゃないんですよ。ほんとすみません…」
「くっ、お前はもう喋るな!竜殺剛撃!」
ギンッ!左手で受け止める。「何故だ!竜殺連撃!」ギンッ!ギンッ!ギンッ!
「…はぁ…タケル、頼む」
ズンッ!破壊神剣の威圧がドーグを支配。
「はっ…くっ…威圧…だと…」
膝を付き、まともに息が出来ない程の重圧。
どんな魔物に威圧を受けようとも立ち向かい、勝利を掴んできたドーグに取って人間に威圧され立てなくなるなんて事は大人になってから一度も無い。
「何が一番効果的かと思ったんだけど、プライドをへし折る方が良いかなって」
「くっ…あっ…卑怯…者」
「卑怯?言葉を返すよ。格下だと思っている奴に威圧を放ち、話を聞かずに罵倒し、不意討ちで斬り付ける…」
ドーグの前に立ち、ドラゴンキラーを手に取る。左手でバキッ!っとへし折った。
「な…んだと!」ポイッと棄てられたドラゴンキラーを眺めて茫然。
それを無視してミランダに向き合う。
「すみません。つい魔武器を折ってしまいました。あの人が本気で謝る気があるなら直します。まぁ無理でしょうけど」
「いえ、良い薬になったと思います…本当にすみません…」
「ミランダさんが謝る必要はありませんよ(本当に、俺は何をやっているんだろうな)」
威圧を解いても茫然としているドーグをミランダに任せ、ミニャの方へ歩き出す。
「う…ああ…」「来ない…で」
「どうしたんです?そんなに怯えて。…数無しクソ男に怯える気分はどうですか?と言っても喋れませんよね」
正直どうでも良かったが、トトはこれだけは言いたかった。
「弱っ」
「_っ!」「_くっ!」
少しだけ気が晴れたので、黒ギルドに向かって歩き出す。
「この調子だと…そろそろ王都に居るのは限界かな」
残された者は、茫然とする者、震えが止まらない者。
ミランダは「もう限界…また前みたいに皆邪魔ばかり…それにしても、どうして金属音がしたんだろ…」
項垂れるドーグを引き釣りながら王都に帰っていった。