誰か居ました
「……」
夜中、背景と同化したSGドラゴンで北区の丘に着陸。秘境から王都まで数分で到着した事に驚きながら宿に到着し、鍵を受け取ったトトは眠い目を擦りながら自分の部屋の扉を開けた。
「……」
バタン。そして、部屋に入らず扉を閉める。
「部屋間違えた?…いや合ってるな。それに寝ているのは」
赤い髪の人ともう一人寝ているがよく見えない…見覚えのある人が自分のベッドで寝ている。これは声を掛けた方が良いのか、見なかった事にして秘境に戻った方が良いのか悩む。
とりあえず入ろう。ゆっくりと部屋に入り、ベッドはスルーしてソファーに座る。お蔭で眠気が吹き飛んだのでボーッとしていた。
(暇だな…起きるのを待つと朝になるし…)
仕方無いから起こそう。まだ日付は変わっていないから大丈夫と思いながらベッドの前に立った。
「あの、起きて下さい」
「「…」」
「…起きて下さい」
「「…」」
「…あらぁーん。いやぁーん。ばかぁーん」
「…「…」ぷっ」
「やっぱり起きてんじゃねえか…ニグさんなんでここで寝てるの?もう一人は誰さ」
「くくっ、おかえり。トト」
バレたかぁーとニコニコしながら起き上がるニグレット。裸なんじゃないかとヒヤヒヤしたが、寝間着だったので安心。もう一人は本当に眠っているので起きないみたいだ。
「襲ってくれるかなって待ってたんだけど、つれないねぇ」
「襲いませんよ。で?なんでここで寝てるんです?」
「少しでも早くトトに会いたかったんだ」
「別に伝言くれれば直ぐ会いに行きましたよ「愛だな」違います。トリスの面倒を見ててくれたお礼をしたかったんで。ニグさん、ありがとうございます」
「ふふっ、良いんだよ。明日帰ってくるから顔見せてやりな。トリスは相当心配してたんだから」
私も心配していたよと言われて素直に受け止める。心配を掛けてしまったのは事実なので、ニグレットに何かプレゼントをしたいが、輝くブラとパンツしか思い浮かばない。今出すと面倒になりそうなので保留にしておく。
「ところで、そちらの人は誰です?」
「ああ、そうだったねぇ。おーい、起きろー。トトが帰って来たぞー」
「ん…朝ですかぁ?」
布団からもぞもぞと顔を出したミランダ。辺りを見渡し「はえ?…トト…さん?」
「あっ、どうも。おはようございま_「トトさん!無事だったんですね!っきゃ!」_ぐぼっ!」
ミランダがトトに抱き付こうとしたが、よろけてトトにラリアット。
不意討ちで悶絶するトト。どうしよう…とあたふたするミランダにニグレットが呆れ顔。
無事…再会を祝う事が出来た。
「すみませんすみません!」
「ヤバい所に入りましたが、自動回復があるんで大丈夫ですよ。ミランダさんも無事に帰る事が出来たみたいで良かったです。来週クソイケメンは殴りに行くのでミランダさんの分も殴っておきますね」
「来週?ホークは今帝国に向かっている。馬車で1ヶ月は掛かるからまだホークも到着していないと思うぞ。今から追いかけたらいつになるか…」
「あぁ…確か国境にある大きな川の渡し船の順番待ちで時間が掛かる話ですが、ホークの事だからもう帝都に着いていると思いますよ。それに、俺は早く行ける秘密の手段があるので…」
船の順番待ちで長くて1ヶ月掛かる事もあるという。だがダンジョンに行く前に、激流の靴を渡しているので走って川を渡っている筈。
ホークアイがトトと分かれてから約2週間。明日辺りには到着していると思いたい。
因みにホークアイが勇者になったというのは直ぐに上流階級の中で広まった。連日求婚や貴族の使いがやってくる始末だったので大変だったらしい。
トトもダンジョンでの出来事をサラッと報告。アゾットゼルク・ゴーレムを倒したくらい言っても良いかと判断。頑張ったよー程度に言っているが、1人で1週間以上に渡るダンジョン探索は頑張ったよーで済まされる物では無い。
ニグレットは大丈夫大丈夫というトトに、いつも通りだから本当に大丈夫なのかなと深く聞かないでいた。
報告や雑談を織り込んで話をしていく。
「あっ、不壊の勇者って知ってます?」
「ん?不壊の勇者なら絵本にもなっているぞ。帝国方面の物語だな」
「へぇー。どんな話なんです?」
「まぁよくありがちな、勇者が魔王を倒す話だな。倒すまでに色々旅をして、魔物に襲われた町や村を救ったり、氷の巨人と闘ったりして力を付けた勇者が魔王を倒すんだ。その後は少し話が続いて、大陸を回って闘技大会に出たり、勇者の偽者が現れたり…最後にお姫様と結ばれてめでたしめでたしかな」
「そうですか…偽者が出た時の話を詳しく」
「なんだったかなー。あっそうだ。ターケルっていう偽者が人々を騙すんだ。俺が勇者だってね。だが本物の勇者が嘘を暴いて最後にはターケルは処刑されるんだけど…ってどうしたトト?」
「…いえ、ありがとうございます」
これ以上聞くと泣きそうになるので、話題を変える。丁度ミランダが居るので武器を渡す事に。
星剣・メティオールブレイドを取り出し、ミランダに渡す。首を傾げていたミランダの顔が次第に青褪めていく。
「いや…あの…これ…」
「とりあえずそれ使って下さい。メテオブレイドはメンテナンスしたいので預かります。ん?なんですか、ニグさん」
ニグレットがトトの袖を引っ張る。私も欲しいなー…と羨ましそうに口を尖らせて少し拗ねていた。
「ニグさん、その仕草まじで可愛いですね「…」…ニグさんってどんな武器使うんです?「短剣、細剣、暗器」…了解です」
ニグレットには世話になっているので、武器を作るのに問題は無い。
ミランダはボーッと星剣を眺めている。それを眺めながらの話が終わり、部屋を出ようとするトトを抱き締めて捕まえるニグレット。
「あの、離して下さい」
「嫌だ…_あれ?」
「嫌だが嫌ですね。…では朝に黒ギルドで会いましょう」
優しくニグレットを放して部屋を出る。抵抗するかと思ったが意外に素直なニグレットに首を傾げながら、宿を出てSGドラゴンで秘境へ戻った。
「トト…手が……なにが大丈夫だよ…」