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流れの武器屋  作者: はぎま
迷宮・古壁の回廊
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帰って来たけど…

 バシュン。ダンジョンの最深部から入り口の帰還場所に転移したトトは、ダンジョンを出て久々に外の空気を味わった。時刻は午前2時。真っ暗だったが気にせず王都を目指す。


「あー、危険が無いって素晴らしい。あれから何日経ったんだろう?ダンジョン研修で2日、ホークとミランダさんとの探索で3日か4日?、後はソロで…1週間くらいかな?あっそうだ。風呂入ろう」


 街道から逸れてかなり離れた場所。そこに結界石を設置して、空間テントを出す。中に入り黒色宝箱を設置。空の宝箱にお湯を溜めて身体を洗い、宝箱に入った。


「はぁー…気持ち良い…黒色宝箱は丁度良い大きさだな…保存が効いているのかお湯の温度が下がらない。これは良い」


≪黒色宝箱、ランクーー、保存・不壊・清潔、ブラックマギハコイトで出来た高性能な宝箱≫


「素材が凄いな…マギハコイト…箱だから?まぁお風呂じゃ勿体無いか…魔導具店で探そう」



 お風呂から出ると、急激な眠気が襲う。フラフラになりながらベッドに入り就寝した。



 暫くして起床。


「…やっぱり睡眠は大事だな」


 外をみると暗い。どうやら丸1日寝ていたようだ。


「深夜3時か。結界石は作動しているから誰かが入った様子は無いし、ちょっとゆっくりするか」


 結界石は起動したら結界石を壊さない限り結界内を出入りする事は出来ないので、ホッと安心しながらテントに戻る。



 設置してある権力者の椅子に座りながら、宝箱にあった大陸地図を眺める。


「ノール王国は無い。東にあるロドニア帝国の方に街はあるけど…ここらへん一帯はミリアン大帝国って名前だな…おっ、トリスの故郷のヴァイラ王国はあるなー。歴史が古いのかな?」


 身体を休める様にダランと座る。火傷の痕が目立つ身体。回復はするが再生はしなかった。



「左腕もそうだけど、火傷痕も酷いな。身体を元に戻さないと…」


 このままじゃ年中長袖。生きているだけマシだが、代償は大きかった。


「レベルが無いのに欠損と火傷なんて、周りから不憫に思われるんだろうな。でもこれは、タケルと闘った証でもあるから馬鹿にされたらキレそうだ」


 トトの言葉を聞いて、勉強机に置いてある破壊神剣が喜ぶ様にカタカタと揺れる。死してなお世界の破壊を願った同郷の男。ほんの短い間の闘いだが、タケルの事はトトの心に深く刻まれている。



「少しだけタケルの記憶が見えたけど、不壊の勇者か。歴史書とかに載っていれば良いけど…予想だと帝国かヴァイス王国なんだよなー」


 タケルを裏切った国の末路が知りたい。そう思うようになっていた。


 大きく伸びをしてからテントと結界石をしまい、王都へと走る。体力は回復していたので、数時間もあれば着きそうだ。


 街道から外れてのどかな道を進む。遠くの方に大きめの魔物が何体かいたので、バシュンと撃ち抜きながら。



 やがて昼前に王都へと到着。懐かしさを感じながら冒険者用の門をくぐる。


「着いたー。とりあえずニグさんの所に行くかー」


 真っ直ぐ歩き、黒色ギルドへ。受付でギルドカードを提出。その後に2階にあるニグレットの部屋へ。扉をノックした。


 コンコン。「……」

 コンコン。「……居ないか」


 反応が無かったので部屋を後にする。


「じゃあ次は…宿かな」

 トボトボと宿へ。お金は前払いしてあるので、まだ部屋があってほしいと思いながら宿へと到着。


「おかえりなさいませトト様」

「あっ、どうも。ホークは居ますか?」


「戻られて居ませんよ。不在時にトト様がいらしたらこれを渡す様にと」


「あっ、どうも。因みに最後に泊まってから何日空けてました?」

「2週間ですよ。今日の曜日は火です」


 手紙を受け取り、宿の部屋へと入る。


 荷物は置いて無かったので、綺麗な内装に変わりは無かった。早速手紙を読む。



「えーっと。……ホークは中立連合の支部がある帝国に行ったのか…辞める為に手続き等があるから長くて数ヶ月掛かるって…居ないの!?まじかよ!折角幻の左をお見舞いしようと思ったのに!」


 身代わりの指輪を鳴らす程の一撃をお見舞いしようとしていたトトは落胆。


「後は…トリスは学校に行ってるのか。へぇー。学校に入らなくても臨時で授業を受けられる場所があるんだなー…しかも寮付き…流石は王都だな。保護者はニグさんかな。俺じゃ考え付かなかったから、会ったらお礼を言っとこう」


 平日は寮で、週末はニグレットの元に帰る。勉強してトトの役に立ちたいとトリスが自分から言ったらしく、一緒に居たいニグレットは落ち込んでいたが、ニグお姉ちゃんと呼んだらご機嫌になったそうだ。


「んー…トリスとは付き合いが短いから少ししか話して無いけど、好かれてて良かった。今は平日だから会えるのは3日後の夕方か…後は…ミランダさんにも報告した方が良いよなー…後で行くか」



 ニグレットには帰還の報告をしなければならないので、夕方にもう一度行く予定。それまでは暇なので、気晴らしに買い物へ事に。


「恐らくホークの奴は、貴族達の求婚がウザくて逃げたな。それしか考えられん」


 ウンウンと頷きながら、商業エリアを進む。目指すはサムスン魔導具店。


「クルミナさん居るかなー。あっ、居た。良かったー」


 少し歩くと到着。前に来た時と同じ、ガラスが多く使われている清潔感溢れる作り。迎えには相変わらず金ピカな店。



「いらっしゃいませ…(何この人…クソ男?)」

「あっ、どうも(クルミナさん可愛いなー)」


「……(うーん…レベルも無いし、流石に帰って貰った方が良いかな?…でも何処かで会った気が…)」


「あの、見させて貰っても良いですか?(あれ?なんだか険悪な雰囲気…)」


「いえ、申し訳ありませんが退店していただいても宜しいですか?」


「え?あ…はい…(…まぁ商売だし…一時の繋がりなんてこんなもんだろうなぁ…)」



 クルミナが帰れと言わんばかりの威圧感を放つ。トトが前に来た時と髪型と職業が違うのが原因だが、2週間以上前の事なので忘れていた。


 そこまでこの店に執着していないので、素直に魔導具店を出て腕を組み考える。


「どうしよっか…迎えの店に入るのはなんか嫌だし…そういえばアホークがマニアックな店があるって言ってたな」



 魔導具店街にあると聞いたマニアックな店。行きたいと思っていたので、気を取り直してそちらに向かう事に。クルミナがチラ見をしていたのでそそくさと移動。


 2つ隣にあったので直ぐに発見。縦積みの魔導具やらがあり、デザインが変な物も多いが面白そうだと中に入った。


「…いらっしゃい」

「見させて貰いますねー」


「ちょっと待て」

「はい?(もしかしてここもダメ?)」


 ヨボヨボのおじいさんがトトを呼び止める。そしてトトの装備をまじまじと眺め、カッと目が開かれた。


「これは…お主、名前は?」

「?トトですが…」


「ふぉっふぉっふぉっ、聖剣とな。死ぬ前に良い物が見れたわい。良かったら身に付けている武器達を見せてくれんかね?」


「おー!見破られたのは初めてです!秘密にして下さいね!」


 トトは嬉しくなり、腰に差している超へっぽこな剣を引き抜きおじいさんに見せる。


≪聖竜剣・セイントリヴァイヴァー、ランクーー、聖竜ーー、ーーー、ーーー≫


「ふぉー!聖竜様の剣だと!素晴らしい!…トト君!ありがとう!」


「はははっ、この剣も喜んでいますよ」


 少年の様に目を輝かせ、喜ぶおじいさん。聖剣を直に見るのが夢だったらしく、ニコニコと笑っていた。急な事でビックリしていたトトも、喜ぶおじいさんに顔が綻ぶ。



「ふぅー。ありがとう。もう思い残す事は無いわい」


「良い思い出になれて良かったです。中を見させて貰って良いですか?」


「ああ!見ていってくれ!といっても年でな…今月で店を畳もうと思っていたから大した物は無いんじゃがな!」


「いえいえ、面白い物が沢山ありますよ!この靴とか壁を歩ける奴ですよね?この杖の素材とかエルダートレントですし」


 よくよく見ると掘り出し物が沢山。使わない様な物でもデザインが渋いので飾っても良い程だ。



「ふぉっふぉっふぉっ。ありがとう。全部適当に処分する物だから欲しい物があれば譲るぞい?」


「いえいえ貰うなんて出来ません。…そうだ!全部処分するなら全部買います!」


「ふぉっ!?何を言って…全部なんて黒金貨10枚は…はふぁ!?」


 トトが出した金額。鷲づかみにした黒金貨40枚程。


「……」

「あっ、足りなかったです?「いやいや多すぎじゃ!黒金貨10枚でもお釣が出るぞ」そうですか。じゃあこれで買います」


「いやいや多すぎじゃ!」

「全然多く無いですよ。この店全部…おじいさんの思い出も一緒に買うんですから安いくらいです」


「……」

「安いでしょ?」


「…大した奴じゃな。まけにまけて黒金貨40枚じゃ」

「くくっ、買った」



 おじいさんと笑い合い、握手を交わす。


 店は教室程の大きさ。テナントなので、中の商品のみ収納していく。トトが持つ収納の容量におじいさんは驚くが、今更かと掘り出し物を見付けて喜ぶトトを眺めていた。


 収納が終わり、おじいさんがお茶を入れてくれたので、思い出話を交えつつ雑談していた。おじいさんの名前はロミオ。奥さんは10年前に他界している。



「してお主は勇者なのかい?」

「いんや違いますよ。武器師っていうレベルの無い職業です。まぁなんと言うか、変な職業ですが俺はこの職業が好きなんですよ」


「ほぅほぅ。珍しい職業じゃな。冥土の土産話になりそうじゃ…ただ気を付けるんじゃよ」


「分かってますよ。逃げ足には自信があるんで。ところで、ロミオさんはこれからどうするんですか?隠居ですか?」


「帝都に娘と孫が居るからその近くに住もうと思ってな。孫は丁度トト君と同じくらいじゃぞ」


 もう店の後片付けは無いので、貴重な荷物は収納カバンに入れたら、もうこのまま出れる状態らしい。



「じゃあ旅の無事を祈って、これをどうぞ」


≪幸運のコイン、ランクB+≫


「こんな貴重な物、老いぼれには必要無いよ」


「じゃあ今度帝都に行くんで、その時に返して下さい」


「…ほんと、頑固じゃな」


 ロミオと話し込み、気付いたらもう夕方なので空っぽの店を出る。ロミオは宿に泊まり、商業ギルドで手続きをしてから帝都へ向かうそうだ。


 店の前でトトとロミオは握手を交わす。



「本当にありがとう。人生最高の日だ」


「やめて下さいよ。俺が奥さんに怒られちゃいます」


「ふぉっふぉっふぉっ。違いない。ふぉっ、クルミナちゃん世話になったな」


「あっロミオさんこんにちは。どうしたんです?」



 ロミオがサムスン魔導具店の前で掃除をしていたクルミナに声を掛ける。1軒挟んで隣なので交友があった様だ。


 クルミナはトトに目をやり「あっ…さっきの」眉を潜める。トトは先程の事があったので気まずい。なので逃走を図る。



「じゃあロミオさんまた!」


「ふぉっ!?ありがとうな!トト君!」


「え?…トト?」


 クルミナがトトの方を向いた時にはトトの姿は無く「え…嘘…」掃除用具がカランと音を立てた。



「……ロミオさん。彼は武器師のトトさんなんですか?」


「なんじゃ、知り合いか。今時あんな良い男は中々居ないぞ?」


「そんなぁ…私のバカぁ…」



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