最深部
王城にある一室。
魔法士団長アイリスの執務室にて。
コンコン。「団長、お客様がいらしてます」
「む?来客の予定は無いが、どなただ?」
「中立連合のニグレット様です」
「…会おう」
「了解しました」
アイリスにとって、ニグレットはあまり接点の無い人物なので、疑問に思う。数年前に中立管理官との顔合わせで会って以来、会議や王城で見る程度なのでまともに話した事は無いからだ。
対面のソファーに座り少し待つと、赤い髪を靡かせたニグレットが入ってきた。
ニグレットがソファーに座り、メイドが紅茶を出して退室。
「急に悪いねぇ。会ってくれてありがとう」
「いえ、丁度一区切り付いた所。何か用事でも?」
「ああ。用件はあるが少し話がしたくてね」
ニグレットは指をパチンと鳴らす。すると防音の魔法が発動した。
「この部屋は元々防音だが?」
「知っている。だが、優秀な者には通じないだろ?」
「…」
ニグレットはチラリと扉を見る。軽く首を振り、聞き耳を立てている者が居ると暗に伝える。
「とりあえず先に用件から。私とホークアイは中立連合を辞める予定だから、その内代わりが来る。その時は宜しく」
「…そうか。二人とも人気だったのに辞めてしまうのだな。辞めたらどうするのだ?」
「まだ予定だし、動くのは魔物の大移動が終わってからかな。辞めたら…働き詰めだったから、少し休暇を楽しもうと思う。…アイリス・フォート、その腕輪素敵じゃないか。プレゼントかい?」
ニグレットはニヤリと笑い、友情の腕輪を指す。すると部屋の温度が少し下がった。
「ああ…別にいいだろう」
「くくっ、警戒するな。トトからだろ?」
「…知り合いか?」
「王都に来る前からの付き合いさ。だからこの城の連中みたいに探る気は無いよ。それにしても友情ねぇ…」
高性能の腕輪をプレゼントする者。探られるのは当たり前だ。アイリスは尾行されているのも知っているが、城の者が動いているのでどうする事も出来ない状況だった。
「そうか…貴女はトトの味方なのだな。…トトはダンジョンに行くと言っていたが、帰って来たのか?」
「ホークアイが言うにはまだダンジョンに居るらしい。あのクソイケメンに会ったら殴っておけよ」
「む?どういう事だ?ホークアイも一緒に行ったのだろう?」
「ダンジョン下層にてクラス7と遭遇。「え?下層?」トトが囮になり、ホークアイとギルド員のミランダは脱出出来た。「なんだと…」幸いトトは転移石を持っているから死ぬ事は無いというが、いつ戻るかは解らない状況」
ニグレットの報告にアイリスが沈黙する。何故レベルの無い者を下層にまで連れて行ったのかが理解出来ない。怒り、それよりも焦燥感が溢れた。
フラリと立ち上がり扉へ向かおうとするが、ニグレットが止める。
「…ダンジョンに居るなら…探しに…行かないと」
「待ちな魔法士団長さん。あんたがここを留守にしたら駄目だろ?」
「だが……そう…だな。…ニグレット、私は魔法士団長という立場に誇りを持っている」
若くして魔法士団長という立場に選出されたアイリスは、王都市民、特に女性の憧れでもある。
「まぁ、だろうな」
「だが…初めてこの立場が邪魔だと思ってしまったよ。友人を助けに行けないこの立場が…」
「…そうかい。まぁ大丈夫だから安心しな。今頃転移石を使って何処かに飛ばされてるから。…あっ、そうだ。私な、トトにプロポーズしたんだ」
「……は?」
「おっと、もう時間が無いからこれで。話せて良かったよ。またな、アイリス」
硬直しているアイリスを置いて、ニグレットがニヤニヤしながら退室。
扉の前に居た魔法士団員とメイドに手を上げて挨拶をし、王城を後にする。
「アイリス・フォートにあそこまで言わせるとは、トトも罪な男だねぇ。アイリスは自分の気持ちに気付いていないみたいだけど、氷が溶けるのは時間の問題か」
ため息を付き、天を見上げる。アイリスに安心しろとは言ったが、実際ニグレットは不安で仕方無い。
「あんな良い男、死ぬには惜しいな」
とりあえずホークアイは殴ろう。そう心に決めてトリスの元へ帰っていった。
______
「あー…身体が痛い」
トトはカミルとの戦闘を終え、長い階段を下りていく。
「誰にも邪魔されない場所で武器を作りながらゆっくりしたいなぁ…無人島とか?うーん…飛行機とか作るなら素材は何がいるんだろ?逆算するか……魔合金、Sランクの四大属性石もしくは精霊石、クラス7以上の魔石…安定飛行させるなら重力属性がいる…か。最低限の物は全身タイツを倒せば揃いそうだ」
打倒全身タイツ。正面からの攻撃が通じないのと、再生能力が厄介。
「呪怨砲が届けばなぁ…跳ね返されて苦しみながら死ぬ未来しかねぇな。っと着いたかな」
階段が終わりを迎え、地下47階に到達。
「あれ?普通の石ダンジョンだ。46階だけ雪原だったのか」
地図を作成して確認。するといつもの内部構造。
「隠し部屋もあるな。とりあえずそこに行こう」
宝箱を求めて隠し部屋へ。いつもの様に壁をぶち抜きながら進む。
「魔物は居ないけど、罠が多いっぽいな。罠解除出来て良かった」
隠し部屋への壁をぶち抜き金色宝箱を発見。期待を込めて中を確認した。
≪海の宝珠、ランクS≫
「良い物だ。大地の宝珠もあるから、後は風と炎かな?」
≪名も無き王の冠、ランクA≫
「んー、効果は無いかな。豪華な冠」
≪剛槍・ダイナソーエッジ、ランクA、攻撃1560、腕力上昇≫
「強いなぁ。でも魔武器にしてはパッとしないか」
≪金剛結晶、ランクS≫
「おっ、良い鉱石!3つもあるし助かる助かる」
≪超振動具・エクスタシーローター、ランクーー≫
「……」
≪ムーンナックル、ランクA-、攻撃800、光闇属性≫
「おっ、ミランダさん用武器のベースになりそう」
≪ブラッドジュエリー、ランクA-≫
「血色の宝石…声が聞こえる気がする」
≪絶望の宝珠、ランクーー、絶望の類いを引き寄せる≫
「怖っ…収納に入れれば大丈夫かな?不安だ…」
他は属性石や宝石、お金が入っており宝箱も回収して隠し部屋を後にする。
「やっぱり金色宝箱は変な物多いな…下の階に行こう」
一時間も経たずに下り階段に到達。
さっさと下りると、地下48階は再び石の壁が続くダンジョン。
「うーん…なんで雪原があったかよく解らないな」
首を傾げながら壁をぶち抜き隠し部屋へ。
「また金色宝箱。魔物も居ないしボーナスゾーンなのかな?」
≪剛鬼の秘薬、ランクB+、攻撃上昇≫
≪盾亀の秘薬、ランクB+、防御上昇≫
≪電鼠の秘薬、ランクB+、素早さ上昇≫
「おっ、ドーピング薬だ」
≪シャイニングパンツ、ランクA、光属性≫
「眩しいパンツ…女性用だな」
≪シャイニングブラジャー、ランクA、光属性≫
「眩しいブラジャー…パンツとセットなのか。女性にプレゼントしたらセクハラだよな…唯一喜びそうなニグさんにあげよう」
≪結界石、ランクS、クラス7対応≫
「7って言うけど、どうせ魔武器を持っていたら意味無いんだろうな」
≪電磁ロッド、ランクA-、魔力攻撃462、電磁加速≫
「あー…レールガンのベースになりそう…じっくり考えたい…」
≪絶望の盾、ランクーー、ーーー≫
「絶望の宝珠さん…仕事しなくて良いんですよ」
≪殺弓・カルネージシューター、ランクA+、攻撃666、死属性・即死付与≫
「虐殺の弓…即死付与とか怖すぎる」
≪禁術・千手の鎖、ランクーー、封印禁術≫
「この本は封印の禁術?…絶望セットの封印をするのに使おうかな?とりあえずダンジョン出るまでに考えよう」
≪スキル書・消費魔力減、ランクA≫
「スキル書?俺魔法使わないからなぁ…」
≪極みの竿、ランクS≫
「釣り竿だ!やった!」
≪生臭い斧、ランクF、攻撃1、生臭い≫
「くさっ!」
≪カビ臭い槍、ランクF、攻撃1、カビ臭い≫
「もっとくさっ!」
≪クズな剣、ランクF、攻撃1、クズ装備可能≫
「これを装備出来る俺はクズなのか?…それよりも…このネタ斧、槍、剣はへっぽこな剣みたいに何かの隠蔽武器だな…まともな隠蔽武器無いの?」
宝箱の確認を終えたトトは階段を目指す。
「次は49階。50階くらいが最深部っぽいけど…」
地図を見ながらなので、難なく階段を発見。
階段を下りていく。
「今度も石ダンジョンかな?……おっ着いた…んお?」
下りた先には黒い両開きの大きな扉があった。
「ボス、かな?どうしよう…準備は必要か」
使わない溜まった素材は武器に合成していく。
「メイン武器は爆竜の戦斧、聖竜剣、聖銃、呪怨砲、邪妖刀か。サブで白雪杖、雷光剣、破銃だけど…俺も強くなったよな…」
最初にこの世界に来た時とは比べ物にならないくらいの強さ。感慨深い物を感じながら、軽く休憩を済ませて大きな扉の前に立つ。
「ちょっと覗いてみよ」
ギィ。扉を開けて覗いてみる。
中は通路があり、その先に円形の闘技場。
「…えっ?」
中央に横たわる大きな悪魔に似た魔物。
その上に立つ黒い人影があった。
トトは黒い人影に引き寄せられる様に中へ入っていく。
よく見ると悪魔に似た魔物は息絶えていた。
「何?この状況?悪魔みたいな奴がこのダンジョンのボスか?じゃあアイツはなんだ?」
魔物の上に佇む、影が形になった様な真っ黒い人影。手には白い剣を持っている。
「なぁ、その魔物ってここのボスか?」
『…ああ』
「へぇー。…その魔物ちょうだい」
『…良いよ』
(えっ?良いの?)
黒い人影はふわりと後ろに跳び、床に着地。何も言わずに佇んでいた。
≪悪魔33式・ロストデーモン、クラス7、強さーー、古代悪魔の死体≫
(鎧を装備しているけど、魔防具かな?)
≪古代鎧・アヴァロスの闇鎧、ランクーー、ーーー≫
トトは黒い人影を警戒しながら魔物に近付き収納。
「…ありがと。ここにはなんで居るんだ?ダンジョン攻略しに来たのか?」
『君に…呼ばれたんだよ』
「ん?どういう事?(嫌な予感)」
≪絶望の勇者、クラスーー、強さーーー、世界に絶望した勇者の想いが具現化した存在≫
(うおおおい!!絶望の宝珠さん何してくれてんの!!)
『君は…この世界が好きかい?』
絶望の勇者から白い光が溢れ出す。
「あ、これ死ぬかも」
ありがとうございます。
では、良いお年を。