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流れの武器屋  作者: はぎま
迷宮・古壁の回廊
41/163

魔竜

 聖剣が突き刺さった結界の中。


 20メートルを超える魔竜が放ったブレスの余波が、周囲を黒く染めていた。



「この結界の中ならしばらく安心だから、ホークとミランダさんはここで待機。ホークは…気休めだけど、とりあえずこれ持っとけ」


≪暴風刀・大嵐、ランクA-、嵐武者レベル76、攻撃1004、風嵐刀技・獣特攻≫


「…ありがとう。ははっ、魔竜と漆黒の騎士が相手じゃ厳しいねぇ」


「トトさんは、何をするんですか?」


「俺はまぁ…頑張ってみるわ(ダンジョンじゃなかったら浄化兵器が使えるのになぁ…ここであれ使ったらダンジョン崩れて全員死ぬし…)…身代わりの指輪付けとけよ」


「危険…と言ってもこのままじゃ全員死ぬか…くそっ」



 トボトボと結界から出るトト。五月雨が折れて成す術も無いホークアイとミランダはトトを見送るしか出来なかった。


『グルルル』

『……』


「こんなクソ男相手に唸るなよ(知能は低いのか?)…騎士さんは見学かい?(あれは…回復かよ…)」



 先頭に魔竜が立ち、後方で槍を掲げている漆黒の騎士は徐々に鎧が再生している。


 漆黒の騎士が参戦する前に勝負を決めないと危うい。そう思ったトトは爆炎の戦斧を取り出した。


 ダンジョンで一際輝く深紅の斧。



「よっしゃ。行くぜ魔竜。武装!」


 トトの全身を包む赤いオーラ。次第に形を作り、深紅のフルプレートメイルに変化した。



「あれは…なんだ…赤い…爆炎の戦士…やっぱり彼がそうなのか」


「凄い…力…ランク不明…」



 武装したトトが魔竜に向かって駆ける。


「本気で闘うのは初めてだな!爆炎破斬!」


 ボンッ!『グオオ!』魔竜の手前で爆発。


「爆走!」爆発で視界が遮られた隙に魔竜の横を走り抜ける。


『むっ』「まだ休んどけ!爆炎剛斬!」

 ドゴオン!『ぐはっ!』爆発の中から飛び出たトトが回復中の漆黒の騎士を凪ぎ払う。


 漆黒の鎧が半分削れる程の衝撃。


 ドンッ!『ぐっ…』広大な部屋の壁までぶち飛ばされた。



「…こっちには時間がねえんだ!今の内に、仕留めさせて貰う!」


 武装に時間制限は無いが、全力を出せば出す程に疲労が溜まる。


 半ば焦る気持ちで魔竜に立ち向かった。



『グルルル!』再びスーッと魔竜が息を吸い込む。


「またブレスか?」


 ドンッ!魔竜が足を踏み鳴らすと「うおっ!」トトの足元から氷が隆起。


 お立ち台の様な円柱の氷がグングン伸びる。



『ガアァァ!』_ゴオオオ!

 魔竜の青黒いブレス。


 闇と氷が混ざり合い。


 全てを暗く凍らせる無慈悲な力。


「ぬぉぉぉ!直撃は不味い!爆炎破斬!」ドゴオオン!


 爆風が吹き荒れ。

「うぉぉぉ!…ん?そんなに痛くない?氷の御守りのお蔭?」



 思ったよりもダメージが無い。吹き飛ばされる寸前で踏み留まり、魔竜に向かって爆走する。


「アイリスさんありがとぅぅ!食らえぇぇ!爆炎奥義!」


 ボンッ。足元を爆発させて魔竜の上まで飛び上がる。


『グオオ!グオオ!』

 魔竜はブレスを放った後に身体が硬直していた。


「爆炎絶王撃!」

 ボゴオオオ!魔竜を巻き込み全力で爆発させる。


 赤く燃え上がる空間。


 目の前に太陽が出現した様に視界が赤く染められた。




 ビリビリと爆発の振動が聖剣の結界を揺らす。


「ふふっ。トト、君ってヤツはいつも私を驚かせる」


「トトさん…私達を巻き込まない様にしてくれたんですね…」




「はぁ…はぁ…」

 爆炎の戦斧を杖がわりにもたれ掛かるトト。


 爆炎が晴れた先。


『グオオオオォォ!』

 プスプスと焼け焦げた鱗を気にせずに、怒りの咆哮を上げる魔竜。


 見るからに酷い火傷だが戦意は更に上昇。


 怒り狂う瞳がトトを射貫く。



「まじかよ…奥義でも倒しきれねえか」


 深紅に染められた兜の中で、トトの顔が歪む。


『グラァ!』

 魔竜が両手をトトに向ける。

 ピキピキ。無数の氷柱が出現。


「魔法!?手数で攻めるってか!マジックスレイヤー!」


 バシュン。バシュン。向かって来る氷柱を撃ち抜き無効果させていくが、氷柱の数が圧倒的に多い。


 走りながら考える。漆黒の騎士をチラリと見ると、半分程回復していた。



 バシュン「あー…どうしよう…火力が足りねえ…ホーク!何かランクの高い火属性の物持って無い!?」


 バシュン。バシュン「そんなの無いよ!…あっ!トトにあげたでしょ!赤竜の鱗!」


「あー!そうだった!ナイスだホーク!爆炎!」



 ボンッ!トトが爆炎に包まれ火柱が上がる。


 突き刺さる氷柱は全て溶けていった。


 トトは爆炎の中で赤竜の鱗や火属性の素材を片っ端から取り出し。

「イメージしろ。魔竜を打ち砕く強さ…俺なら出来る!合成!」



 ドクンッ!爆炎の中で響く力の鼓動。


「うぐ…ぐぁ…なん…だ…これ」


 深紅のフルプレートメイルが変化していく。


 更に赤く染まる様に炎を纏い。


 流線形の鎧が刺々しく。


 兜が竜の顎の様に変わり。


 バサッとドラゴンの翼が生えた。



 炎が晴れた後に立つトトの姿はまるで。


 竜の戦士。


「はぁ…はぁ…爆竜の…戦士…こりゃ…キツイな…」


『グオオオオォォ!』

 魔竜がブレスを放つ準備に入る。


「でも…これなら…行ける!」


 爆炎の戦斧は、爆竜の戦斧へと進化。


 爆竜の戦斧を上に掲げ、一気に振り下ろす。


 ゴオオオ!『グギャァ!』灼熱の炎が魔竜を襲う。


 魔竜が怯んだ隙に飛び上がり、爆風にて加速。



「あー…やべえ…魔竜倒すので精一杯かも…」


『グオオオオォォ!』

 ゴオオオ!魔竜が青黒いブレスを放ち。


「爆竜奥義…」

 トトは爆竜の戦斧を横に構えて迎え撃つ。


「紅の覇爆」

 ザンッ!ブレスを絶ち斬る剛斬。


 ドドドド!そして後から来る無数の爆発。


『グゴゴアア!』

 ボボボボッ!魔竜がボコボコに殴られる様に爆発を受け宙を舞う。


「……」


 爆発が収まり、ドサッと落ちる魔竜。


 その姿は青黒い塊になっていた。



「勝った…けど…まだあんたが残っていたな。漆黒の騎士さん?」


『見事だ。強き者よ』


 グサッ。勝利を喜ぶ暇も無く、トトは槍に貫かれていた。


 パリン。身代わりの指輪が音を立てる。


 それと同時にトトの武装が解除。



「ぐはっ!…くそ…もう力が…」


「トト!今行く!風嵐連斬!」


 ガキンッ!ホークアイが結界から飛び出し、漆黒の騎士を斬り付けるが槍で受けられ。


『ふんっ、黒呀突』

 バキンッ。暴風刀・大嵐が簡単に折られる。


「うぐっ…ここで負ける訳には!」


「ホーク!無理すんな!爆炎破斬!」



 ボンッ!力を振り絞って漆黒の騎士を吹き飛ばし、距離を取る為結界内まで下がる。


 トトは満身創痍で倒れ。ホークアイの武器は無く、ミランダも単体では戦力不足。



「回復をします!ヒール!」

 淡い光が倒れたトトとホークアイを包む。


「ありがとう…トト、すまない…私の力不足で無理をさせてしまった」


「はははっ、今更何言ってんだ。魔竜は倒したから後はあの騎士だけだ…なんとかなるさ。_うぐっ!」


「トトさん!もう動いちゃ駄目です!ボロボロじゃないですか!」



 爆竜の戦士がまだ身体に馴染んで無く、トトの身体は火傷まみれ。こんなになるまで闘っていたトトを見て、ミランダが涙を滲ませヒールを掛け続ける。



「んな事言ったって…この結界はいつまで持つか解らないし、また魔竜みたいのが出たら間違い無く死ぬ。あー…誰か助けてくれねえかな?」


「こんな下層で助けがあるとか、物語の勇者じゃあるまいし…そんなのある訳無いから考えよう」


「…ホーク、今なんて?」


「…そんなのある訳無いし「その前」物語の勇者じゃあるまいし…トト?」


「くくっ、そうか」


「トトさん?」



 トトはゆっくりと立ち上がり、結界の中心に突き刺した聖剣を眺める。


「ホーク…この剣が何か解るか?」


「…聖剣」


「そう。ホーク、これを使ってくれ」


「いや、でも私は勇者じゃないから聖剣は使えない」


「ん?勇者じゃないと使えないのか?」


「そうだよ。勇者にならないと聖剣は振れない。簡単に振っているトトは勇者なのかと思ったよ」



 ホークアイが聖剣を抜こうとするが、引き抜けない。どうやら勇者じゃないと振れないのは本当の様だ。


 カシャン。カシャンと漆黒の騎士が近付く音が迫る。



「俺は勇者じゃねえ。クソ男だ。…そうか。なら…勇者になれば良い」


「は?勇者に?なれる訳無いよ。厳しい試練を超えた者しかなれない職業だよ?」


「ふーん。だけど、俺なら出来るぞ。もしかしたら職業変わっちまうかもしれないけどな」


「……ふふっ、どの道死ぬ運命だったんだ。トトに、全てを任せるよ」



 諦めた様に、しかし希望を見る様にトトを見据えるホークアイ。トトはいつもの様に薄く笑いホークアイを見た後、聖剣を握る様に指示を出した。


「こう、かい?」


「そうそう。勇者の様に強くなるイメージは持ってくれ。…行くぞ。…強制武装!輝きの勇者!」



 ピカッ!聖剣が輝き、ホークアイを中心に光の柱が出現。


 純白の光がホークアイを包み。


 白い鎧を纏い、白いマントが拡がる。


 頭にサークレットを装備した姿。


 絵本に描かれた物語の勇者がそのまま出てきた様な完成度。



「これ…は…凄い…何この力!」


「ホーク。後は頼んだ(似合い過ぎて引くわー)」_ドサッ


「トトさん!大丈夫ですか!?」


「ああ!トトはゆっくり休んでくれ!」



 もう疲れて動きたくないトトは力を抜いて横になる。


 漆黒の騎士と向き合うホークアイ。



『勇者…か。いざ、勝負』


「正直負ける気がしない。トトが託してくれたこの力!闘い方が解る!聖破斬!」


 ザンッ!ガガッ!『黒嵐呀突』漆黒の騎士と撃ち合い。


『何?』ガキンッ!漆黒の騎士の槍が弾かれ宙を舞う。


「聖剣奥義!」

 両手に持った聖剣を天に向け、力を込める。


「シャイニングエンド!」

 ザンッ!純白の光を纏った剣で漆黒の騎士を両断。


『くくっ、見事…だ』

 そう言い残し、ガラガラと鎧が散らばった。



「……やった」

 フッと力が抜ける様に勇者の武装が解除され、その場にへたり込むホークアイ。


 そして、ハッと気付きトトとミランダの場所まで駆けた。その顔にはやりきった笑顔に溢れている。



「おー、お疲れさん。生き延びれたなー」


「ああ!凄いよトト!こんなに凄かったんだね!心から尊敬するよ!」


「トトさん!格好良かったです!」


「おー、崇めろ崇めろ。とりあえず、色々回収するかー」



 トトはフラフラと立ち上がり、ダンジョンに吸収される前にバラバラになった漆黒の騎士、魔槍、魔竜、折れた刀を回収。


 取り残しが無い事を確認。ふぅーっと安心する様に息を吐き、キラキラとした目を向けるホークアイとミランダをチラ見して、階段まで行くぞと歩き出した。



「他の魔物が来る前に移動しようぜ。話はそこでな…とりあえず聖剣は持ってて。今日は闘えそうに無いから」


「ああ!分かった!私が勇者になれたなんて信じられないよ」


「職業は変わったのか?」


「青の勇者っていう職業に変わったよ!勇者になるの憧れだったんだ」


「私の鑑定じゃホークアイさんの職業が解りませんよ。伝説級職業だからですか?」


「ランクが高いと解らないらしいからね」


 その後に出る魔物は、ホークアイとミランダが撃破。やがて階段まで到着した一同は、色々話をするよりも睡眠を選び眠りに入った。


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