素材探し
「宿は取ってあるから、街を回るかなー」
いつもの通りに角ウサギの串焼きを食べながら歩き出す。そろそろ同じ物に飽きてきたが、怪しげなトカゲの丸焼き等を見るとどうしても角ウサギの串焼きを選んでしまう。
大通りに面して店が並ぶので、路地裏には行かない。不良やごろつきが怖いからというのが主だが。
「先ずは、武器屋かな。相場が分からないし、俺が作る武器がどの位置か調べないと」
ギルドの案内では少し歩くと直ぐだったので、少し奥へ行くと武器屋と防具屋を発見。とりあえず入ってみる。
「いらっしゃい」
「あっ見させて貰います」
店内には数人の先客が居り、それぞれ武器を吟味している。コンビニ程の大きさで武器が立ち並び、奥にカウンターがある。どうやら奥に行くにつれて高いものが置いてある様だ。
「安い奴で…銀貨5枚から。何とか手が届くか…(剣はスパって斬るというより叩き斬る感じか…重そう…)杖もあるから、一応種類は一通りあるのかな」
手前から半分は銅の剣やナイフ等、ゲームで初期に買える品ばかり。どうやって使うか分からない武器もチラホラある。
「真ん中で金貨が数枚…手が出ない。今日は金貨1枚が軍資金だからなぁ…(パッと見て皆一緒に見える…)」
真ん中は少し良い金属の武器。良い鉄が使われていそうだがよく分からない。カウンターの近くにある高いものを見る事に。特に武器や防具もしていないトトに、訝しげな視線を向ける店の人。
「うーん…(白金貨って金貨の上だったよな…5枚だから50万円か。更に上の光金貨の武器もある。3枚だから300万円か…武器屋って儲かりそう)……すみません。この光金貨3枚の剣はどんな力があるんですか?」
「力?それはメタル工房の1品でな、鍛治長が自ら打った剣なんだ。上位職業なら持っていて損は無いぞ」
「そ、そうですか。ありがとうございます。(メタル工房?ブランド品って事かな?)…あの…魔剣とかって置いてあるんですか?」
「魔剣なんてこんな店にある訳無いだろ。一本で黒金貨数十枚が相場だし、もし置いたら直ぐに売れちまうからな」
黒金貨は1枚1000万円。魔剣や魔槍などは数億円という事だ。売ったらデカイが、作れる事がバレたら面倒そうだという気持ちの方が強い。
「それって魔剣を作る人が少ないからですか?」
「そうだな。世界に数人いるかどうからしいぞ。その職人でさえ、年間2、3本ぐらいしか作れない。ダンジョン産でも中々お目にかからないから魔武器は貴重なんだよ」
「そ、そうなんですか。ありがとうございます…(こりゃバレたら逃亡生活か…怖い…)」
のんびり暮らしたいトトは、目を付けられたく無いので慎重に行動しようと心に決める。貴族などに知られたら追われてしまう。
一通り見たので店を出ようとする。すると入り口に樽に乱雑に入った武器を発見。樽の中は全て銀貨1枚と書いてある。
「お買い得コーナーかな?って言っても錆びてボロボロの剣とか、半分腐った杖とかだけど…」
ボロボロの剣を握り、意識を集中してみる。作り直せば良い武器になりそうだ。多分暫く売れないと判断し、最後にまた来ようと決める。
「武器をリサイクルしてそれを売れば儲かるな。元手は銀貨1枚くらいだし…でも運ぶ手段がなぁ」
トトは店を持っていないので、露店で売るか武器屋に売るかしか無い。とりあえず収納系統の武器を作らないと移動が不便なので、素材屋を探す。
「素材屋って正直業務用だよなー。大通りにあるんかね?…んー…アレっぽいけど、なんだろう…入りにくい」
魔導具店の隣にあった怪しげな店。よく分からない干物が店先にあり、狭そう。とりあえず魔導具に行く振りをして様子を伺う。
「魔導具店か…でも魔導具と合成して武器を作れば性能良さそうだけど…げっ…最低白金貨とか高過ぎる」
照明の魔導具でさえ安いので白金貨1枚。日本なら100均で買えるのにと思う様な性能。もっとお金が溜まれば来ようと思い、隣の怪しげな店を眺める。
「…意外と若い人も入っていってる。…なるほど、薬も置いてあるからか。なら入れるな」
素材屋と思っていたが、薬屋だったので少し安心しながら中へ入る。
中に入るとイメージよりは広い。先程の武器屋より少し狭い程度。棚には薬瓶が並べられ、奥にあるカウンターの後ろの棚には高級そうな入れ物に入った物が並んでいた。
「いらっしゃい。何かお探しで?」
「あっはい。魔物の素材とかありますか?「あるよ」じゃあ大食い系統の魔物の胃袋とかはありますか?」
「それなら大食い蛙の胃袋を、乾燥して粉末にした物ならあるよ。煎じて飲めば食欲が沸くんだ。っとこれだ。1包が銀貨3枚さね」
「じゃあ1包下さい(粉末でも使えるのかな?駄目だったら勿体無いけど、物は試しだ)…あっ後、ポーション下さい」
ポーションは銀貨5枚。浅い切り傷を治す効果。その上に刺し傷も治せるミドルポーション。更に折れた骨を治せるハイポーション等がある。
全部で銀貨8枚を渡し、商品を受けとる。後は武器屋でボロい武器を買うだけなので、薬屋を出て武器屋へ向かう。
「性能はどうであれ、収納武器は感覚的には出来そう。指輪にトゲを付けたら武器になるかな?おもちゃのナイフは切れ味良いから怖いんだよな」
無駄に性能の良い10円玉ナイフはポケットに入れてある。鞘を作るのを忘れていたのでたまに刺さって痛いのだ。
来た道を戻り、武器屋に入る。樽の中にある武器達を物色。銀貨は13枚あるので、きりが良い3枚を使う事にした。
「錆びてるけど鉄が多い剣と、腐った杖の先に濁った宝石?いや魔石だな…これも買うか。後1つは、どうせ形変わるから剣で良いか」
武器を持ってカウンターへ。訝しげな視線を受けながら銀貨3枚を支払い、武器屋を後にする。
後は武器作成なので、そそくさと宿屋へ。宿屋で身体を拭くゴワゴワなタオルと水の入ったたらいを受け取り、部屋で身体を拭く。
「うわー結構身体汚れてたんだな。たらいの水が濁ってる…こうなったら清潔になる武器を作らなきゃな」
たらいの水を宿屋の裏で流し、おばちゃんにタオルとたらいを返す。さっぱりした所で部屋に入って一息着いた。
「ぶっつけ本番で武器を作るより、ノートに大まかなデザインと性能を書いてからの方が良いな」
机に向かい、ボールペンでノートに武器の詳細を書く。絵心は余り無いので、小学生の落書きみたいだなと思いながら描き、時間が過ぎて行った。