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流れの武器屋  作者: はぎま
迷宮・古壁の回廊
34/163

ダンジョン研修

 ノール王城、340年の歴史があるノール王国のシンボル。


 各方角に城壁塔があり中心に伸びた主塔。


 200メートル四方の掘り。その内側に城壁がそびえ立つ堅牢な作り。


 内部は王族が暮らす居館は勿論。兵士、騎士、魔法士の詰所。働く者の住居なども存在している。


 その城の中で騎士団、魔法士団合同の魔物対策会議があった。



「再びクラス4の魔物の報告です。南のブーグ街道にて確認。討伐に成功しましたが、死者1名の被害」


「今月で何件目だ?「6件です」…くそっ、これは大移動の前兆なのか?普通はクラス3が確認される程度だろ」


「前回の大移動は帝国で起こりました。前兆はクラス3の魔物が多数。そして大移動の最高クラスは5。剣聖が出陣して被害は少なかった様です」


「じゃあクラス6が来るってのか?何処で大移動が起こるか分からない以上、戦力が足りないな…はぁ…どうするかな」



 説明する進行役にため息を吐く、赤い髪の男性。騎士団長のジーラス・ヒート。


 魔物の大移動に関して、詳しい事は解っていない。突然やって来て全てを奪っていく災害。


 解るのは重大な被害があるという事。



「魔法士団の戦力は?クラス6ったら赤竜とか青竜クラスだけど」


「魔法士団でクラス6に対抗出来るのは、私と副団長のみです。各部隊は騎士団との合同部隊なので何とか対抗は出来ますが、倒す事は出来ません。複数出現した場合は全滅の恐れもあります」



 淡々と答える魔法士団団長アイリス・フォート。事実を述べたその言葉に、重い雰囲気が流れる。



「冒険者ギルドにも呼び掛けはしています。高ランク冒険者には王都に滞在して貰う様にしていますが、まだまだ数は足りないかと思います」


「そうか…高額依頼なら低ランク冒険者も滞在してくれるだろう。呼び掛けを頼む。場合によっては強制依頼になると思うから手配も宜しく」


「了解しました」


「…騎士団長、強制依頼は低ランク冒険者も?」


「まぁ王都に魔物が来たら仕方ないだろう。どの道闘わないといけないしな。魔法士団として反対か?」


「いえ…気になっただけです」



 会議は戦力増強に付いての話になっていき、他の地方からも招集出来る様に手配していく方向になった。


 会議が終わり、それぞれの仕事に戻る中。進行役がアイリスに用事を伝える。



「魔法士団長、時間がある時に第二王女殿下から部屋に来て欲しいと」


「…了解しました」



 会議室から出たアイリスは、そのまま王族が住む居館へ向かう。


 侍女に第二王女に面会の旨を伝え、部屋の前まで案内された。


 コンコン。「どうぞ」


「失礼致します。王女殿下、お呼びでしょうか?」


「アイリス、待っていたわ。直ぐ来てくれるなんて嬉しい。さっ、座って」



 緑色の長い髪を靡かせた16歳程の女性。ノール王国、クリスタロス・ノール・ニューロード第二王女。


 ソファーに座る第二王女はアイリスをソファーに座らせる。アイリスはメイドが直ぐに紅茶を入れられ、直ぐに退出は出来ないと心の中でため息を吐いていた。



「ちょっと面白い物が手に入ってね。黒金貨15枚で少し高かったんだけど、アイリスにも見てもらいたくて」


「面白い物ですか。拝見させて頂いてもよろしいですか?」


「ええ、勿論。その為に呼んだんですから」



 王女が目配せし、メイドが持ってきた杖。緑色に輝くクリスタルで出来た杖だった。


≪ゲイル・クリスタルロッド、ランクB、魔力攻撃330、風魔法≫



「これは…素晴らしい一品ですね。風魔法が使えるとは興味深い…」


「でしょ?サムスン魔導具店が目玉商品だって言うから即決したわ。これ、何処で作られたか解る?サムスン魔導具店は守秘義務があるのでって教えてくれなかったのよ」



 守秘義務とは転生者が伝えたとされる帝国の法律。それは犯罪では無い限り、王命であっても秘密を守る権利が生じる。


 実際は守秘義務の契約書を書かなければ効果は無いのだが、トトの対応をしたクリミナ・サムスンは、この杖を作ったトトとの約束を守るという義理を果たしていた様だ。



「私に聞くという事は、詳細鑑定でも作製者が出なかったという事ですね」


「そうなの。凄い作品を作る職人との繋ぎは欲しいじゃない?だけど、どう調べても作製者が解らなくてね」



 詳細鑑定をする高価な魔導具を使えば、解説や作製者の名前が出る。しかし、ゲイル・クリスタルロッドには通常鑑定以上の結果が出なかった。


 魔法士団団長として、沢山の杖に触れてきたアイリス。形状や癖から作製者の目星を付けれる程には熟練しているのだが、クリスタルの杖はどの職人とも当てはまらない。



「申し訳ありません。私には解りかねます。王国の職人に当てはまりません。恐らく帝国で作られた物かと思いますが…」


「そう…仕方ないわね。…あら?アイリスが何かを身に付けているなんて珍しいわね。……えっ?何…それ…」



 王女がアイリスの腕に嵌まっている水晶の腕輪を鑑定して驚愕に染まった。


≪友情の腕輪、ランクB+、毒無効(大)、魔力上昇(大)≫



「それ、譲って貰う事は出来ないかしら?」


「…申し訳ありません。これは…友人から受け取った大事な物です。譲る事は出来ません」


「…そう。残念ね。友人…ねぇ。男性かしら?」


「…はい」



 心底残念そうにしていた王女の目が光る。王族にとって毒無効(大)は喉から手が出る程に欲しい物。だがそれを後回しにして、今まで友人すら作らなかった魔法士団長をニヤニヤ眺めた。



「男性からの贈り物なんて一切身に付け無かったアイリスが…どういう事かしらねぇ。ヴァンカリス公爵家の長男が贈った物でさえ身に付け無かったのに」


「…友情の証ですから」


「へぇー。友情の証!男性なのに?やっとアイリスに春が来たのかと思ったら友情?本当に?」


「…はい」



 ニヤニヤと面白そうに質問していく王女に、アイリス心底うんざりしていた。


 切りが良い所で逃げる様に退散。恋愛話が好きな年頃なのは解っていたが、こうも質問責めをするのかと、深いため息を吐いた。



 アイリスが退出した部屋で、楽しそうにしている王女は侍女を呼ぶ。



「お呼びでしょうか?王女様」


「アイリス・フォートの友人とやらを調べなさい。あの腕輪とこの杖…どちらも純度の高い魔水晶で出来ているのよ。あの腕輪を贈った人物…この杖の作製者と関係がありそうだと思わない?それでなくとも、あの凄い腕輪を贈る様な人物に興味はあるし」


「…かしこまりました。誰を使いますか?」


「んー…そうねぇ…男だから…魔法士団の第三部隊に優秀なのがいたわね。なんという名前言ったかしら?」


「第三部隊というと…マリア・ベレットでございます。では召集致します」


「よろしくねー」



 侍女が退出し、クリスタルの杖をかざした王女が微笑む。



「ふふっ…綺麗ね」






 _______



「んー…朝か…」


 テントの中で起床したトトは、準備をすませて外に出る。


 まだ早朝。薄暗く他の冒険者はテントでまだ寝ている様子。



「…おはようトト。早いね」

「おはようホーク。引率者は夜の番があったんだな」


「そうだね。って言ってもダンジョンの近くは力場の影響で魔物が居ないから、番なんて必要無いんだけど」


「そうなんだ。ところでダンジョンって何処にあるの?まだ見てないんだけど」


「この先だよ。ダンジョンの周りは人が多いからね。王都の冒険者の3割はダンジョンで生計を立てていて、上層、中層探索がほとんど。下層に挑戦しているのは一握りの冒険者ってな感じかな」



 高ランクの冒険者は貴族などの依頼もあるので、下層に挑戦する冒険者は少ない。そしてホークアイが引率者の依頼を受ける程に忙しいので、今は下層に居る冒険者は居ない状況。



「じゃあ今は邪魔が入らずに探索出来るから、俺達に取って良い状況なんだな」


「そういう事。最深部まで行くのが理想だけど、2人だから下層の中盤に行ければ良いかな」


「そこには何かあるのか?」


「ギルドの記録ではその場所が最高到達点なんだ。その先は記録に無いから良い素材があるかもよ。宝箱も期待出来るし」



 最深部を攻略した記録は無いダンジョンなので、攻略出来れば国の歴史に名前を残せる。名誉が欲しい者は挑戦し続け、低層の者の生活の糧にもなるダンジョン 。



「そりゃ楽しみだ。他のダンジョンの記録では、最深部は何が居るんだ?」


「通例では最深部を守るボスとお宝があるよ。ボスは強いらしいけど、倒せばお宝に魔武器が手に入るって話だし。夢があるよね」


 ダンジョン産の魔武器の方が性能が良く、高値で取引される。一獲千金を狙う者も多く、深部に行った者の大概は帰らぬ人になる。



「へぇー、お宝欲しいな。もう一生働かなくて良いじゃん」


「…トトには夢が無いのかい?普通はあれが欲しい、これがしたいって言うもんだよ…」


「お宝が無くても実現出来る事の方が多いからな。お金があっても無理な事だってあるし」


「…故郷に帰る事?」


「まぁ…別に故郷に帰るは良いんだけど、家族に俺が無事な事を伝えたいんだ」



 地球に帰る事は半ば諦めている。地球の座標が分からないし、次元が違った場合も推測出来る。



「冒険者ギルドがある所なら届く保証は無いけど、手紙を送ったらどうだい?それか、帝国に珍しい魔導具があるらしいよ」


「手紙は多分届かんよ。珍しい魔導具?」


「なんだっけ。どんなに遠くでも物を送れる転移魔導具だったかな…転移者が作った魔導具らしいけど」


「…転移魔導具か…それは俺でも使えるのか?」


「どうかな?帝国立博物館に寄贈された筈だけど詳しい事は分からない」



 転移者が作ったなら地球に届くかもしれない。少しだけ期待をしてみる事にした。


 ポツポツとメンバーが起き出し、各グループが集まり行動を開始。


 1グループも点呼を終え、ダンジョンへ向かう。



(歩きで向かうのか、向こうにあるテント群の所かなぁ…)



「ホークアイさんは何処まで潜った事あるんですか?」


「私は中層まで行った事があります。1人だと持てる荷物に限りがありまして」


「1人で!?凄いです!」


(あー…うんこするの忘れたなぁ……うんこだけ収納って出来るのかな?)



「大した事じゃ無いですよ。Sランク冒険者のドーグ・サラスさんは1人で下層まで潜ってますからね」


「それでも1人なんて凄いですよ!」


(……出来た!!すげえ!!革命が起きるぞ!!)



「トトさん?どうかしました?腰痛いんですか?」


「…いえ、ホークは凄いなと思っただけです。ところで、ドーグ・サラスってミランダさんと同じ名前ですけど…ご家族ですか?」


「はい、自慢の兄です!今は依頼で辺境に居るので、戻って来たら紹介しますね!」


「いえ、嫌な未来を想像してしまったので遠慮しておきます」



 ミランダ・サラスはきっと兄に可愛がられているだろう。近くにクソ男が居たらボコボコにされる未来が待っている。


 ミニャが近付いて来たので、スススとミランダから離れる。ミランダがムスッとしてるが、争い事は嫌なので気付かない振り。


 やがて見えてきた石で出来たドーム型の遺跡。入り口は縦3メートル、幅は5メートル程もある。



(入り口デカイなー)


「はい、これからダンジョンに入りますが1日で終わりますので指示に従って下さいね」


「「「はい」」」


(隊列は二人一組で並んで行動だけど、俺は1人で最後尾か…索敵すれば良いから楽だな)



 一同は大きな口を開けるダンジョンに入っていった。


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