ダンジョンへ向かう
コンコン。「んー…はいー…」
「トトー。行くよー」
「…ああ!悪いホーク。ちょっと待って」
朝、ホークアイが起こしに来たので急いで準備を済ませる。
服を着てアクセサリーを装着。ポーチを付け、クソな銃とへっぽこな剣を装備。クソなブーツを履いて準備完了。
他の冒険者の様に余計な荷物を持たなくて良いのでトトの準備は早い。因みにホークアイの泊まる荷物も亜空間リンクポーチに入っている。
「お待たせ。行こうか」
「トト、寝ぐせ付いてる。これ使うかい?」
「何これ?水?」「化粧水」
「ありがと、…直った?」
「直ったよ。行こうか、時間がギリギリかも」
宿を出てギルドに向かう。今回のダンジョン研修は定期的に行われている、冒険者活動の理解を深める為の研修だ。
各ギルド員に1~2名の冒険者を付け3組毎のグループになり、各グループの引率者と共に行動する。ギルド員は12名で受付嬢、事務、解体士などから数名ずつ選ばれる。
「そういえば全部で何人なの?」
「何人だっけ?35人くらいだったと思う。でもグループで動くからそんなに多く感じないよ。私達のグループは8人くらいかな?」
雑談しながらギルドの前まで行く。馬車が4台あり、それぞれのグループに別れていた。トトとホークアイは先頭の1グループなので先頭の馬車に向かう。
「トトさん!行ってらっしゃい!」
「トリス。見送りに来てくれたんだな。ありがとう。ニグさんに変な事されてないか?」
「変な事なんてしてない。一緒にお風呂に入って一緒に寝てイチャイチャしただけだよ」
先頭の馬車の前に、トリスとニグレットが見送りに来ていた。ニグレットが朝早くに表に出ている事は珍しいので、周りには野次馬がガヤガヤしている。
「ん?トト、どういう事?よく分からないんだけど…」
「あぁ、後で説明するよ。トリス、このチャラいお兄さんはホークアイっていうんだ。気を付けろよ」
「トリスちゃんだね。私はホークアイ、よろしくね」
「よろしく!ホークアイさん!イケメンですねぇー!」
「…可愛い……後で詳しく教えて。なんて事だ…トトが犯罪に手を染めたなんて…」
「誘拐じゃねえよ。事情があるんだ」
「出発しますので馬車に乗って下さーい!」
時間はギリギリだったので、直ぐに馬車が出発する。トリスとニグレットに手を振り、馬車に乗り込んだ。
「どうも、おはようございます。ギリギリですみません。何処かのクソ男が寝坊しまして」
「「「おはようございます」」」「クソ男?」「あいつじゃね?鑑定でクソ男って出てるぞ」
「……」
「トトさん、おはようございます。来ないかとハラハラしちゃいました」
「おはようございますミランダさん。すみません昨日は刺激の強い日を送ってしまいまして、寝坊してしまいました。今はドドなんでよろしくです」
トトはクソなピアスの効果でドド、クソ男になっている。
どうせ数無しと馬鹿にされるのなら、クソ道を突き進むという無駄な気概を持っているトト。
「ドドさん…名前が言いにくいです。それと職業クソ男ってなんですか?色々悪化してません?」
「鑑定阻害のピアスを付けたら下方修正されたんですよ。もう慣れました。因みに女性が付けるとクソ女になりますよ。試してみますか?」
「い、いや…大丈夫です…誰かで試したんですか?」
「ええ、友人に協力して貰いました」
「友人…」
他のギルド員と冒険者はホークアイの周りに集まっている。冒険者ランクA、魔武器所有者、中央管理官、ついでにイケメンのホークアイは憧れの的。お近づきになりたいと思うのは当然の事だ。
ミランダとトトは隅でホークアイその他を眺める。
「ホークって人気だな。あっ、猫耳ピチピチお姉さんが居る。…くそっ爆発しろ」
「猫耳ピチピチお姉さん?ミニャの事ですか?」
「ミニャっていうんですね。知り合いですか?」
「え、ええ…私が冒険者をしていた時のパーティーメンバーですよ。今はランクBになっています。…トトさんはミニャみたいな女性がタイプなんですか?」
「いえ、全くタイプではありません。ただ、あの太ももは最高だと思います」
以前ミニャに弱っと言われた事を思い出し、タイプでは無いなと太ももを凝視しながら、うんと頷く。
「…トトさんは…太もも派ですか?」
「いえ、人それぞれ輝く物を持っていますので、固定の好みは持っていません」
「そう…ですか…私は…なんだと思います?」
「ミランダさんは…(美人だと平凡な答えだよな…キス上手そうとかだとセクハラだし…今更か)…全てが輝いて見えますよ」
「…え…あ…ありがとうございます…」
随分とフワッとした答えだが、ミランダは嬉しかった様でニヤニヤしている。トトは模範解答で逃げてしまった事に罪悪感を感じながら、どや顔で喋るホークアイを眺める。
しばらくすると、ミニャが輪から外れこちらにやって来た。
「ミランダ、こいつがあんたのお付きかい?」
「そうよ。ドドさんっていうの」
「ふーん…弱っ。ミランダの方が数百倍強いじゃないのさ。ランクは?「Dよ」…D?信じられないな。良くてEランクだろ」
(魔物出ないなー。平和だなー。海行きたいなー)
「友達として忠告しておくけど、こいつはやめときな。弱すぎる。おいクソ男、今すぐ降りな。お前にこの依頼は相応しく無い」
ミニャは友達のお付きがクソ弱いクソ男なのが気に入らない。クソ男なんて職業だから、ろくな男では無いと判断している。
「ちょっとミニャやめてよ。すみませんドドさん」
「良いですよ。皆同じ事言いますから。強さが1なのは確かですし…ホークー「なにー?」依頼やめろって言われたから降りるわー」
「えっ?ちょっ、困るよ。トトが降りるなら私も降りる。幸いBランクの方が居ますので、引率者をお願いしても良いですか?」
ホークアイはミニャに引率を押し付けようとするが、周りが止める。ホークアイが依頼を降りるなんて知れたら問題になるからだ。
「…ちっ、腰巾着が。さっきの降りろは取り消すよ。代わりにミランダのお付きはあたいが担当する。クソ男は見学でもしてな!」
「はいはい。すみませんミランダさん。そういう事なんで俺は見学でもしてますねー」
「え…そんな…」
お付きは1人余っている状況だったので、ミニャが調整。
薄ら笑いを浮かべるトトを、周りは気味悪そうに見ている。護衛をしなくて良いから嬉しいだけなのだが、荒んだ目がヤバい奴という認識を加速させた。
トトは雰囲気が悪い馬車から降りて、馬車と並走。
他の者はトトに馬鹿にした目を向ける。強さ1が馬車と並走なんて数分と持たないと思っているからだ。
「やっぱり集団行動は苦手だなー。数無しってだけで敵意を向けられる。嫌な世の中だねぇ…そうは思わないか?ホーク」
「はははっ、耳が痛いよ。トトなら強さを見せ付ければ良いのに」
ホークアイも馬車から降りてトトと並んで走る。ランニング程度の速度だが、ランニングという概念が少ないこの世界では充分に早い速度。
「それをして何になるんだよ。得たいの知れない強さは恐怖に繋がるんだぜ?ホークなら解るだろ?」
「まぁ…魔武器を持っているとたまにあるからね。どうするの?あと半日は走るよ?」
「俺はこのブーツがあるからなー」
「ブーツ?クソなブーツって書いてあるけど…「ん?これで良い?」_っ!何この素敵ブーツ!頂戴よ!」
≪安全安心ブーツ、ランクA+、攻撃1000、自動回復(大)・疾風・身体能力上昇・蹴り技≫
「これは駄目。違うのあるけど買う?「買う!」…見てから言いなよ」
≪激流の靴、ランクB、攻撃300、水走り・悪路走行・自動回復(大)≫
「うわ…相変わらず性能が変態だね…」
馬車の側面は死角なので、呑気に商談を始める2人。他の者はどんな会話をしているか分からない。ホークアイが防音の魔法を馬車に掛けているからだ。
「これは原価が光金貨1枚だっから、それ以上ならなんでも良いぞ」
「じゃあ黒金貨1枚と、素材でどう?これなんだけど」
≪赤竜の鱗、ランクA≫
「うおっ!初めて見た…属性竜だからクラス6?」
「そうそう。オークションがあってねー。トトの手土産に落札したんだ」
「まじで嬉しいわ…仕方ない、これも付けてやる」
≪激流の籠手、ランクB、攻撃300、水剣技・速度上昇・火属性防御≫
「_ぶっ!強すぎでしょ!」
赤竜の鱗はいくらしたか知らないが、激流の靴と籠手で相殺してくれれば良いなと思う。実際はお釣りが付いてくる程元は取れているのだが。
馬を休める為に馬車を停め、休憩を挟む。昼前なので昼食も一緒に済ませるのだが、ミランダはミニャ達と一緒。ホークアイは他の馬車の者に囲まれている。
必然的にボッチスタイルになった。なので、他の者が干し肉などの保存食を食べる中、隅っこで屋台で買った串焼きを頬張る。
(トリスは串焼き好きだから、今度高級食材で串焼き作ろうかな…高級食材…ダンジョンにあるかな?結局今までの魔物は合成に使っちゃったし…)
クラス4の魔物はレベルが結構上がるので、ダンジョンに行く前に全て使ってしまった。クラス5の魔物が居ると期待してとの事だが。
周りはトトに関わらない様にしている。いちゃもん付けたらホークアイにチクると思われているからだ。
だがその前に雰囲気を悪くしたミニャに厳しい視線を向ける者の方が多い。何故なら以前から、ホークアイは黒髪の男に一目置いているという噂があるから。
自分が悪いなど、微塵も思わないミニャ。気不味い雰囲気の1グループは馬車を進め、夕方にはダンジョンの前に到着。グループ毎に固まってテントを張る。
「ホーク、何処にテント設置する?」
「あー、私を中心に右側が男性陣で左側だからこの位置でよろしく」
「ほい、じゃあ俺は右側だな。俺もう寝るから朝に起こして」
「分かったよ。一応夜に点呼をするからその時は居てね」
テントが完成した状態で収納から出す。一々テントを張るのは面倒だからだが、他の冒険者はいきなりテントが現れた事に驚愕。例え収納を持っていても折り畳んだテントを出すのが常識。
もう常識から離れているトトは気にせずテントに入り、入り口を締め切る。
「ホークアイさん、あのクソ男は何者なんです?あの収納はお金を積めば買える物では無いですよね?」
「あぁ、気にしない方が良いですよ。関わらなければ害は無い存在ですので」
(皆俺の事を喋るのは良いけど、丸聞こえだからな…それとホーク、害はってなんだよ…)
「そういえば前に上級職を殴り倒した奴も、黒髪の数無しでしたよね?」
「偶然じゃないです?名前も職業も違いますし。では夜に点呼を取りますので、夜にはテントに居てください。皆さんも、トラブル等が無いようにお願いしますね」
(そういえばダンジョンに罠とかあるなら、なんか作ろうかな)
周りがガヤガヤする中、トトはのんびり武器作り。
≪破壊の鉄鎚、ランクB、デストロイヤーレベル30、攻撃700、破壊属性≫
(破壊属性は骨砕きが進化したのかな?破壊者の方が強そうな職業だったけど)
≪邪妖刀・蠢く闇、ランクA、闇堕ちレベル79、攻撃995、邪猛毒付与、レベル上昇、闇剣術≫
(レベル上昇?勝手にレベル上がるのか。楽なのか呪いなのか分からないな)
「ん?素材がもう少ない…魔水晶はまだあるけど…ダンジョンに期待だなー。でも1日は皆と行動だからつまらないよなぁ」
ため息を吐きながら、明日の憂いを思う。