少女は楽しそうです。だから誘拐ではありませんよ
「トリス、好きな服選んで良いぞー」
「うん!」
「あっ、すみませーん。この子に服を…白金貨1枚分で」
子供服が売っている店に到着。トリスはボサボサの髪だったので、櫛で髪を直し、顔を拭いて身綺麗にしてある。
「……」
「トトさん、これ似合う?」
「あぁ、鼻血出るくらい可愛いぞ」
「えへへ」
髪を後で纏め、刺繍の入った白いワンピースを来て出てきた。その後ろに居る、大量の服を持った店員さんがどや顔している。
やたら女子な服が多い。購入したあと、別の店へ行き少年風の服も購入。
道の端に寄り収納を済ませたトトはトリスを見て考える。問題は可愛い過ぎる事。
「うーん…」
「トトさんどうしたの?エッチィ事したいの?」
「いや違うよ(可愛いから名前鑑定されたら怪しまれるよな…)…作成」
懐で嘘つきの仮面、魔水晶などを合成し、小さい剣の付いたイヤリングを作成。
≪可愛いイヤリング、ランクB、攻撃1、防御晶壁≫
「可愛い?まぁ良いか。これ着けてみて」
「はーい!」
≪聖女トリス、可愛い聖女、強さ1≫
「にょ!?」ぶわっと汗が噴き出す。これは駄目だと。
「ちょ、ちょっと調整するから貸して」「ん?はーい」
≪勇者トリス、可愛い勇者、強さ1≫
「ぐはっ!?もう一回!」「はーい?」
≪……トリス、…可愛い……、強さ1≫
「出来た…何か変だけど(色々と合成した気がするけど仕方無いか)」
「私可愛い?」
「可愛いぞ」
「へへー!」
≪可愛いイヤリング、ランクーー、攻撃1、防御晶壁、状態異常無効、ー属性無効、ーーー≫
「……(あれ?何合成したっけ…)…まぁ良いか」
ご機嫌なトリスと共に街を歩く。道往く人々がトリス見て顔が綻び、荒んだ目をしたトトの顔を見てギョッとしていた。
トリスがご機嫌なのでなんとか衛兵に通報されずに済んでいる状態。これは不味いと思うトト。
(今更だが俺の印象が悪すぎる…印象を変えれれば良いけど…変わる?)
宿に向かおうとしていたが、ギルドへ向かう。途中屋台で串焼きを大量購入しながら。
トリスと手を繋ぎながらギルドに到着。黒ギルドだ。
中に入ると中央に受付が1つあり、美人な女性が座っている。そこへ行きギルドカードを提出。
「こんにちは。何用ですか?」
「ニグレットさんに会いたいんですけど…」
「少々お待ちを。…確認が取れました。2階の奥が部屋です」
どうやらトトが来たら通す様に言われていた様子。受付に挨拶を済ませ、2階の奥ニグレットと書かれた部屋の前に立つ。
コンコン。「こんにちは、急にすみません。トトです」
「おー、入って良いよー」
部屋に入る。そこにはバスローブ姿のニグレット。身体のラインがクッキリとし、赤い髪が少し濡れて色っぽいというよりエロい。
「…ニグさん…着替えて下さい」
「別に良いじゃないか。減るもんじゃないし」
「それはおっさんのセリフですよ。わざとパタパタしないで下さい」
「くくっ、用事はその子かい?」
「ええ、というより俺の印象が悪すぎて、誘拐犯にしか見えないのが悩みなんですよ」
黙礼をして挨拶をする可愛いトリスに、荒んだ目のトト。ニグレットはなるほどと顎に手を当てた。そしてトリスを鑑定し、考えている。
その姿はまだバスローブなので考える前に着替えて欲しいトト。
「…可愛い…ギュッてしたい。トリスちゃん、お父さんとお母さんは?」
「…居ません。でも…トトさんがずっと一緒に居てくれるので、寂しくは無いですよ」
「そうかい…私はニグレット。ママと呼んでくれ「おい」…パパは邪魔しないで「誰がパパだよ!」」
「ニグレットさんは、トトさんの恋人ですか?」
「ああ、そうだよ「何言ってんの!?」…トト、後でエッチな事してあげるから黙っててよ」
「エッチィ事!」「そこに反応するな!」
うるさいトトと教育に悪いニグレットが睨み合う。その様子をトリスがニコニコ眺め、私もエッチィ事すると言い出した時にニグレットが諦めた。
はぁーっとため息を付いたニグレットが、2人を対面のソファーに座らせる。
「それで?この子の鑑定結果がおかしいのはトトのせいか?」
「そうですね。ちょっと事情がありまして、それと服着て下さい」
「事情ねぇ…見せて貰えたりするかい?力になれると思うよ」
「…わかりました。秘密ですよ」
トリスのイヤリングに触れ、鑑定阻害を解除する。
「ありがとね………なるほど…大した事情だ」
「?どうしたの?」
「トリス、このおば_ひっ!…お姉さんは物知りさんだから色々聞いて良いからな。故郷の事とか」
殺気を受け、冷や汗を流しながらトリスの頭を撫でる。えへへーと嬉しそうにする姿にニグレットの殺気が収まった。
「あっ、ニグさん。明日からホークと西のダンジョンに行くんですけど…「喜んで!」…察しが良くてなによりですよ」
こうして、トトがダンジョンに行っている間はトリスをニグレットが預かる事に。不安しか無いが、頼れるのは彼女だけなので仕方無いと心の中で言い聞かせる。
「トリスちゃん。ずっと私と一緒に居ても良いからね」
「ありがとうございますニグレットさん。でも私、トトさんとずっと一緒にいたいので…ごめんなさい」
「ふふっ、良いんだよ。トトが仕事の時は一緒だから。…あっ、トト…提案なんだが…」
「…なんです?」
トトはニグレットが少し真剣な表情でいることに、しっかり面倒見ろと言われるのだろうかと思い、ニグレットと視線を合わせた。
「結婚しようか」
「…愛の無い結婚はお断りします」
「愛?あるだろここに」
「いやどこにだよ…トリスと一緒に居たいだけだろ」
「そんな愛の形もある」
「別に結婚する必要無いでしょ」
「「……」」
ニグレットは色仕掛けをしようとするが、トリスが居るので出来ない。トトは徐々にはだけていくニグレットの身体を見ないように頑張っていた。
その時、キュルルと可愛い音。
「…トトさんお腹空いた」
「…ニグさん、串焼き食べます?」
「…ああ、頂こう」
屋台で購入した串焼きを出して、皆で食べ始める。少し場が和み、結婚問題は先送りになった。
「あっ、明日は早く出るから、ニグさんの所で泊まった方が良いぞ」
「う、うん。わかった」
「トト、良い事言うじゃないか。愛してるぞ」
「思惑が丸解りでその言葉を聞くと薄っぺらいですね。ところでここに泊まっているんです?」
「ああ、ちょっと王城に用事があるから…夜にまた来てくれ」
「了解しました…ちょっ!なんで目の前で脱ぐんです!?」
「脱がないと着替えられないだろ。ふふっ、後でしっぽりしてあげるから安心しろ」
「…したら逃げられなくなるので結構です。行くぞトリス」
ニグレットが目の前で着替え始めたので、トリスを連れて逃げる様に退散。もう色々見えてしまったので記憶のメモリーに保存する。
「トトさん、ニグレットさん綺麗な人だったね。結婚するの?」
「いや、しないと思う」
時刻は夕方前。特にする事も無いので、北区の丘へ行く。2人でベンチに座り、王都を眺めた。
「お城綺麗だね」
「ここの景色が好きでよく来るんだ」
「へー」
しばらく眺めていると、アイリスがやってきてベンチに座った。
「やぁアイリスさん。この子はトリスだ」
「…アイリス・フォートだ。よろしくトリス」
「アイリスさんよろしくお願いします。…な、なんですか?」
「……」
無表情で見詰められ、困惑するトリス。トトはなんとなく解る。あぁ可愛いと言っている瞳が揺れていた。
「トト、可愛いから誘拐したの?」
「んな訳あるか。一緒に居るだけだよ」
「アイリスさんはトトさんの恋人なんですか?」
「……違う」
「アイリスさんとは友達だよ。そうだ、明日からダンジョンに行くからまた来週な」
「…そうか。無事を願っているぞ」
柔らかい雰囲気のアイリスをトリスは凝視する。恋人の様な雰囲気なのにおかしいと。
「アイリスさんはトトさんが好きなんですか?」
「…えっ?」
「トリス、アイリスさんが困ってるだろ。だーめ」
「むぅ、気になっただけなのに。…ごめんなさいアイリスさん」
「…あっ、うっ、大丈夫」
「じゃあ…トトさんはアイリスさんの事が好きなの?」
「もちろん大好きだぞ。アイリスさんを嫌いになる要素なんて1つも無いからな」
「……」
「トトさん何サラッと好きって言ってるのさ。ここは初々しい感じを出さないと」
「いや何を求めているんだよ。学生じゃあるまいし、初々しさなんて俺に必要あるか?」
「んー…初々しいトトさんってキモいから必要無いか」
「……」
ワキャワキャとするトリスと対照的に黙るアイリス。スッと立ち上がり、「帰る…」と言って中央区の方に歩き去って行った。
「あー、トトさん怒らせちゃった。ムードが無いのが敗因だね!」
「あれ?俺のせい?敗因って別に振られた訳じゃ無いだろ。告白した訳でもないし」
「あれ告白じゃないの?」
「いや違うけど。トリスの質問に答えただけだし、人として好きって意味だ。女として好きって言った訳じゃねえぞ」
「へー。じゃあ女として見たら好き?」
「さぁな」「教えてよー!」
トリスとワチャワチャしながら過ごし、夜になったのでニグレットの元へ。
コンコン。「ニグさん。トトです」
「入って良いよー」
「じゃあ戻って来たらここに来るから。ニグさんよろしくお願いします。あっこれ着替えです」
「ああ、ホークが居るから大丈夫だと思うけど気を付けて。なんかあったらトリスちゃんは私が面倒見るから良いけど」
「ニグさん、ちょっと本音漏れてるぞ。またなトリス」
「うん。気を付けてね。トトさん」
トリスはトトに駆け寄り、チュッと頬にキスをしてえへへと笑う。ニグレットが血走った目でトトを睨んでいたが、トトは見ないようにして、トリスを抱き締めて部屋を後にした。
その後、宿に戻り思い出す。
「あれ?結局俺の誘拐犯に見える問題が解決してないぞ…」