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流れの武器屋  作者: はぎま
王都ノール
30/163

掘り出し物

「んー…はぁ…お迎え行かなきゃ」


 時刻は朝の4時。起床したトトは宿の受付に朝食はいらないと告げ、宿を出る。


 そのまま北西に進み、ミランダの実家へ向かう。


「あっ、この時間は串焼きの屋台やってるのか。すみません、10本下さい」


 オークと角ウサギの串焼きを買った。朝の3時から5時まで副業で屋台をやっているというおっちゃん。冬は大変そうだなーと思いながら、紙袋に入れてもらった串焼きを頬張る。



「王都は調味料が充実してるな。美味い_ん?」


 ドンッ。_「おうおう痛いじゃねえかーおっさんよー」


「……」


「なんか言えよおっさん。わびとして美味いもんよこせやー」


「欲しいの?(…可愛い)」


 突然女の子がぶつかってトトにいちゃもんを付けている。眉間にシワを寄せてイキっているが、トトには可愛い女の子が頑張って背伸びをしているようにしか見えない。


 格好はあまり良い服とは言えない。年齢は10歳程。頬に殴られた様な痣があった。


「……(コクッ)」

「あげるよ。それとおっさんじゃなくてお兄さんな」


「ありがとう…お兄ちゃん」


 紙袋に入った残りの串焼きを女の子に渡す。へへっと嬉しそうに路地裏へと駆けていった。


「孤児…なのかな?こんな朝から…いや、昼間は人の目があるもんな」



 戦争や魔物の襲撃で孤児になる子供は多い。孤児院が満杯で溢れた子供も多い。その中の1人だろうかと、女の子が駆けて行った路地裏を見つめる。


「…お迎え行かなきゃ」


 頭を振り、気持ちを切り換え家を目指す。50メートル手前で止まり、ミランダを待つ。



「……」


「……(あっ出てきた)」


 ミランダが家から出てきて離れた所にトトを発見。小走りでトトの所までやって来た。


「おはようございます。もっと近くで良いんですよ?」


「おはようございます。そういう訳にはいきません。数無しが付きまとっていると噂になったら、ミランダさんに悪いので」


「そんな事!無いです!」


「…鑑定結果で評価が決まる世の中ですからね。行きましょうか。遅刻しますよ?」



 冒険者ギルドに向かって歩く。少し遅れてミランダもトトの隣を歩き、2人で赤ギルドに向かった。



「「……」」


 ギルドに向かう冒険者の中に紛れて無言で歩く2人。その様子は冷めきった恋人の様な雰囲気。



「…トトさん」

「はい、なんでしょうか」


「今度、ギルド員の研修で西にあるダンジョンに行くんですけど…来てくれたりしますか?」


「ダンジョン…ですか。ランクは幾つなんです?」

「はい!上層はランクDで、クラス3までの魔物が出ます。中層はランクC~Bでランク4までの魔物。下層はランクA、ランク5までの魔物が出るんです。来週にある研修では上層を回るので、トトさんなら余裕かと」


 ダメ元で聞いてみたが、意外に興味がありそうなトトにミランダが是非にと勧める。



「うーん…」

「駄目、ですかね…あっ!ホークアイさんも引率で来ますよ!」


「ホークも?…ちょっと考えておきますので、いつまでに返答すれば良いですか?」


「出来れば明後日の光の日までにはお願いしたいです」


「了解しました」


 淡々と喋るトトに、仲良くなれる日は来るのかと疑問を浮かべるミランダだが、前向きな返答なので少し喜色を浮かべていた。


 やがて赤ギルドの前に到着。


「では…行ってらっしゃい」

「はい、ありがとうございます。…行ってきますね!」



 ミランダを見送り、今日はどうするか考える。明日はまた送り迎えがあるので半端な日だからだ。



「どうしよっかな。Aランクの属性石があるから強化したいなぁ…買い物したら宿に籠るか」


 東区の雑貨街へ足を運ぶ。


 一番奥にある骨董品の店に入った。


(気になってたんだよなここ…朝早いのにやってる)


「おはようございます」

「……」

「見させて貰いますねー(おじいちゃん耳遠い?)」

「……どうぞ」


(良かった、聞いていた。鑑定は、大丈夫って書いてあるな)


 骨董品店は王都にしては割りと広い。コンビニよりも大きい店内に、ごちゃごちゃと商品が並ぶ。歴史を感じる佇まい。



≪吸魔の壺、ランクB≫

(うわ…欲しい…光金貨1枚)


≪太古の琥珀、ランクA≫

(琥珀の中に何か入ってるな…光金貨2枚)


≪月の石、ランクB≫

(売り物?だな。光金貨2枚)


≪宝の地図、ランクC≫

(…白金貨1枚。うさんくせえ)


≪聖なる骨、ランクB≫

(なんだこれ?白金貨1枚だけど)


 鑑定すればするほど掘り出し物が出てくる。次々と調べていった。


≪へっぽこな剣、ランクF、攻撃1≫

(変な感じ…鑑定阻害か?銀貨1枚…2本ある)


≪へっぽこな首飾り、ランクF≫

(これも…気になる。銀貨1枚…ピアスもある)


≪嘘つきの仮面、ランクB≫

(これは…鑑定情報が変わる!白金貨3枚だし3つある!)


「すみませんこれ下さい」

「…光金貨6枚にまけてやる」

「へ?ありがとうございます!また来ますね!」



 気になった物は全て購入して店を出た。


(なんでこんなに良い物が埋もれていたんだろ?更なる加工が出来ないからか?)


 雑貨街を出て宿に向かう。



(今日は引きこもるかなー…ん?路地裏が騒がしいな)


 トトが路地裏の方を向いた時に、男が飛んできた。


 ヒョイッと躱し、路地裏を見ると倒れた男が数人。その中に1人立つ獣人の女性。


「はっ、弱っちいね!」「ぐっ…くそ…」


(あっ、猫耳ピチピチお姉さんだ。格好良いなー)


 白い髪に白い耳がぴょこんと立っている猫の獣人。目を細め、男達を見下ろしていた。


 パンパンと手を払い、路地裏から出てきて眺めていたトトをチラ見。「弱っ」冷たくトトに向かって言い放ち、南区の方に歩いていった。



「……(えっ?なんかショックなんだけど)」


 少し呆然としていたが、男達が起きると面倒なのでトトも歩き出す。


(獣人って一定以上の強さが無ければ相手にされないって言うけど、本当みたいだ。俺の強さは5だから一生相手にされないだろうな)


 少し落ち込みながら、宿に到着。昼食を食べて部屋に帰った。



「気持ちを切り換えて、武器の強化しよう」


 Aランクの属性石とデザートイーグルを合成。


≪聖銃・アトリビュート・フォースイーグル、ランクA+、銃聖レベル30、攻撃1150、合成弾、レーザー化≫


「あぁ…ヤバい…進化したこれ。どうしよう…嘘つきの仮面使えるかな?」


 嘘つきの仮面を合成してみる。


≪クソな銃、ランクF、攻撃1≫

「…何故クソ…オンオフ出来るし」



 見た目ボロい、クソな銃をガンホルダーに挿しておく。

 次は月の石、魔鉄、魔水晶


≪ムーンブレイド、ランクB、光闇の剣士レベル20、攻撃480、魔力攻撃480≫


「うん、良い感じ」


 次は魔水晶、魔鉄結晶、属性石(毒)、呪い装備をぶちこむ。


≪呪怨砲、ランクA・死を喚ぶ者レベル30、攻撃0、死属性・ランダム状態異常・ステータス半減・呪い≫


「相変わらず悪装備のキレは良いんだよなー…そういやこの変な剣ってなんだろ」


 へっぽこな剣を手に取る。どんな剣か分からないが、何が作れるかは武器師の能力で解るので逆算した。



「これは…失敗作の聖剣?だいぶ昔の作品だけど、破棄されずに残ってたのかな?」


 へっぽこな剣、聖なる骨、宝石のクリアホワイト、魔水晶、魔鉄結晶を合わせて作成。


 神聖なオーラが漂う剣が出来上がった。



≪聖剣・ブリリアント・ブレイド、ランクーー、勇者レベルーー、攻撃ーーー、聖属性ーーー≫


「所々読み取れるからランクはS-かな?へっぽこな剣の隠蔽能力を使えば…」


≪へっぽこな剣、ランクF、攻撃1≫


 聖剣に隠蔽が掛かり、見た目錆びた剣のへっぽこな剣が出来上がった。それを剣帯に付けて装備。


「…もう一本のへっぽこな剣も聖剣の失敗作か…素材が集まったら作ろう…次は…」



 次にへっぽこな首飾りとピアスを手に取る。


「んー…分からない…空っぽの様で違う…保留だな。ピアスは…鑑定阻害系統?…嘘つきの仮面と合わせれば強力になるかも?作成」


≪クソなピアス、ランクF、攻撃1≫

「…何故クソになる…付けてみよ。鑑定」


≪ドド、クソ男、強さ1≫


「……弱っ。ただでさえ弱いのに…」


 一通り終わり、自分の装備を見てみる。


「クソな銃、へっぽこな剣、クソなピアス……あれ?他の装備もクソになってる…クソなピアスの効果か…一応オンオフ出来るから良いけど…」



 周りから馬鹿にされる未来を想像しながら、宝の地図を手に取った。


「鉱山の向こう側?…いや…これは、俺が掘った坑道と近いかな?今度行ってみよ」


 ふふっと笑い、外を見てみる。昼を過ぎ夕方の手前の時刻。



「夕方か…また夕陽に照らされた王都が観たいな」


 昨日見た光景は何度観ても素晴らしいと思わせる景色。クソな装備のまま、北区の丘に向かった。


 昨日と同じ場所に座り、王都を眺めたが夕方まで少し時間があるので、王都周辺の地図を眺めた。


「……」


「また会ったな」「…ん?あんたか。昨日振りだな」


「「……」」


 昨日会った貴族風の女性がベンチの反対側に座り、トトを眺めている。


「なに?」

「いや、昨日と職業が違うから気になってな」


「ああ、オフにするの忘れてた。このクソなピアスの効果なんだけど…これで良いか?」


「戻った…なんだそれは。ランクFのピアスなのに私の鑑定が誤魔化された」


「はははっ、随分と自信をお持ちな様で。何故クソになるか俺もよく分からないんだよ」


 女性はピアスに興味がある様で、まじまじと見詰めては首を傾げている。



「付けてみるか?きっと良いクソ女になれるぞ」


「いや…少し借りよう……本当にクソ女になった。鑑定してみてくれ」

「そいじゃあお言葉に甘えて」


≪アド、クソ女、強さ1≫


「くくっ、見事にクソ女だな。アドさん」


「…お前も見事なクソ男だったぞ」



 名前はアドと書かれていた。本名では無いのは分かっていたが、敢えてアドと呼ぶ。


 笑うかな?と期待したが無表情は崩さない。無表情の中でも、瞳は相変わらず楽しそうにしていた。



「このピアスを付けて街を歩けば、俺の気持ちが少しは解るぞ」


「いや、遠慮しておこう。クソ女なんて初めて言われてショックなんだ。街なんて歩けない」


「そりゃ残念。でもショックと言う割には楽しそうじゃねえか」


「……解るのか?」


「そんなの眼を見れば解るだろ。おっ、夕陽になってきた」


「……」


 王都に夕陽が射し込め、王城がオレンジに染まる。2人でボーッと眺めていた。



「…王都にはいつから居るんだ?」

「ん?来て1週間くらいになるかな?流れ者だよ。どうしたんだ?いきなり」


「…私の事を知らない王都民は少ないからな。聞いてみただけだ」


「お偉方だったか。こりゃ失礼を。打ち首だけは勘弁してな」


「…そういう意味で言ったんじゃない。いつまで王都に居るんだ?」


「冗談だから怒んなよ。いつまで…か。まぁ、気が向いたら出ていくよ」


「…そうか」



 夕陽が沈みかけ、辺りが暗くなる前にトトは立ち上がった。



「じゃあなーアドさん」


「…アイリスだ」

「ん?」

「アイリス・フォート。私の名だ」


「アイリスさんね。鑑定で知ってると思うけど俺はトト。…こんな数無しクソ男と友達になってくれるのかい?」


「友達…そうだな。お互いクソになった仲だ」


「その顔でクソ言うなよ…何?嬉しそうだな…」



 アイリスを見る。沈む夕陽に照らされるその姿はとても美しく、無表情な顔が現実離れした世界を作り出していた。


「友達など出来たのは初めてでな」


「そうなのか?そりゃおめでとう。…じゃあ記念にこれやるよ(作成)」


 懐に手を入れて魔水晶、毒消し(大)を合成し作成。


≪友情の腕輪、ランクB+、毒無効(大)・魔力上昇(大)≫


 チラリと杖が見えたので、魔法系統の職業と推測。腕輪の名前をそれっぽくして首を傾げているアイリスに渡した。



「これは?……(何?国宝より凄い…)こんな高価な物受け取れない」

「いらないなら捨てるか売るかしてくれ。じゃあなー」



 返そうとするアイリスに構わず、トトは逃げる様に丘を下る。



「ちょっと見栄張りすぎたかな?でも贈り物とかでもっと良い物貰ってるだろうし、まぁ良いか」




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