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流れの武器屋  作者: はぎま
王都ノール
29/163

魔導具店へ

ギルドから出た後は、商業街の東区へ向かう。


(ホークから黒金貨貰ったから、高い買い物しようかな…)


食品、薬の商店街を横切り、魔導具街へ。買い物客は中層以上の王都民が多く、他よりも少し華やかな商店街だ。



(良い魔導具があれば良いけど…高ランクの属性石でも良い)


並んでいる魔導具店を歩きながら眺める。

魔導具店は全部で10店。一般的な魔導具をメインに置いているスタンダードな店が5軒。粗悪な店が2件で高級店が2件。マニアックな店が1件ある。ホークアイからの情報だ。



(一般的な所に用事は無いからな。高級店から行こう)


1件目の高級店はサムスン魔導具店。ガラスが多く使われている外観。外から何があるか分かるので入りやすい。美人の店員さんが2人見える。


向かいにある2件目の高級店はジガ魔導具店。金色と銀色を使った外観で、一目で高級店だと分かる。貴族街に本店がある2号店と書かれている。目が痛い。


(うーん…美人の店員さんが居る方一択だよな。金ピカ魔導具店は押し売りが怖そう…)



1件目の高級店。サムスン魔導具店に決めて中に入る。中は白を基調とした清潔感溢れる作り。流石は高級店、大きさは他のお店の数倍はある。


貼り紙がある。『来店される全ての方に鑑定を掛けます』(そりゃそうか)


「いらっしゃいませ」

「どうも。鑑定は大丈夫ですか?」


「ええ、勿論。御用がありましたらお呼び下さい」


ニコニコするオレンジ色の髪をした綺麗なお姉さんに、笑顔を返し店内を見ていく。


≪照明魔導具、ランクB≫

(うわ、凝った装飾だなぁ…光金貨2枚)


≪冷蔵庫、ランクB≫

(冷蔵庫がある!これはサンプルで受注してから作るのか。光金貨4枚)


≪安眠ベッド、ランクB≫

(あっこれ欲しい…光金貨2枚と白金貨5枚…買おうかな?)


「すみません、安眠ベッドは布団と枕は付いてくるのですか?」


「ええ、付いてきますよ。ですが別途運送費は掛かります」


「収納があるので大丈夫ですので、今日持ち帰れますか?」


「はい、ありがとうございます」


光金貨2枚と白金貨5枚を支払い、店員さんが目の前にいたので収納する。



「素晴らしい収納をお持ちですね。指輪型は珍しい」


「はい。これには助けられています。あっここでは魔導具の買い取りはやっていますか?」


「ええ、珍しい物をお持ちでしたら是非」


ニコニコと笑うお姉さんが目を細めトトを見ていたが、ピクリと眉が動く。


(あっ、鑑定されたなー…胸の位置、聖印の守りか)


聖印の守りはランク不明の状態異常(大)無効。出所を知りたいのか、時折視線が行く。値段を知りたいトトは聞いてみる事に。決してお姉さんとお近づきになりたい訳ではない。気になっただけだ。



「これにはいくら出します?」

「…ふふっ、お見通しでしたか。そうですね…黒金貨30枚にランクSの宝石をお付けします」


「…何か欲しい物があったらお願いするかもしれません(凄いな…原価白金貨2枚が化けるか)」


「是非」


ふふっと笑い合い、他の商品も見ていく。高価な魔導具を所持する上客と判断された様で、一緒に付いてきて解説してくれる。


≪鑑定メガネ、ランクーー≫

「(これがあれば色々見れそう。黒金貨1枚)これはランク幾つまで見れますか?俺の鑑定魔導具はランクが低くて」


「こちらはランクA+まで視れますよ。射程距離は20メートルです」


「あっじゃあ買います」

「ありがとうございます」


黒金貨1枚を渡し、鑑定メガネを購入。早速使う事に。


≪属性石(白)、ランクA≫

≪属性石(黒)、ランクA≫

≪属性石(赤)、ランクA≫

≪属性石(青)、ランクA≫

≪属性石(緑)、ランクA≫

≪属性石(黄)、ランクA≫


「(すげー!1つ光金貨2枚…ダンジョンに行くなら、買った方が良いかな)Aランクの属性石1つずつ下さい」


「ありがとうございます。あの、武器の研究をしている方でしょうか?武器師という職業が気になってしまいまして…」


「ん?まぁそんなもんです。レベルが無いのでいつも馬鹿にされますよ」


レベルが無いのにお金を持っている事に疑問を感じた様子で、トトに話し掛けて来る。数無しと言われる者が大成する事は稀だからだ。



「あっ、すみません。そんな気持ちで聞いた訳では無くて…聞いた事の無い職業でしたから」


「良いんですよ。慣れてますし。特殊な武器は扱っていますか?」


「…はい。こちらに」



魔導具店にも武器防具はある。主に特殊な効果がある物だけだが。

少し気まずそうにしている店員さんに連れられ武器コーナーへ。


≪炎のロッド、ランクC、魔力攻撃50、炎弾≫

(ほうほう、こんな感じか…光金貨3枚)


≪風のレイピア、ランクB、攻撃200、風属性≫

(おっ強い。黒金貨1枚か)


「どうでしょうか?あの、出来ればトト様が研究された武器があれば拝見したいのですが…」


「ああ、まぁ他言無用なら良いですよ「勿論」…ここじゃあれなんで個室みたいな所あります?(何が良いかな…綺麗な武器の方が良いか)」


買い取り用の個室に案内されて武器を出す。



≪ゲイル・クリスタルロッド、ランクB、風魔道士レベル10、魔力攻撃330、風魔法≫


ラファーガの爪と魔水晶を合わせた一品。実は風魔法が使えるという素晴らしい杖だ。

緑色のクリスタルの杖。向こうが透ける透明度で、キラキラと輝いている。


綺麗なお姉さんに見栄を張ったトト。


「_っ!凄い……綺麗…これは魔水晶かな…」

「(うっとりするお姉さんが綺麗だなー)これはいくらですかね?」


「…はっ、失礼しました。黒金貨5枚…いえ観賞用にもなりますので貴族ならもっと出します…売って頂ける事は出来ませんか?」



キラキラとした目で見詰めて来る綺麗なお姉さんには勝てない。別に予備は数本あるので、1本売る事にした。


「本当にありがとうございます!」

「良いんですけど、俺の事は秘密ですよ。秘密が漏れたらこの国から居なくなるんで」


「…それはこの国にとって大きな損失ですね。肝に命じておきます。」


トトは別に秘密が漏れてもお金はあるので、帝国に逃げれば良いやと思っている。


店員さんからお金を受け取り、ゲイル・クリスタルロッドを渡す。少し雑談したが、お姉さんの名前はクルミナ・サムスン。20歳。魔導具店で成功したサムスン家の次女。


他の国や街にも支店があり、本店は帝国にある。家は長男が継ぐ。クルミナは各店を回り、色々な魔導具の勉強、作成もしているそうだ。



「今度王城へ行くんです。その時に目玉商品として売り出しますね!」

「いや、ほんと、秘密ですからね」


「大丈夫です!任せて下さい!」


不安は残るが、可愛いので良いかと思ってしまうトト。


(まぁ、この世界の女性は怖いからな…用心しなきゃ)



また来週来る事を告げ、魔導具店を後にする。実はまだ見たかったが、帰る流れになってしまったのでまた今度に。


向かいの店には行かない。クルミナがこちらを見ているからだ。他の店も行くのは気まずいので魔導具街を出る事に。


「なんか買い物に来たのに儲かってしまったな…黒金貨8枚。もう本業が何か分からない…」



トボトボ歩き、露店街へ行く。一番端まで着く前に、人が数人居たので、Uターンして反対側の露店街へ。


「今日は人が居たな。流石に馬車を出す所は見せられないから別の場所……おっ、人が居ない。良かった」



反対側にある露店街は閑散としており、一番奥は更に人気が無い。そこで武器屋馬車を出して、入り口に座る。


「今は昼くらいだから3時間くらいかな」


地図を取り出し、次の予定を組む。


「……」



「……(西のダンジョンまで1日掛かるから、ミランダさんの予定が終わり次第出発かな…)」



「あのー…見ても良いですか?」


「ん?いらっしゃい。どうぞ」


もうすぐ3時間という所で女性のお客さんが来店。鑑定は大丈夫という貼り紙と、鋼鉄シリーズ白金貨1枚、魔鋼シリーズ光金貨1枚と書かれた紙は貼ってあるので、特に会話は無い。



「…_っ!にひゃく!「うおっ!何?」_あっすみません。これは何処の工房の品ですか?」


「教えられませんが」

「あの、是非教えて頂きたい!」


「教えないという条件でこの値段で売っています。信頼関係を壊す訳にはいきません」


「いえ、あの、…そうですか。すみません無理を言って。私こういう者です。因みにこれを卸して頂ける事は可能ですか?」


「可能ですが…「本当ですか!」誰一人として、俺を見下す者が居ないなら良いですよ」


「……それは」


「対等な目で見る。そんな簡単な事も出来ない所とは取引しませんよ」


「……」


名刺を渡したスイという女性。彼女もレベルの無いトトを哀れに思っていたのだろう。唇を噛みしめ、ちゃっかり魔鋼の細剣を2本購入して去っていった。



「ありがとうございましたー(騎士団、2番隊か)」


トトは女性が去った後に馬車をしまい、露店街から離れる。


「騎士団か。武器を卸すとなると、身辺調査とかされるんだろうな…馬鹿にされるか見下される未来しかなさそうだ。さっきの人は丁寧だったけど、全員そうとは限らない」


脅す者、尾行する者は出て来ると踏んで、どうするか考える。


(別に騎士団に卸すのは良いんだよ。誰かの生存率が上がる訳だし。でも必ず馬鹿は居る)


雑踏の中でふぅーっと空を見上げる。なるようになるだろと赤ギルドへと向かった。




「トトさんお待たせしました」

「いえ、依頼を見ていましたので」


時間になったので、ミランダと共にギルドを出る。他の冒険者がチラチラ見る中、西区へ向かう。西区の北側がミランダの実家なので、中央の大通りから貴族街に沿って北西に向かう。


「依頼を受けて貰って、ありがとうございます」


「帰りたいのに帰れない気持ちは少し解るので、構いませんよ」


「…そうでしたね。帰る手段は解りましたか?」

「いえ、全く」


大通りを2人並んで歩く。大きい道を歩くのは安全の為なのだが、途中にトトが泊まっている安らぎの鳥を通るのでなんか気まずい。



「そういえば、休日は1人で実家に帰れるんじゃないんですか?」

「ええ。ですがギルド員の休日は特殊で、仕事が落ち着く冬に纏めてあるんですよ」


「へぇー。じゃあ1ヶ月纏めてとかですか?」

「はい。その時はゆっくり帰れます。普段は中休みか、たまにある昼上がりを利用して少し顔を出す程度で…」


休みが無いのは大変だなと思うが、この世界の人々は基本的に休みは無い。毎日働くのが普通なので、休みがあるギルド員は待遇が良い。



「トトさんは普段冒険者活動をしていませんが、何をしているんですか?」


「んー、基本はフラフラしてますね。周りの人に物を売り付けて適当に暮らしてますよ」


「ふふっ、トトさんらしいですね。あっそういえば、ツールさんってホークアイさんだったんですね。全く気が付きませんでした」


「あー変装上手いですよね。口説かれました?」


「いいえ。特には何も」



たまにツールでギルド内に居るらしい。白ギルドの受付嬢、ジルとヤムにはホークアイだと知らせていない。手の平を返す未来が容易に想像出来る。



「あっ、あの青い屋根の家です」

「素敵な家ですねー。では俺はここで、家に入るのを見届けたら帰ります」


家から50メートルの位置で立ち止まり、ミランダにお疲れ様でしたと伝える。家の前まで行かないのは、レベルの無い自分の印象が悪いので、ミランダの家族にいらぬ心配を掛けない様にする配慮から。



「いや、もっと近くて良いんですよ?「ここでお願いします」お茶も出したかったんですけど…「その分家族と過ごして下さい」…」


「…分かりました。ありがとうございました。明日は朝の5時なので宜しくお願いします」


「はい、では5時に」


少し残念そうなミランダが家に入るのを見届ける。そして、踵を返し来た道を戻っていく。




「…さて、帰ろうかなー…あっ、ここは丘になっているのか」


北区の方向を見ると小高い丘が見える。王都を少し上から観れそうなので、登ってみる事にした。


「鉱山は南区の門から出て北に向かったから、北区は初めてだな」


北区は職人街。魔導具工房や武器、防具などの工房が連なる。


丘の上は緑があり、少し木も生えている。公園かな、と木の下にあった5人程余裕で座れる長いベンチの端に座り、王都をボーッと眺めた。



(この世界に来て何日だっけ。1ヶ月は経って無いと思うけど、なんとか生きられてるな…)


夕陽に照らされた王城が美しく。地球に居たら観られない光景に顔が綻ぶ。


(綺麗だなー)


しばらく城を眺めていると、ベンチの反対側の端に誰かが座った。特に気にしていないトトは、チラ見もせずに王城をボーッと眺める。



(たこ焼き食べたいな…)


「「はぁー…」」


「「……」」


(お米か粉物が食べたい…)


「何か…悩み事か?」


「_いや、大した事じゃ無いさ」


「…そうか」


急に話し掛けられビクッとなるが、知らない女性の声なのでお節介な人なんだなくらいに思う。


「あんたも…ため息なんか付いて、良い事あったのかい?」


「ふっ、大した事じゃ無い」


「…そっか(なんだこれ)」


「「……」」



しばらく沈黙が続く。沈黙でも気にならない気楽さがあったが、視線を感じるのでベンチに座る人物を見た。


「……」

「なに?(白髪?銀髪?夕陽に照らされてよく分からないけど、なんだこの美人は…変人か?)」


「いや…苦労してそうだなと思ってな」


「あぁ、数無しだからか?別に、俺はこの職業が気に入ってる。勝手に同情してんじゃねえよ」


「それはすまない。しかし、気に入ってるとは…」


長い髪がキラキラと夕陽に照らされた女性が、こちらを見ていた。無表情だが、疑問を感じていそうな瞳を向けている。



「不思議か?数無しだから、馬鹿にする奴らや見下す奴らが直ぐに解るし。何より、この職業が好きなんだ。くくっ、あんたもまだまだだな」


「ふふっ、不思議な奴だな。まだまだとは?」


「直ぐに人を鑑定する事は悪い事じゃねえが、その表面的な情報に頼る様じゃまだまだって事。あんたは赤点だな」


「…そんな事を言われたのは初めてだ」


「職業主義の世界だからな。言われないのは仕方ないだろ」


トトはぶっきらぼうに話しているが、内心ヒヤヒヤしている。よく見ると貴族感が出ているからだ。気品があり、服の生地も違う。



「…では、どうしたら合格点を貰えるのかな?」


「教えて貰うんじゃなく自分で考えなよ…それに俺はひねくれてるから、そんな質問したら簡単に合格点はやらんぞ。というか言葉を返すが、あんたの方が苦労してそうだな」


自分で何言ってんだろうなと思いながら、目の前にいる美人を見る。無表情なのは変わらない。声色も冷淡で圧迫感がある。だが瞳は楽しいと言っている様だった。



「苦労?私が?」


「ああ、楽しいのに無表情だから…わかって貰えないんだろ?」


「……」


「くくっ、図星か。まっ、苦労する同士頑張ろうや。じゃあなー」


トトは伸びをしながら立ち上がり、丘を下る。


(さっ、不敬罪になる前に退散しますかー)


夕陽が沈み、夜になっていた。そそくさと大通りを進み、宿に入る。



「今日はなんか疲れたな…もう寝て強化は朝やろっと…」



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