武器屋開店です
パチリと目が覚める。清々しい朝。フカフカのベッドで良い睡眠が取れた。
「んー。よく寝たー…_コンコン_ん?はいー」
服を着ているのを確認。ノックがあった扉を開ける。
そこには食堂にいたおじさんがおり、配膳台から食器を取り出しテーブルに乗せる。
「おはようございます。朝食をお持ちしました。…食べ終わりましたら扉の前にある配膳台に食器を置いて頂けると助かります。では」
「はい…ありがとうございます…」
こんなホテルの様なサービスもあるのかと唖然。パンとサラダとスープというシンプルな物だが、朝の身体に染み渡る美味しさだった。
「すげぇなこの宿…金貨1枚なのが申し訳無いくらい…」
本来なら金貨5枚の宿。ホークアイの影響力に脱帽する思いだが、あの女たらしを思い出すと尊敬は出来ない。
準備を済ませ、食べ終わった食器を配膳台に置いて受付に鍵を渡した。
「行ってらっしゃいませ」
「はい、ありがとうございます」
宿を出て、店が多いと聞いた東区へ向かう。看板があるので分かりやすく、東に真っ直ぐ進む。
左側に貴族街への門があり、衛兵が立っている。ここで身分確認をする様だ。
「中心部に貴族街と王城があったら、空からの爆撃は楽だよなー」
戦争になったらと物騒な事を考えつつ、歩道を真っ直ぐ歩く。
大通りは広く、馬車がすれ違える広さの道路。両側に歩道があり、朝早いが多くの人が行き交っている。
「冒険者も多い。賑わってるな。あれは…猫耳…獣人なんて居るんだ…ファンタジーだなぁ…あの太もも最高だな…」
同じ方向を歩く猫耳ぴちぴちお姉さんの後ろ姿を凝視しつつ、東区に入った。
東区は商店街の集まりの様で、大まかな品目に分けられた商店街に大通りから入れる。食品街、雑貨屋街、露店街、武器防具街、薬街、魔導具街、魔法街、貴金属など様々だ。
貴族街には貴族用の店があるが、ニグレットが詳しいらしく、ホークは余り行かないと言っていた。きっと貴族の女性関係だろうと当たりを付けている。
服屋は雑貨屋街にある。少し歩き雑貨屋街に入った。
「昔名古屋に観光で行った大須商店街みたいだなー。迷いそう…国中の物が集まるから品揃えが多すぎるし…男物の服屋は…あったあった」
服屋が並ぶ場所。男物の服が陳列されている店に入る。
流石に他の街の様な広さは無く、コンビニの半分くらいの大きさ。既製品が多いのは転移者の影響だろうと思いながら物色していく。
(これと、これと、ジャケットはいるよなー…黒、茶、紺、深緑、暗い色ばっかだけど良いか…赤だと爆炎を見られた時に連想されたら嫌だし…)
出来れば赤のイメージは持たれたく無い。魔武器を纏う爆炎の戦士は異常だと理解しているからだ。
一度に済ませたいので何軒か回り、大量に買っていく。
「ありがとうございましたー!」
(こんなもんかな。次は近い所から…薬街か)
雑貨街の用事は終わり、薬街へ。薬街では病気の薬や万能薬を一通り買う。聖印の守りの予備や、万能薬ナイフと病気を治すナイフを作る為だ。
(毒無効ネックレスって高く売れるかな?貴族なら欲しがると思うけど…)
テレビで観た大河ドラマ。お家騒動で毒を使うイメージを持っているので、毒消しは多めに買っておいた。
薬街の用事は終わり、魔導具街へ。買う用事は無いが、物価を知らなければ売れないので回っていく。
(魔導具は他の街より少し安い。職人が王都にいるんだな。アクセサリー型の魔導具は…ここかな?)
アクセサリーの魔導具店に到着。シルバーアクセサリーのお店の様に、ガラスケースに入れられた魔導具。
鑑定しても良いと貼り紙があるので、鑑定ナイフを取り出し鑑定と値段を見ていく。
≪ポイズンガード、ランクE、毒防御≫
(毒に掛かりにくくなるだけで…白金貨3枚…)
≪フリーズガード、ランクE、氷属性防御≫
(氷ダメージ軽減か…白金貨1枚)
≪パワーアップ、ランクE+、攻撃上昇≫
(ランクが上がれば攻撃力が上がっていくのか…白金貨2枚)
≪結界石、ランクD、魔物避け結界≫
(これもランクが上がれば強い魔物を避けれる…白金貨1枚)
余り良い物が無く、別の店へ。そこで大きな店を発見したので中に入った。
(ここも鑑定OKか、色々あるな)
≪収納バッグ、ランクC≫
(収納バッグは光金貨6枚…やっぱり高いなー)
≪マジックアップ、ランクC+、魔力上昇≫
(白金貨5枚…上昇比率が知りたいよなー)
≪非力の指輪、ランクC、力半減、呪い≫
(なんてもん置いてるんだ…金貨3枚…買おう)
≪魅力的な指輪、ランクC、魅力上昇≫
(これがあればモテるのかな?…白金貨5枚…)
≪身代わりの指輪、ランクC+、一度だけ致死ダメージ無効≫
(これ欲しい…白金貨4枚…)
「すみませーん。身代わりの指輪ってどんな材料使っているんですか?」
「身代わりの指輪は確か…身代わり人形っていう魔物の素材かな。西にダンジョンがあってね、そこに居るんだよ」
「へぇー(ダンジョン行きたい!)ありがとうございます。あっ、この非力の指輪下さい」
呪いの指輪を買い、店を出る。他は特に無かったので、武器防具街へ。
冒険者や非番の騎士、魔法士がよく足を運ぶ街。色々な人種を見掛ける。
(獣人も結構居るんだなー。エルフって居ないのかな?あっ!さっきの猫耳ぴちぴちお姉さん!可愛いなー!)
防具を見ている白い耳に白い尻尾がフリフリして可愛いお姉さんを凝視。うんうんと頷き目の保養を済ませ、武器屋を見ていく。
今までの街で見てきた物とそうは変わらない。トトは最近マイブームの呪い装備を中心に探す事にした。
≪絶叫の短剣、ランクE、攻撃2、混乱≫
(混乱する短剣…こんなの棄てようよ)
≪無駄射ちの弓、ランクE、攻撃1、命中激減≫
(当たらない弓…誰が買うんだ)
≪裏切りの剣、ランクD、攻撃30、味方攻撃≫
(ぼっち用の剣)
≪怨念樹の杖、ランクD、攻撃3、邪属性≫
(あった、邪属性!)
適当に変な武器を買い、武器街を出て露店街へ。そこは一際活気のある場所だった。
(祭の屋台が並んでるみたい。競争が激しいんだろうな)
奥に行くとフリーマーケットの様に地べたで商売している姿。変な人形、怪しいツボ、謎の民芸品等が売られている。
(この中に混ざるの嫌なんだけど…)
人が来なそうな奥は新参者という暗黙のルールがあるのだろうか。商品が作りの甘い物が多い。
(ちょっと売ってみるか。一番端っこで)
一番端っこは誰も居ない。大通りに近ければ人が来るので皆大通り側に寄っているからだ。
シャッター街の様に誰も居ないスペースでラファーガに壊された馬車を出して加工する。
「幸い誰も見ていない。移動式店舗みたいにしようかなー。スーパーの駐車場によくいる焼き鳥屋台みたいな…作成」
壊れた馬車の形が変わる。馬車の車輪が刺々しく変化し、後方に階段。後ろから入れる馬車式店舗が出来上がる。
広さは軽トラック2台分。内部に棚があり、馬車の奥で商品の武器が見れる。出入口の後方に椅子を置き、出入口で精算出来る仕様。
横向きに馬車を置いているので、歩く人には側面のテントしか見えない。だが、本気で売る気は無いのでそのままにしてある。
「作れるもんだなー。これで何処でも武器屋が開ける」
陳列する武器は鋼鉄シリーズの上級職レベル1~5、白金貨1枚。一応皮製の鞘付き。
杖は魔石を嵌めた木製の指揮棒型。基準を知らないので魔力攻撃100の物。
「テントの中だから薄暗い…上開ければ良いか、作成」
並べ終わり、馬車の上を開けて光を入れる。
椅子に座り、雑貨屋で買った地図を眺めていた。
「……」
流石に人通りはほぼ無いので客は来ない。
「……西にダンジョン…北に魔鉄鉱山…東に行けば他の街…更に1ヶ月行けば帝国か……「やぁトト」…ん?いらっしゃいホーク」
「時間空いたから来てみたけどやってて良かった。見ても良い?」
「どうぞ。ついでに変な所無いか見てよ。武器屋なんて初めてなんだから」
ホークアイが一人でやって来た。どうやら気になっていたらしい。
「了解…トト、この馬車は?」
「ラファーガが壊した奴を改造したんだよ」
「いつの間にやったんだよ…何このお洒落空間…地味なトトとミスマッチだよ」
「地味は余計だ。まぁ頑張ったんだよ」
ホークアイは階段を上り、棚にある鋼鉄の剣を手に取った。
「トト…これいくら?」「全部白金貨1枚」「安過ぎだよ!」
「別に原価なんて銀貨数枚なんだから良いだろ」
「良くないし…どうせ面倒なだけでしょ?「御名答」それとこの杖何?魔力攻撃100とか光金貨5枚だよ。これは無し、しまって」
「ふーん、了解」
魔法杖は収納。代わりにメイスを置いた。
「まぁこれなら…良くないけど良いかな…剣1本買うよ」
「まいど、でもホークって魔武器あるじゃん。使うの?」
「魔武器は強すぎるから普段は使わないんだよ」
「ふーん。じゃあ刀2本買うか?」
「あるの!?欲しい!」
収納から1対の刀を取り出す。ホークアイの五月雨を見て何となく作った品。
鈍く光る二振りの刀。適当な素材で出来た何故か高性能な物。
≪石切丸、ランクD+、侍レベル20、攻撃170、無機物特攻≫
≪鬼切丸、ランクD+、侍レベル20、攻撃170、鬼族特攻≫
「……トト…なんだい?これは」
「刀だけど?銘有りの2本だから光金貨2枚な」
「安いよ!安すぎるよ!銘あるし!特殊効果付いてるし!黒金貨積むよ!」
「まぁ光金貨でも充分に元は取れるから良いよ。そういえば魔鉄鉱山って俺でも入れるの?」
「本当に良いんだね?…魔鉄鉱山は一般公開している場所は入れるよ」
ホークアイから光金貨2枚を受け取り、刀を渡す。刀を見てニヤニヤしている。
「じゃあ明日から行ってくるわ。2、3日で戻ると思う」
「鉱山の中は魔物居るから気を付けてね。たまにクラス4も出るし。まだ仕事あるから行くねー。あっ、ここの武器はトトが作ったって絶対言わない方が良いよ。面倒になるから」
「あー…まぁそうか…。ありがとな。不定期で出店だから宜しく」
ホークアイは軽い足取りで去っていった。きっと試し斬りでもするのだろう。
ホークアイが去った後、トトは再び地図を眺める。
「……」
「……(暇だから週1で出店かなー)」
「すみません。見ても良いです?」「ん?いらっしゃい。どうぞ」
「……」
女性の冒険者が入ってきた。ふんふん言いながら武器を見ている。
「この剣、いくらですか?」
「白金貨1枚ですよ」
「そうですか…うーん」
「別に鑑定しても良いですよ」
「あっ、そうでしたね。…_えっ?…嘘…」
鑑定魔導具は一人前の冒険者なら1つは持っている物。女性の冒険者は鑑定をして固まる。
(やっぱり安いのかなー?)
「この剣下さい」「まいど」
「また、来ますね」
白金貨を受け取り、女性は鋼鉄の細剣を購入して去っていった。
「…暇だけど…順調なのかな?」
地図を見ながらこれからの予定を立てて行く。魔鉄を手に入れたらダンジョンに行ってみるつもりだ。
「邪魔するぞ」「いらっしゃい」
「……この斧はいくらだ?」「白金貨1枚」
「…買おう」「まいど(値段の鑑定大丈夫の貼り紙いるなー。同じやりとりばかりだし)」
その後も何人か来店して武器を買っていった。途中から貼り紙を貼ったので余計な会話は無く。いらっしゃいとまいどしか言っていない。
「うーん…やっぱり暇だ。週1の数時間出店にしよう」
別に将来の夢は武器屋だなんて1度も思った事は無かったトトは、あまりやる気は無い。お金を貯める為には効率的だが、ゆっくりやれば良いかなという認識。
今日の出店は終了。馬車を収納してその場所を去る。
「売上は光金貨2枚に白金貨6枚…良い商売だな」
その後は武器屋等を巡り、変わった物を買って宿に帰った。
「明日は鉱山だ。楽しみだなー」
露店街に行く冒険者から少しずつ噂が立つ。高品質の武器を格安で売る露店商が居ると。
後日、その噂を聞いた者が露店街を探したがそれらしい露店商は居なかった。