商業ギルドへ
報酬を受け取り、赤ギルドを後にする。
「なんか凄い儲かったな…」
「Aランクになるか、中立連合に入ればもっと稼げるよ?」
「いや、遠慮しとく」
商業ギルドは近くにある。ギルドが密集している場所なので徒歩1分だ。
商業ギルドは大きい。先程の冒険者ギルド3つを全て横に繋げた長さ。中に入ると、受付の数が20はある。そこに商人達が並んでいた。
「わぁー、でかいなー」
「国中の商人が手続きをしに来るからね。地方都市でも手続きは出来るけど、ゲン担ぎの意味合いもあって王都に集まるんだ」
「ゲン担ぎ?」
「安らぎの鳥の近くに教会があって、そこで闘いの神とか慈愛の女神とか奉っているんだけど、商業の神も奉っているお陰かな」
「神ねぇ」
項目毎に並ぶ場所があり、新規商業受付に並ぶ。周りからは商人同士の情報交換をする声が聞こえて来る。仕入れ、取引、噂など様々だ。
商人の話を聞きながら順番を待ち、30程ボーッと待っていたらトトの順番がやって来た。受付はメガネが似合うお姉さん。
「いらっしゃいませ。新規商業受付です。登録でよろしいですか?」
「はい、こちらの彼の登録をお願いします。あっ私はこういう者です」
「…ホークアイ様。ご贔屓にありがとうございます。上の者を呼びましょうか?「いや、ここで良いですよ。貴女に対応して貰いたいですから」……ふふっ、ありがとうございます」
(お姉さんニヤニヤしてんな…流石は女たらし)
「登録には種類がございまして、商業展開する場所が、1・王都又は何処かの街のみ、2・国内のみ、3・商業ギルドが展開する地域全て出来る三種類がございます。登録料金は1が金貨1枚、2が金貨5枚、3が白金貨1枚でございます」
「じゃあ3で。年会費ありますか?」
「はい、登録料金と同じです。細かい規定は冊子をお渡ししますのでご確認下さい」
白金貨を払い、身分証を渡す。直ぐに商業ギルドの身分証を貰ったが、手続き関係は別の受付らしい。
別の受付に並び、必要な書類を揃えて貰い登録は完了した。
露店エリアでの販売。テナントを借りて販売が可能になった。自分の店を持つ場合は別途手続きが居るらしいが、今の所はこれで充分。
「ホーク、ありがとう。これで冒険者ギルドに入り浸らなくて大丈夫だと思う」
「ふふっ、トトの為だからね。連絡は安らぎの鳥の受付ですると思うから宜しく。じゃあまたね」
爽やかに笑うホークアイは、ニグレットの仕事が山積みな様でそそくさと去って行った。
時刻は夕方。一度白い冒険者ギルドを覗く事にした。
「ここはどんな感じなのかな?」
白ギルドは赤、黒ギルドと違いワイワイガヤガヤと賑やか…いや騒がしいと言っても良い。
中は広いホール。そこに受付が10もあり、それぞれ長い列が出来ている。依頼ボードには人集り。
(流石王都だなー。おっ?受付にジルがいる。大変そうだなー…笑顔が引きつってるなー…ざまぁ)
離れた受付にヤムの姿を確認。頑張れと心にも無いエールを呟き他の受付を見る。
(ミランダさんは居ないな。確か事務作業メインなんだっけ?)
受付から視線を外し、依頼ボードが空いてきたので眺めてみる。
(引っ越しやら子供の世話とか王都内の依頼もあるなー…魔鉄鉱の採取もあるけど純度が高くないと駄目とか…暇な時に見に来よう)
「おらどけ!」ドンッ。「ん?」急に大きな男がトトにぶつかって来たが…男は弾かれていた。
ざわざわ。「なんだあいつ」「ドムさんが弾かれたぞ」
「てめぇ…」「いや、ぶつかって来たのお前だろ」
「俺が来たんだから避けろ!お前新参か?あぁ?」
大柄な熊のような男がトトに絡んできた。明らかに男が悪いが、周りは避けないお前が悪いとばかりに眺めている。
(王都はこういうイベントがあるのかー。武器出しておくか…殴る武器はっと)
≪メリケンサック、ランクD+、豪腕レベル25、攻撃150≫
≪スチールナックル、ランクD+、豪腕レベル20、攻撃140≫
「おう聞いてんのか?表出ろ!」
(これが日常なのかなー)
「出たよ洗礼」「不運だなあの男」「あれ?クソ男?」「ん?ジルちゃん知ってるの?」
ドムと呼ばれた男が親指を入り口に向ける。ギルド内は暴力沙汰は厳禁なのを守っている様だ。
白ギルドから出て向かい合うトトとドム。ドムは大剣を持ちニヤニヤとトトを見下ろす。
「俺が勝ったら二度とギルドに入るんじゃねえぞ?それと有り金全て置いていけ」
「ふーん。俺が勝ったら?」
「お前が勝つのは万が一にもねえぞ!筋力増強!」
「ドムさんの筋力増強は岩をも割れるからな。終わったな」「おい、あいつ数無しだぜ?くくっ可哀想に」「数無し冒険者かよ。バカだなー」
喧嘩だと周囲の者が集まってくる。中にはどちらが勝つか賭けている様子。皆ドムに賭けるので賭けにならないのだが。
「おらぁ!スラッシュ!」
「弾き」_ギンッ!_勢いのある攻撃を拳で弾き逸らす。
ざわっ。
「あん?横一閃!」
「打ち下ろし」_ガンッ!_横凪ぎの攻撃を打ち落とす。
その後も次々と攻撃を打ち落としていくトトに、周りは違和感を感じていく。
「なんだあいつ…あの速さの攻撃を弾いてるぞ」「まぐれじゃねえか?」「数無しだぜ?どうなってんだ?ドム!ちゃんとやれよ!」
「終わり?」
「はぁ、はぁ、うるせえ!クソっどうなってんだ?」
(対人戦も大丈夫。あっ、鑑定してないや)
≪ドム、剣豪レベル5、強さ355≫
(オークリーダーぐらいか…もう終わらそう)
「くそ!ダブルスラッシュ!」
「打ち砕き」_ボキッ!_大剣が砕け。
「正拳」_ドンッ!_鳩尾に攻撃を受けドムが吹っ飛ぶ。
「「「おおお!」」」
「ぐ…がっ…」
パタリと白目を剥いて倒れるドム。
トトはふぅーっと息を吐き、その場を後にする。
その場の者達は興奮していた。
数無しが上級職業を殴り倒したと。
「すげー!なんだあいつ!」「強え!」「数無しなのに!」
(王都は退屈しないかなー)
夕方の大通りを歩き宿に帰る。
「おかえりなさいトト様。こちらが鍵です。お食事は1階奥に食堂がありますので、そちらでお願い致します」
「ありがとうございます」
鍵を受け取り2階の角部屋へ。ホールにはお金持ちの家族やら商人が居る。服買わなきゃなーと思いながら階段を上がり210と書かれた部屋に入った。
「うわ…すげえな。流石高級宿…」
中は思っていたよりも広く、ベッド、ソファー、テーブルと椅子があり、隣の部屋にはトイレと洗面所。そしてお風呂があった。
「おー!やった!お風呂がある!」
飛び上がる程に喜び、早速お湯が出る魔導具を起動。
10分程で湯が溜まり、備え付けの物で身体を洗ってから湯に入った。
「あー…生き返る…3週間振りくらいかな?…王都最高だ…」
暫くお風呂でゆっくりしてから上がり、綺麗な服に着替える。
「黒い服ばっかりだなー…ホークなら服屋に詳しいだろうから聞いてみるか」
さっぱりした気持ちで部屋を出て食堂に向かう。少し場違いな感じは否めないが、冒険者風の格好をした者も居るので気にしない事にした。
「ようこそ」
「あっ、(どうすれば良いかよく分からねえ…)お勧めでお願いします」
「かしこまりました」
適当な場所に座りおすすめを頼む。周りを見ると家族連れや商人が談笑している。商談をしている者もいた。
(家族かぁー…恋人欲しいけど…この世界の女性って怖いんだよな)
「お待たせしました。本日は良い素材が入りましたので、こちらをご用意させて頂きました。風狼のステーキでございます」
「あっ、どうも(風狼?)ラファーガですか?」
「左様でございます。パンはお代わり自由ですので。では」
トトとホークが討伐したラファーガが食卓に上がる。狼を食べる事に抵抗はあるが、ここで出されているので大丈夫かとフォークとナイフを手に取った。
「匂いは良い匂い…食べてみるか…_っ!美味い…臭みもないし身が締まっているのに固くない…流石高級宿だな」
パンも柔らかく、お代わりをしながらステーキを直ぐに平らげた。
「はぁー…美味しかった…「あっトト。一緒に良いかい?」おうホーク。仕事は終わりかー?」
「なんとか今日の分は終わりだよ。はいこれ、ギルドカード」
ホークアイが特別枠用のギルドカードを渡してきた。赤いカードでランクがDと書いてある。
「ん?Dランクだけどなんで?」
「あぁ、ラファーガを納品したのと、盗賊も討伐したからね。Dに上がる条件は人を殺す覚悟があるかだから、ついでに上げて貰ったんだ」
「そうなんだ。なんかわざわざ悪いな」
「良いよ。好きでやってるから。あっ、すみませんお勧め下さい「かしこまりました」後は何か報告あったかな?まぁあったら伝えるよ」
ホークアイも風狼のステーキを食べ、二人でワインを飲みながら談笑していた。
「あぁそうだ。服屋はどこにあるの?」
「東区に沢山あるから見ておいで。他のお店も東区だから。露店もあるから出店してみたら?トトなら許可証あるから露店エリアでいつでも販売出来るよ?」
「お店回ったら検討しておくよ」
談笑しているが、周りの視線が気になる。ホークアイは有名なので無理もないが、時折聞こえる地味男という単語に精神を削られていた。
そこに家族連れの子供がこちらにやって来た。金髪幼女がトテトテと来てホークアイを眺めている。
「ホークアイしゃま!ふぁんなんです!握手してくだしゃい!」
「ふふっ、可愛いレディだね」
「……」
トトに目もくれない幼女は頭を撫でられご満悦。キャッキャと笑い席に戻って行った。
「なぁホーク。守備範囲ってどれくらいなの?」
「…さりげなくアホークって言わないでくれるかな?まぁ愛があれば年齢は気にしないね」
「あの子は?」「行けるに決まってるじゃないか」
「…そうか」
夜も更け、食堂に人が居なくなって来た時に解散。
トトは部屋に戻り、ふかふかのベッドの上で横になると直ぐに眠りに入って行った。