強く吹く風
10メートル先、大きな魔物が目の前に居る。トトは正面に、ホークアイは側面の馬車の方に位置している。
トトは左手にデザートイーグルを持ち、右手に妖刀毒沼を装備する。長い前髪が視線を隠しているが目の前の魔物を見据え、黒い服装とドス黒い刀が暗殺者の様。
ツールはピアスを外しホークアイに戻り、青い2つの刀を装備。金髪の髪に透き通った肌。服装はおっさんの格好で地味だが、青い双刃と鷹のように鋭い眼光が輝き、物語の主人公の様に映えている。
トトはラファーガを鑑定する次いでに刀を鑑定してみる。
≪水双刃・五月雨、ランクーー、攻撃ーーー、ーーー≫
(魔武器か…青く綺麗な刀身…水属性かな?)
≪カルネージ・リカントロープ・ラファーガ、クラス4、強さ2250≫
(強い、桁違いだ…_っ来る!)
「グオオォォ!」ラファーガは太い腕を振り上げ。
トトへ振り下ろす「_っ!柳!」ギャリッ!トトは何とか武技で受け流し後退。
「アイツが風属性なら土か?」
デザートイーグルの銃口を向け、「ヘッドショット!」
タタタタタッ!_「何!」
黄色い弾丸はラファーガを避ける様に通り過ぎ、1つも当たらない。
「トトさん!ラファーガに遠距離攻撃は効きません!風の壁に全て逸らされます!」
「うへぇ…まじすか。仕方ないじゃあ俺も二刀流かな」
デザートイーグルをしまい、鋼鉄の剣を取り出す。
≪鋼鉄の剣、ランクD+、剣豪レベル50、攻撃200、伸縮≫
≪妖刀毒沼、ランクC+、侍レベル45、攻撃290、毒付与≫
「全く、幾つ武器を持っているんですかねぇ…鑑定…_っ!(一瞬だが職業が変わっただと!侍の剣豪…レベル95…どういう事だ!また直ぐに武器師に戻ったが…)…どうやら評価を底上げしなければいけませんねぇ…」
ニヤニヤするギックリ腰のイケメンは、馬車の近くから動かない。いや、本当にギックリ腰なので動けないのだが、余り信じていないトトは苛つきながらもラファーガに迫る。
「武技・二刀剛断!_ギンッ!_厄介な爪だ!二刀連武!_ギンッギンッギンッ!_ホークアイさん!弱点はどこですか!」
「首や関節の付け根です!すみませんがこちらで闘って貰って良いですか!本当にギックリ腰で動けないんですよ!」
1ヶ月ギルド員として事務作業をし、馬車に揺られながら座りっぱなしだったホークアイ。急な襲撃で振り返った時に腰を痛めていた。
「もう!ギックリ腰とか本当にAランクなんですか!?くそ!こっちだ!」
「グオオ!」爪を横凪ぎに_ドンッ!「うおっ躱したのに!風の爪か!」
トトは風の爪に弾かれホークアイの横に転がる。直ぐ様立ち上がりラファーガを見据えた。
しかしラファーガは追撃してこない。
トトとホークアイを睨み付けている。
「いてて…あれ?来ませんね」
「きっと私が居るからでしょう。魔武器を持っているなので容易に近付かないと思います」
ラファーガの腕に刀傷が幾つか見える。
ホークアイが迎撃した時の傷だろう。
「じゃあ盾になって下さい」
「いや私動けないんですよ!盾とか酷くないですか!?」
「盾以外に役に立たないじゃないですか…いや、回復すれば良いのか」
ミドルポーションナイフをホークアイの腰に刺す「うおん!何…を?これは…(回復する武器だと!)」
「回復するまでじっとしてて下さい」
「…すみません。本当に助かります」
ラファーガは業を煮やしたのか、10メートル先から左右の太い腕を振り上げた。
「ん?何を?」
「あれは…トトさん!私の後ろに!」
ブオン!ラファーガが両腕を勢い良く振り下ろす。
ゴオオオ!風の爪が飛んで来た「やはり!武技・水蓮!」
ザザザン!ホークアイは五月雨を振るい風の爪を打ち落とす。
「魔法、ですか?(怖え…)」
「ええ、風を操りますからね…また来ます!水蓮!」
「グオオォォ!」
ガガガ!風の爪が次々と襲う。
ドンッ!_弾かれた風の爪が近くの馬車に直撃。
荷台の荷物が散乱する。
「ん?なんか落ちてきた?_っ!これは!」
ヒラヒラと舞い降り、トトの頭に乗る1枚の白いパンツ。
名前が書いてある。
「ニグ…くそ!おっさんのパンツかよ!」
ニグパンツを地面に叩き付け、トトは隙を見て横に走る。
ドンッ!ドンッ!「うひゃー!」横に走ったトトを追い掛ける様に風の爪が飛んでくる。
「あのままじゃジリ貧だからなっと!_ここだ!フックショット!」
ラファーガ近くの木にフックショットを引っ掛け_ガッ!_勢い良く巻き取る。
だが木に飛び移っても距離は2メートル、武器は届かない。
「おらぁ!伸びろ!」
巻き取る勢いを利用して鋼鉄の剣の能力、伸縮を発動。
ザシュッ!_「ギャオオ!」脇腹を斬り裂き。
フックショットをしまい木の上から飛び上がる。
ラファーガの頭目掛けて「うおお!武技・剛槌閃!」妖刀の武技を発動。
ガキンッ!ラファーガが首をひねり牙で毒沼を防ぐ。
「まだまだ!毒の沼!」ドオオ!妖刀毒沼からドロドロとした毒が溢れ「グボオオ!」
ラファーガが毒を飲み込んだ。
喉を抑え苦しみに耐えられず胃の中の物を吐く。
追撃を加えようと迫るトト、その時。
「トトさん!お待たせしました!武技・水流蓮華!」
ホークアイが復活。
ザザザザン!ラファーガを斬り刻む。
「グオオォォ!グオオォォ!」
「ホークアイさん遅いですよ!武技・二刀連武!」
トトもラファーガに追撃。
斬斬斬!両腕を斬り落とす。
「止めは一緒に行きましょう!」
「はい!」
トトとホークアイはそれぞれ構え「「武技!」」
「「二刀剛断!」」
トトはラファーガの首を切断し。
ホークアイは胸を貫いた。
「はぁ、はぁ、何とか、勝てましたね」
「ええ、すみません…最近運動不足で、ご迷惑をお掛けしました」
ラファーガを眺めながら二人で息を整える。
「あともう1つお願いなんですが…」
「なんですか?」
ドサッ。ホークアイが崩れ落ちる。
「え?ホークアイさん!?」
「…お恥ずかしい話ですが…調子こいて、ギックリ腰が再発しました…休憩させて下さい…」
「……ふふっ、良いですよ。休んでいて下さい。散らばった荷物と狼男は回収しておきますんで」
「…助かります」
「貸し1つですよ?」
「これは…参りましたねぇ」
くくくっと笑い合う2人。うつ伏せに倒れているイケメンを置いて、トトはラファーガと馬車の荷物を回収していく。
「ホークアイさん。終わったので休憩しましょう」
「ありがとうございます。それと、ホークと呼んで下さい。敬語も不要です」
「…了解。ホークも俺の事は呼び捨てで構わないし、敬語は不要で良いよ」
「くくっ、了解。少しは信用を得られたかな?まぁ誰かが居たら敬語だけどね」
ニヤリと笑うホークアイに、なんかしっくり来るなと思いながら再びミドルポーションナイフをホークアイの腰に刺す。
「うおふっ!トト、このナイフは余り人前では出さない様に。回復効果のある武器なんて国宝級だから」
「え?そうなの?じゃあ強化するの控えるかな…」
「今…なんて?強化?…もしかして…このナイフはトトが作ったんですか!?」
「い、いや?そんな事無いでござるよ!こんな国宝級のナイフなんて作れる訳無いでござるよ!」
「語尾がキモイぞ…ふーん。隠すんだ。へぇー」
敬語を辞めてから急に距離感の近くなったホークアイに気付かず、慌てふためくトト。それを見てホークアイがぷっと吹き出した。
「安心して。誰にも言わないよ。別に私はこの国の所属じゃ無いし」
「へ?そうなの?中立管理官って書いてあったから国の役人だと思ってた」
「違う違う。中立管理官ってのは、国に属さない魔武器を集める中立連合の担当官なだけだよ。この国の担当が私とニグなんだ」
「魔武器を集める?中立連合?」
知らない単語が出てきて首を傾げるトト。それを見てそういえばと納得するホークアイ。
「トトは他大陸の人間だったね。説明すると、中立連合ってのは精鋭が集う組合かな。例えるなら冒険者ランクSが沢山いるギルドって感じ」
「へぇー。じゃあホークはそこの構成員なんだ」
「そうそう。冒険者ギルドの上位版かな?別に忠義は無いんだけど報酬が良いから入っているだけ。ノルマも無いし楽なんだ」
「ニグさんもホークと同じくらい強いの?」
「ニグは諜報活動がメインだから戦闘向きじゃない。あの人当たりの良さとゲスさでカバーしているから総合力は強いかな」
ぽっちゃりとし、ニコニコとするニグを思い浮かべる。本当の姿を知りたいがゲスいと言われたら余りつつきたく無い。
「じゃあなんで魔武器を集めてるの?」
「それはね。魔武器っていうのは別の言い方があって…普通の魔物が魔武器を手にすると、他の魔物を倒し、レベルが上がりクラスがドンドン上がって行くんだ。最終的に到達するのはクラス8」
「クラス8っていうと、魔王ぐらい強くなるの?」
「そう、魔王級に強くなれる武器。別名、魔王武器。これを魔物の手に渡らない様にするのが中立連合のメインの仕事」
トトは爆炎の戦斧を持っていた赤いオークを思い出す。クラス8まで強くなっていたかと思うとぶるりと身体が震えた。
「まぁ魔武器情報が無ければ、ギルドの調査官とか色々仕事があるからね。たまたまニーソの街に行ったらトトに出会えたって訳だけど」
「そうなんだ。もし誰かが魔武器を持っていたら奪うの?」
「いや?危険と判断したら討伐するけど、悪用しないなら所属している国に魔武器を登録してからしっかり管理して貰うよ?売って貰う場合もあるし、様々だね。簡単に言うと、魔物の手に渡らない様にするだけだし」
「結構ざっくりなんだね。俺とか国に所属してないけど、そういうのはどうなるの?」
「んー、恐らく誰か付けるか中立連合にスカウトするかかな?中立連合所属なら安心な所あるし」
「ふーん」
うつ伏せになって腰にナイフが刺さっているホークアイと、その横で寝転がっているトト。シュールな光景だが、お互い楽な気持ちで雑談していた。
結局ホークアイは夕方近くまで治療したが、治らなかった。
仕方なくトトはホークを簡単な荷台に乗せ、来た道を戻り野営場所まで行く事に。
「ニグさん達は次の街で待っているのかな?」
「いや、アイコンタクトで先に行けと言ってあるし。ニグは予定を崩すのが嫌いだから先に王都に行っている筈」
「あぁ、そうなんだ…(もう何も出ない事を祈ろう!)…結構ドライなんだね」
野営場所まで戻った2人はそこで夜を明かした。