職業
「あー、何もせずに寝ちゃったな…」
疲れて直ぐに寝てしまい、身体を起こす。まだ外は暗いままだが良く眠れたので大きく伸びをした。
「暗いからもう少し寝ようかな?いや、色々整理しないと」
ビニール袋からノートとボールペンを取り出し、机に設置してある明かりを付ける。ボタンを押すと光る魔導具らしい。
ノートに箇条書きで現状、確認事項、目標等を書き込んで行く。最重要はお金を稼ぐ事と情報を得る事。
「職業って武器師だけど、説明されなかったからなぁ。どんな職業だろ?」
白いカードを取り出して眺める。名前の他に職業が追加されていた。スマホならタップすれば分かるのになー、と武器師の部分に触れてみる。
「_うお!説明出てきた!…材料さえあればどんな武器でも作れる職業?鉄があれば剣とかナイフが作れるのか?でもどうやって?」
うーんと悩み、辺りを見渡す。ドアノブが金属だったが自分の物では無いので諦め、お使いの時に持っていたがま口の財布から10円玉を取り出す。
「勿体無いけどこれしか無いからな…ナイフをイメージするのかな?_おっ!頭に浮かんできた!分かる分かる!作成!」
ナイフをイメージして作成と唱えると、10円玉の形が変わる。全長3センチ程の銅製ナイフが出来上がった。
「小っさ!お土産屋さんのキーホルダーみたいじゃねえか。素材の量も関係するのか…でもこれで武器を作って売ればお金持ちになれるぞ!」
よし!と小さくガッツポーズ。しかし材料はどうしようと悩む。
「鉄を買うにもお金が無い。鉱山とかあれば作りたい放題かな?でも運ぶ手段がない、か。異世界だから、こう次元収納みたいなの無いかねぇ…能力って付けれるのかな?」
先程作ったナイフを持ち、次元収納をイメージしてみる。しかし作れないのが分かったが、必要な材料が頭に浮かんだ。
「時空石、大食い系統の魔物の胃袋、次元の効果がある物や武器のどれかがあれば作れるか…でも材料が分かるなら意外にいけるんじゃないかな?」
武器に能力を付けれる事も分かった。これってかなり便利だし、高値で売れそうだ。そう期待に胸を膨らませているが、魔剣やそれに属する物を作れる職人は世界に数人しか居ない。 魔導具職人は一定数居るが、職業の関係で武器に応用が出来ない。バレたらどうなる事やら。
「それ以前にお金が無い…赤みかん、オーレンだっけ?採れば稼げるけど少し遠いし…弱い魔物なら倒せるかな?石とか木を武器にすればなんとかなる…と思う」
思い立った所でお腹がグーッと鳴る。昨日は赤みかんしか食べていない。身体が欲するのは肉や米。
「大通りに屋台とかあったよな…」
深いため息を吐き、部屋を出ておばちゃんに鍵を返す。外は薄暗い夜明け。冒険者の姿がちらほら見えた。ビニール袋を片手に辺りを見渡した。
「やっぱり朝は早いんだな。依頼の取り合いが激しいって聞いたから早朝はギルドに行かないでおこう。むさい男達に揉まれながら依頼を探すとか無理…」
大通りを進み屋台が並ぶ場所へとたどり着く。角ウサギの串焼き一本銅貨2枚。5本買い、街の外へと向かった。
「塩味のみ…まぁ味があるだけましか。生活が安定していない今、この料理本が活躍するのは後かな」
ポケットに入っている和洋中の料理本と月刊の料理雑誌。姉にお使いを頼まれた本。
「今頃皆どうしてるんだろ?俺の事、探してんのかな?」
冒険者の茶色いカードを提示して街を出る。時間があればギルドにある資料室にて近隣情報等得られるが、早くお金が欲しかったので後回しにしていた。
街道から逸れて草むらに行く。ギルドで見た薬草の絵に心当たりがあったからだ。
太陽が顔を出し、草花が良く見える様になったので草を掻き分け薬草を探す。
「確かヨモギみたいな…あったあった」
50センチ程の、ギザギザした葉っぱの草を引っこ抜く。綺麗に土を落とし、葉っぱが折れないようにしながら、ギルドの講習会で貰った麻袋があったのでそれに入れる。
幸い密集した場所だったので丁寧に入れていった。30株程入れ、麻袋がいっぱいになったので採取を終わる。
「ふぅ…確か一株銅貨2枚だから、銀貨6枚になりそうだ」
一時間程で30株。銀貨6枚は時給6000円。良い商売なんじゃないかと思い始めていた。
「これで今日も生きられる。そして多分、治安は悪い。野宿したら人間にも魔物にも殺されそうだ」
持ち物は薬草の入った麻袋、身分証、白と茶色の身分証、本、ノート、ボールペン、日本円の小銭が大半を占めるがま口の小銭入れ、盗まれて困る物は身分証くらい。
少し休憩した後、街へ戻る。今から出勤の冒険者達とすれ違いながら。
「あれ昨日のおっさんじゃねえか?」
「あらほんとね。初心者が薬草採っても買い叩かれて銀貨1枚になるだけなのに、そんな事も知らないのかしら」
「……(ふっ、学生時代に農業のバイトをしていたから初心者では無いのだよ)」
若者相手に心の中で張り合いながらギルドへと入る。朝のラッシュが終わった後だろう。冒険者の数は少ない。ぐちゃぐちゃになった依頼ボードを整理しているギルドの職員の姿が見えた。
受付は2つ空いており、ハゲのおっさんの受付は誰も居なかったので茶色の冒険者カードを提示。
「いらっしゃいませ。採取依頼ですね。ではお預かりします。……全部で32株。綺麗に採ってくれてありがとうございます。銀貨8枚でいかがでしょうか?」
「え?依頼の料金よりも高いですけど、良いんですか?」
「ええ。ここまで状態が良いと薬師に喜ばれますので、継続して頂ければもっと高く買い取りますよ。麻袋を2つお渡ししますので、またお願いしても宜しいですか?」
「はい、ありがとうございます。ご希望に添える様に頑張ります」
おっさんと笑い合い、銀貨8枚と麻袋を2つ受けとる。冒険者は仕事が雑な者が大半なので助かるとの事。少し話してからギルドを出た。
「これで所持金が銀貨9枚と銅貨が5枚…」
時刻は9時頃。ギルドの隣にある安宿で泊まる旨を伝え、銀貨3枚を渡しておく。まだ稼いでおきたいトトは、街の外へと足を運んだ。
「お風呂入りたい…宿に帰ったら身体を拭く道具は貸してくれるっていうけど期待しない方が良いよな…」
日本の温かいお風呂とご飯を妄想しつつ、途中で買った角ウサギの串焼きを頬張る。街道を逸れて、早朝に薬草採取をした場所へ行く。
「薬草採取って、討伐依頼みたいな華がある訳じゃないから人気無いから仕事が雑って言ってたな。あのおっさん…名前なんていうんだろ?」
誰かが採取した様子も無く、早朝同様に薬草を探し、丁寧に麻袋へ入れていく。
「薬草を素材にしたら回復の剣とか作れるのかな?」
ふと疑問に感じて、10円玉で作ったおもちゃのナイフを出してイメージを練ってみる。
「おっ…薬草とナイフで作れそう。やってみるか…作成!」
ナイフと薬草が淡い光を放ち、合わさる。見た目は変わらないので良く分からない。
「鑑定とかあれば便利なんだけど…その機能が付いた武器を作れば良いのか?それは後にして、このナイフ…どう使うの?」
悩んだ挙げ句、指にナイフを刺してみる。チクッと爪楊枝で刺した様な痛み。じわじわと血が滲む。そこで薬草と念じてみる事に。
「おお!傷が治った!痛みも無い!…でもこれは軽い傷にしか効果が無さそうだから…高級ポーションとか凄い薬草なら回復の武器が出来そう!」
生存率が上がるのは嬉しい。回復効果のある武器は、ダンジョン産でも国宝でも中々無い。売れば物凄い値段がするがトトは気付かず喜ぶ。
無事麻袋2つ分の薬草を手に入れて、ほくほく顔でギルドへと足を運んでいった。