馬車の旅
ガタゴトと揺れる2台の馬車。前方の馬車の御者席にはトトとツール。荷台にはジル、ヤム、ミランダ。
後方の馬車にはギルドで雇った御者、ニグという名前のぽっちゃり系なおっさん。荷台にはそれぞれの荷物。馬の餌である干し草、水、食料が積まれている。
ブルルと鳴く馬と王都へと続く街道を眺めながら、御者席でツールと雑談していた。
「王都に着いたら解散で良いんですか?」
「ええ、そうですね。あっ、連絡を取れる様に王都の宿は紹介しますよ。宿によっては危険もありますので」
「そうなんですね。ツールさんは王都ではどんな事をしてるんですか?」
「仕事を掛け持ちしていまして、事務作業と色々飛び回るのが半々ですねぇ。活動内容は王都に着いたら話しますよ。今は彼女達が居ますから。トトさんはどうするんですか?副業をお勧めしますけど」
「副業?冒険者以外の仕事ですかね?ツールさんみたいに?」
「ええ、そうですね。冒険者一本で活動している人は全体の約半数ですが、安定収入では無いですし…税金関係をギルド側が処理する分、手数料の割合が多いです。冒険者一本だと実際に手元に入るお金が少ないので割に合わないんですよねぇ」
冒険者を個人事業主と考え、ギルドという組合に入る仕組み。ギルドという看板があれば仕事にありつけるが、その分どれだけ仲介手数料を取られても文句は言えなくなる。
上手く出来てるなぁと思いながらも副業について考える。ギルドを通さない仕事ならば、仲介手数料が無いので無駄が無い。
「副業…武器屋かなぁ。でも手続きやら面倒そう…」
「職業は武器師でしたね。手続きなら商業ギルドに入れば簡単に出来ますよ。お金さえあれば良いですし。トトさんは武器が作れるんですか?」
「まぁ時間が掛かりますし簡単になら、ですかね。こんな感じです」
試作で作った鋼鉄の細剣を取り出し渡す。ふーんという感じで見ていたツールの表情が険しくなっていった。
(まぁ適当に作った細剣だからなー。攻撃力は光金貨級だけど魔鉄じゃないし…王都じゃ白金貨1枚行けば上等かな?)
≪鋼鉄の細剣、ランクD、麗騎士レベル2、攻撃104≫
「…これが簡単…なんですか?…材質は鉄ですよね(鉄だけでこの攻撃力は異常だ…)」
「はい。王都では魔鉄の武器が主流なんですよね?俺には扱えませんから、細々とやる程度ならこのぐらいで大丈夫ですかね?」
「ええ…お店を開くには保証人が必要なんですが、私がなりますので是非お店を開いて下さい」
「んー…その時はお願いします。あくまで副業をするならですから」
武器に付いている職業とレベルは、武器師であるトトにしか分からないので他の者には見れない。だが攻撃力は中位鑑定以上で分かる。
何気無しに発動した中位鑑定にツールは驚く。目の前に一流の鍛治士が居る。是非とも手元に置きたいと考えを巡らした。
(ちょっと強すぎたか?でも適度に自己開示しないと、ボロが出た時にネチネチ言われるのは嫌だし…店に出すならこのクオリティだし…ん?)
女性達は馬車に慣れてきたのか、声が大きくなってきていた。女性の声はよく通るので話し声がよく聞こえる。
「この旅詰まらないわねーまともな男居ないし」「そうねー。薬草なんて100点満点中10点くらいかしらー」「はははは!私は15点だと思ったわ!ヤムは辛口ね!ミランダは何点だと思ったの?」「えっ、私は最初…20点…だと思いましたけど…」「20点!薬草にしては高得点だけどミランダも辛口なのね!」
冒険者に点数を付けるのは本来、依頼達成率や態度、将来性や強さで点数を付ける。
ニーソの冒険者ギルドでは顔や服装で点数を付ける風習があり、受付嬢達はその点数に応じて報酬の削減を決めていた様だ。
「「……」」
「…ツールさん…受付嬢ってみんなあんな感じなんですか?」
「まぁ…そう…ですね。大体は…」
「そうですか…(この世界で見た美人は全員ヤベーな…恋愛をする事があれば気を付けよう…)…人間不信になりそうですね」
「「……」」
ツール…いやホークアイも思い当たる事があるのだろう。2人で遠い目をしながら街道を進む。
左右に広がる草原という同じ景色に飽きてきたトトだが、受付嬢達はまだ話し続けている。
お金、男、酒の話をジルとヤムが中心となって会話していた。二人は王都に着いたら飲みに行き、ミランダは王都出身で家族と過ごすというどうでも良い情報が流れてくる。
途中で挟む休憩では、皆で輪になって休憩する。しかし、おっさん二人に地味男という面子なので受付嬢達の会話は無い。おっさん二人と地味男は世間話をしていた。
「ニグさんはずっと御者のお仕事をしているんですか?」
「そうですね。もう10年以上になります。ツールさんにはよくお世話になっているんですよ」
「ニグさんの御者は荷物を痛めないので、こちらこそお世話になっています」
おっさん二人は目を合わせてニヤリと笑い、ツールがトトをチラ見してから頷く。どうやらニグはホークアイだという事を知っているのだろう。
「ほうほう、トトさんも…。ツールさんは面倒見が良いですからね。色々聞いて大丈夫ですよ」
「はははっ、そうします。この国の事はよく分からなくて」
「この国というとトトさんの出身はどちらですか?見た所黒髪ですし他の大陸出身だとは思っていましたが」
「あー…多分他の大陸だと思います。(前から考えてた設定で良いかな)ランクE迷宮の隠し部屋で転移の罠に掛かって、気付いたらニーソの街の草原に居たんですよ。所持品も無くしてしまい、なんとか今まで生き長らえてたって訳です」
「それは災難でしたね。ランクEといえども隠し部屋は何があるか分かりませんからね」
「罠に掛かるとかダサいわね」「しかもE…ぷくく」「駄目よ…ジル…ぷっ…わらっちゃ…」
ダンジョンにもランクがあり、F~SSランクの難易度がある。そしてダンジョンの罠の中でも厄介なのが転移の罠。ダンジョン内なら良いが、稀に他の大陸まで飛ばされる物もある。
ギルドの資料でそれを見つけ、これ幸いと自分の境遇に当て嵌めた。
「ではトトさんは、その内故郷に帰られるのですか?」
「まぁ帰れるに越した事は無いですが…(恐らくもう地球には帰れないからな…)流れ者も悪く無いかなーとは思っていますので、しばらくはフラフラする予定ですね」
「それはそれは。もし王都を出られるなら一報下さい。トトさんをサポートしていきたいので」
「ありがとうございます。面倒に巻き込まれない限りは滞在しますよ」
王都といえば貴族や王族。権力を持った者が多い。目を付けられたら即逃げる覚悟は持っている。権力者は怖いからだ。
特に魔物や盗賊は出ず、町に到着。ここに宿泊する。皆飲みに行く者や買い物など、それぞれ活動していた。
トトも部屋を割り振られ、1人活動する。主に武器防具屋巡りだが。
「ニーソの街よりは小さいな。路地裏はやめとくか」
大通りを歩き、人々を眺める。一般人でも剣等の武器を持っている。急な襲撃でもあるのだろうか。フラフラ歩くと店が固まっているエリアを発見。順番に入っていく。
「いらっしゃい」
「どうも(防具屋…ニーソの街と変わらないな…)ん?属性盾だ。これは青いから水の盾かな…うわ…光金貨5枚…」
≪青属性の盾、ランクC、攻撃10、水氷属性軽減≫
何か効果が付いた武器防具は高い。職人が少ないのもあるが、作るのに時間がかかるので必然的に高くなる。
「ん?(攻撃?…もしかしてこの鑑定ナイフ…攻撃力しか見れないの?)防御はランク上がらないと見れないか…」
隅にあるボロい鉄製の物を買い込む。何故こんな物を商品にしているか分からないが、トトには有り難い。
店を出て隣の武器屋へ。防具屋とさほど変わらない作り。
「盾って武器にもなるよな…今度試そう。んー…魔鉄の武器はやっぱり高いな。光金貨1枚からか…」
≪魔鉄の槍、ランクD、攻撃80≫
「高いなー。なんか工房毎に分けられてる…メタル工房はやっぱり有名なのかな。一番高い」
品揃えで特に気になる物は無い。いつもの様にボロい武器を買い込む。この店は50本程買えた。
武器を沢山買えたので来た甲斐があったと顔がほころび、隣の魔導具店へ。魔導具店はニーソの街よりも品揃えは悪く、値段も高い。買ったら損かなと思い店を出て、特にやる事も無いので宿に向かう。
「王都で露店とか出来れば、週一で武器売りたいな。毎日は嫌だけど…うわ…あれはジルか、早速男捕まえてる。すげえな」
ジルはまぁまぁイケメンと腕を組み、買い物を楽しんでいる様子。そしてジルとすれ違い、ふんっと馬鹿にする笑いを向けられた。
「引くわー。なんだあの表情…鼻毛見えてんぞ」
げんなりしながら宿に到着。部屋は1人部屋なので、武器を作成していく。
≪鋼鉄のメイス、ランクD、魔道士レベル12、攻撃124≫
≪鋼鉄の盾、ランクD、重戦士レベル7、攻撃35≫
≪鋼鉄の鞭、ランクD、魔獣使いレベル11、攻撃122≫
≪スチールナックル、ランクD、拳闘士レベル18、攻撃136≫
「やっぱり盾も作れたな。攻撃は低いけど、防御力知りたいな…あっフックショットの強化しなきゃ」
≪フックショット、ランクC-、軽業士レベル25、攻撃125≫
「強くなったなー。ある程度の武器は作れるけど素材が無いから鋼鉄止まりか…ロマン武器は素材が足りないし…蛇腹剣なら行けるか」
トトも男なのでロマン武器には憧れている。巨大武器やとっつきやオーバーウェポン等想像は尽きない。
馬車の旅の初日は終わり、次の日からまた馬車に揺られる。
「無事王都まで行ければ良いけど…何も起きなければ良いなぁ」