表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流れの武器屋  作者: はぎま
ニーソの街
17/163

馬車の旅へ

 朝になり、目を擦りながら起床。少しボーッとしてから準備を整え部屋を出る。


「おばちゃん。今日この街を発つんだ。短い間だったけどありがとね」


「そうかい。またいつでもおいで。気を付けて行ってらっしゃい!」



 宿のおばちゃんに挨拶をしてギルドに向かう。太陽が出ていない4時前に出れた事に安堵しつつ、そっとギルドの裏口へ行く。裏口から入るのは、表には冒険者が並んでいるからだ。


 裏口の前には女性の3人組が居て話をしていた。女性の前を通り過ぎ裏口から中に入る。



「ギルドの人?有り?私は無し」「冒険者かしら。無しね」「地味ね。うーん…無しかな」


(なんて無礼な人達なんだ…本人を前にして有りか無しか話すなんて…)


 気分を悪くしながら通路を通り、受付があるホールへ。そこには受付嬢とその上司、そのまた上司らしき人とツールが居た。


 トトはそーっと入り、壁際にある椅子に座り眺める。ツールと目が合い目礼した。



(朝礼かなー。お別れの挨拶?受付嬢ダルそうだなー。まぁ…ハゲのおっさんのお別れ会なんてこんなもんか)


「えーそれではー、研修生のツールさんから皆さんに報告がありますー。心して聞くようにー」


「はい。一月という短い期間でしたが、研修生の私に歓迎の仕打ちをして頂きありがとうございました。さて、私は研修生という事でしたが実は違いまして、とある方からの依頼で貴女達の内部調査をしていました。「「「えっ?」」」特に苦労せずにボロを出して頂きありがとうございます。では、王都本部からの通達を読みますので聞いて下さいね」


「ちょっ!ちょっと待って!内部調査ってどういう事よ!」


「そのままの意味です。随分儲けた様ですねぇ…ジルさん、ヤムさん。と言っても微々たる額ですが規則は規則ですからねぇ」



 3人居る内のジル、ヤムと呼ばれた受付嬢は突然の報告に焦っている。もう一人、ミランダは戸惑っていた。



「わ、私達はちゃんと3割以内におさめています!何かの間違いなんじゃないですか!」


「ええ、それも問題なんですよ。本来ならば手数料や税金の関係で、年に数回しか受けない冒険者は3割で構いませんが毎日来ている冒険者から2割3割取っていたのはどういう事でしょう?日常的に2割以上取るのは違反です。このギルドで研修を受けた際に教わる筈ですよ?」


「でも!このギルドは大丈夫だってサブマスターが!」


「ほう、研修を担当したサブマスター。どういう事でしょうか?ちゃんと教えていないのですかねぇ?」


「いや、ちゃんと伝えた筈だ」



 後ろで聞いていたサブマスターが驚きながらもツールに反論する。ツールの眼光が鋭くなる。



「伝えた?なる程…実はサブマスターにも通達があるんですよ」


「通達?彼女らが規則違反を犯しただけだろ?私は関係無い筈だ」


「くくっこの期に及んで関係無い?むしろ本命は貴方なんですよねぇ」


「本命だと?何を言っている」


「彼女達は日常的に2割3割の手数料を取っていると言っていましたが…過去数年の帳簿を拝見させて頂きまして、帳簿ではジルさんとヤムさんの1割以内の手数料が多いんですよ。ギルドマスター不在の日は特に手数料が少ない。どうしてでしょうねぇ?」



 暗に横領を匂わせる発言に、受付嬢も驚きサブマスターを見やる。サブマスターは涼しい顔でツールを見据えていた。


(サブマスターは横領したのかー。悪いやっちゃなー)


 トトはサブマスターなど初めて見るし、初心者なので被害は無い。なので完全に傍観者だ。



「規則通りに帳簿を書いただけだ。証拠は無いだろ?」


「証拠は有る無い関係無しに通達は来ていますので、結果は同じですよ?本部でも以前から調べていた様ですし。裏は取れています。あっそうそう、私…」


 ツールはつかつかとサブマスターの元へ行き、回りに見えない様に名刺の様な物を渡す。



「こう言う者です。なので逃げても無駄ですからね?」


「なん…だと…何故こんな所に…」


「この街の領主と友人でしてねぇ。頼まれたので休暇がてらってヤツです。という事で、サブマスターの通達は冒険者ギルドからの除名、その後は奉仕活動ですね」


「そう、か」


 サブマスターは項垂れ、唇を噛み締める。


 トトは全く交友の無かった人達の通達を聞いても心は動かない。テレビをパッと付けたら、二時間サスペンスの最後の方で犯人が話している様なふーんという感覚。



「因みに受付の皆さんの通達は、王都での研修ですね。ミランダさんも一緒に研修を受ける事になっています。まぁ貴女はグレーゾーンですが…まぁ、上司に恵まれなかったと思って下さい」



「えっ?王都に行けるの?」「憧れてたのよ。良い通達ね」「……分かりました」


「ええ、王都に行けますよ。再教育という形ですねぇ。くくっ」


(おっさん悪い顔してんな。多分相当忙しい所の配属なんだろうなぁ)


「私達の代わりは居るの?私達が居ないとこのギルドは回らないわよ?」



 王都と聞いて安堵と共に気を大きくしたヤムがツールに挑発的な発言をする。ツールは待ってましたとばかりにニヤリと笑った。



「心配いりませんよ。後任が見つかる少しの間、彼女達がこのギルドを仕切りますので。入って良いですよー」


「はーいサーラでーす」「よろしくーシーラでーす」「どうもースーラでーす」


「彼女達ミルス姉妹が担当しますので安心ですよ?」



「_っ!ミルス姉妹!王都ギルドの顔じゃない!」「嘘、なんでこんな大物が」「……」


(あの無礼者は王都ギルドの顔なのか。有名なんだなー。いくら有名な受付嬢でもさっきの聞いたら、クソビッチーズにしか見えないな。クソビッチーズが戻ったら王都から出よう。嫌いだ)



 トトは根に持つタイプなので、先程の無し発言が効いている。トトがムカムカしている間に話が進む。


 サブマスターは領主の館へ連行。受付嬢達はツールとトトの馬車に乗り込んで一緒に行くらしい。トトの顔が嫌そうに歪んだ。



「では、ジルさん、ヤムさん、ミランダさんは貴重品と王都までの荷物を纏めて下さい。残りの荷物は王都に届けさせますので。ミルス姉妹は悪いんですが、少しの間頼みます」


「貴方の頼みですからどんな事も聞いちゃいますよー」「また抱いて下さいねー」「手紙送りますねー」


(うわ、クソビッチーズはツールの女かよ…あの様子だとホークアイに言っているのか。ホークアイ趣味悪いな)



 簡単に引き継ぎを終え、受付にクソビッチーズが座り、前の受付嬢達はギルドの上にある寮へ。因みに受付嬢は過去、帰宅時に襲われる事案が多発した為、寮住まいが義務付けられている。


 やがてギルドが開き、冒険者が入って来た。そして受付嬢が違う事に驚き、ミルス姉妹だと分かると歓喜していた。



(居なくなって悲しんでいる奴がほとんど居ねえ…そんなもんなのか?おっ、新人剣士君は悲しんでるな。ミランダって人が好きだったんだっけ?)


 トトはギルドの端でボーッと冒険者達を眺めながらツールを待つ。


 やがてハゲおっさんのツールが荷物を抱えてやって来た。馬車に乗り込むそうだ。



「お待たせしました。無事スムーズに通達が終わりまして良かったです。彼女達はもう少しかかると思いますので馬車に行きましょうか」


「はい、了解です。因みに彼女達はクソ忙しい所に配属されるんですか?」


「くくっ、流石分かっていますねぇ。ジルさんとヤムさんは王都ギルドのD、E、Fランク担当になります。初心者は勿論、程度の低い者やアホな奴が中心ですからとても大変でしょうねぇ」


「やっぱり。えーっとミランダさんって人は?」


「彼女は新人ですからね。道理が分かっていなかった部分もあり軽い処罰です。事務の方で勉強ですね。たまに受付に立つ程度です」



 馬車に到着。2台あり、アーチ状の帆がある一般的なタイプ。トトは屋根があるので安堵していた。



「後ろの馬車には荷物を積むので、前の馬車に乗ります。トトさんは御者席しますか?「はい」了解しました。あれ?荷物は無いんですか?」


「収納魔導具がありますので」


「そうだったんですねぇ。収納魔導具とはお高い物を」


「貰い物なんですよ」



 武器用の収納指輪は名前を変えて居ない。武器の出し入れで怪しまれるからだ。とりあえず最低限の荷物だからなんとか収納に入っていると伝えた。


 雑談していると、女性3人がやって来た。荷物を積み込み出発という所でジルが待ったをかける。



「ねえ、護衛は?おじさんと薬草摘みだけじゃ、王都に着く前に魔物に殺されるか盗賊に捕まってしまうじゃない!」


「大丈夫ですよ。弱い魔物しか出ませんし、盗賊も最近掃除したばかりです。嫌なら辞めても良いんですよ?」


「くっ、でも不安だわ」


「ならこれを使いますか?ランクBの結界石です。1週間なら持ちますよ?」


「お願いするわ」


「了解しました。給料から引いておきますね」


「ちょっと待ってよ!なんで給料から引くのよ!男なら自腹切りなさいよ!」




 ワーワー言っているジルを無視して馬車が走り出す。不安だなーという気持ちしか無いトトは、早く王都に着く事を祈るばかりであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ