流れの武器屋。
銀河が崩れ去り、虹色の世界が解除され、世界が元の明るさを取り戻す。
時刻は夕方になっていた。
ラグナとルナライトは槍を持ちながらペタリと座り込み、長いようで短かった戦いを振り返る。
≪ラグナ、ルナ…俺達を封印してくれ。銀河の核を受け継いでしまったから≫
『…それは、出来ない。ねぇ…姉さん…』
『良いよ、ルナ。もう決めたんでしょ?』
『うん…姉さんは…話って』
『それは…』
ラグナが話そうとした時、ポンッとラグナから閻魔が出てくる。
そして、きひきひと笑いながら一度槍に触れ…ゆらゆらと誰も居ない方角へと歩き出した。
『閻魔…何処へ行くんだ?』
「きひっ、裏の世界へ行ってくるよ。私は破壊、混沌、邪悪を内包している…皆とは一緒に居られない」
『目的は?』
「それは勿論…裏世界の統一。何年掛かるか解らないがな…きひっ」
『なんだ、私と目的が被ってしまったじゃないか』
『姉さん?』
ラグナは槍から手を離し、閻魔の背中を見据える。
『私の目的は、表世界を纏める事。次元世界同士で同盟を組み、これ以上死の星が生まれないように…そして、泰人が安心して暮らせる世界を作る』
「くひひっ、そうか…それなら、次に会う時はお互いに目的を達成出来たら…だな。妹よ」
『その時は…皆も一緒にだね。閻魔姉さん…兄さん…どっちか解らないけれど』
「姉で良い。では…また会おう。漆黒の堕天使よ…落ち着いたら会いに行くよ」
閻魔は黒い扉を出現させ、中に入っていった。
『ルナも…出て行くのか?』
『うん…泰人を守りたい。はぐれの神となって、次元世界を渡り歩こうと思う。封印は…したくないから…』
『そう言うと思ったよ。でも槍に隠蔽を掛けなければいけないな…』
≪無限の銀河、ランク外、攻撃XX、ーー、
魂の保存――戸橋泰人・クシャトリス≫
黒い槍は宇宙柄に変化し、強すぎる力を感じる。
名前もあからさまに怪しい。
≪隠蔽は得意だぞー。ほれっ≫
≪強い槍、ランク外、攻撃XX、トトトリス≫
『ちょっとダサい…変えて』
≪今はこれで良いだろ。ルナ、ありがとうな≫
『返しきれない恩だからな。それと、私の名前も隠蔽で変えてくれないか? ルナライトはこの世界…アスター所属だから…』
≪じゃあ神でも見破れない奴を作るよ≫
少し待っていると、槍からイヤリングが出てきた。
ルナライトはそれを装着してみる。
≪ルル、ポンコツ神、まぁまぁ強い≫
『えっ…嫌…』
『似合っているよ。ルナ』
『……寂しくなったら連絡するね』
はぐれの神となっても、この世界には来れる。
ルナライトとしてではなくて、ルルという神としてだが…
トト達も交えて話をしていると、走って来たアイリスがやって来た。
「終わった…の?」
『終わったよ』
「あの…戸橋泰人は元に戻らないの?」
『今は…難しいかな。銀河の核を泰人から分離出来るような存在が居れば別だけどね』
銀河の核を分離出来る存在…それは銀河の核を超える力を持つ者を意味する。
それは、とても現実的では無い。
アイリスの表情に影が差した。
もう、会えないと思うと涙が溢れてくる。
『アイリスは、これからどうするんだい?』
「どうって……多分また魔法士団に戻るかな……」
『アイリスは魔法士団長さんだったね。でも、私が忙しくなるから人手が足りないんだよなぁ…』
「そっか…女神様だから、もう会えないのか…」
『ルナも居なくなるし、人手が足りないんだよなぁ…寂しいなぁ…』
「…手伝って良いの?」
『もちろん』
ラグナとアイリスが笑い合う中…
やがて、女神達と仲間達がやって来る。
トトとトリスが武器になった事を受け、皆一様に悲しみに暮れるが、それ以上に感謝を伝えた。
女神達、仲間達はまた巡り会う事を約束し…それぞれの道へと進む事となる。
______
ラグナは次元世界同士の同盟を組む為に奔走し、アイリスはその補佐をしている。
『アイリス、次はレスターという世界で会議がある』
「うん、お姉ちゃん…少し休んだら?」
『もう少しで同盟世界が三十になる…百になるまでは、休めないよ』
「はぁ……あれ? ルナお姉ちゃんから手紙が来ているよ」
『おっ、写真付きだなー。どれどれ……うん…突っ込み所が多いけど大丈夫そうだな…』
「うん…なんでいつも仕送りの量がおかしいんだろう…」
次元世界同士の同盟…天異界同盟と呼ばれる同盟が、次元世界の未来を変えていく事となる。
同盟には序列があり、神の強さと神格の多さで序列が決まる。
この世界、アスターは…ルナライトの仕送りで望まない不動の地位を会得していた。
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「ノーレン君、モテる為にはまず男としての余裕を持つ事さ」
「成る程…勉強になります!」
ホークアイとノーレンは、勇者として人々を導く役割や女神達の依頼を課せられている。
「ハールゲン大陸の調査をするんだけど、一緒に行くかい?」
「はい! 行きましょう!」
トトの代わりという訳ではないが、ホークアイは忙しい女神達の依頼を受けながら、ノーレンを正しい道へと導こうとしていた。
「もっと成長したら、女神様に会いにいこうね」
「はい!」
______
天上にて…
『あー…なんでこない忙しい』
「…忙しいですね」
テラティエラはラグナから回される膨大な書類を管理。
ノワールは部下として働いている。
『従業員…増やすか?』
「増やして下さい…」
『誰が良いん?』
「サボって隠れてケーキを食べない方なら誰でも」
『…ごめんなさい』
______
「ニグレットさん…これ見て下さい」
「んー? 事務作業員募集? 勤務地・天上……何これ?」
「なんか…凄く忙しいみたいですよ」
ニグレットとミランダは、まだやり残した事もありノール王国にて過ごしている。
「お邪魔するわ。ねぇ…これ見てよ」
「あれ? リンダさんの所にも来たんですね」
リンダは少し背が伸びた。このまま行けば、大人の身体に成長する。
「そういえば私は、フラマフラム様から手紙が来ていたんだ…」
「アスター監視員募集? 勤務地・天上……何が起きているんですかね?」
「どうする? 神格を貰えれば記憶も戻るって聞いたぞ」
「どうしましょうね」
「どうしようかしらねー」
______
『ねぇ…ヴェーチェ…』
『何?』
『このぱそこん…壊れているわぁ』
『いや、アクアが機械音痴なだけよ。なんでエロい画像開いているのよ』
『…もう…疲れたぁ…』
次元世界同士の交流が始まり、技術の交換も始まっていた。
元々アナログな管理をしていたアスターの女神達は、最新技術に心を折られていた。
『なぁ…アクア…ヴェーチェ…この企画書…見たか?』
『何これ? 女神大運動会? なんだろう…凄く嫌な予感…』
『あぁ…そうねぇ…企画者は…序列二位世界の女神ねぇ…』
『私達に対する挑戦状にしか見えないのは気のせいかな?』
______
地球にて…トトに強制転移させられたタケルは、無事トトの部屋に転移してきた。
部屋は薄暗く、夜の時間。
「泰人…馬鹿野郎…何が幸せになれだ…」
床に座り込み、項垂れていると…ガチャリと部屋の扉が開く。
「…泰人? ……はえっ? ………」
「あっ…初めまして…」
「松田! あんた何処行っていたのよ!」
「……えっ?」
ポカーンとするタケルに、ズカズカと部屋に入ってきた女性…戸橋遥が仁王立ちで見下ろす。
美人なのだが目付きが悪い。流石はトトの姉というべきか…威圧感が凄かった。
「あ…あのー…」
「…行くわよ」
「ど、何処に?」
「あぁ? 決まってんでしょ」
少し痺れる身体に鞭打って、顰め面の遥に付いていく。
そして、車に乗せられ遥の運転で走り出した。
「…あんた今まで何していたの? 秋と大地は?」
「…地球とは違う世界に行っていた…秋と大地って人は知らない。あの…遥さんは、僕を知っているの?」
「記憶の混濁? 記憶喪失? …とりあえず会えば解るか」
十分程車を走らせた先…住宅街にある一軒家に車を止め、遥がインターホンを連打する。
「おーい! 出てこーい! 私だー!」
玄関の扉が開き、中から鬱陶しそうな顔をした女性が出てきて遥を睨む。
「何? 連打は辞めてって言ったでしょ……ん?」
長い髪を後で纏めた愛嬌のある顔をした女性が、タケルに気付く。
「…たける?」
「……」
そして、ふらふらと近付きタケルをポカポカと叩き始めた。
「何してたのさ…ずっと…待っていたんだから…」
「…あぁ…思い出した……ごめんよ…もう、何処にも行かないから…」
女性を抱き締め、涙が溢れだす。
抱き締めた時、懐に何か入っているのに気付いた。
「手紙…泰人から…」
トトから姉に宛てた手紙が入っていた。
それを遥に渡すと、読み始め…深いため息を付く。
「おい松田、詳しい話を聞かせて」
「解った…全部、話すよ。最高に格好良い男の話を…」
______
第二次女神大戦。
悪神が復活し、女神達、英雄達が魔物を次々と倒していく。
激しい戦いだが、誰一人諦める事無く強敵に立ち向かい…
最後に聖女クシャトリスが人柱となり、悪神を討ち滅ぼした。
聖女の奇跡とも言われ、永遠に語り継がれる事になるのだが…
歴史に語られる事の無い英雄の存在があった。
物語には続きがあり、英雄が帰って来たら…再び皆で廻り会うという約束をかわす。
______
時は過ぎ……とある世界にて。
「泰人、トリス、次はルビアという世界に行ってみようと思う。でもあと少し滞在して良いか?」
≪了解、そろそろ古い武器売ってしまおうぜ。色々溜まってきたからさ≫
≪この金色の重たい剣は?≫
≪そうだな。ルナも使えない剣だから、押し売りしよう≫
「ちゃんと気に入って貰えたらだぞ」
次元世界を渡り歩き、神相手に武器を売る者が居た。
神々の間で…ルルという神武器師の弟子と名乗る者が、高性能な神武器を売ると話題にあがるが…会える事はとても稀。
そして、その神武器師に会った者は誰も居らず…序列一位アスターの女神達の神武器を作った、幻の神武器師様と呼ばれていた。
≪後さぁルナ…寂しくなったら子供を育てようとする癖は直した方が良いと思うぞ≫
「だって…独りぼっちだったんだぞ…姉さんが居なかったら私もあんな風に泣いていたんだ。これは譲らない」
≪いや、何処かに預けるとかさぁ…ルナの魔力に当てられてみんな銀色の髪に変化して聖女になるんだぞ…≫
≪まぁ良いんじゃない? 一ヶ月ぐでーってされて槍にキノコ生えるよりはマシだよ≫
≪あぁ…あれな≫
ルナライトが二人と話していると、もぞもぞとルナライトの側で動くものがあった。
「…んぅ…お母さん?」
「あっ、起こしてしまったか…ごめんね」
「んーん…大丈夫だよ。面白い夢を…見たんだ…」
「へぇ…どんな夢だ?」
「それはねぇ…くふふっ、神様になる夢だよ。ばーんってどかーんってするの!」
銀髪の少女の頭を撫でながら、
「くっ…可愛い…」
ルナライトは微笑み槍に触れる。
(泰人…)
≪どした?≫
(料理を教えてくれ)
≪……≫
流れの武器屋は、今日も何処かの世界で武器を売る。
流れの武器屋を最後まで読んで頂きまして、ありがとうございます!
タイトル通り、流れの武器屋が生まれる話に出来ました。
なんとか完結出来て良かったです。
続きの話は沢山ありますが、切りが良いので完結です。
それぞれのキャラの背景や心情を掘り下げたり等々は、凡長が苦手であまり書いていません。サクサク進めたくて恋愛重視にはせずに、ストーリー重視にしました。
なので…完全版を書く事があれば何処かでひっそりと投稿しようかなと思っていたりしています…
という事で、また何処かでお会いしましょう。
評価等して下さると嬉しいです。宜しくお願いします。
ありがとうございました!