最強の武器。
『なんや…あれ…』
銀河の気配が消えた時は歓喜に震えていたが、巨大な人型となった銀河を見上げ呆然と立ち尽くす女神達。
力の差が歴然だった。
「……はぁ…トトさん、無理しちゃって」
トリスがため息を付きながら神結界に触れる。
「裏魔法・モノマネ」
ルナライトのモノマネで神結界に穴を開け、女神達に一礼。
「では、私は聖女の役目を終えましたので自由にさせて貰います」
状況に似つかわしくない笑顔で女神達に挨拶した後は、仲間達に目をやる。
この世の終わりのような顔をしながら、銀河を眺める事しか出来ない悔しさを滲ませるホークアイ。
乾いた笑いを浮かべるニグレットとミランダ。
リンダはトリスを見詰め、トリスが首を横に振ると諦めたように笑う。
ノーレンは悲壮な表情を浮かべ、ノワールは悟ったように落ち着いた雰囲気で銀河を見詰めている。
「皆さん、ありがとうございました。聖杯よ…力を貸して」
トリスは金の聖杯を使い、トトが居る中心へと高速で走っていった。
呆然としていた仲間達は、トリスを止める間もなく顔を見合せる。
「…私達も行かないか?」
ニグレットが声を掛け、ホークアイ、リンダ、ミランダは神結界の穴を通り中心へと向かう。
女神達も諦めたように神結界を解除した。
その時、ノワールがテラティエラの元へ来た。
「テラティエラ様、お願いがあるんですが…」
『なんや?』
「この戦いが終わったら、私を部下にしてくれませんか?」
『部下に…神兵は雇う気無いで』
「私は、もう人間社会では生きられません。お願いします」
人間社会で、異様な強さを持つ者は生きにくい。
ノワールは女神の補佐をしたいという選択肢を掲げる。
恋愛も満足に出来ないぞと伝えるが、ノワールは考えがある…と、薄く笑うだけだった。
テラティエラは他の女神に目配せをし、目を閉じる。
『…そうやな。世界が無事やったらな』
「はい、ありがとうございます。ノーレン、あなたはどうするの?」
「俺は…まだ解らねえや」
ノーレンは、はぁ…とため息を付きながら、視線はアクアマリンを捉えている。
神兵になれば女神と共に居る事が出来るが、自分の為に時間を使う事が難しい。
『じゃあ…私達も行くわよぉ』
そして女神達も神結界の中へ。
ノワールとノーレンも付いていった。
______
銀河が何もせずに、ただトトを見下ろす。
命の灯火が消え行くのを待つように。
≪お前が死ねば、この世界を守れる者は居なくなる≫
「なるほど…お前が攻撃をしなければ変換も使えないからな」
≪それからゆっくりと目的を達成しよう≫
「じゃあ、冥土の土産に目的とやらを教えてくれ」
銀河の言う目的。
先程は遊ぶと答え、興味は無かったがついでに聞いておこうと思った。
銀河は巨大な両手を広げ、楽しそうに喋り始める。
≪数多く存在する次元世界同士を、一つの宇宙に集めるのさ。そして、自由に往き来出来るようにする…素晴らしいと思わないか? 世界間交流だ≫
「……まじかよ。それは交流じゃなくて…大戦争だろうが」
今まで限られた者しか往き来出来なかった次元世界間。
それが自由に往き来出来るようになれば、必ず争いが起きる。
神同士…人間同士…女神大戦どころでは無い。
地球もそれに含まれるとしたら…
≪勝ち残った世界が、私への挑戦権を得る……楽しい遊びになるぞ≫
「それは、実現しない。お前はここで倒される」
≪くくっ、お前が死ぬのにか? 知っているぞ。後…少し待てばお前は死ぬ≫
「間違ってはいないな。はぁ…卑怯なこって」
戦わずして死ぬまで待つ。
攻撃を加えても、銀河を倒す前に倒れてしまう。
詰んだ状態だった。
『泰人…もう、寿命が来たの?』
「あぁ…裏世界の王は、破壊神剣を使うより燃費が悪いんだ」
『だから言ったのに…馬鹿…』
怒るラグナに笑い掛け、トトが諦めたように座り込み銀河を眺める。
『…泰人…すまない…私のせいで…』
「ルナ、謝るな。これは俺が決めた道だ」
『死んだら…嫌だ』
「アイリスさん…」
死んだら今よりも過酷な戦争が待っている事は確実。
それに、ラグナと閻魔はトトが死んだらどうなるか解らない。
だから今銀河を倒すという選択肢しか無かった。
「銀河、俺が死ぬまで攻撃はしないんだな?」
≪もちろん。お前の力が一番の脅威だからな≫
「認めてくれたって事か。光栄だねぇ……じゃあお言葉に甘えて最後の悪あがきでもさせて貰うよ」
≪くくくっ、無惨に死に逝くが良い≫
銀河が見下ろす中、トトは深呼吸をしながら目を閉じた。
「ルナ、その槍…使って良いか?」
『あぁ…』
ルナライトから消滅神槍を受け取り、ゆっくりと立ち上がる。
槍を地面に突き刺し、両手で槍を掴んだ。
「今から…最強の武器を作る。ルナ、ラグナ……こいつで銀河を貫いてくれ……合成」
地面に突き刺さった槍に、ゆっくりと…トトの両手が同化していく。
『泰人…やめろ…それは駄目だ!』
「…これしか方法は無い。俺が武器になればアイツを倒せる。…大丈夫さ…ラグナとタケルが復活したように、俺も復活出来る筈だから…」
ルナライトが槍とトトを引き離そうとするが、ビクともしない。
ラグナも焦り、能力の共有を使い武器化の解除を試みるが出来なかった。
アイリスは突然の事に茫然とし、ペタンと座り込む。
ゆっくりとトトが槍に合成される様子を、眺めるしか出来ずに涙が流れる。
その時…
「トートさん」
暗い雰囲気に似つかわしくない明るい声が響いた。
トトが声をした方向を見ると、金色のオーラを纏う人影…トリスの姿。
白い聖女の服を着て、金色の髪を靡かせながら慈愛の微笑みを浮かべる姿は、金色のオーラと相まって聖女以上の存在にも見えた。
「トリス…」
「トトさんが武器になっても、槍が負荷に耐えきれずに折れちゃうよ?」
「それでも…可能性に掛ける。トリスが見た未来を変えてやるよ」
「そっか、じゃあ私も未来を変えようかな」
トリスが金の聖杯をトトが持つ槍に当てる。
≪金の聖杯、ランクSS+、聖女専用・一定時間身体能力超上昇・一定時間全ての攻撃を受けない≫
「これは一定時間無敵になれる聖遺物。これを合成すれば、勝てる可能性は上がるよ」
「これがあれば…ありがとう。合成」
トトはトリスの好意に甘えて金の聖杯を合成する。
槍に合成されていく金の聖杯を見て、トリスは微笑みを崩さない。
「ふふっ、裏魔法・モノマネ」
「え?」
金の聖杯と一緒に、トリスの身体も槍に取り込まれていく様子にトトが焦りだす。
分離しようにも、無敵状態のトリスには効果が無かった。
「トリス! 何してんだ!」
「何って、言ったでしょ? トトさんが死ぬなら私も死ぬ。だから、トトさんが武器になるなら…私も武器になる」
「……トリス」
「あの時…私を孤独から救ってくれたトトさんを…独りになんて出来ないよ」
武器になれば、その先は持ち主に委ねられる。
悪神の力のように封印されるとしたら…独りになってしまう。
トトは言葉にならなかった。
トリスは本気だ。
本気でトトと武器になる覚悟をしている。
「はははっ、まいったな。降参だ、トリス」
「ふふふー、じゃあ早くあのデカイのを倒そうよ!」
ギュンッ!__トリスが槍に飛び込むように入り、槍が金色に光りだす。
トトもラグナ、ルナライト、アイリスに向けて笑い掛ける。
「じゃあ、また会おうぜ。アイツらには…またいつか、巡り会おうって伝えてくれ」
遠くから走って来るかつての仲間達を眺めながら、トリスの後に続いて槍に飛び込む。
真っ白な槍が、徐々に黒く染まっていった。
≪無限の槍、ランク外、攻撃XX、ーー・
魂の保存――戸橋泰人・クシャトリス≫
≪くくっ、自ら武器になるとは…馬鹿な男だ≫
銀河が嬉しそうに身体を揺らしている。
トトが居なくなり、脅威となる者が居なくなった。
表の世界に居る以上、ラグナは脅威になり得ない。
勝ちを確信し、身体の中にある宇宙の煌めきが輝きを増していく。
『……』
ルナライトが地面に突き刺さった黒い槍に、そっと触れる。
暖かく包み込まれるような安心感と、胸を締め付けられるような感覚。
『泰人…』
≪おいルナ、早く使えよ≫
『……泰人?』
≪私も居るよー。ここって意外と居心地良いねー≫
目をパチパチとさせながら黒い槍を引き抜くと、二人の魂を感じる。
ラグナも槍に触れると、少しだけ安心したように泣き始めた。
『やすとぉ…私も入りたいよぉ…』
≪ラグナは強すぎるから槍が耐えきれないんだよ…ごめんな≫
『ばかぁ…』
≪文句は終わったら聞くよ。この槍の使い方は簡単…刺すだけで良いから早くやれ≫
トトは急かすように早口になるのは、こうやって話している間も銀河が何をするか解らないから。
現に身体を煌めかせ、なにかをしようとしている。
「ラヴィお姉ちゃん、ルナライト様…あの、戸橋泰人は何を言っていますか?」
『早くやれと言っている…アイリス、姉さんの妹ならアイリスは私の妹でもある…ルナお姉ちゃんと呼んでくれ』
≪おい≫
「ルナお姉ちゃん…」
ルナライトとラグナが一緒に槍を持ち、顔を見合せ頷いた。
そして、一緒に銀河へ向かって駆ける。
『姉さん、私ね…いや、終わったら話す』
『ふふっ、私も終わったら話があるんだ』
≪くくくっ、そんな槍では私を滅する事など不可能だぞ?≫
銀河から虹色の環が多数出現。
環の中から虹色の隕石群が現れ、ラグナとルナライトに集中する。
≪ラグナ、ルナ、そのまま槍を銀河に向けて走れ≫
トトの言葉を信じ、そのまま銀河へと突き進む。
空を駆け、中心部分を目指す。
虹色の隕石が迫り、
≪変換≫
槍に触れた瞬間に光の玉に変換され、槍に吸収される。
≪むっ? これならどうだ。銀河魔法・スーパーノヴァ≫
カッ!__超エネルギーが大爆発する寸前で…
≪変換≫
超エネルギーの光の玉へと変換される。
『ルナ! 泰人! トリス! 行くよ!』
『うん!』
≪まかせてー≫
≪刺したら退避してくれ、多分時間が掛かるから≫
『了解! 信じてるよ!』
虹色の隕石群を突き抜け、大爆発を変換しながら銀河の中心部分へと到達。
ザシュッ……突き刺す事に成功した。
槍を突き刺し、ラグナとルナライトは退避。
祈るように手を組み、銀河を包み込むように神結界を発動した。
≪戸橋泰人、武器になっても足掻くか。滅してやろう!≫
≪はははっ、それは無理だ。大変換!≫
バキンッ!__黒い槍を中心に、銀河の身体を攻撃力に変換し続ける。
槍を壊そうとしていた銀河が、異変に気付いた。
≪私の身体を変換しているのか? 銀河魔法・ビッグバン!≫
しかし、銀河の魔法は発動しなかった。
≪何故だ!≫
≪馬鹿か? お前の中に居る俺がさせると思うか? お前の全てを変換してやるよ!≫
≪私の力…銀河の核は無限に近いエネルギーを持っている…お前が先に死ぬのは絶対だ!≫
≪俺は武器の身体を手に入れたからもう死なねえよ。だから、お前が存在する限り…俺の攻撃力は上昇を続ける≫
銀河が身体を再生していても、それを変換し続け攻撃力に変えている。
銀河の耐久値を超えるまで、トトは変換を止める気は無い。
槍を引き抜こうとするが、無敵状態の効果でビクともせず…
≪そんな事は有り得ない! 宇宙よ! 力を!≫
ドクンッ!__銀河のエネルギーが上昇していく。
≪無駄だよ。お前が強くなればなる程…俺達も強くなる。攻撃力は…無限だ≫
銀河の身体が肥大していくが、槍が突き刺さった場所から亀裂が走り始めた。
≪もう諦めろ。お前は俺達に勝てねえよ≫
銀河が存在する限り無限の攻撃力を持つ。
刺されば最後…死ぬまで攻撃力に変換され、無限の攻撃力がオーバーキルを引き起こす。
死が目前に迫る。
この状況で、暴れまわっていた銀河が動きを止めた。
≪くくっ…くくくっ…私は、死ぬのか≫
≪ああ、もうすぐな。気分はどうだい?≫
≪別に。良い事を思い付いた≫
≪良い事?≫
≪私がお前を王にしてやろう! 銀河の核よ!≫
トトの変換スピードを超えるエネルギーの塊が槍に吸収される。
≪ぐっ…あっ…んだこれ…≫
≪トトさん!≫
≪くくくっ、お前に銀河の核を埋め込んだ! これで戸橋泰人は争いの大きな火種となる!≫
銀河の核は禁忌の力。
銀河の核がこの世界にあると解れば…トトを巡り、多数の次元世界から戦争を仕掛けられる。
銀河の最後の悪足掻きだった。
≪…はぁ…はぁ…なるほど…また呪われたって訳か。だからどうした≫
≪くくくっ、また…会おうぞ。戸橋泰人≫
≪…ちっ、じゃあな≫
トトが変換した攻撃力を全て解放。
銀河の内部から、黒い光が洩れだし…
ボロボロと銀河の身体が崩れていく。
そして、突き刺さった槍がゆっくりと落下。
地面に突き刺さる前に、ラグナとルナライトに受け止められた。
『泰人…ありがとう』
次回で最終回です。