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流れの武器屋  作者: はぎま
第二次女神大戦
162/163

最強の武器。

 

『なんや…あれ…』


 銀河の気配が消えた時は歓喜に震えていたが、巨大な人型となった銀河を見上げ呆然と立ち尽くす女神達。

 力の差が歴然だった。


「……はぁ…トトさん、無理しちゃって」


 トリスがため息を付きながら神結界に触れる。


「裏魔法・モノマネ」

 ルナライトのモノマネで神結界に穴を開け、女神達に一礼。


「では、私は聖女の役目を終えましたので自由にさせて貰います」



 状況に似つかわしくない笑顔で女神達に挨拶した後は、仲間達に目をやる。

 この世の終わりのような顔をしながら、銀河を眺める事しか出来ない悔しさを滲ませるホークアイ。

 乾いた笑いを浮かべるニグレットとミランダ。

 リンダはトリスを見詰め、トリスが首を横に振ると諦めたように笑う。

 ノーレンは悲壮な表情を浮かべ、ノワールは悟ったように落ち着いた雰囲気で銀河を見詰めている。


「皆さん、ありがとうございました。聖杯よ…力を貸して」


 トリスは金の聖杯を使い、トトが居る中心へと高速で走っていった。

 呆然としていた仲間達は、トリスを止める間もなく顔を見合せる。


「…私達も行かないか?」


 ニグレットが声を掛け、ホークアイ、リンダ、ミランダは神結界の穴を通り中心へと向かう。


 女神達も諦めたように神結界を解除した。

 その時、ノワールがテラティエラの元へ来た。


「テラティエラ様、お願いがあるんですが…」

『なんや?』

「この戦いが終わったら、私を部下にしてくれませんか?」

『部下に…神兵は雇う気無いで』

「私は、もう人間社会では生きられません。お願いします」


 人間社会で、異様な強さを持つ者は生きにくい。

 ノワールは女神の補佐をしたいという選択肢を掲げる。

 恋愛も満足に出来ないぞと伝えるが、ノワールは考えがある…と、薄く笑うだけだった。

 テラティエラは他の女神に目配せをし、目を閉じる。


『…そうやな。世界が無事やったらな』

「はい、ありがとうございます。ノーレン、あなたはどうするの?」


「俺は…まだ解らねえや」


 ノーレンは、はぁ…とため息を付きながら、視線はアクアマリンを捉えている。

 神兵になれば女神と共に居る事が出来るが、自分の為に時間を使う事が難しい。


『じゃあ…私達も行くわよぉ』


 そして女神達も神結界の中へ。

 ノワールとノーレンも付いていった。




 ______




 銀河が何もせずに、ただトトを見下ろす。


 命の灯火が消え行くのを待つように。



≪お前が死ねば、この世界を守れる者は居なくなる≫


「なるほど…お前が攻撃をしなければ変換も使えないからな」


≪それからゆっくりと目的を達成しよう≫


「じゃあ、冥土の土産に目的とやらを教えてくれ」


 銀河の言う目的。

 先程は遊ぶと答え、興味は無かったがついでに聞いておこうと思った。

 銀河は巨大な両手を広げ、楽しそうに喋り始める。


≪数多く存在する次元世界同士を、一つの宇宙に集めるのさ。そして、自由に往き来出来るようにする…素晴らしいと思わないか? 世界間交流だ≫


「……まじかよ。それは交流じゃなくて…大戦争だろうが」


 今まで限られた者しか往き来出来なかった次元世界間。

 それが自由に往き来出来るようになれば、必ず争いが起きる。

 神同士…人間同士…女神大戦どころでは無い。

 地球もそれに含まれるとしたら…


≪勝ち残った世界が、私への挑戦権を得る……楽しい遊びになるぞ≫


「それは、実現しない。お前はここで倒される」


≪くくっ、お前が死ぬのにか? 知っているぞ。後…少し待てばお前は死ぬ≫


「間違ってはいないな。はぁ…卑怯なこって」


 戦わずして死ぬまで待つ。

 攻撃を加えても、銀河を倒す前に倒れてしまう。

 詰んだ状態だった。



『泰人…もう、寿命が来たの?』

「あぁ…裏世界の王は、破壊神剣を使うより燃費が悪いんだ」

『だから言ったのに…馬鹿…』


 怒るラグナに笑い掛け、トトが諦めたように座り込み銀河を眺める。


『…泰人…すまない…私のせいで…』

「ルナ、謝るな。これは俺が決めた道だ」


『死んだら…嫌だ』

「アイリスさん…」


 死んだら今よりも過酷な戦争が待っている事は確実。

 それに、ラグナと閻魔はトトが死んだらどうなるか解らない。


 だから今銀河を倒すという選択肢しか無かった。


「銀河、俺が死ぬまで攻撃はしないんだな?」


≪もちろん。お前の力が一番の脅威だからな≫


「認めてくれたって事か。光栄だねぇ……じゃあお言葉に甘えて最後の悪あがきでもさせて貰うよ」


≪くくくっ、無惨に死に逝くが良い≫


 銀河が見下ろす中、トトは深呼吸をしながら目を閉じた。



「ルナ、その槍…使って良いか?」

『あぁ…』


 ルナライトから消滅神槍を受け取り、ゆっくりと立ち上がる。

 槍を地面に突き刺し、両手で槍を掴んだ。


「今から…最強の武器を作る。ルナ、ラグナ……こいつで銀河を貫いてくれ……合成」


 地面に突き刺さった槍に、ゆっくりと…トトの両手が同化していく。


『泰人…やめろ…それは駄目だ!』

「…これしか方法は無い。俺が武器になればアイツを倒せる。…大丈夫さ…ラグナとタケルが復活したように、俺も復活出来る筈だから…」



 ルナライトが槍とトトを引き離そうとするが、ビクともしない。

 ラグナも焦り、能力の共有を使い武器化の解除を試みるが出来なかった。

 アイリスは突然の事に茫然とし、ペタンと座り込む。


 ゆっくりとトトが槍に合成される様子を、眺めるしか出来ずに涙が流れる。



 その時…


「トートさん」

 暗い雰囲気に似つかわしくない明るい声が響いた。


 トトが声をした方向を見ると、金色のオーラを纏う人影…トリスの姿。

 白い聖女の服を着て、金色の髪を靡かせながら慈愛の微笑みを浮かべる姿は、金色のオーラと相まって聖女以上の存在にも見えた。


「トリス…」

「トトさんが武器になっても、槍が負荷に耐えきれずに折れちゃうよ?」


「それでも…可能性に掛ける。トリスが見た未来を変えてやるよ」

「そっか、じゃあ私も未来を変えようかな」


 トリスが金の聖杯をトトが持つ槍に当てる。


≪金の聖杯、ランクSS+、聖女専用・一定時間身体能力超上昇・一定時間全ての攻撃を受けない≫


「これは一定時間無敵になれる聖遺物。これを合成すれば、勝てる可能性は上がるよ」


「これがあれば…ありがとう。合成」


 トトはトリスの好意に甘えて金の聖杯を合成する。

 槍に合成されていく金の聖杯を見て、トリスは微笑みを崩さない。


「ふふっ、裏魔法・モノマネ」

「え?」


 金の聖杯と一緒に、トリスの身体も槍に取り込まれていく様子にトトが焦りだす。

 分離しようにも、無敵状態のトリスには効果が無かった。


「トリス! 何してんだ!」


「何って、言ったでしょ? トトさんが死ぬなら私も死ぬ。だから、トトさんが武器になるなら…私も武器になる」


「……トリス」


「あの時…私を孤独から救ってくれたトトさんを…独りになんて出来ないよ」


 武器になれば、その先は持ち主に委ねられる。

 悪神の力のように封印されるとしたら…独りになってしまう。


 トトは言葉にならなかった。

 トリスは本気だ。

 本気でトトと武器になる覚悟をしている。


「はははっ、まいったな。降参だ、トリス」


「ふふふー、じゃあ早くあのデカイのを倒そうよ!」


 ギュンッ!__トリスが槍に飛び込むように入り、槍が金色に光りだす。

 トトもラグナ、ルナライト、アイリスに向けて笑い掛ける。


「じゃあ、また会おうぜ。アイツらには…またいつか、巡り会おうって伝えてくれ」


 遠くから走って来るかつての仲間達を眺めながら、トリスの後に続いて槍に飛び込む。


 真っ白な槍が、徐々に黒く染まっていった。


≪無限の槍、ランク外、攻撃XX、ーー・

 魂の保存――戸橋泰人・クシャトリス≫



≪くくっ、自ら武器になるとは…馬鹿な男だ≫


 銀河が嬉しそうに身体を揺らしている。

 トトが居なくなり、脅威となる者が居なくなった。

 表の世界に居る以上、ラグナは脅威になり得ない。


 勝ちを確信し、身体の中にある宇宙の煌めきが輝きを増していく。


『……』


 ルナライトが地面に突き刺さった黒い槍に、そっと触れる。

 暖かく包み込まれるような安心感と、胸を締め付けられるような感覚。


『泰人…』

≪おいルナ、早く使えよ≫

『……泰人?』

≪私も居るよー。ここって意外と居心地良いねー≫


 目をパチパチとさせながら黒い槍を引き抜くと、二人の魂を感じる。

 ラグナも槍に触れると、少しだけ安心したように泣き始めた。


『やすとぉ…私も入りたいよぉ…』

≪ラグナは強すぎるから槍が耐えきれないんだよ…ごめんな≫

『ばかぁ…』

≪文句は終わったら聞くよ。この槍の使い方は簡単…刺すだけで良いから早くやれ≫


 トトは急かすように早口になるのは、こうやって話している間も銀河が何をするか解らないから。

 現に身体を煌めかせ、なにかをしようとしている。


「ラヴィお姉ちゃん、ルナライト様…あの、戸橋泰人は何を言っていますか?」

『早くやれと言っている…アイリス、姉さんの妹ならアイリスは私の妹でもある…ルナお姉ちゃんと呼んでくれ』

≪おい≫

「ルナお姉ちゃん…」


 ルナライトとラグナが一緒に槍を持ち、顔を見合せ頷いた。

 そして、一緒に銀河へ向かって駆ける。


『姉さん、私ね…いや、終わったら話す』

『ふふっ、私も終わったら話があるんだ』


≪くくくっ、そんな槍では私を滅する事など不可能だぞ?≫


 銀河から虹色の環が多数出現。

 環の中から虹色の隕石群が現れ、ラグナとルナライトに集中する。


≪ラグナ、ルナ、そのまま槍を銀河に向けて走れ≫


 トトの言葉を信じ、そのまま銀河へと突き進む。

 空を駆け、中心部分を目指す。


 虹色の隕石が迫り、

≪変換≫

 槍に触れた瞬間に光の玉に変換され、槍に吸収される。


≪むっ? これならどうだ。銀河魔法・スーパーノヴァ≫


 カッ!__超エネルギーが大爆発する寸前で…

≪変換≫

 超エネルギーの光の玉へと変換される。


『ルナ! 泰人! トリス! 行くよ!』

『うん!』

≪まかせてー≫

≪刺したら退避してくれ、多分時間が掛かるから≫


『了解! 信じてるよ!』


 虹色の隕石群を突き抜け、大爆発を変換しながら銀河の中心部分へと到達。

 ザシュッ……突き刺す事に成功した。


 槍を突き刺し、ラグナとルナライトは退避。

 祈るように手を組み、銀河を包み込むように神結界を発動した。



≪戸橋泰人、武器になっても足掻くか。滅してやろう!≫


≪はははっ、それは無理だ。大変換!≫


 バキンッ!__黒い槍を中心に、銀河の身体を攻撃力に変換し続ける。

 槍を壊そうとしていた銀河が、異変に気付いた。


≪私の身体を変換しているのか? 銀河魔法・ビッグバン!≫


 しかし、銀河の魔法は発動しなかった。


≪何故だ!≫


≪馬鹿か? お前の中に居る俺がさせると思うか? お前の全てを変換してやるよ!≫


≪私の力…銀河の核は無限に近いエネルギーを持っている…お前が先に死ぬのは絶対だ!≫


≪俺は武器の身体を手に入れたからもう死なねえよ。だから、お前が存在する限り…俺の攻撃力は上昇を続ける≫


 銀河が身体を再生していても、それを変換し続け攻撃力に変えている。

 銀河の耐久値を超えるまで、トトは変換を止める気は無い。

 槍を引き抜こうとするが、無敵状態の効果でビクともせず…


≪そんな事は有り得ない! 宇宙よ! 力を!≫


 ドクンッ!__銀河のエネルギーが上昇していく。


≪無駄だよ。お前が強くなればなる程…俺達も強くなる。攻撃力は…無限だ≫


 銀河の身体が肥大していくが、槍が突き刺さった場所から亀裂が走り始めた。


≪もう諦めろ。お前は俺達に勝てねえよ≫


 銀河が存在する限り無限の攻撃力を持つ。

 刺されば最後…死ぬまで攻撃力に変換され、無限の攻撃力がオーバーキルを引き起こす。


 死が目前に迫る。

 この状況で、暴れまわっていた銀河が動きを止めた。


≪くくっ…くくくっ…私は、死ぬのか≫


≪ああ、もうすぐな。気分はどうだい?≫


≪別に。良い事を思い付いた≫


≪良い事?≫


≪私がお前を王にしてやろう! 銀河の核よ!≫


 トトの変換スピードを超えるエネルギーの塊が槍に吸収される。



≪ぐっ…あっ…んだこれ…≫

≪トトさん!≫


≪くくくっ、お前に銀河の核を埋め込んだ! これで戸橋泰人は争いの大きな火種となる!≫


 銀河の核は禁忌の力。

 銀河の核がこの世界にあると解れば…トトを巡り、多数の次元世界から戦争を仕掛けられる。

 銀河の最後の悪足掻きだった。


≪…はぁ…はぁ…なるほど…また呪われたって訳か。だからどうした≫


≪くくくっ、また…会おうぞ。戸橋泰人≫


≪…ちっ、じゃあな≫


 トトが変換した攻撃力を全て解放。


 銀河の内部から、黒い光が洩れだし…


 ボロボロと銀河の身体が崩れていく。


 そして、突き刺さった槍がゆっくりと落下。


 地面に突き刺さる前に、ラグナとルナライトに受け止められた。


『泰人…ありがとう』



次回で最終回です。

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