再会。6
「……俺は、故郷に帰る」
トトが居ないと言われ、二番目に思い浮かんだ事をトリスに話す。自分に言い聞かせるように話すトトに、トリスは目を細め見据えている。
「…帰る手段はあるの? 違う世界なんでしょ?」
「あぁ…もう持っている」
「それなら…今すぐ帰って」
「…出来ない」
「帰ってよ! 帰ればトトさんは死なない!」
トトが死ぬ未来も、トリスは視ていた。大切な者が死ぬ未来…それを視せられる事は、拷問にも匹敵する。トリスの疲れた表情が、トトの心を締め付けていた。
「今帰ったら、みんな死ぬ」
「トトさんには関係無いよ! この世界がどうなろうと…」
まだ子供と言える年齢で、重すぎる物を背負ってしまった。そんなトリスが涙を溜めながらトトに手を差し出し…「力を…頂戴」…破壊と混沌を欲してきた。
「出来ない。俺が使う…邪悪の力を渡してくれ」
トリスも首を振り、譲らない。トトが破壊、混沌、邪悪を使った未来は…全て死んでいるから…
「トトさんが死んだら…私はどうすれば良い…誰に恩を返せば良い…トトさんが居ないなら…私の未来は無いよ…」
だから…力を頂戴。そう催促するトリスの目は本気だ。このまま聖女として生きるよりも、視なかった未来…自分が悪神に立ち向かって散る…トリスの出した答えだが、トトが許容出来る話では無いのは明らか。
「…教えて貰ったの。聖女が悪の力を手にすれば…聖女は進化出来るって…」
「…前の聖女か…名前は?」
「うん…違う次元から来た…聖女オリヴィア・ドーメル。…聖女が力を取り込むと…神格を破壊出来る存在…咎人になれる…だから…私が力を使えば…世界は救われる」
トリスはオリヴィアと取引をした。
国宝…『次元竜の涙』で違う次元に逃がす代わりに、様々な情報を得る。咎人の情報もその一つで、聖女が悪の力を手にする事で神の力を破壊出来る。
トトは転移者の聖女が同郷の者では無いと感じた。もう居ないなら関係の無い話だと思考の隅に追いやり、それが本当の事なのかラグナを呼んでみるが応答は無い。
「…トリス、俺は死なない」
「…嘘だよ。力を使えば死んじゃうんだ」
「大丈夫。力を使っても…死なない方法はある。…悪神が復活したら女神の制約は解かれ…女神の代わりに人々を導いていた聖女の役割は終わる。だから、この戦いが終われば…トリスは自由だ」
「……」
「俺が、終わらせてやる。未来を変えてやる。トリス、その為に…力を貸してくれ」
トリスが視た未来…断片的だが、これを知れば何を為せば良いか解る。
トトはトリスに近付き、ウサギの兵隊をチラリと見て…「守ってくれてありがとな」…話し掛けると、ニィッと笑いポンッと小さなウサギに変化した。
俯き涙を流すトリスを抱き締める。
「…トト…さん」
「トリス、一人で頑張ったな。偉いぞ」
「うぅ…トトさん…トトさんトトさん」
しばらく泣いていたトリスは、ポツリポツリと未来を語っていった。
トトがトリスと話を進める中、タケルは入り口に結界を張っていた。外から抉じ開けようと扉に攻撃を仕掛けている者が居るが、タケルの結界は破れない。
(…トリスちゃん…完全に僕をスルーしているよね)
トトしか見ていないトリスに、少し寂しい気持ちを感じつつ、時間が掛かりそうなのでとりあえずノーレンに連絡を取ってみた。
≪タケル兄ちゃん?≫
「ノーレン君、外はどんな感じ?」
≪姉ちゃんがニグレットさんと城に行ったけど…それ以外は特に…≫
「そっか。じゃあ扉の向こうはニグレットさんかな? ノーレン君は外で待機してて。別行動になったらごめんね」
≪うん、まぁ、大丈夫≫
ノーレンとの通信を切り、次はノワールに連絡を取る。
≪あっ、タケルさん。今近くに居ますよー≫
「了解。まだお話し中だから、攻撃しても無駄なんだけど…誰が居る?」
≪みんな居ますよ。ノーレン以外…ホークアイさん、リンダウェルさん、ニグレットさん、倒れているミランダさん、倒れているアイリスさん≫
タケルはみんなが集まっている事に、少し引っ掛かりを覚える。これは、トトが外に出たら面倒になりそう…と。
「みんな、泰人に用事がある雰囲気?」
≪まぁ、そうですねぇ…記憶は戻っていませんが、タケルさんの予感は当たっていますよ。転移で逃げるなら、私は退散しますけどね≫
ノワールは皆が扉の前に居る様子を、離れた所から眺めている。
落ち着いた声色なので戦いは無い様子。
タケルの予感は、皆の思い出せない人物がトトであると気付いた…という事なのだが、別れを告げた手前トトは皆に会わないだろうと思っている。
「高確率で、転移を使うから退散よろしく」
≪はい、了解です≫
ノワールとの通信を切る。
トトとトリスを見るとまだ話している様子。
少しだけ笑顔が戻っているトリスを眺めながら、タケルは扉に寄りかかって座りながら待つ事にした。
そして…隣に誰かが座った気がしたが、視界の隅に緑色の何かが居る気がしているが、絶対に気のせいだと言い聞かせている。
『タケル…会いたかった…』
「……」
背を向けていたトトがピクリと反応。振り返ってチラリとタケルの方向を見る。そして…何事も無かったようにトリスと話し始めた。
(泰人、今見たよね? 目が合ったよね? 俺が居るから大丈夫って言ったよね!? トリスちゃんも目が合ったよね!? 何で無反応なの!?)